重い対ホロウ6課をもっと重くさせたいだけだった……


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作:曇らせを摂取して生きている
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昏い空に咲く花火1


1月クッソ忙しいです!
更新無理ですお疲れ様でした2月から頑張りますねー!


 

 

「おろろろろろろ!」

「悠真あ!? エチケット袋はここだぞ!」

「さ、流石は僕の優秀などう……うぷっ……、すまない……うぷっ」

「シャツのボタンは外した。横になるか?」

 

 場所は郊外、天気は快晴、荒野と排気ガスが特色の街に、特急急便で連れられた我々対ホロウ6課は見事に車酔いしていた。蒼角を月城副課長、悠真を俺が看る。辛抱弱い悠真にすかさずエチケット袋を押し付けて、背中をさすってやる。

 

「いやー、悪いね。命にこんな姿見せるなんて、僕もまだまだかな」

「正直、あれで酔うのは仕方ないと思うぞ。俺もあれ程酷い運転は初めてだった」

「ケロッとしてる人が言うと説得力が無いねえ。あ……まだくるかも……うぷっ」

「……ホント大丈夫か?」

 

 落ち着いてきた悠真に飴をあげていると、この場に似つかわしくない声が聞こえた。独立調査チームの責任者であり、ビデオ屋の店長でもある彼女──リンに俺と悠真はある疑問を覚える。勿論、当人を前にそれを面に出すなんて愚行は犯さない。

 

「命さんに悠真?」

「やあリン、こんな所で会うなんて奇遇だね。同僚が酔いで潰れてる時に会いたくはなかったけどね」

 

 

 始まりは課長に送られた一通のメッセージ。邪兎屋のニコから逃亡中のパールマンの情報があるとのことで、我々対ホロウ6課は総出で兎の口車に乗せられることにした。到着した郊外の街には確かにパールマン本人が滞在しており、まずは現状の情報の擦り合わせの為に対ホロウ6課単独の審問を行うことになった。

 

 

 しかし、パールマンと邪兎屋以外の存在……調査員であるはずのリンがこの場に居たのは対ホロウ6課に小さくない動揺が走った。審問に5人も費やすのは過剰が過ぎる。そこで月城副課長のアイコンタクトを静かに受け取った俺は1人、邪兎屋とリンの方へ足を進めた。

 

「あら、アンタはあっちに参加しなくてもいいの?」

「小心者1人に執行官が5人もかけて審問なんてしては、それはもう拷問だ。1人くらいサボったって訳ない。ところで、リンは邪兎屋と知り合いなのか?」

「ま、まあね。お得意様ってやつかな」

「邪兎屋がお得意様か。()()は順調そうだね」

 

 手癖と視線の動きから、彼女が何かを隠していることは明らかだった。こちらはヴィジョン事件に関連した物事に関与した『あるプロキシ』の情報を掴んでいる。この場に居合わせたことも考えると、きっと彼女が()()なのだろう。本性の善悪はなんにせよ、彼女は我々の知らない情報を知っている。

 

 

 

 審問は数分もかからず終わり。課長らが戻ってくる。一度のアイコンタクトで副課長から必要最低限の情報を交換して、ため息が漏れる。どうやら駄目だったらしい。

 

「どうかしら? 嘘じゃなかったでしょ? ヴィジョンの背後には黒幕がいて、それが何を隠そう、あのブリンガー次期総監なのよ!」

「貴方はブリンガー長官が犯罪に関与していると示唆しましたが……。あの証人が司法取引を求めて提供した情報は、現時点でほかに主犯がいるということのみです。この両者には天と地ほどの開きがあります」

 

「……つまり、パールマンの他にまだ連行しないといけない人がいる、ということです。課長、まどろっこしい真似は無駄だと具申します」

 

 緩やかな動作で大刀の安全装置を解除する。刃の擦り斬れる音が口論に静寂を招き、これ見よがしに大刀が妖しく光る。何が起きるのか察した邪兎屋の機械人と軍人崩れはそれぞれの得物に手を伸ばす。月城副課長のため息が後ろで聞こえたが、気にせず自身の得物を地面に突き刺す。

 身の丈ほどの長さの大刀が斬り裂いた空気に沈黙が流れた。

 

「はぁ、薄乃隊員、具申なら行動に移さないでください」

「だから時間の無駄ですよ副課長。ヴィジョン関連じゃないにしろ、彼女が我々に隠したいことがあるのを先程確認しました。この都市が……()()()()()()を迎えない為に俺は、この刃を抜きました」

 

「ちょっとどういうことよお武家ギツネ! アンタの部下でしょ、早くその物騒な刀をしまうよう言いなさいよ!」

 

 邪兎屋のニコは課長に噛み付くが、彼女は兎。我々対ホロウ6課を相手に尻込みするのはわかっている。課長は眉一つ動かさずに冷淡と事実を述べた。

 

「先ほど命が述べたように、ヴィジョン事件の背後についてはもっと踏み込んだ調査が要る。我々が連行すべき証人はパールマンだけではない」

 

 雅の凛とした視線がリンへ向けられる。対ホロウ6課からの指名にようやく気が付いた彼女は当事者であることを思い出し、戸惑いを見せる。

 

「え? 連行するって……私を?」

 

