星の君はもう見えない


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作:猪のような
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第弐話 終点は白き光の彼方へと


遅くなってごめんよぉ…


 

 

 

「グルルル……」

 

暫くホロウを歩き回っていた黒武者と、それについて行くカリン。次々と現れるエーテリアスを斬り捨てては進み続ける。

 

黒武者は正直、いい加減デッドエンドブッチャーと戦いたいのだが、カリンが付いてくると集中して戦え無さそうで嫌だ。なので先ずはカリンとどうにかして離れなければ…と思い、振り返ってカリンを見据える。

 

「あうぅ…」

 

振り返るとカリンはビクッと震えて足を止める。黒武者はその姿を見て何故付いてくるのか益々疑問に思う。まさか、まだ自分の命を狙っているのだろうか?いや、それはあり得ないだろう。もしカリンが完璧に不意を突いたとしても、黒武者の命を奪うことは愚か、逆に鞘に納められた刀がカリンを斬り飛ばすのが先だろう。まぁ、実際に斬る事は無いのだが。

 

「………!」

 

どうしたものかと悩んでいると、黒武者は突然ある方向に顔を向けてその先をジッと見つめる。カリンもそれを追って同じ方向を見ると…

 

「…ひ、人の声…?」

 

「グルルッ」

 

僅かだが、視線の先から人の声が聞こえた黒武者はカリンを見て、行けと促すように唸る。

 

「く、黒武者様…ありがとうございます!カリン、守ってもらったご恩は忘れません!」

 

そう言ってカリンが深くお辞儀すると、黒武者はその場からゆっくり去って行き、カリンはそれを見届けた後に声がする方に向かった。

 

 

 

 

 

 

「グルル…」

 

やっとカリンと離れられた黒武者は今度こそデッドエンドブッチャーを倒しに行こうと気配を探る。

 

「……?」

 

そこで黒武者は違和感を察知した。デッドエンドブッチャーの気配が感じられないのだ。まさか倒されたのか?カリン以外のあの三人がやったのなら納得はいくが…と思っていると、それが間違いだとすぐに気付く。

 

「グルルルルルッ!!」

 

違う、気配が感じられないのではない…黒武者は感じ取っている。今も目の前に迫る程に、だがしかし…奴の姿は見えない。ここに来るまでに何度も何度もエーテリアスを斬った。奴等は絶え間なく現れたが、その姿に黒武者はこう思った。

 

───まるで、災害から逃げる哀れな獣達だと。

 

ガギィン!!

 

道路の標識が勢いよく飛んで来る。それを黒武者は斬り払うと、感じられる気配は更に増し、圧力が増えていく。奴だ、だが違う。()()()()()。何故気付かなかった?それはこの気配をあの逃げて来たエーテリアス達のものと勘違いしたからだ。

 

「───」

 

黒武者は理解した。どうやら今宵の自分の獲物は、まだまだ先にいる。当然仕留める、必ず仕留める。だがその前に…

 

「「Guooooooooooo!!」」

 

()()()()2()()()()()()()()()()()()()()を仕留める為に刀を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時間が経ち、デッドエンドホロウの近く…カンバス通りには、大勢の住民が居た。このエリアの地下鉄はヴィジョン・コーポレーションが再開発の為に列車を用いた大規模な爆破解体が実施されるのだが、住民達の避難は行われていなかった。ヴィジョン・コーポレーションはコスト削減の為に、ここに住む貧民街の人々を秘密裏に、爆破解体に紛れ込んで排除しようとしていた。

 

そんな問題に直面した邪兎屋と猫又はパエトーンに依頼してヴィジョン・コーポレーションの非道な企みを阻止しようとしていた。

 

「なるほど…住民達が外に出ないように正面の出入り口に戦力が集中しているから…」

 

「その隙を突いて、俺たちがホロウから迂回して列車を奪えばいいんだな!」

 

『うん!奪った列車を使って一気にホロウを突っ切れば、エーテル適応体質じゃない人でも運び出せる筈!』

 

「さっすがプロキシ!そうと決まれば、住民を駅に集めるよう言って来るわ!」

 

作戦も定まり、後はなるべく早く行動に移し、実行するだけ。すると…

 

『マスター、問題が発生しました』

 

「ん?どうしたのFairy」

 

『非常に重大な急を要する問題です。このままでは、作戦は開始する前に失敗します』

 

「え?何言って…」

 

『先程からデッドエンドホロウが───徐々に拡大しています』

 

「………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デッドエンドホロウが拡大!?一体どうなっている!?」

 

