ホロウ災害で家族失ったけど本人がまったく気にしてないパターン


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作:いつかの
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懐かしのマイホーム。雅課長を添えて〜




ゼンゼロは今まさに履修中です。
そのためキャラ口調や作中に出てくる設定に違和感があるかもしれませんがお許しください。




 

 

 これは十四分街にふざけた共生ホロウが発生する少し前。

 もっとわかりやすく言えば、俺が知る限り一番羨ましい生き方をするビデオ屋の兄妹と知り合う少し前のこと。

 

 

 式輿の塔爆破でもう跡形もなくなったと思っていたが、仕事の合間にちまちま進めていた調査活動が功を奏して、約十年ぶりに我が家への帰宅を果たした時の小話である。

 

 

「……たく、勘弁してくれよ。せっかく人が頑張って探したってのに鍵が使えねえし。錠がイカレてんのかコレ。……仕方ねぇ、窓ぶち割ろ」

 

 

 やれやれとため息つきつつ、内心ワクワクしていたりもする窓ガラス破壊活動。

 しかし悲しいかな、俺が叩き割ろうとしていた窓は、既に解体業者エーテリアスの手によって無惨に散っていた。

 あんにゃろ、俺の楽しみを奪いやがって。どれがあんにゃろかわかんないけど。

 

 

「てか、わざわざ着いてこなくても良かったんすよ? 雅課長。ニネヴェの奴もしばらくは静かにしてそうだし。ホロウから早く脱出する修行はしないんですか?」

 

「今日は部下の寄り道に付き添う修行だ……無論冗談だが。お前を六課に誘った時に話したな。私も家族をこの手で介錯したことがあると」

 

「ええ、聞きましたよ。だから俺も雅課長の誘いに乗ったんだ。俺とあなたは同じだったから」

 

「無論、同じだからと言って、私以上に失っているお前の負担を背負えるとも、まして軽くしてやれるとも思っていないが、それでも愛斗(まなと)。お前には我ら対ホロウ六課がいることを忘れるな」

 

「はぁ……まぁ、ありがとうございます?」

 

 

 我ながら正しいのか分からない返答。

 雅課長の言ってることは微妙に的を外している。

 いや、この場合外れているのは俺の方か? 

 

 

 俺と雅課長が同じってのは、実際にやった行為に限った話であって、その行為の〝重さ〟については全く考慮してない。

 言うまでもない事だが、重いのは向こう。そもそも重さがないのが俺。一応確認大事。

 

 

「そんじゃ、十年ぶりに、ただいま〜」

 

「邪魔をする」

 

 

 一階の窓からリビングに侵入。割れた窓から部屋に飛び込む動きは誰がどう見てもホロウレイダーのそれだが、同じ動作でついてきた雅課長のおかげで、その犯罪行為にも第六課の活動という多少の説得力が生まれる。

 

 

 げ、俺のお気に入りスポットだったソファ虫食いでボロボロだし、ついでに目に入る真っ二つに割れたダイニングテーブル。あれは多分親父が叩き割ったやつ。

 あれ? それともお袋だったっけ。まぁどっちでもいいか。

 

 

 生活感通り越して世紀末感しか感じないリビングを抜けて二階へと行く。

 もう少し望郷というか感動というか、そういうキラキラしたものが俺の心にもあるんじゃないかと密かに期待していたのだが、今のところそういったノスタルジー的要素は全然皆無。

 

 

「それで、お前の部屋はどこだ?」

 

「階段上がってすぐの所ですよ。ほら、ここです」

 

 

 俺の部屋──今はただの殺害現場でしかない──の扉を開ける。

 目に飛び込んでくるのは懐かしい風景。

 もちろん、その懐かしさを引き出すのは家族と暮らしてた頃の古い記憶じゃなくて、家族が全員死んだ時の新しい方の記憶。

 

 

「……お? これもしかして俺の血の跡じゃね? ほら、見てくださいよ雅課長。これとか多分俺が右腕を妹に引き千切られた時のやつっすね」

 

 

 人生最後の兄妹喧嘩。

 床に染み込んだ俺の血が示す勝敗は、良くてギリギリの判定負けと言ったところ。全く、我ながらカッコつかねぇよなぁ。

 

 

 

 ♢

 

 

 

