『ホロウ調査協会』通称_HIA
都市公認のホロウ調査組織であり、ホロウに迷い込んだり取り残された人々の救助、データの観測及び回収といった業務からホロウ活性への対応やエーテリアス討伐を含む戦闘任務までを幅広く手掛けている何でも屋である。
ルミナ区に本部が置かれ、さらに地区ごとで支部が存在し六分街の隣町である五分街には鄙が勤めているHIAヤヌス支部がある。
そして、HIAヤヌス支部入り口の自動ドアを開け早足で駆け込んでくる鄙。何かあったのか真夏でもないのに額には多量の汗が流れており、家を出る前はフサフサだった狐耳も汗の湿気によって湿ってしまっている。
鄙「ハァハァ…(30分の遅刻…これは説教が長くなりそうだ…)」
現在時刻を確認した鄙は絶望した表情を浮かべる。家からここまで距離は離れておらず、車を使えば5分も掛からない。
…のだが、愛車が突然故障して動かないわ、信号機に引っ掛かりまくるわ、スリ逃げ犯に鞄を盗まれるわと散々な目に遭い、結果大遅刻してしまった。
「あっ、藤木さん。課長がお呼びになっていましたよ。話があるから第3会議室で待っていますと」
鄙「あ、ありがとう御座います…」
教えてくれた同僚に感謝を伝えると、エスカレーターに搭乗し2階にある第3会議室へと向かう。脳が説教に対して拒絶反応を起こしているのか、足取りが重く感じる。
そして目的の部屋に到着する。
鄙「ふぅ…課長、失礼します」
ハンカチで汗を拭き取り息を整え、今日は何時間叱られるだろうと予想しながら恐る恐る会議室のドアを開ける。
中に入ると入り口に向かって縦方向に置かれた長机の奥に、鄙の所属する調査室2課の課長の姿はあった。その隣にはスーツを着用した見慣れない茶髪女性。
「30分12秒の遅刻…前回から20秒の記録更新ね。原因は寝坊かしら?」
鄙「(あぁ…オワッタ…)」
彼女の口調から2時間正座コースの説教だと察した鄙は、入室して早々諦めモードに突入した。
「…まぁ、いいわ。重要な話があるから席に座って頂戴」
鄙「はい…2時間正座致しま…え?」
彼女の予想外な言葉に思わず聞き返す。
「あら、その様子だと説教が欲しかったのかしら?」
鄙「い、いえいえ!!そんな訳ありませんよ!!」
足の感覚が無くなる説教はもうたくさんだと、必死に否定する。
鄙「と、ところで課長。隣の方はどなたでしょうか?」
先程からずっと気になっている隣の女性について話を移す。
「紹介が遅れたわ。この方はオリヴィアさん。戦闘救難室の室長さんよ」
オリヴィア「初めまして、戦闘救難室長のオリヴィア・グリーブスです」
『戦闘救難室』
文字通りエーテリアスを討伐しながらホロウで遭難した一般人の救助を行う部署であり、その任務の性質上戦闘経験のあるエース調査員が多く所属している。ここに入れば周囲からスターとして見られ、多額の報酬で豊かな生活を送ることができる一方、危険度の高いエーテリアスと戦う可能性が高く殉職者が後を絶たない。
しかし、協会員の間では憧れの的であり入室希望者が後を絶たない人気部署でもある。
鄙「えーっと…そのような部署の室長さんが、自分に何のご用でしょうか…?」
オリヴィア「コホンッ…藤木さん。今日からあなたは、調査室から戦闘救難室に異動することが決定しました」
鄙「…はい?」
突然の異動命令―自分の意見なしに決定されたことに困惑しない訳がない。
オリヴィア「一昨日の調査記録映像を拝見させて頂きました。エーテル資源を調査中の調査団を襲ったエーテリアスの群れを、藤木さんは所持していた護身用の刀を使い僅か数十秒で討伐…その動きはまるで、武術に秀でている
鄙「…偶々動きが似ていただけですよ」
星見家という言葉が出てきたことに一瞬身構えてしまうが、自身に関する情報は決して外部に漏れないようにしてある。そして彼女は自分のことについて知らないように見えるため警戒を解く。
オリヴィア「藤木さんのような優秀な人材を人手不足が顕著な我々の部署が見逃す訳にはいきませんから、この方と調査室長にお願いして戦闘救難室にあなたを異動させる許可を頂きました」