「そ、それは分かりません…でずが、デッドエンドホロウは段々と大きくなっています。このままでは、貧民街も、武装部隊も、そして列車がある監視拠点も…全て飲み込まれます」

 

「ぐぬぬ…再開発を目前にこのような…」

 

ヴィジョン・コーポレーションCEOのパールマンは、部下から聞いた報告で表情が険しくなる。誰にとっても予想外、デッドエンドホロウの拡大。その名の如く、そのホロウは、周辺にいる者全てを、終点へと誘っていた。

 

 

 

 

 

 

「はぁ!?ホロウがデカくなってる!?」

 

『うん、これじゃ列車を奪ってる間にここがホロウに飲み込まれちゃうよ!!』

 

「じゃ、じゃあどうすんだ!?」

 

『マスター、ヴィジョン・コーポレーションもこの事に気付いている筈です。もしかしたら、正面に展開している武装部隊が撤退するかもしれません』

 

「!そ、それなら、皆を早く連れて移動しよう。こうしてる間にも、ホロウは迫ってるんだろ!?」

 

パエトーン…リンも慌てて邪兎屋に情報を共有。Fairyの提案により、正面の出入り口に向かう事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外が大騒ぎになっている頃、黒武者はデッドエンドホロウの中心部に立っていた。ここに来るまで何体のブッチャーが居た?そんな事は重要ではない。問題はそれを生み出している…目の前の木のようなエーテリアスだ。

 

「グルル…」

 

()()()。と黒武者は確信した。その木…デッドエンドブッチャーだったエーテリアスは、大樹のような姿となり、足だった部分は地面に黒い根を下ろし、その巨体は黒い幹となり、その上に指だった白き枝が何本も伸びて、黒武者の頭上に広がっている。その枝には、まるで果実のように、黒武者が斬り捨ててきたブッチャーが何体も実っている。そして…それは一斉に落ちて来た。

 

「グアァァァァァァァァァァァッ!!!!」

 

黒武者は雄叫びを上げた、何故、デッドエンドブッチャーがこのような巨大な樹木になったのかは分からない。理由はどうでもいい。なんだろうが重要では無い、黒武者が考えているのはただ一つ…

 

目の前の木を、切り倒してやる。

 

刀を携え、デッドエンドブッチャーの群れに突っ込んでいく。相手は一体だけでも危険なエーテリアス。しかし黒武者は恐れない、恐怖など誕生した時から無い。この身は衝動、本能の化身、刀を振るうのは誰の物かも分からぬ強迫観念と、エーテリアスを斬った時に得られる僅かな充足の為。

 

四本の腕を持ったデッドエンドブッチャー達が次々と爪を振るい、コアから光が放たれる、構わない。再び実ったデッドエンドブッチャー達が落ちて来る、構わない!黒き樹木も動き出し、空に広がる数多の枝が、黒武者を突き刺そうと天から降り注ぐ、構わない!!

 

そんなもので殺せるなら殺してみろ!とでも言わんばかりに黒武者は咆哮する。デッドエンドブッチャー達は次々と両断され、白き枝を躱し、切り裂き、前へ前へ。

 

終わりはどちらに齎されるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やった!アイツらいなくなってるぞ」

 

ヴィジョン・コーポレーションの武装部隊がいなくなっているのを確認したリン達は住民達の避難誘導をする。

 

「あんた達!慌てないで、落ち着いて移動するのよ!」

 

「なぁ、ニコの親分見ろよ、ホロウ、どんどんデカくなってるぜ…」

 

「ちょっとビリー!今そういうの言わないでちょうだい!」

 

「けど、デッドエンドホロウに一体何が…」

 

「そんなの十中八九、デッドエンドブッチャーに何かあったんでしょ。てか、治安局だの防衛軍だのH.A.N.Dは何やってのよ?」

 

『Fairy、どうなの?』

 

『現在、各組織が部隊を編成、デッドエンドホロウの周囲に展開しつつあります』

 

「周囲に展開?ここには民間人がいるのよ、もし私達が連れてなきゃ皆ホロウに…あ」

 

「……ここの住民は公には避難したって事になってる。だからそこまで慌てていない」

 

「ネットじゃ今ヴィジョン・コーポレーションが住民を避難させてて良かったって言われてるぞ…」

 

「マジで俺たちがいなかったらって考えると…ゾッとするぜ…」

 

もし、邪兎屋が現れなければ、今頃スラムの住民達は全員ホロウに飲み込まれていただろう。そうなった場合、一体どれほどの被害が出たのか…そんな事を考えながら、リン達は進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───硬い。

 

