29年間で中3の正解率が2割も減った「数学者が異常を感じた設問」 背景にある教育の歪みの正体とは
「逆向きに考える」解決法
もうひとつの「発見的問題解決法」は「やり方」の暗記に頼る学びとは違うもので、問題の解法に至るヒントをどのようにして得たかをまとめたものである。人それぞれによってその分類は異なるが、筆者としては次の13個を考えている。 ・帰納的な発想を用いる。 ・定義や基礎に戻る。 ・背理法を用いる。 ・条件を使いこなしているか。 ・図を用いて考える。 ・逆向きに考える。 ・一般化して考える。 ・特殊化して考える。 ・類推する。 ・兆候から見通す。 ・効果的な記号を使う。 ・対称性を利用する。 ・見直しの勧め。 いくつか重複することもあるが、これら13個それぞれを本稿で説明するのはとても無理なので、ここでは世間で「押してダメならば引いてごらん」とよく言われることと似ている「逆向きに考える」について、易しい例も交えて簡単に説明しよう。 幼少期に「迷路」で遊んだ方も多いはずだが、子ども向けのものでは、目的地から出発点に向けて逆に辿ると簡単に解決することがよくある。日常生活でも、新幹線→在来線特急→ローカル線普通列車を乗り継いでA地点からB地点に向かう列車時刻を調べるとき、B地点に間に合うギリギリのローカル線普通列車→それに間に合うギリギリの在来線特急→それに間に合うギリギリの新幹線、の順に調べると、無駄のない検索になる。「逆向きに考える」ことはいろいろな場面で効果的である。 数学の問題を考えるときも同じで、「問題を解決するには〜が分かれば、あとは大丈夫」というような〜が見つかることがある。その過程では、「問題を解決するには何が分かればよいだろうか」というように、逆向きに考えているのである。 Aを問題の仮定(出発点)として、Bを問題の結論(目的地)とする。AからBに向かっての道筋は思いつかないが、BからAを眺めているとき、BとMは本質的に同じことで、「BならばM」も「MならばB」も示せるMの存在に気付いたとする。このとき、AからMが導けたならば、結局、AからBは導けたことになる。およそ数学の問題を「逆向きに考える」方法で解決するときは、そのような形を辿るのである。 最後に、発見的問題解決法は数学の問題ばかりでなく、様々な広い課題にも応用できると考える次第である。 芳沢光雄(よしざわ・みつお) 1953年東京生まれ。東京理科大学理学部(理学研究科)教授を経て、桜美林大学リベラルアーツ学群教授に就任、2023年に定年退職。理学博士。専門は数学・数学教育。近著に『いかにして解法を思いつくのか「高校数学」(上・下)』『昔は解けたのに…大人のための算数力講義』(ともに講談社)ほか著書多数。 デイリー新潮編集部
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