星の君はもう見えない


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作:猪のような
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第参話 届かなかった星の名前


遂に思いついたよ…里桜×雅が大好きな読者も、里桜のヒロイン増やしてもいいという読者…二つの読者を満足させる方法をね…!


 

 

 

「ふむ……」

 

ヴィクトリア家政の執事長、ライカンは一枚の写真を見つめていた。その写真には星見雅が写っており、彼女の頭に付けられた髪飾りも写っていた。

 

「この髪飾り…黒武者の首輪にも付けられていた…彼は、星見家に関わりがある人間、という事でしょうか…?」

 

「ライカン、黒武者と星見家に何かしら関係があるとすれば、複雑な話になりますわ」

 

「ええ…しかし、一先ず黒武者に関しては保留という事になりました。今は他の仕事をこなすとしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

「タダ働きすると言った途端に仕事バンバン押し付けて来やがって!ふざけんなこのイカれ野郎どもが!!俺は便利屋じゃねーぞ!あ?何々…?郊外って…そんな事までやらせるのかよクソがっ!!」

 

暗い部屋の中で男がパソコンの画面と睨み合い、キーボードをカタカタと高速で打ち続けていると、パソコンにメッセージが届く。

 

「今度は何っ!?って、ああ、報告か…どれどれ……対象は零号ホロウに移動、現在女王に向けて接近中…?え、マジ?ちょちょ、それは不味いって…!更に…対ホロウ六課を確認……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

対ホロウ六課ァ!?

 

 

 

 

 

 

 

「グルル…」

 

零号ホロウの中にあるビルの上から辺りを見渡す黒武者。旧都陥落によって発生した最大のホロウ。黒武者は風でマントを靡かせながら、このホロウの女王、ニネヴェの気配を感じる方向を睨んでいた。

 

 

「課長、そろそろ行きますよ」

 

「ああ…対ホロウ六課、行動開始」

 

時を同じくして対ホロウ六課も、零号ホロウへと突入していた。そして…

 

 

 

「お待たせ〜…」

 

黒武者を狙う男も、零号ホロウへと侵入していた。裂け目を通った先には、黒い外套で身を包んだ人間が二人いる。二人ともシリオンで、頭からとんがった耳のような形がフード越しに確認出来る。そして黒い仮面を装着していた。

 

「マスター、対象は2分16秒前に移動を開始、先ほど裂け目を通って行方をくらませました」

 

「対ホロウ6課も先ほどホロウに入ったようです。如何されますか?」

 

仮面越しの男女それぞれの声が男性の耳に入ると、男性は「やっぱ慣れねー…」と呟いた。

 

「そうだな…黒武者、ニネヴェ、対ホロウ六課…俺たちも含めて4つ巴…ま、どれか一つだけならいけると思うけど、流石にタイミングは見極めないとな…俺達の事は誰も知らないだろうし…漁夫の利狙うか…よしっ!!じゃあ……星を、取りに行くぞ

 

女王、武者、英雄、そして追跡者。四つの思惑が密かに交差し始める。それは静かに零号ホロウを混沌の舞台へと変貌させていた。

 

 

 

 

 

バサッ、バサッっと花弁のような翼で空を舞うニネヴェ。その側には大量の配下であるエーテリアスが控えている。すると…

 

ドドドドドドドォン!!

 

突如、無数の光がニネヴェ達に放たれ、側に居たエーテリアス達を貫き、消滅させていく。光はニネヴェにも当たり、爆発して煙が広がる。

 

ブォン!!と腕で煙を振り払い、ニネヴェは光が来た方向に顔を向けると、そこには黒い弓にエーテルの光を纏う矢を番た黒武者が居た。

 

第二射が放たれ、再び無数の光がニネヴェを襲う。煙が広がりその巨体が見えなくなると、煙の中からエーテリアス達が黒武者に向かって飛んで来る。

 

「グルルッ…!!」

 

向かって来る虫のようなエーテリアスの大群を見た黒武者は弓を折って二つに分けると、変形させて二本の刀にする。両脚に力を入れ、迎え撃つようにエーテリアス達に突っ込み、次々と斬り裂いていく。

 

女王の首を狙う武者、戦いは激化し、他の勢力もその戦場へと向かっていた。

 

 

「おー見えて来た〜…アレとやり合うなんてやっぱ里桜はスゲ〜な〜…」

 

「指示を」

 

