ダーウィンの説に反する植物発見 専門家「特殊な環境での繁殖戦略」
進化論の父チャールズ・ダーウィンの説に反する植物が存在していることが神戸大などの研究で明らかになった。進化的にはごく最近になって登場した種と考えられ、長期的に生き残っていけるかはわからないという。
一般的な植物は、花を咲かせて昆虫などを引き寄せる。花粉を運んでもらい、別の個体と「他家受粉」をするためだ。だが、中には自分の花粉を使って受粉する「自家受粉」を行うものもある。
リスクもある「自家受粉」、ダーウィンの考えは
自家受粉は確実に子孫を残せるメリットがある。一方で、他の個体と遺伝的な交流をしないため、子孫の多様性が低下して、環境への適応力が弱まるリスクもある。
そのため、自家受粉は花粉の運搬がうまくいかなかったときのために、保険的な戦略として植物が備えていると考えられてきた。
ダーウィンも、約160年前の文献に「自家受粉のみで繁殖する植物は存在しないのではないか」と、その考えを残している。
神戸大の末次健司教授(植物生態学)は10年以上の野外観察で、南西諸島などに分布するタケシマヤツシロランとクロシマヤツシロランは、つぼみをつけるが、花を咲かせないことを見つけた。
この2種の遺伝的な特徴を解析した結果、両親から同じ型の遺伝子を受け継いでいて、何世代も変わらず続いていた。自家受粉だけで子孫を残していることがわかった。花を咲かせなくなったのは古くとも2千年ほど前からとみられる。末次さんは「ごく最近になって成立した種」と言う。
自家受粉のみでの繁殖は、長期的には存続がうまくいかなくなり、絶滅する「進化の袋小路」に陥っていく可能性がある。末次さんは「進化的なスケールでみると短命な可能性があり、ダーウィンの疑念は的外れではなかったともいえる」。
「他家受粉」でもメリット得られず?
なぜ、自家受粉のみに頼る進化を遂げたのか。
2種に近縁なヤツシロランの仲間の分析から、そのヒントが見えた。
タケシマとクロシマそれぞれの祖先にあたるとされるフユザキヤツシロランとトカラヤツシロランは、花を咲かせて他家受粉をする。しかし調べてみると、遺伝的な多様性がとても低いことがわかった。
ヤツシロランの仲間は光の届きにくい森林の地表に生育する。フユザキとトカラの花粉を運んでいるのは、移動距離の短いショウジョウバエだ。そのため、花粉を運んでもらったとしても、結果的に自身の花粉で受粉する状況が生じやすくなっていたとみられるという。
末次さんは、「花を咲かせても他家受粉の価値が十分に得られない特殊な環境で、確実に子孫を残す戦略が働いたのではないか」と話す。
研究成果は国際誌に掲載された(https://doi.org/10.1098/rspb.2025.0574)。
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