「「「Gaaaaaaaaaa!!」」」

 

迫り来るデッドエンドブッチャーの群れ、上から迫る巨腕を斬り落とす。既に100体は斬っただろうか、などと考えながら、黒武者は黒い木を見る。

 

「グルルッ…」

 

何度か近付いて斬ったが、幹には傷一つ付いていない。枝とは硬さが段違いだ。ならばと、黒武者は周囲のブッチャーを切り刻むと刀身にエーテルエネルギーを集中させる。

 

「グアアッ!!」

 

エネルギーが込められた斬撃が飛び、凄まじい速度で木に迫り、命中する。ドォォォン!と音が響き、黒武者が当たった部分を睨み付けると、そこには僅かな切り傷があった。

 

「!!」

 

「「「Gaaaaaaaaaa!!」」」

 

新たなブッチャー達が迫る。黒武者はそれを適当に斬りながら木を伐採する方法を考える。手応えは僅かだがあった、しかし…

 

「グゥ…」

 

切り傷があった場所を再び見ると、そこに傷はもう無かった。枝が斬り落としても再び伸びるのを見て分かってはいたが、この木は傷付いた端から再生する。硬い樹皮に覆われたあの巨大な木を一太刀で斬り倒すのは不可能だと結論付けた黒武者は、次のプランに移る。あの木の心臓、エーテリアスのコアを貫くプランに。

 

 

 

 

 

『マスター、ホロウの拡大が更に加速しています。このままでは追いつかれるかと』

 

『無茶言わないでよFairy!』

 

「そうよ、子供にお年寄りだっているんだから、歩きじゃこれが限界よ!」

 

「けど、それでホロウに全員飲み込まれたら本末転倒」

 

「なぁ店長、どうにかなんねぇか?」

 

『うーん…!ホロウから逃げ切る為には…ホロウの方をなんとか出来れば…!』

 

『急にホロウが拡大した原因はデッドエンドブッチャーだろう。あのエーテリアスをなんとか出来れば或いは…』

 

「さ、流石にそれは無理じゃない?中で何が起きてるのか分からないけど、絶対に私たちがどうこう出来る問題じゃないわよ…!」

 

『目の前にヴィジョン・コーポレーションが使う予定だった大量のエーテル爆薬を積んだ電車がある監視拠点が見えてきた。今は避難して誰もいないだろうし、アレを使えばもしかしたら…』

 

「もしかしたらって、もう!」

 

「……私、行く」

 

「!猫又…?」

 

「このままじゃ皆ホロウに飲み込まれて死んじゃうだろ?だったら…私は行きたい!」

 

「ちょっと本気!?あのデカブツ見たでしょ!あんなのが、今頃中じゃもっとデカブツになってかも…いや絶対なってる!それでも行くつもり!?」

 

「…うん、行く。それで皆が助かるかもしれないなら、私は一人でも行く!!」

 

「猫又、あんた…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブンッ!!

 

黒武者が腕を振るい、槍を投げた。エーテルの光を纏った槍が勢いよく飛んでいき、ブッチャーの王に突き刺さる。槍は刺さりはしたものの、表面に刺さるだけで止まる。ブッチャーの王はお返しと言わんばかりに大量の枝を突き刺すように黒武者に伸ばす。

 

上から迫る枝を連続でバク転しながら回避し、続く追撃を新たに生成した二本の刀で弾いていく。そのまま一旦黒武者は、近くにあった建物に身を隠した。慎重に周囲を見ると、デッドエンドブッチャーの姿は見えず、遥か上にある枝に実ってもいない。

 

「グルゥ…」

 

そして手元の二本の刀に目を向けると、刀は刃こぼれしていた。黒武者は先程枝を弾いたが、実際には斬るつもりだった。しかし、デッドエンドブッチャーが追加されなくなってからは枝を斬るのも難しくなっている。どうやらデッドエンドブッチャーを作る力を本体に回したようだ。

 

「!!」

 

ゴゴゴゴゴゴッ!!

 

黒武者の居る建物を次々と枝が突き破って来る。黒武者は刀の刃こぼれを直して建物から出る。枝を躱し、弾きながら走り続け、考え続ける。現状、あの木の何処にあるコアを見つけ出し、破壊するのはほぼ不可能。黒武者の頭に撤退の考えが浮かぶ。

 

「………」

 

次々と迫る枝を前に、黒武者はその考えを捨てる。方法は思いつかない、だがやるしかない。何故なら───!

 

ザンッ!!

 

先ほどまで刀を弾いていた枝を切断する。この木は伐採してやると決めた、今はそれが全てだ!!その為なら幾らでも戦ってやる!!