「取り敢えず待機でしょ、もうそろそろあの虚狩り様が来ると思うし?展開がどう転んでも、漁夫の利する俺らの勝ちは変わんないでしょ。ま、理想は取り敢えず里桜が弱ってくれる事かな」

 

「マスター、星見雅です」

 

「おっ」

 

女性のシリオンの言葉に別の方向を見ると、星見雅が屋根伝いに近付いているのを確認した。

 

「ホワイト、一つだけ確認していいか?」

 

男性はそう言ってシリオンの男性…ホワイトの方を見た。

 

()()()()()

 

「問題ないかと」

 

「おー…相手は当代最年少の虚狩りだぜ?」

 

「しかし、勝てると思てます。そう思ったから、マスターは私を生み出したのではありませんか?」

 

「……まぁな……おっけ。じゃあ、スカイは他の連中を頼む」

 

「それは分かりましたが…黒武者は?」

 

「それはタイミング…いや、競争か?ま、後回しでいいだろ」

 

「「?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

極超級エーテリアス、ニネヴェと呼ばれる存在が零号ホロウで確認され、その対処に駆り出された対ホロウ六課。そのリーダーである星見雅は、凄まじい速度でニネヴェに迫っていた。

 

「追い付いた、だが…?」

 

雅は飛んで移動する女王を捉え、刀が納められた鞘を握りしめる。しかし何やらニネヴェは激しく動き回っており、まるで何かを狙っているようだ。

 

「…柳」

 

『課長、今何処ですか?目標は!?』

 

「今捉えた、それより柳。このエリアに協会の調査員などはどれくらいいる?」

 

『このエリアには、今は私たち以外はいない筈です。どうかしたんだですか?』

 

「いや、何やら敵の様子が…!?」

 

すると女王の身体を切り裂こうとエーテルの斬撃が飛び、命中する。

 

「───戦っている」

 

『?課長、戦っているとは…』

 

「柳、すまない。また後で」

 

雅は通信を切り、更に接近する。雅に気付いた配下のエーテリアスが何匹も飛んで来るが…

 

「ふっ…!」

 

次の瞬間、その全てが斬り裂かれて消滅した。常人であれば捉える事が不可能な神速の抜刀。雅は勢いのままエーテリアス達や、ニネヴェが生やした触手を斬り裂き、そしてニネヴェの目の前まで迫った瞬間…

 

「グアァァァァァァァァ!!」

 

反対方向から雅と同じタイミングでニネヴェに迫っていた黒武者の姿が現れ…

 

「っ!!」

 

「!?」

 

すれ違うように二人はニネヴェを斬りながら、お互いを認識した。

 

「今のは…!?」

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!」

 

するとニネヴェは叫び声を上げ、上昇し始めた。

 

「っ、待てっ!」

 

雅は黒武者の事を一旦頭の隅に置き、逃げ始めたニネヴェを追うためにホロウ内で浮遊している建物の数々に飛び移りながら追っていく。

 

「…………」

 

対照的に黒武者は、ニネヴェを追わずに、突然現れた雅をジッと見つめていた。崩壊して浮遊した建物から建物へと跳び、ニネヴェを追うように空へと駆け上がる彼女を見て、黒武者は既にニネヴェの事が頭から抜け落ちていた。

 

そうしてニネヴェに追い付き、追い越した雅が刀を鞘に納めると、側に居る一つ目の小さな幽霊のようなものが鞘に入り込み、雅が鞘の指紋認証装置に親指を当てると、青い炎の光が溢れ出す。ニネヴェが雅に手を伸ばし眼前に迫った瞬間…

 

ズガァァァァァァァァァァァン!!

 

蒼き炎の一刀が放たれ、その炎はニネヴェを包んだ。爆炎が空に広がり、黒武者はその様を見て唸り、刀を強く握り締めた。すると雅が落ちて来るのを捉え、その瞬間に走り出した。

 

黒武者は今までに無いほどに高揚していた。雅を見た瞬間に、どうしようもないほどに歓喜し、心が震えた。ならば、することは一つだ、この感情の全てを、彼女にぶつけたい。

 

 

 

「いたいた、課長ー!」

 

雅は着地した後、斬撃を受けたニネヴェが飛び去って行くのを眺めていると、他の六課の隊員の三人と、一匹のボンプ(イアス)が合流した。

 

「課長、ご無事でしたか。首尾はどうでした?」

 

「芳しくは、なかったが…アレは私が来る前にかなり傷を負っていた。恐らくはもうホロウの奥深くへと逃げ込むだろう」

 

