知らない女性に渡された1円で買ったベーグルが激ウマだった
いつものように朝食を抜いて家を飛び出し、電車の乗り換えでフラフラになった僕は、駅構内のベーグル屋に吸い寄せられた。ショーケースに並んだ美味しそうなベーグルたち。ああ、今日こそはちゃんと朝ごはんを食べよう。
目当てのブルーベリーベーグルを手に取り、レジへ向かう。財布の中身を確認すると、しまった!昨日は忙しすぎてお金を下ろすのを忘れた結果、お札がない。焦る気持ちを抑え小銭も見ると、なんとベーグルを買うには1円足りなかった。
「あらあら、1円足りないの?」
店員の女性は困ったような笑顔で僕を見る。どうしよう。このお店の支払い方法は現金のみ。今日は本当にツイてない。諦めてベーグルを棚に戻そうとしたその時だった。
「あの、もしよかったらこれ、使ってください」
レジのすぐに立っていた、上品なワンピースを着た年配の女性が、そっと僕に1円玉を差し出してくれたのだ。
「え?いいんですか?」
突然のことに、僕の目が丸くなった。見ず知らずの人からの1円。なんだか申し訳なくて、でも、ありがたくて、頭の中がぐちゃぐちゃになった。
女性は微笑みながら、「ええ、お気になさらず。」と優しく言った。
その優しい笑顔に、僕の心は解けた。でも、やっぱり知らない人からお金をもらうなんてできないから、何度も断った。何度も断った結果、僕の口からは「ありがとうございます!」が出ていた。
深々と頭を下げ、その1円玉を受け取ったのだった。
無事にベーグルとコーヒーを手に入れた僕は(コーヒーはコンビニにてポイントで買った)、近くのベンチに座って一口食べた。外はカリッと香ばしく、中はもっちりとしてほんのり甘い。「ああ、美味しいなぁ。」いつの間にか声が出ていた。1円が足りないと気づいた時は焦ったけど、見知らぬ人の優しさのおかげでこんなにも幸せな気持ちになれるなんて。
夢中でベーグルを頬張りながら、さっきの女性のことを考えていた。なぜ、あんなにもさりげなく、親切にしてくれたんだろう?もしかしたら、彼女も同じような経験をしたことがあるのかもしれない。
朝はフラフラで毎日時間に追われていた僕。そんな中で、見ず知らずの人の温かい気持ちに触れることができた。たった1円。されど1円。その1円が僕の心を温かくしてくれた。
その日の午後は仕事がいつもよりうまくいった。いつもよりいい取材ができ、いい文章が書けたのは、きっとあのベーグルの美味しさと、女性の優しさのおかげ。
あの時、あの場所で、あと1円足りなかった僕に、見ず知らずの女性が差し出してくれた1円。それは、本当に小さな出来事だったのかもしれない。でも、僕にとっては忘れられない心の交流だった。
もしどこかであの女性に会えたら、あの時の感謝の気持ちをもう一度伝えたい。あの時の1円の出来事は、僕にとって忘れられない宝物になったのだ。
優しい偶然に、心からありがとう。
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コメント
3読みながら胸がじんわりと温かくなりました。朝の慌ただしい日常のなか、見知らぬ方の小さな優しさがこんなにも心に沁みるなんて、本当に素敵な体験ですね。ベーグルがより一層美味しく感じられたのも、その女性の優しさがあったからでしょうね。小さな偶然がもたらした優しさが、あなたの一日を良い方向に導いたことがとても伝わってきました。私まで、心が癒されましたよ。また素敵なお話、聞かせてくださいね。
あなたも誰かに親切の贈り物を是非。そこから世界平和が実現します(笑)
情けは人の為ならず。
そういうことを理解している人は自然に行動できると思います。