首輪に付けた髪飾りが揺れ、黒武者は再び雄叫びを上げる。するとその瞬間…

 

ガタン…ゴトン…

 

「?」

 

戦場に妙な音が響き、黒武者は建物の上で足を止め、枝も動きを止めた。そして音が響く方に目を向けると…

 

「ちょっと!!あんなの聞いてないわよ!?」

 

『誰も聞いてないからね!!』

 

「お、おい、これホントに爆薬で倒せんのか…?」

 

「ニコ、店長、今からでも引き返した方が…」

 

「何言ってるんだ!ここまで来たら覚悟を決めて、やるしかないぞ!」

 

『注意、デッドエンドブッチャーと思われるエーテリアスに動きあり』

 

「「「「え?」」」」

 

戦場に突如現れた一両の列車、その上に立つ邪兎屋の面々と一匹のポンプ。ブッチャーの王は己に向かって来るそれらに枝を向けた。

 

「ちょ、ちょっと!アンビー、ビリー、なんとかして!」

 

「無茶だぜニコの親分!!」

 

「皆!列車から飛び降り───」

 

ザンッ!!

 

その瞬間、列車に向けられた全ての枝を横から飛んできた斬撃が全て斬り飛ばした。

 

「な、何今のっ!?」

 

「今のは…!」

 

ドンッとニコ達の後ろから音がして、全員が一斉に振り返ると、そこには黒武者が居た。

 

「黒武者…なの…?」

 

『な、何コレ…エーテリアス…じゃない?』

 

「グルル…」

 

「ちょ、ちょっと…一体何なよ、コイツ…」

 

「黒武者…間違いない、あの日、私とビリーが会った、あの黒武者だ」

 

「ああ、あん時はマントで姿が見えなかったが、そんな見た目をしてたんだな…」

 

黒武者の姿を見て驚愕する一同。すると黒武者は二本の刀を握り締める。

 

「!伏せてっ!!」

 

「グルアアッ!!」

 

黒武者が高速で刀を何度も振り、斬撃を飛ばすと再び迫っていた枝を全て斬り落とした。

 

「すっご…」

 

「ってそうよ!デッドエンドブッチャー、アレを倒さないと!!」

 

「けどニコ、見て」

 

「ん?」

 

アンビーに言われてブッチャーの王を見ると、黒武者が飛ばした斬撃が幹に傷をつけていたが、瞬く間に再生し塞がっていく。

 

「はぁっ!?」

 

『再生した!?』

 

「再生に…それにあの斬撃であれだけしか傷を与えられないなら幹の硬さも相当な筈。幾らこれだけエーテル爆薬があったとし、て、も…黒武者…?」

 

アンビーの呟きに、全員が黒武者の方を見ると、黒武者は刀を逆手に持ち、下に向けると……爆薬が積んであるタンクに突き刺した。

 

「ちょっ!?」

 

瞬間、タンクからエーテルの光が溢れ出す。

 

「何やってんの!?」

 

『み、皆!車両から飛び降りて!』

 

黒武者の行動に慌てた面々は車両を飛び降りる。そして黒武者だけを乗せたまま、列車はブッチャーの王へと走り続けた。

 

「アイツ、一体どういうつもりなんだ!?」

 

『マスター、エーテル爆薬に含まれていたエーテルが、刀に吸収されています』

 

『え?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒武者はこの列車を…正確には、この列車にあった大量のエーテル爆薬の気配を感じた時、コレだと感じた。そうコレならあの木を切り倒せると

 

「フゥーーッ…」

 

タンクから刀を抜く。刀には光が宿り、黒い刃は白く輝いている。振り向いて刃先をブッチャーの王へと向けると、上段に構える。向かってくる枝は先程全て斬った、今はまだ再生中だ。

 

黒武者は目の前に聳え立つ巨大な樹木を見据え、こう思う。

 

───斬れるだろうか?

 

ここまで硬い敵は今まで対峙した事が無い。渾身の一撃でもかすり傷しかつけられ無かった。もし、この一太刀でもダメだったら…

 

「!」

 

その瞬間、風に揺られて、黒武者の目に髪飾りが映る。

 

──お前の太刀筋は、とても美しいな、⬛︎⬛︎

 

「………」

 

──斬れる、黒武者は確信した。迷うことは無い、当たり前だ、正しく振り下ろせば…

 

 

 

 

この刃に、斬れぬものは無い。

 

その瞬間、天に届くほどの白き光が、王の身体を縦一線に斬り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………た………ね…又

 

 

猫又!!