「課長が来る前に…?」

 

「柳、その事だが、アレ以外にもう一つ対処しなければ──」

 

その時、雅の耳が僅かにピクリと震えた瞬間、雅達の近くにあった建物を横一閃に斬り裂いて斬撃が飛び出した。

 

「避けろっ!!」

 

雅の指示で全員が一斉に跳んで回避する。

 

「い、今の…」

 

「まさか…!」

 

ビデオ屋から現在六課に同行しているイアスと同期しているリン。そして横にいるアキラは、柳に抱えられたイアスの視界に映った光景から、ある存在が脳裏を過ぎる。するとドゴォン!!と建物を突き破りながら雅に突っ込んで来る黒武者が現れた。

 

「「黒武者っ!?」」

 

「くっ!?」

 

「グルァッ!!」

 

兄妹が叫ぶと同時に黒武者は空中にいた雅に刀を振るい、雅も刀で防ぐ。そのまま二人は後方へと飛んで行った。

 

「課長!」

 

「ちょっと、何ですか今の!?」

 

「2mほどの体躯に、刀から斬撃を放つ黒い甲冑の怪物…恐らく先のデッドエンドホロウの拡大に居合わせ、危険なエーテリアスを討伐した…黒武者…!」

 

「け、けど、黒武者って人を襲った事は無いんじゃないの…?」

 

「考えるのは後です、追いますよ!」

 

雅と黒武者を追って、柳達は走り出した。そしてその時飛んで行った二人は…

 

「ぐっ…!」

 

雅はすぐさま立ち上がり、前を見ると大量の土煙が舞っていた。

 

(空中で更に吹き飛ばされた…飛ぶ斬撃もそうたが、刀を振る度に風圧を放つ…力は奴に分がある…しかし、速さなら私が…だが…今の攻撃は、敵意を感じなかった…一体…!)

 

「っ!」

 

すると土煙の向こうから重苦しい足音が響き、雅は刀を構える。すると足音が止まり、次に聞こえたのは、刀が空を斬る音、そして吹き荒れる風の音だった。土煙が吹き飛ばされ、雅は目を守る為に閉じて、そして風が止むと同時に、目を開いた。

 

「─────?」

 

その時、雅は、初めて黒武者の姿をはっきりと捉えた。2mほどの体格、全身を覆う黒い甲冑に、甲冑越しに分かる怪物のような風貌…そして……首にぶら下がっているよく知っている装飾品を。

 

「──何故「グルァァァァァァァァ!!」っ!?」

 

一瞬思考が止まった瞬間、黒武者は雄叫びを上げ、雅に飛び掛かる。咄嗟に雅は下がりながら黒武者の攻撃を受け流す。

 

「待て…!」

 

カン、キンと刀がぶつかり合う音が何度も響く。猛攻する黒武者と、それに対して防戦一方な雅。雅は自分の呼吸が荒くなるのを感じていた。

 

(有り得ない、そんな、そんな筈が…!!)

 

必死に否定しようとするも、黒武者の首元で揺れるその髪飾りを見る度に、そして、()()()()()()()()()()()現実を打ち付けられる。黒武者が身に付けているのは、雅の後頭部に付けている物と同じ…母親の形見のレプリカだ。見間違える訳が無い。そして、そんな大切な物を雅は過去にたった一度だけ、大切な人に渡した事があった。

 

(ち、違う…お前が、お前が…!!)

 

「ガアァッ!!」

 

黒武者が刀を右上から斜めに斬り下ろしていく。瞬間、雅は金色の髪を幻視した。

 

「───ぁ」

 

ガギンッ!!と激しい鉄の音が鳴り響き、雅は吹き飛ばされた。壁に激突し、背中から強い衝撃が全身に巡ると同時に口から空気を吐き出す。

 

「ゲホッ…ゴホッ…!!」

 

地面に手を突き、咳込みながらも顔を上げると、黒武者は両腕を振り上げ、刀が光を発していた。

 

「グアァァァァァァァァ!!」

 

「!くうっ…!」

 

そして勢いよく振り下ろし斬撃が放たれると、雅も刀に炎を纏わせて斬撃を放った。

 

ドゴォォォォォォォォォォォン!!

