「優作はゴジラなんだ!」
速水 その出で立ちの吉本が、船で茂之の住む都営アパートにやって来るシーンも印象的です。
本間洋平の原作小説だと舞台はニュータウンですが、映画の沼田家は東京・月島地区に現存する『都営勝どき六丁目アパート』の中になっていて、僕も聖地巡礼に足を運びました。
今ではタワマンが出来て、目立たない低い建物なんですが、当時、周辺は何もないススキ野原。団地という狭い空間が、映画の舞台装置としてうまく機能しています。
宮川 吉本が船でやって来る理由を、森田監督は「あれはゴジラなんだ」と言っていました。海の向こうからやって来て、沼田家を破壊しつくす。
金子 晴海埠頭周辺をロケハンしたとき、たまたま船を見かけた森田さんが「あれで吉本が来たら面白いんじゃないか」と、思いついたんです。
速水 舞台もそうですが、この映画を特徴づけるのが主題歌や劇伴といった「音楽がない」という点です。だからこそ食事の咀嚼音や、茂之が殴られる音が生々しく聞こえる。
金子 音楽にかかる費用を節約したいという理由もあったようです。
しかし、結果として音楽がないことで、車のエンジン音や空手のかけ声、そしてヘリコプターのプロペラ音などが、効果的になっています。
速水 耳に残る音といえば、茂之に受験勉強を強いて、吉本を家庭教師につける、伊丹十三演じる父親の「目玉焼き」の食べ方です。半熟の黄身の部分をじゅるじゅると吸って食べる。
宮川 映画の終盤で、固く焼かれた目玉焼きを出されて、由紀さおりさん演じる妻に文句を言う。由紀さんは夫が黄身を吸うのが好きなことに気づいていなかったんですね。ユーモラスですけど、父親の権威の危うさを皮肉った場面です。
金子 撮影が始まったばかりのとき、伊丹さんは緊張しているようでした。森田さんに何度も質問して「この、じゅるじゅる、ってのはどう演じるんですか」なんて聞いていましたね。それで、私は森田さんと「伊丹さんって、こんなに下手だったっけ」とヒソヒソ話をしたことを覚えています。
しかしいま考えると、伊丹さんは翌'84年に『お葬式』で初めてメガホンをとる。いつも現場で森田さん、優作さんと映画の話をしていたのも、この作品を自身が監督をするための準備と捉えて観察していたのでしょう。
横並びの食卓や映画史に残るクライマックス、そして不穏で印象的なラストシーン。国内外で高い評価を受けた『家族ゲーム』の撮影秘話を後編記事『『家族ゲーム』の名シーン「横並びの食卓」が出来上がるまでには知られざる秘密があった!』で引き続き紹介する。
「週刊現代」2022年11月12日号より