ここは『奇跡の都市』―新エリー都
現代文明が超自然災害"ホロウ"によって崩壊したこの世界でホロウの調査やその対処技術を編み出し、加えてエーテルの資源活用などを確立したことで大きく発展し、いつしか『現代文明最後の光』と呼ばれるに至った。
そして、そんな新エリー都内のとある一角に建つマンションに住む武家出身の1人の男の、笑いあり涙ありの波乱万丈に富んだ物語が始まろうとしていた。
ヤヌス区 六分街
ピピピピッ ピピピピッ ピピピ―
「っ……ふぁ〜っ…もう朝か…」
スマホに設定されたアラームを解除し、大きな欠伸をしながらベッドを起き上がる1人の男。母親譲りの黒髪に、頭からは大きな狐の耳が生えているのが特徴的で、怠そうな雰囲気で新たな1日を迎えた彼の名は―『
そう、新エリー都で名高い武家一族である星見家の人間なのである。だが、訳あって現在は星見家から離れて独居し、名前も『
鄙「(ふぁ〜…なぜこうも朝は早いのか…)」
夜更かしした中学生のような独り言を心内で呟きながらベッドを立ち上がり、洗面所で冷水で顔を洗って眠気を覚まさせ、寝癖を直す。
その後はリビングへと向かい、ご飯と味噌汁のみの軽い朝食を摂りながらテレビを見て、その後仕事に向かう―単純な朝のルーティンを毎日欠かさず行っていた。
鄙「(ふぅ…やっぱり母さん直伝の味噌汁は一番だな)」
母親から教わったレシピで作ったこの世に1つしかない特別な味噌汁。一口飲む度に心を温かくしてくれる。
『続いては、新エリー都で知らない人は居ないあの超有名人!!最年少で虚狩りの称号を叙勲された対ホロウ6課課長の星見雅さんに、強さの秘訣についてお伺いしたいと思います!!』
鄙「ん?」
聞き慣れた名前が耳に入ると、鄙の視線はすぐにテレビへと向く。
ニュースキャスターと面向かう席に座る1人の女性。長い黒髪に鄙と同じ大きな狐耳、そしてルビーのような赤色の瞳。上は白シャツと青緑の羽織を着用し、下は丈の長い黒のロングスカート。そして腰には得物である刀が携えられている。
「対ホロウ6課の星見 雅だ。よろしく頼む」
『
新エリー都を管理する公的組織である『H.A.N.D.』直属の武装組織―対ホロウ事務特別行動部第六課の課長であり、長くなくとも短くない時間を共に過ごした自分の妹でもある。
鄙「雅は今日も忙しそうだな。あんなに可愛かった妹が大勢の人物に注目されるまでに成長して、つい自分まで嬉しくなってしまうな」
頭に流れてくる懐かしく、ホロウに飲み込まれた旧都での数々の思い出。
雅が生まれた時、自身は当時8歳と育児をするにはまだ難しい年齢だったが、初めての妹ということもあり母親と共に育児へと熱心に取り組み、母親が留守の時は代わりとして雅を育ててきた。そして雅からは"鄙にい"や"鄙兄上"と呼ばれ懐かれていた。
だが、家を出て以降は雅と一度も会っておらず、姿を見るのもテレビや雑誌、インターノット越しとなっている。テレビに久しぶりに映る妹を見ていると、無性に会いたくなる。
鄙「(…すまない雅。あの悲劇の真相を突き止めるまで、俺は家に帰らないと決めたんだ)」
あの日、自分の数少ない拠り所であった母親を失った旧都陥落の本当の真実を、鄙はたとえ自身の全人生を注ぎ込んででも突き止めるつもりであった。
鄙「(そういえば、今何時d…)」
ふと、壁に掛けられた時計の針を見た瞬間硬直する。時刻は辰の刻―仕事の始業時間を15分も過ぎていた。
鄙「(ヤベッ!!15分遅刻だ!!テレビに夢中になりすぎた!!)」
テレビを消し、朝食を片付け、猛スピードでスーツへと着替える。
その間にも遅刻時間は刻々と増えていく。最後に部屋の電気を消し、ようやく家を出る準備を整え終えた。
鄙「では母さん、行ってきます!」
玄関棚に立てられた1枚の写真立て。幼少期の自分と雅、そして母親が写った集合写真に向かって挨拶し家を出る。
星見 鄙の、新エリー都での1日が始まる。
to be Continued