 

斬撃がぶつかり合い、激しい爆発を引き起こす。炎でお互いの姿が見えなくなった。

 

「グルルルッ!!」

 

黒武者は上機嫌に唸ると、雅に近付こうと前へ駆け出そうとした瞬間、左から僅かに青い閃光が見えた。

 

「グルァッ!」

 

咄嗟に左に刀を振ると、薙刀の刃とぶつかり、弾き飛ばした。

 

「くっ!」

 

突如乱入し、黒武者に攻撃を仕掛けた柳は、苦悶の表情を浮かべながら下がる。

 

「グルルルル…!!」

 

今度は不機嫌そうに唸りつつ刀を振るい、周囲の煙を吹き飛ばす。視界が開け、周辺を見渡すと、雅以外の三人の人間が黒武者を囲んでいた。正面には雅が刀を構えており、4対1の構図になった。

 

「課長、無事ですか!?」

 

「柳……」

 

「様子が変です、何処か怪我を…!?」

 

「いや、違う…怪我は無い…だが…」

 

「課長…っ!?」

 

その時の雅の様子は、柳にとってあり得ないものだった。

 

「はぁ、はぁ…!」

 

()()()()()()()()()()()()()。あの、星見家の天才、当代最年少の虚狩りとされる英雄が、黒武者を前に震えていた。その事実に柳が驚いていると…

 

『副課長…黒武者の首に着いてるアレ、すっごく見覚えあるんだけど…』

 

「っ、首…?……えっ!?」

 

悠真から小声で通信が入り、柳は黒武者の首元に目を向けると、そこには雅の髪飾りと同じ物がある。

 

「ど、どーいうこと?なんで黒武者がボスと同じ物を持ってるの!?」

 

六課の面々が黒武者の身に付けている髪飾りを見て困惑していると、黒武者は前へ一歩踏み出す。

 

「っ!」

 

雅は息を呑んだ。もう分かっている、否定は無駄だ。黒武者は…目の前にいるこの怪物は…雅の初恋の人物…夕月里桜なのだ。かつて守ろうとして、守れなかった…雅にとって、何よりも失いたくなかった、たった一つの星なのだと…

 

(……ああ…そうか…)

 

それをはっきりと自覚した瞬間、雅の両腕から力が抜ける。

 

「課長ッ!?」

 

(里桜…お前は、ずっと…苦しんでいたのか…)

 

周りから雅に呼びかける声が響く。しかし、今の雅にそれは届かない。

 

(あの時から…今までずっと…)

 

雅の耳に、微かに刃が打ち合う音が届く。しかしそれも、少しすれば止んだ。

 

(私は、何も出来なかった…今まで苦しんでいたお前を、見つけることが出来なかった…)

 

雅の前に黒武者が立ち、その影が雅を覆う。黒武者はゆっくりと刀を振り上げた。

 

(今のお前の望みが…私を斬ることなら…受け入れよう…)

 

そうして雅はゆっくりと目を閉じる。彼女は今、全てを諦め、そして…全てを受け入れた…その瞼の裏側に、明るく笑う、里桜の姿を浮かべながら。

 

「すまない…里桜…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………?」

 

しかし、いつまで経っても刀は振り下ろされなかった。不自然に思った雅が目を開け、顔を上げると…

 

「グ…グゥ…!」

 

黒武者は、刀を振り上げた状態で、止まっていた。身体が激しく震えており、まるで刀を振り下ろそうとする自分の身体に、無理矢理ブレーキをかけているようだった。

 

「里桜…?」

 

「!……グッ……ガアッ!!」

 

雅が再び名を呼ぶと、黒武者は刀を手放し、頭を抱えて膝を着いた。

 

「グルルルルゥ…!」

 

苦しそうに唸り続ける黒武者を見て、雅はハッとして黒武者の目の前で膝を着き、肩を掴む。

 

「里桜、私だ、雅だ!頼む、目を覚ましてくれっ!!」

 

「グガアァァァァァァァァ!!」

 

「恨み言でも何でもいい!お前が伝えられなかったこと、私が伝えたかったこと、お互いに沢山ある筈だ!里桜っ!!だから、頼むっ……帰って来てくれ…!

