ホロウ災害で家族失ったけど本人がまったく気にしてないパターン


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作:いつかの
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家族映画は嫌いじゃない。おサメな女子高生と再会して~


 

 

 実に二週間? いや三週間? 眠ってた期間と病院にいた期間が分からんから正確にな日にちは分からないが、とにかくそれくらいぶりの六分街である。

 

 

 頭は頭痛の分まだまだ重いが、体は右腕分相応に軽い。

 とはいえ、義手もつけずに外に出た判断を吉とするにはまだ早すぎる段階で。

 

 

「むぅ……」

 

 

 エーテルがもたらした技術革新によって、生身と変わらない精度で自在に動く義手がわりかし安価に手に入るこの時代。

 欠損をそのまんまにしとくのは何か訳アリと判断されるのか、道行く人々はどこか申し訳なさそうな目で俺を見るのである。

 

 

「やっぱつけてくるべきだったかな……でもまだ痛いしなぁ……」

 

 

 いくら性能がよくたって、結局それは人体の偽造品でしかなく、つけた時の異物感、つーか痛みは到底拭えない。

 だからいっそのこと、今通りすがった麦わら帽子被ったおっちゃんみたく、超ゴツイメカニックアームみたいなのを右腕につけようかとも考えたが、あいにくアレ以外で俺に合う義手は見つからなかった。

 

 

「にしても、なんなんだろうなアレ。持ってきた雅課長本人も分からんって匙投げるし。素材不明、製作者不明。どっかの時代の虚狩りの私物だとか、ソース不明の眉唾もあるし」

 

 

 使用していた。とかではなく、あくまでも私物の一つってのがまたイミフ。実際に使ったかどうかはともかく、私物として義肢を確保してるってどんな変態だ。

 

 

「と、ここか。しかもやってる。よかった」

 

 

 Random_Playというネーミングセンスが光る看板。

 外見から分かる洒落た雰囲気に期待を抱きながら、片手では重い扉を開けた。

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

「──これで会員登録は完了だよ愛斗さん。それにしても、本当に来てくれるとは思わなかった」

 

 

 新品未使用の会員カードを差し出す銀髪の兄さん改めビデオ屋の店長アキラさん。

 実際彼がそう思うのも無理はなくて、顔出すよと言ってからかなり日が経ってしまっていたので、その点で言えば申し訳ないことをしてしまった。

 

 

「いやさ。申し訳ないって意味じゃ、会員情報全部書かせちまった以上のことはないんだけどな。悪いな、ホント」

 

「気にしなくていいよ、それも仕方のない事だ。……ちょっと踏み込んだ質問になるかもしれないけど、その腕はこの前からそうだったのかい?」

 

「まあな。あの時は長袖だったから気づかないのも無理ねーよ。それと店長さん、俺に関してはそういう踏み込んだとかなんだとか気にしなくていいぜ? そういうの気にしないタイプだから俺」

 

「気にしないタイプ……そういうことを言う時点で実は気にしてたりするんじゃないのかい?」

 

「いやめんどくさいな店長さん。でもそれを言われちゃおしまいだぜ? もう何言っても気にしてることになっちまう」

 

「確かにそれもそうだね。じゃあそういうことにしておこう」

 

 

 だから本当に気にしてないんだってば。この人はこの短いやり取りで俺の何を知ったというのか。

 ちょっ、やめろよその目。六課のみんなも時々やるその目。俺が昔の話とかするとやってくる目、なんなんだその優しい目は。

 

 

「つーか妹ちゃんは? なんか俺見るなりギョッとした顔して上に逃げちゃったけど、もう戻ってこねーの?」

 

 

 あれ結構傷ついたんだけど。

 いらっしゃーいって超元気よく挨拶されて、俺も超いい気分になってたのに、俺の顔見るなり一気に急転直下して速攻上の階に逃げやがった。

 むぅ、やっぱ片腕がないと怖がられるのか。

 

 

「いや、リンはそういう差別はしないよ。これまで共に暮らしてきた兄妹として、それだけは誓える。……ただリンは最近色々な出来事があったからね。少し動揺しているのかもしれない」

 

「ふーん……色々って例えばどんな?」

 

「例えば、絶対にあり得ない場所で、絶対に出会わない人と思っていた人と再会したり」

 

「何それ運命?」

 

「まぁ、見方によっては運命とも言えるかもしれないね。どうもその人は窮地を救ってくれた恩人らしいから」

 

「ほほーん。なんだよ、浮いた話? それ」

 

「むしろ真逆の地に足の着いた話だけど、どうもその人は恩人であると同時に、自分とは絶対に相容れない人だったらしい」

 

「天敵的な?」

 

「そこまでになるかはまだ分からないけどね。人を見た目で判断するなって、話してみないと分からないって昔から言われているだろう?」

 

「あ〜、クソみてーな言葉だけど、それは身に染みてるよ。別に俺は見た目で分かったっていいと思うんだけどな」

 

 

 特に俺なんかは分かりやすいだろ。

 右腕がなくて、髪の毛とか右側の部分の色素が抜けてて、どう見たって近寄っちゃいけねー奴オーラ満載。

 うん、やっぱり見た目で分かんない方がいいわ。

 

 

「じゃあまぁ、少なくとも今日はもうあの子を拝むのは無理そうか」

 

 

 ……いやでも、これは考えようによっては喜ぶべきか? 