 

「うわっ、な、何だ!?」

 

「やっと起きた…」

 

「あ、あれ?私…」

 

猫又は何故かアンビーに抱き抱えられていた。

 

「貴女は気を失っていたの」

 

「気を失ってたって…何で…?」

 

「アレの余波で吹き飛ばされて、頭を打ったから」

 

「アレって……え?あ、あのデッカい木みたいなエーテリアスは!?」

 

「それなら黒武者が真っ二つにしちゃったわよー…」

 

「マジでヤバかったな、アレは…」

 

『って皆!そろそろ防衛軍とか来るから、早く逃げるよ!』

 

「そ、そうだったは!ほら、起きたなら行くわよ!アンタの形見ならまた探しに来てあげるから…!」

 

「だから、アタシじゃなくてアンタの家族の……あ…」

 

すると、猫又は地面に落ちてる何かを見つけて、それを拾い上げた。

 

「コレ…」

 

「それは、さっき黒武者の斬撃の余波でこっちに落ちてきた…」

 

「…見つけた、アタシの家族の…形見…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デッドエンドホロウの突発的な拡大、それは防衛軍などの攻撃が始まる前に収束した。中に居たエーテリアスがほぼ狩られた事から、ホロウの規模は以前より大幅に縮小。なお、避難したと思われていたカンバス通りの住民が見つかったことで、現場は大騒ぎとなった。

 

住民達の避難を先導した邪兎屋の供述により、ヴィジョン・コーポレーションの非道な行いが知れ渡り、パールマンCEOは逮捕された。そして……

 

「───これか」

 

対ホロウ6課の課長、星見雅は、デッドエンドホロウに一人で訪れていた。理由は、今回の事態を解決したのが、度々噂が耳に入る黒武者という存在であった事が邪兎屋の供述により判明したからだ。

 

そして、彼女の目の前には、巨大で真っ直ぐな斬撃の跡が地面に伸びていた。雅はしゃがみ、斬り裂かれた地面を覗き込む。

 

「…跡を見ただけで分かる。とても、綺麗な太刀筋だ。恐ろしいが、同時に凄まじい…これほどまでの技術は、彼以外には見た事が無い…黒武者、いつか手合わせを願いたいものだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁーーー……うっそだろー……」

 

暗い部屋の中、一人の男性が机に突っ伏していた。

 

「アレを倒すとかどうなってんだ…いや、計画は悪く無かった、邪兎屋とかいうイレギュラーが列車をホロウに入れなきゃ…いやだとしても真っ二つは可笑しいだろ……どーすんだよコレ…いい感じに弱らせればそれで良かったのに…」

 

すると男性のスマホから着信音が鳴り響き、男性は身体を起こしてスマホを手に取り画面を見ると、ため息を吐いて出る。

 

「はいもしもし…」

 

『随分と落ち込んでるわね?それより今回の件、どう責任を取るつもり?』

 

「はぁ?そっちが大変なのはカンバス通りの住民を避難させなかった所為であって、俺の所為じゃ無いっての、知らんわそんなん。大体、邪兎屋とかパエトーンが介入した時点で計画は失敗だろ?」

 

『けど、こちらに何も言わずにデッドエンドブッチャーに大量のエーテル燃料を与えて、あんな事態を引き起こすなんて、勝手が過ぎるんじゃないかしら?』

 

「はぁ……俺らは同僚じゃない、ただの取り引き相手だ。俺の目的はあのサクリファイスであってお前らの野望になんざまるで興味は無いが…必要なんだろ?アイツ。だったら黙って協力しろ」

 

『へぇ…失敗しておきながらよくもそんな事が言えたわね』

 

「まぁな…仕方ないから暫くはタダ働きしてやるよ、それで文句は無いだろ?」

 

『ふふ、ならいいわ。それにしても、そんなにあの出来損ないに執着するなんて…それはやっぱり、()()()()の為なのかしら?』

 

「………用が済んだならもう切るぞ」

 

『つれないわね、そういうとこはお兄さんそっく──』

 

言い切る前に電話を切り、男性は天井を見上げた。

 

「はっ、誰があんなクソ野郎なんか…俺はただ、見たいだけなんだよ…例え幻でもいい…星が消えた後の、最後の光でも良いんだ…」

 

そう言いながら男性は、スマホの画面を見ると、そこには金髪のシリオンの少年が映っていた。

 

「里桜……」

 

 

 

 

 

 

 

 




ヒロインどうしよっかなー…あ、感想と高評価よろしくお願いします!
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