自作について語る深津諭美子さん。手を酷使するせいで、両手首には包帯がみえる=東京都杉並区上荻1丁目
娘は娘、私は私――。東京都渋谷区の書道家、深津諭美子(ゆみこ)さん(60)の個展が、都内のギャラリーカフェで開かれている。人気女優の母。「娘の七光り」を嫌い名前を伏せてきたが、初めて本名で開くことにした。
「諭黄(ユンホン)」。深津さんは、これまで書の世界でそう名乗ってきた。大分県別府出身。書道家だった父が付けた号。書の基本は、父に習った。
20代は服飾デザイナーを志望していたが、「芽が出ず」、福岡にブティックを開いた。
30代後半。中1の一人娘、絵里さんが「ミス原宿」に選ばれ、波乱が起きた。深津さんは芸能界入りに反対した。しかし、娘の意志は堅い。認めはしなかったが、最後は「てんぐにならないで」と送り出した。娘はその後、大ヒットした刑事ドラマなどにも出演、映画で主演を張る女優に育った。
書の世界に本格的に向かうのは15年ほど前。ブティックをたたみ東京に越してきてからだ。6年ほど前には、父の遺志を継ごうと、中国の上海大学に約1年留学、漢字を学び直すことで、文字をデザインする才能が開花した。
作風は「漢字アート」。一つの文字を、自分で感じたままの筆遣いで表現する。両手に筆を持ったり、利き手と逆の手で書いたり。ほうきやストローを使うこともある。
個展ではこれまで、実名を明かしてこなかった。人気女優となった娘への気兼ねと、母としてのプライド。ただ、「もうそろそろ」という思いは募っていた。「隠していても、いつかは分かる」
そこに、知人の紹介で個展の依頼が来た。実名を勧められた。娘に話すと「お母さんの人生だからいいよ」。寡黙な夫も賛同してくれた。心の重しが取れた気がした。
「自分をもっと成長させたい。そのためにも、これからは本名でいきたい」。そう語る深津さん。いま、娘に贈りたい漢字を尋ねると、「『絆(きずな)』かな、それに『健』」。柔和な母の表情を見せた。
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深津さんの個展「文字魂」は30日まで。会場は「6次元」(杉並区上荻1丁目)。水曜定休。月~金曜日は午後6時~11時、土日は午後1時~11時。28日午後7時から、深津さんの実演がある。問い合わせは同店(03・3393・3539)。(永沼仁)