ホロウ災害で家族失ったけど本人がまったく気にしてないパターン


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作:いつかの
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強い方のスライムメンタル。少し鬱っぽい気持ちになって~


 

 

「……う、ぁ? どこだ……ここ」

 

 

 天井の白さ的に、ここは病院……?

 ……いや、俺ん家だなこれ。壁掛け棚に置いてる妹が持ってた人形で俺の部屋だと気づいた。

 

 

 六課のドッペルゲンガーとやり合ってからちょっと俺の記憶は怪しくて。

 退院して家に帰って来てからのここ最近は、ビデオの早回しのような感じで記憶に実感が湧かない。

 

 

 特にドッペルゲンガーとやり合った時の記憶がマジで飛んでて、まぁ今こうして生きている以上何とかなったぽいんだけど。

 六課のみんなが見つけた時は体の右半分は結晶だらけだし、体全体は血まみれだしで、そりゃもう酷い有様だったらしい。

 

 

 まぁ目立つ外傷はほとんど病院で治してもらったけど、体の中、特に頭に残ってる頭痛はまだまだ酷いし、もうしばらく寝ていたいんだけど。

 それはそれとして、とりあえず言っとかなきゃいけない一言が、

 

 

「なんで、いるんすか……」

 

「私がいたら悪いのか?」

 

 

 見慣れないエプロン姿、その傍らには湯気を上げる大鍋が一つ。

 どう見ても俺の看病に来てる雅課長がそこにいた。

 

 

「あの、仕事は?」

 

「安心しろ。ちゃんと休暇申請をした」

 

「そういう意味じゃなくて、いや、もうなんかどうでもいいや」

 

 

 なんか言わなくちゃいけないとは分かってる、分かってるけど頭が痛すぎてちょっとどうにもなんない。

 ホント静まれよ俺の前頭前野……。

 

 

「……てか、それお粥、雅課長が作ったんすか?」

 

「ああ、冷蔵庫にあるものを借りてな」

 

「料理、出来たんすね」

 

「母上から教わった」

 

「へ〜……」

 

 

 話しているとだんだん眠気が覚めてきてしまった。

 同時に食欲も湧いてきたので、そのお粥をありがたく頂くことにする。

 

 

「って、あれ? 俺の義手は?」

 

 

 体を起こした時の異様な軽さ。

 どこまで鈍っているのか、右腕にあるべき義手(もの)がついていないことに今更気がついた。

 

 

「アレなら外したぞ。寝苦しそうだったからな」

 

「あ〜まぁ、確かにめちゃくちゃ疲れてる時は外して寝てますけど、今どこにあるんです?」

 

「そこの壁に立てかけてあるが……まさかつける気なのか?」

 

「いや、だってつけないと食べれなくないです? 俺左手だと槍は使えてもスプーンは使えないっすよ?」

 

「私が、食べさせてやる」

 

 

 有無を言わさぬスピードで差し出されたスプーン。

 さながら抜刀術のようだ。

 

 

 少し考えればどうすればいいか分かるんだけど、今の俺にマトモな思考力はなく、餌を待つ雛鳥のような純粋な気持ちで、その匙を待っていた。

 

 

「んむ……美味いっす」

 

「ああ、もっと食べていいぞ」

 

「頂きます」

 

 

 病人に食わせるお粥と言えど、薄味の病院食とは比べる事自体が失礼に値する程の立派な料理。

 流石良いとこの娘さんは違うなーなんて思いながら完食した。

 

 

「ごちそうさまでした」

 

「お粗末さまでした。……まさか全て完食するとはな」

 

「俺が一番びっくりしてますよ。内臓はエーテル侵食で全部弱ってると思うんすけどね。雅課長の料理が美味かったからかな」

 

「……そうか。なにか飲み物はいるか?」

 

「あっ、お願いします」

 

 

 その時の台所に向かった雅課長の足取りが、どこかスキップでもするような軽快なものに見えたのは多分気のせいだろう。

 

 

「飲み物だ。愛斗」

 

 

 ミネラルウォーターではなく、恐らく自分で買って冷蔵庫で冷やしていたメロンジュースを差し出した雅課長。

 チラ見えした冷蔵庫の中身が、緑一色に見えたのは多分気のせいじゃないだろう。

 

 

「ありがとうございます。……そういえば、俺ってどうやって助かったんです? それにあの二人は問題なく逃げきれました? ……ってあれ、俺もうこれ聞いたっけ誰かに」

 

「ああ、これで三度目の問いだが、お前が望むなら何度でも答えよう」

 

 

 想像以上に聞いていた。もはやスクラップ同然の俺の脳みそ。

 三度目の正直って言うし、全部脳みそにぶち込むつもりで雅課長の言葉に耳を傾ける。

 

 

「我らを模倣したエーテリアスから逃げて来たという調査員とボンプは、我らと合流後、時間稼ぎをしているというお前の居場所を教えてくれた」

 

「あ〜それで助かったのか。案内をしてくれたのはあの可愛いボンプですか?」

 

「そう、あの愛らしいボンプだ。ルート策定、臨機応変な対応力、あれ程優秀なボンプが民間人の私物だとは驚嘆に値する」

 

「え? あれ協会の持ち物じゃなかったんですか?」

 

「なんでも独立調査員の持ち込んだものだと」

 

 

 ウチのガリバー君も優秀なんだけど、雅課長がそこまで言うなら、多分それを超える超優秀なボンプって事なんだろう。

 