 なんつーかこの兄妹が揃うと右腕の傷口が痛むし。俺の変な体質を考えるとそっちの方がいいかもしれない。

 

 

「リンに会いたいなら、僕が上に行って呼んでこようか?」

 

「いや! 大丈夫だ大丈夫! ほんと、無理させなくていいから、好きにさせといてやってくれよ」

 

「そうなのかい? 愛斗さんには一度お世話になってるし、改めて挨拶でもと思ったんだけど……」

 

「あんなの全然世話の内に入らないって、ちょっとした親切だろ」

 

「ちょっとした……まぁ、そうだね」

 

 

 なんだその微妙な間は。世話になったのが一度でもちょっとした親切でも済んでないような感じに聞こえるぞおい。

 

 

「……ま、考えてもわかんねーしいいや。なぁ店長さん、これでもうビデオ借りれんの?」

 

「もちろん借りれるとも。早速ご利用かい?」

 

「ならジャンルはなんでもいいからさ。とりあえず家族物を適当に見繕ってくれる? 出来れば兄妹が出てくるやつで」

 

 

 自ら傷口を抉るような……いや、流石に言い過ぎ。

 じゃあかさぶたを剥がすような? う〜んこれも違うな。

 とりあえず痒いところを抓るような、とにかくそんな感じのリクエストだけど、まぁ特に意図はない。

 強いて言えば、そういう俺には持てない情緒を学びたかっただけ。

 

 

「家族物ね……じゃあこんなのはどうかな」

 

「お、パッケージ結構いい感じじゃん。ありがとな、店長さん。一週間で返しに来るわ」

 

「ああ、またのお越しを」

 

 

 袋に入れたビデオ四つ分重くなった腕で、これまた重たい扉を開ける。

 店長さんとは一、二時間くらい話していたが、まだまだ日は高く、時計が示す時刻は一日のちょうど半分で止まっている。

 

 

 今日は朝を食べてないし、いい加減腹に何かを入れたい。

 その為にはまず、手頃な店を見つけるより先に利き腕が使えない俺に飯を食わせてくれる介護要員を見つけないといけないんだけど……。

 

 

「……お、ちょうどいいところに久々に見たやつが……いや、本当に久々だな」

 

 

 いつかビデオ屋の兄妹と出会った雑貨屋の前に立つサメシリオン。

 その分かりやすいシルエットは何年かぶりでも覚えている。

 覚えてるけど、あれ? また一回りデカくなった? 成長期? 

 

 

「よっエレン、久しぶり。今日は学校サボりか?」

 

「げっ。なんでアンタがここにいんの?」

 

 

 開口一番げっ、とはそれなりに傷つく。

 昔はもっと懐いてた気がするんだけど、アレ、俺の気の所為? 

 

 

「はいはい久しぶり久しぶり。てか愛斗義手は? 失くしたの?」

 

「失くすわけがねーだろ。体調悪くてつけてきてねーだけ。つーかお前学生服でこの時間に外出んのヤバくね? 向こうに治安局の兄ちゃんいたぜ?」

 

「別に、あの人もそこまで暇じゃないでしょ。……で、なんで話しかけてきたの? 単に懐かしい顔を見かけたからってわけじゃないんでしょ?」

 

「察しがよくて助かる。ほら、俺今利き腕がこの通りだからさ。飯食わせてくんね?」

 

「え〜めんど……」

 

「まぁまぁ、小遣いはちゃんとやるぜ? 飯も奢るし。結構いいバイトだろ?」

 

「……いくら溶けるかわかんないよ? アンタ相手じゃあたしも遠慮しないし」

 

「じゃあ決まりだな。飯食うついでに学校の話とかも聞かせろよ」

 

 

 そんなこんなで、だいたい十歳くらい年下の女子高生と飯屋に洒落こんだ昼下がり。

 ほんと慰霊碑行かなくて正解だったなこりゃ。

 女子高生にあーんしてもらうとか知り合いに見られたら終わる光景だけど、それを加味してもこんなハッピーはなかなか味わえない。

 

 

「ねぇちょっと、あそこでさっきからあたし達のことずっと見てんの、あれ六課の人じゃないの?」

 

 

 あ、終わった。

 

 

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