 対ホロウ6課は一挙一動も逃さない洞察力で邪兎屋とリンを捉える。邪兎屋がリンを隠すよう立ちはだかり、死角を補い合って逃走経路を導き出さんとしている。緊張感が伝わってくるが、対ホロウ6課は逆になんの緊張感も持っていない。潜り抜けてきた修羅場の差がここで顕著に出た。

 

「ここで貴方にお会いすることも、我々にとっては想定外でした。独立調査チームの責任者、いえ……プロキシ様、とお呼びすべきでしょうか?」

「ははっ、民間人にしては大したスキルだと思ってたけど……。『副業』で場数を踏んでたんだとしたら、まあ納得だよね。いや……零号ホロウの方が副業って可能性もあるかな?」

 

「ちょっと! こいつはヴィジョンの件とは無関係でしょ?」

 

「ヴィジョンから工事を引き継いだ白祇重工の件、治安局の証人護送にまつわる飛行船の件、このほど重要な祭事を行った此処郊外の件、その全てで『あるプロキシ』の関与があったことを我々は把握している。何より、パールマンからヴィジョンの件でも『あるプロキシ』の情報が出てきた。この場に居合わせたことを偶然で済ませるには厳しいと、俺は感じる」

「安心して! 色々調べて大丈夫だったら、ふつうはちゃんとシャクホーするから! だからシッポがふたつのおねえちゃん、こわいカオしないで!」

 

 

 

「新エリー都は今、極めて稀な時期にある。各役職の要たる方々が一堂に会しているのだ。何か起きた暁には、都市運営の根幹が揺らぐだろう」

 

 邪兎屋としてはまだリンを無関係だと宣うが、柳に風。都市の潜在的脅威は徹底的に排除するのがH.A.N.Dの流儀。除悪務本──「悪」たるを定むるは、我らをおいて他になし。

 

「たとえこの者が「悪」でなくとも、真相に迫る何かを持つ可能性がある。お前がそれを遠ざけようとするほど、私の疑念は確信へと傾く。我ら対ホロウ6課の支援が欲しくば、こちらに協力することだ。邪兎屋のニコ」

 

 

 一触即発、勃発する戦闘の先手を取るべく感覚を鮮明にしていると、

 

──カチャリ。

 

 何かを構えた音が聞こえた瞬間、大刀を手に走り出した。

 

「まっ──」

「伏せろっ!」

 

 パアン!と、遠くないところから短い銃声が鳴った。それを皮切りに銃弾の雨が降り注ぎ、周囲に土煙が舞い上がる。刃が雷のように閃いて、パールマンを狙った銃弾を斬って捨てると不気味な火花が散った。

 

「銃撃? 制圧射撃のリズムだな……包囲するつもりだ! 三方向から!」

「……狙いはパールマンとリンだ! 応戦ではなく、撤退を!」

 

 銃弾を斬っていると、手応えが異なる物が混じっているのに気付く。それを斬る度に腕が猛烈な痛みに駆られ、意識にモヤがかかる。

 

 

「待てっ、逃げるな! ううっ──!」

「……っ!」

 

 雅の声で逃走するトラックに気付いてギリギリで掴まる。急激にかけられたGに対し手に力を入れると、ぶわりと何かが溢れ出した。

 

「エーテルが……!」

 

 この身を蝕む毒が空気中に流れる。濃度はまだまだ薄い。すぐに霧散して視覚では捉えられなくなる。だが、それが逆に()()()()()()をフラッシュバックさせた。

 堪らずトラックのコンテナに侵入して吐瀉物を撒き散らした俺は、そのまま意識を手放した。

 

 


 

 

「おい! おい! 助けてくれ!」

 

 唾を飛ばしながら泣き顔で揺するパールマンに起こされる。半ば無意識で飛んでくる銃弾を弾いてゆっくりと起き上がると、先程我々と邪兎屋に横やりを入れに来た集団が無数の銃口をこちらに向けていた。

 

「パールマン……質問する。此処はどこだ?」

「ほ、ホロウの中だ! アイツらはホロウの中まで追ってきたんだ!」

「チッ!」

 

 パールマンを脇に抱えて離脱を図る。敵の持つ銃をすれ違いざまに斬っていく。しかし、数が多い。袋小路のような場所では砂丘を崩すかのように果てしない。鈍くなり続ける思考では敵の位置を認識することすら手間取り始めていた。

 

「ひいいいい! た、助けてくれ!」

「黙れ! 舌を噛むぞ!」

 

 

──プスっ。

 

「……あ?」

 

 左胸に何か……注射器のようなナニカが刺さった。内包されていた謎の液体が自動的に体内へ侵入を果たすと、一際強く心臓が脈打った。

 呼吸が止まり、手足から自由が剥奪され、無様に倒れ伏す。腕が……とにかく腕が熱かった。まるで心臓が……()()が息を吹き返したような……。

 

「あ……あぐ……がぁ……」

 

「おい、何をやっている! は、放せ!」

 

 篭手から漏れ出るエーテルが空気と混じり、結晶化して星屑みたいにキラキラと煙をあげる。小さく鮮やかな花火が、空へ還る。

 

「雅…………」

 

 飾り気のない銃口が、俺を見下ろしていた。

 

「最期は……お前が……」

 

 どうか、トドメを刺してくれないだろうか? 俺が、()()()()()()()()()()()()

 

 

 

パエトーンはどっちがいい?

  • アキラ
  • リン
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