 

「持ち主めちゃくちゃ気になるけど……まぁ無事に帰れたんならいいか。……俺の報告書ってやっぱ職場に復帰してからっすか? 持ち帰って書いたりとかは?」

 

「それも忘れているのか? あれなら病院にいた時のお前が死にそうになりながら書いていた。何でも今出来ることを後回しにするのは一番面倒だと」

 

「うーわっ、超優秀じゃないですか俺」

 

「左手で書いたせいでやり直しと柳は言っていたが」

 

「うーわ……超最低だ俺……」

 

「安心しろ、冗談だ。字自体は読めるからと柳が同じ内容の物を新たに書き直していた」

 

 

 柳副課長マジ最高。

 本当にあの人に足向けて寝らんないわ俺。

 つーか来てくれてる雅課長にも、助けてくれたマサマサと蒼角ちゃんにも足向ける事は出来ないか。

 

 

 なんか全員に生かされてるって感じがして、俺なんかが申し訳なくなる。

 

 

「む……愛斗、今俺なんかが。と思ったか?」

 

「……雅課長は遂に人の心まで読めるようになったんすか?」

 

「相手はお前に限るがな」

 

「いやいらないでしょ。そんな超局所的な読心術」

 

「超局所的でも私にとっては超広範囲な読心よりも遥かに有用だ」

 

「そう、なんですか」

 

 

 確かに誰の心も自由に読めたら、それはそれで面倒かもしれない。

 よそはよそのまま、下手に関わったら最後まで責任を持たなきゃいけなくなる。

 実際、俺はそれを中途半端にやっちまったから、罰として右腕をもがれたとも言えるしな。

 

 

「……まぁ、みんなに言われたそばからやらかしましたけど、本当に大事にしますよ、自分の体。死に急ぎな生き方は嫌いだって最初にも言いましたしね」

 

「今のところ、六課で一番死に急いでいるのはお前だが」

 

「俺は対価が釣り合ってるからいいんです。ヤヌス区の時も貰えたし、今回もディニー出るんでしょ? それならオーケー。喜んで命をかけますとも」

 

 

 俺だって一ディニーも出ないならこんなに体を張りはしない。

 それに死なない前提だし、生き残る確率がゼロなら普通に逃げるし。

 ……まぁ逆に1%でも残ってるなら、今回みたくそこに賭けなくもないけど。

 

 

「俺が復帰するのはいつくらいですか? まだ頭痛は酷いけど、デスクワークくらいなら明日からでもこなせますよ?」

 

「復帰は来週からでいい、それも無理なら再来週でも。少なくとも今週は絶対に休め。課長命令だ」

 

「……でもまた書類溜まるのヤなんすけど──」

 

「課長、命令だ」

 

「……了解っす」

 

 

 可愛いデザインのエプロンが余計怖さを引き立たせる。

 オフィスに行ったら殺す。なんなら自分が死にかけのお前にトドメを刺すと言わんばかりの圧で完封させられた。

 しかもこれ自分の家で圧かけられてるからな、アットホーム過ぎて泣けてくる。

 

 

「私はそろそろ帰るが、何かあればまた連絡しろ。私でも私以外でも必ずお前のもとへと駆け付ける」

 

 

 そんな頼もしい言葉を言って玄関に向かった雅課長は、廊下の中程で唐突に足を止める。

 

 

「そういえば、明日はお前は行けるのか?」

 

「ん? 明日って何の話です? なんか行かなきゃいけないとこあります?」

 

「……いや、忘れてるならいい。忘れていなくても、お前がそう在るなら私もそう在るように努めよう」

 

「?」

 

 

 頼もしい言葉からよく分からない言葉を残して、家を去っていった雅課長。

 はて、明日には何かあっただろうか。心当たりは全然ないけど────。

 

 

「──あぁ、そういえば明日か、みんなの命日」

 

 

 十年前、零号ホロウが拡大したあの日。

 怪物と化した家族を手にかけたその日。

 多くの人間にとって最悪の記憶となったであろう日付が、ちょうど明日だった。

 

 

 それをどうでもいいから忘れたのか、それとも自己防衛から忘れようとしたのか。

 まぁどっちでもいい。どっちでも気にしてないから(、、、、、、、、)。今日の気分で自己防衛ってことにしておこう。

 

 

「思い出したとはいえ、絶対混むよなぁ慰霊碑。もう今年から行かなくてもいいか〜?」

 

 

 そもそもあの場所に俺の家族はいない。

 どこまでも虚ろな空が広がっているだけ。

 それでも足を運ぶのは、その名残りを見て何か、俺の心を揺らすものがあると期待したかったからか。

 

 

「……バカらしい。んなもん最初からなかっただろ」

 

 

 壁掛け棚に置いてある妹の遺品。

 多少綺麗にしたとはいえ、妹が見たら泣いてしまうかもしれない程にボロボロなその人形。

 それが、どう見てもさっさと捨てるべき物にしか見えない俺に、一体何があるというのか。

 

 

「……そういえば、ビデオ屋の兄妹に渡されたカードあったな。明日やってるかわかんねーけど、暇だし行ってみるか」

 

 

 ほら、やっぱり。自己防衛ってことにしといて正解。

 だってこれが素の俺なら、あまりに早い代替案に、家族に対してあの世で言い訳出来ないでしょ。

 

 

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