 

その瞬間…

 

「グアァァァァァァァァァァァァ!!」

 

黒武者は空に向かって大きく叫んだ。零号ホロウに絶叫が響き渡り。そして……

 

「────」

 

「……里桜…?」

 

黒武者は、止まった。膝を着いた体勢で力が抜け、気を失っている。

 

「と、止まったの…?」

 

物陰から覗き見るイアスを通してずっと見ていたリンはそう呟くと、柳が少し苦しそうにしながら近付く。

 

「課長、黒武者は…」

 

「…止まったようだ…」

 

「そう、ですか…はぁ…」

 

「柳っ!」

 

ふらついた柳を雅が咄嗟に支える。すると蒼角と悠真も近寄って来た。

 

「あーマジでキツかった…」

 

「お腹痛ーい…」

 

三人は雅が停止している間に黒武者を止めるべく戦い、そして見事に返り討ちにあった。

 

「皆、すまない…私が未熟なばかりに…」

 

「全員無事です。反省は後にしましょう、取り敢えずホロウを出なければ…ああですが、黒武者は…」

 

「彼は連れて帰る」

 

「そうですね、でしたら、外部から応援を…」

 

「ンナッ!!」

 

雅と柳の話を遮る様に、イアスが叫び、雅は咄嗟に柳を抱えて横に跳んだ瞬間、二人の居た場所に槍が突き刺さった。

 

「誰だっ!?」

 

雅がそう叫びながら刀に手を添える。突き刺さった槍の横に全身を覆ったシリオンの男性…ホワイトが着地する。ホワイトは突き刺さった槍を引き抜くと、クルクルと回しながら雅に槍先を向けた。

 

「コイツ何処から…!?」

 

悠真は咄嗟に下がりつつ弓を構え、矢を番る。ホワイトは雅と柳の方を向いており、悠真には背を向けている。悠真は深呼吸して集中し、矢を放つと、矢の前に新たに人が入り込み、手に持つ剣で矢を弾き飛ばした。

 

「もう一人…!?」

 

「………」

 

異様に長い二本の剣を持ち、新たに現れたシリオンの女性…スカイが悠真と蒼角にそれぞれ剣先を向ける。

 

「この二人、一体…!?」

 

「…柳、下がっていろ」

 

「課長、しかし…!」

 

「お前にも分かる筈だ…この二人…()()()()()()

 

「っ!」

 

「蒼角、悠真も不用意に動くな、もう一人を惹きつけておけば充分だ」

 

雅が指示を出して前に出る。ホワイトは変わらず雅に槍を向けている。

 

「「………」」

 

ジリジリと雅が詰め寄り、場の緊張感が更に高まる。一歩、また一歩と雅が進み…

 

(───今っ!!)

 

雅の腕が()()()()()()()()()()()()()()()()瞬間。

 

ガギンッ!!

 

「──ッ!?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()一瞬の攻防、1秒にも満たない勝負と決着は…

 

「っ…!」

 

「課長っ…!」

 

雅の喉元に、槍が突き付けられる形で、終わりを告げた。

 

「貴様っ…!」

 

『すみませんが、暫く大人しくしてください』

 

次の瞬間、雅の腕が槍先に斬り裂かれ、雅は咄嗟に下がり、刀を回収する。しかし…

 

「!力が…!?」

 

「雅っ」

 

力が入らずに刀を持ち上げられず、膝を着いてしまう。

 

「毒かっ…!」

 

『スカイ、こちらは終わらせました』

 

『了解』

 

次の瞬間、悠真と蒼角の身体に斬り傷が出来た。

 

「はっ?」

「えっ?」

 

そして二人も同じように膝を着く。スカイの手に持たれた剣の一本が鞭の様に伸びているのを柳は確認する。

 

「蛇腹剣…!?」

 

(にしても攻撃が速すぎる…殆ど見えなかった…!)

 

『対ホロウ六課、我々の目的はこちらの黒武者。あなた方を殺すつもりはありません』

 

「あなた方は何者ですか!?一体何が目的で…」

 

『答えるつもりはありません。行きますよ、スカイ』

 

『了解』

 

「待てっ…!!」

 

『『!』』

 

ホワイトが槍を背負い、黒武者を抱き上げた瞬間、雅の声で二人は振り返る。雅は刀を地面に突き刺してなんとか立ち上がっていた。

 

「里桜を、返せっ…!!」

 

『なるほど…流石は虚狩り、まだ動きますか』

 

『ですがそれまで…気にすることではありません。行きましょう』

 

『ええ…では皆様、これにて失礼致します。最後に一つだけ…星見雅、貴女に伝言です』

 

「何っ…?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。とのことです。それでは』

 

「っ、待て、やめろ……里桜っ……!!」

 