「ぶいっ♪」
『このふしだら上司が…!!勝手に了承しやがって…!!』と思わず毒突きたくなるが、その気持ちを抑え込み心を落ち着かせる。
オリヴィア「ですが、最終的に異動するか否かを決めるのは藤木さんです。断って頂いても十分構いません。異動命令も取り消します」
鄙「……いえ。戦闘救難室への異動命令、快く受け入れさせて頂きます」
暫し考えた後、異動命令を受け入れることにした。
自身がHIAに入社した理由ーそれは旧エリー都を飲み込んだ原生ホロウである"零号ホロウ"の調査隊に参加するためである。戦闘救難室は稀に零号ホロウ調査任務を行う部隊に参加することがあり、零号ホロウに入ることができる可能性が高い。
旧都陥落の真実を突き止め母親がなぜ犠牲にならなければならなかった理由を知るために、断る理由など無かった。
オリヴィア「分かりました。では、藤木さんの荷物は運び終えているので早速行きましょう」
鄙「?えっと…何処にですか?」
オリヴィア「今日から藤木さんが働くことになる戦闘救難室3課にです。チームに入ったらまずはお互いを知ろうとは言いませんか?」
鄙「それにしてもいきなり過ぎませんか…?」
オリヴィア「物事は早くする方が良いですよ。さぁ行きましょう」
これから上司となる彼女の申し出を断る訳にはいかず、後をついて行く形で部屋を退出する。
◇ ◇ ◇ 移動中… ◇ ◇ ◇
オリヴィア「到着しました。ここが今日から藤木さんが働くことになる戦闘救難室3課の部屋です」
鄙「元の部署から意外と近いんですね。では…失礼します」
どうぞどうぞと促され、部屋の中に入る。
「おっ、オリヴィア室長。その人が一昨日見た動画の刀使いですか?」
すると、人前なのに上半身白Tシャツ姿の筋肉モリモリマッチョマンの変態な男性が近づいてきた。ホロウレイダーのようないかにも厳つい姿だが、親切そうなのが感じられる。
鄙「どうも初めまして。今日より戦闘救難室に転属することになりました藤木 智彦です。よろしくお願い致します」
カルロス「そんな畏まらなくたって大丈夫さ。俺はカルロス・オリヴェイラ。戦闘救難室3課の課長を務めさせてもらっている。で、そこに居る黒髪眼鏡のやつがヒラノだ」
ヒラノ「黒髪眼鏡のやつって…あっどうも、ヒラノと言います。課長と共に戦闘を担当しています。3人しか居ない寂れた所ですが、これからよろしくお願いします」
席を立ち丁寧に挨拶してくれる黒髪眼鏡ことヒラノさん。カルロス課長と比べて頼りなさそうに見えるが、長年闘い続けている戦闘者のオーラが溢れ出ている。
「うへへへぇ〜いつ見ても雅様は美しい…!!ああっ…!!雅様に踏まれたいっ…!!」
すると、奥で何やらブツブツ呟いている猫シリオンの女性。よく見ると上下の衣服が雅テーマに染まっており、デスクの上も雅関連のグッズで埋まっている。
鄙「えっと…あの方は…」
カルロス「あぁ、彼女はサクラ。一見すると星見 雅が好きな重度のオタクにしか見えないが、戦闘を後方からサポートしてくれる頼もしい部下だ」
サクラ「カルロス課長!!オタクじゃありませんっ!!ただ雅様が大好きなファンなだけですよっ!!あっ、申し遅れましたサクラと申します〜好きな人は雅様!趣味は雅様のグッズを集めに行くこと!将来の夢は雅様とお付き合いすることですっ!!あなたも雅様ファンになりませんか!?」
鄙「あはは…考えておきます…」
怒涛の紹介ラッシュと雅推しに苦笑いする鄙。だが、妹がここまで気に入られていると嬉しくなる。
…もし、自分が雅の兄だと知ったらどんな顔をするんだろうなーと不覚にも思ってしまうのは内緒である。
カルロス「まぁ、うちの課はこんな所だ。何か困ったらことがあれば何でも聞いてくれ。これからはよろしく頼むぞ藤木隊員?」
鄙「はい。皆さんの足手まといにならないよう、全力で取り組む所存です」
突然の異動命令というアクシデントがあり異動先の面子も個性的な人物ばかりであったが、目的である零号ホロウ調査隊への参加に一歩近づくことができたのであった。
to be Continued