 対ホロウ特別行動部第六課。

 それは新エリー都を管轄する公的組織『H.A.N.D.』に属する部隊であり、その名の通り対ホロウ、そして対エーテリアスに関するエキスパートが集まる部署である。

 

 

「ナギねぇナギねぇ! ハルマサがまたお昼寝してる! 蒼角も一緒にお昼寝していい?」

 

「この報告書を全て書き終えたらいいですよ。それから浅羽隊員。そうやっていつまでも寝ているようでしたら、あなたがこれから申請する病欠届の融通を全て取り止めますよ?」

 

「ちょっ!? や、やだなァ副課長。僕がちょっと船を漕いでたくらいで、そんなピリピリしないでくださいよ〜……」

 

 

 未だ幼くも確かな実力を持つ青肌の隊員、蒼角と、サボり魔ながらも非凡な才能を持つ美青年の隊員、浅羽悠真。

 それら曲者の面倒を見ながらも、自分が作業する手は止めない勤勉な隊員が、副課長の月城柳。

 

 

「柳。この報告書は本当に皆同じ量を書くのだな?」

 

「? えぇ、その筈ですが、何か気になることでもありましたか?」

 

「皆が書き始めてから未だ十分も経過していない筈だが、愛斗がもうペンを置いている」

 

 

 そして、対ホロウ六課の課長である星見雅が示す方向には確かに、机にペンを置き、自分の書いた書類の確認をしている隊員がいた。

 

 

篠崎(しのざき)隊員。もう全て書き終えたのですか?」

 

「えぇ、マサマサが寝始める頃にはとっくに。なんか今日は異様に義手(こいつ)の調子がよくて、スラスラ書けちゃいましたよ」

 

「いいな〜! ねぇねぇマナト、わたしのも書いてよ〜!」

 

「僕のもお願い出来る? 今度美味しいご飯奢るからさ。頼むよ〜」

 

「愛斗。私の報告書も頼む」

 

「……篠崎隊員。わかっているとは思いますが」

 

「言われなくても手伝わないっすよ。面倒くさいし、俺この後普通に用事あるし。俺もともと非番でこれ書く為だけに来たようなもんなんで、今日はもうあがっちゃっていいっすよね?」

 

「構いませんよ。お疲れ様でした。篠崎隊員」

 

 

 柳に軽く頭を下げて、そこからは振り返ることもせずにオフィスを後にする篠崎愛斗。

 徐々に小さくなっていくその背中を、何とも言えない眼差しで見つめるのは、柳を除いた第六課の面々。

 

 

「ホントつれないなぁ。用事用事って毎回言ってるけど、愛斗は居残りが嫌なだけなんじゃないです?」

 

「あなたと違って与えられた仕事をキチンとこなしている彼が居残る理由はもともとありませんよ。……まぁ彼が仕事にあまり意欲を持っていないというのも事実ですが……」

 

 

 柳は誰もいなくなった廊下に目を向ける。

 このオフィスに残る者達は、曲者ながらも法と秩序を守る為、そして己の信条に則った正義の為なら、命を賭けることも辞さない者達。

 

 

 そして、そんな六課の在り方を『死に急ぎ』だと真正面から否定した男が、既にこのオフィスから立ち去った篠崎愛斗だった。

 

 

「柳の言う通り、愛斗は六課に向いていないかもしれない。だがそれでも私には、愛斗を手放す訳にはいかない理由がある」

 

「──雅、それは……」

 

 

 言葉を続けようとして、しかし彼女の顔を見て黙り込む柳。

 二人の会話を聞く悠真もいつになく真剣な顔をしており、蒼角もこの場に漂う異様な空気を感じ取ったのか、その表情には微かな緊張を滲ませていた。

 

 

「…………」

 

 

 しかし、雅はそれを言葉にしなかった。

 それは、当代最年少の虚狩りにして、対ホロウ特別行動部第六課課長を務める星見雅が、口にすべき言葉ではないという判断からだった。

 

 

 〝愛斗は私と同じだから〟

 

 〝愛斗もあの感触を知っているから〟

 

 〝愛斗とならこの痛みを分かち合えるから〟

 

 

 どこまでも後ろ向きの希望。或いは前向きな執着。

 故にそれは、英雄たる虚狩りの言葉に相応しくない。

 雅が飲み込んだのは、あの日母親を自らの手で介錯した(殺した)。年端もいかぬ少女の言葉なのだった。

 

 

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