ハラスメント行為に対する懲戒処分(令和4年9月15日水戸地裁)
概要
学校法人である被告との間で期間の定めのない雇用契約を締結し、被告の設置する短期大学の教授として勤務していた原告が、大学の複数の教員や学生に対するハラスメント行為があったことを理由に被告から停職1年間の懲戒処分を受けたことについて、当該処分が懲戒権を濫用した無効なものであると主張して、被告に対し、同処分の無効確認を求めるとともに、雇用契約に基づき賞与を含む賃金等の支払を求めた。
結論
一部認容、一部棄却
要旨
法人において,1年間の停職は本件就業規則で定められている停職期間の上限であり,そのような重大な懲戒処分が正当化されるには,それに見合うような事由が存在することを要するものと解され,そしてパワハラが暴力行為や暴言のように明らかに違法行為に当たる場合であればともかく,本件大学の教員や学生に対する指導等として過剰ないし不相当であるなどの程度に止まるものであれば,それを指導・注意して改善の機会を与えて,それにもかかわらず改善が見られないような場合にはじめて重大な処分に及ぶことが正当化されるというべきであるところ,平成28年の1年間に5人の学生と保護者から教授に関する訴えがあったため,当時の副学長同席の下,教授に対しその旨を伝えて注意喚起をしたことが認められるが,従前教授に対して教員や学生に対する指導等につき改善を要する旨の指導・注意が十分にされていたということはできず,これに加えて,従前教授に対して譴責や減給等のより軽微な懲戒処分やそれに満たない訓告等がされたこともなかったにもかかわらず,突如として1年間の停職という重大な懲戒処分をすることは,教授に対する不意打ちであり合理性を欠くものと言わざるを得ないから,仮に本件就業規則の定める懲戒事由が認められるとしても,本件懲戒処分につき客観的合理的理由ないし社会的相当性があるとは認められない。
本件懲戒処分は無効であるから,教授は停職期間とされた令和2年6月1日から令和3年5月31日までの1年間においても賃金請求権を失わないが,もっともこの場合の賃金額については,解雇がなければ確実に支払われることが見込まれる限度でこれを認めるのが相当であるところ,教授には令和2年5月において,月額として基本給,付加手当の合計56万5400円が支払われており,これらの賃金項目はいずれも本件懲戒処分がなければ確実に支払われることが見込まれるものと認められるが,他方で通勤手当3万5000円については,就業規則等の定めが明らかでないところ,通常通勤手当は現に支出された実費を補う趣旨であるから,現に支出されなかった場合にまでその支払を認めることは過剰であり,賞与についても本件懲戒処分がなければ確実に支払われることが見込まれるとまでは認めるに足りない(本件就業規では,「職員には勤務成績に応じ,賞与を支給することがある」とのみ定められ,「賞与の支払については,別に定める」とされているため)から,停職期間中の賃金額として月額56万5400円の限度で認めるのが相当である。
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