雅は震えながら去って行くホワイトとスカイ、そして黒武者に手を伸ばす。しかし、彼らは止まる事無く、そして無慈悲に、雅達の前から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、ニネヴェの鎮圧作戦中に起きたイレギュラーについては黒武者が介入した事以外は、H.A.N.D.のごく一部の者にのみ共有される事となった。そして雅は今…

 

「そうか…そんな事が…」

 

「里桜を取り戻す為に、父上にも力を貸して欲しい」

 

「それは勿論、私も里桜君をこのまま、悪しき者どもの手に囚われたままにしておくつもりは無い。必ず、彼を助けよう」

 

宗一郎の言葉に雅は強く頷いた。怪物となり生きていた里桜、そしてその里桜を攫った謎の二人、ホワイトにスカイ、そして二人に指示を出し、雅を伝言で挑発した謎の存在。何が起きているのかはまだ殆ど分からない。しかし…

 

「何が待ち構えていても…必ずお前を、取り戻してみせる…!」

 

星見雅は、再び星に手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 

目を開ける。まだ見慣れない天井が目に映り、身体を起こして欠伸をする。ベッドから出て着替る。そして部屋を出ると美味しそうな匂いが鼻に入る。

 

「お〜…」

 

匂いがする方に足を運び、やがて匂いの大元に辿り着くと、机に美味しそうな朝食を並べる二人の男女が居た。

 

「「おはようございます」」

 

「おはよう、スカイさん、ホワイトさん」

 

二人に挨拶をして席に着く。二人も反対側に並んで座る。隣にはまだ誰も座っていない。

 

「あの人は?」

 

「知っての通り、先の件でかなり無理を通したので、暫くは籠もりきりかと…」

 

「食事は後でお運びいたします」

 

「そっか」

 

朝食を食べている間、二人何も言わず、僕も二人に話しかけるつもりになれなかった。

 

「ご馳走様でした」

 

「この後のご予定は?」

 

「好きにしろだって〜計画の為にはなんか〜…刺激がどうとか〜…」

 

「そうですか」

 

「うん、髪染めてカラコンしてけって…」

 

「お手伝いいたします」

 

「ありがとう」

 

朝食を終えて、身支度を済ませた、鏡の前に立つと、茶髪に黒目の狐のシリオンの男が映っている。

 

「うん、これでオッケー!じゃあ僕、あの人会ってから行ってくるよ。あ、朝食持ってくね」

 

「分かりました」

 

朝食が乗った皿を持ち、少し歩くと彼の部屋の前に着く。ノックしても返事が無かったので入ると、パソコンと睨めっこしていた。

 

「電気ぐらい付けたら〜?目悪くなるよ」

 

「光は嫌いだ」

 

「モグラか何かか君は…朝ごはん置いとくよ、食べてね」

 

「おう」

 

「じゃあ、僕行ってくるから」

 

「ん……いやちょっと待て」

 

「ん?」

 

「お前…()()()()…」

 

「…あ」

 

目線を下げると、首輪に付けた大切な物が目に入る。

 

「……グッズで通せないかな?」

 

「ダメに決まってんだろ外せ」

 

「えー…」

 

「えーじゃねぇよ全く…大体、お前には()()()()()だろ?」

 

「要らない物って……まぁそうか…じゃあはい」

 

「あ?」

 

「預かってて」

 

「は?何で?」

 

「大切な物だからに決まってんでしょ!それ、いつか()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「えー…」

 

「えーじゃない!全く……じゃあ、僕行くから」

 

「ああ、気を付けろよ…」

 

彼に大切な髪飾りを押し付けて、僕は振り返ってドアを開ける。

 

「……なぁ」

 

「ん?」

 

「お前、俺を裏切るか?」

 

「……もー何言ってんの、裏切らないよ。例え何があっても…()()()()()()()()()()()()……僕は裏切らない…絶対に最後まで、君の味方だよ」

 

「…そうか、すまんな」

 

「謝んないでよー…じゃあ、行ってきます。()()()()君」

 

「ああ…いってらっしゃい、()()

 

ドアを閉めて、僕はまた歩いて…そして外に出た。

 

「ん〜よし!やるぞ〜!」

 

僕の名前は夕月里桜。かつて全てを失った出来損ないの狐の剣士。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




きっとこれを読んだ読者は「里桜君…?」となっているに違いない…さてと…まぁいきなり急展開だったけどぶっちゃける。人外系主人公書くの辛かったよ?ま、という訳でね…えー…プロローグが終わったんでー……今から曇りまーす!!(こっからあらゆる意味で本番)
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