場面は変わり、ルミナ区はルミナススクエア。
人間、シリオン、そして知能機械人―大勢の人々が川のように行き交うその様子は商業地帯の中心部であることを表しており、新エリー都の発展度合いが垣間見える。
そして、町中を歩く4人組の男女。衣類の着こなしにバラつきがあるものの全員が共通してH.A.N.D.の対ホロウ事務特別行動部の制服を着用しており、その関係者であることが一目で分かる。
「ねぇねぇナギねえ〜お腹空いた〜」
青色の肌に、額から生えた鬼族の特徴である大きな角―お腹を空かせているその少女は『蒼角』
人一倍元気で食べることが大好きな対ホロウ6課の戦闘員であり、鋼鉄の刃旗での近接攻撃を得意とする。
「はいはい。出前を頼んでいますから、本部に帰ったらすぐご飯にしましょう」
蒼角「やったぁ!!」
蒼角をまるで我が子のように慰撫する女性『月城 柳』
後ろに下げている編み込んだ桃色の髪にスタイル抜群の体型、そして眼鏡が彼女の特徴である。6課では副課長兼情報官を務め部隊の作戦指揮の役割を担っている。
「うわ〜…それ絶対いつもの書類仕事しながら食事するパターンじゃないですか」
そして、面倒くさそうな表情を浮かべる黒髪金眼の青年『浅羽 悠真』
文武ともに極めて優秀な能力を持ち、昔は『天才』『神童』と周囲の人間に高く評価されていた。一方、大のめんどくさがり屋のサボり常習犯であり、柳に休暇申請を毎度却下されるのが毎度定石であった。
雅「む…」
その3人が話を交わしている中、柳達の後ろを歩く対ホロウ6課課長であり鄙の妹である星見 雅は、交差点の向こう側にある雑貨屋に目を向けると立ち止まった。視線の先には、屋外の商品棚に売られている丸々とした大きなメロン。
柳「課長?先程からメロンを見ているようですが、食べたいのでしたら買ってきましょうか?」
雅「…いや大丈夫だ。昔のことを思い出してな。母上が買ってきてくれたものを兄上とよく一緒に食べたものだ」
柳「お兄様…ですか?」
悠真「へぇー課長に兄が居たことなんて、自分初めて聞きましたよ」
付き合いは決して長くはないが星見 雅という人物に関して誰よりも知る柳と悠真にとって、雅に兄が居たという話は少し意外に感じられた。
柳「課長は今もお兄様と交流が?」
雅「いや…兄上は旧都陥落の件からしばらく経たない日に突然、家を出ていき何処かへ行ってしまった。それ以降は会ったことない」
話をしているうちに蘇ってくる、当時の光景。
母を失ってから間もないある日、何気なく家の門付近を歩いているとそこには荷物を纏めて何処かへ行こうとしている兄とそれを厳しい目つきで見つめる父や親族の者達。会えなくなると直感的に感じ取った雅は、後ろ姿の兄に向かって駆け出したものの父に止められてしまう。
母上に続き兄上までも失いたくない―
気がつけば、涙を流しながら兄の名を叫んでいた。自身の声に兄は一瞬振り返ったものの再び歩み出し、必死の訴え虚しく家を去ってしまった。
普通の人なら見捨てられたと思うだろうが、産まれた時から常日頃、傍に居て母と共に育ててくれたたため兄は何か事情や目的があって出ていったのだと雅は思っていた。
そして、彼女は"兄上を探す修行"を今日まで続けている。
雅「幼き頃に交わした約束を守るため、今日に至るまで私は兄上を探し続けている。H.A.N.D.に入った理由の1つも兄上の消息が分かるかもしれないと思った所以だ」
悠真「へぇ…ということは課長。一昨日の課長級報告会の時、どこかに行っていたのもお兄さんを探していたからで?」
雅「いや、その時は限定販売の高級メロンを誰よりも早く購入する修行を行っていた」
柳「はぁ…課長…」
報告会から逃れるための、彼女の相変わらずの謎修行に柳はため息をつくしかなかった。
ピピッ
直後、柳が耳に装着していた小型通信機に通信が入る。
『緊急連絡。ラマニアンホロウの異常な活性化を確認。付近の対ホロウ事務特別行動部は直ちに現場へ急行して下さい』
柳「ラマニアンホロウ…かなり距離が離れていますが、どうやら一番近いのは私達のようです。急いで現場へと向かいましょう」
悠真「あー急に頭が痛くなってきたなーという訳で自分は病院に行かないとなので〜副課長、休暇届けを受理してくれますか〜?」
面倒くさいことになりそうなのを感じ取った悠真は、体調不良を装ってサボろうとするが、柳は呆れた表情で瞬時に断る。
柳「受理しません。それ以前に浅羽隊員は休暇日数を使い切っていますから、もし仮に私が通したとしても上層部から厳重注意と減給処分が科せられると思いますが」
悠真「おっと…それは勘弁ですね。はぁ…もう人踏ん張りといきますか」
蒼角「終わったらご飯だぁ〜!!」
柳「ふふっ、では行きましょう課長」
雅「あぁ…対ホロウ6課、いざ参る!」
対ホロウ6課は、今日も新エリー都に住む市民の安全を守るため活動する。
to be Continued