人違いだと思う、いやマジで


メニュー

お気に入り

しおり
作:平々凡々侍
▼ページ最下部へ


1/4 

プロローグ



ご無沙汰しております。平々凡々侍です。
リハビリにまた書き始めたいと思います。
よろしくお願いします。


 

 ホロウと隣り合わせの奇跡の都市。新エリー都。

 

 そこが自分が今生きている場所の名だった。

 

「ふぃー……」

 

 いつだって騒がしく混沌としたこの都市で俺はしがない配達員として今日も今日とて汗水垂らして仕事に励んでいた。

 

 ……ん?何だか自分を「しがない」と言って卑下しちゃうとこんな俺を信じて雇用してくれてる会社の皆皆様に失礼な気がするな……やっぱ今のなし。自分はここで普通の配達員をやっている者だ。

 

 会社の名前は天馬エクスプレスって言って、この新エリー都に数ある配送会社の中でも結構な大手だったりする。……まぁ俺はただのアルバイトなんだけども。アルバイトなりに責任持って働いてるつもりだ。

 

(とりあえず午前中に入ってる仕事はこれで終わりっと。あー、お昼ご飯どうしよっかな〜……)

 

 午前中最後の仕事、ルミナスクエアにあるとあるラーメン屋への食材配達を終えた俺は昼食のことを考えながら社用車を駐めてある駐車場に向かって歩き出す。

 

(いつも通りコンビニでおにぎりか弁当でも買って済ませようか、いやすぐ近くにハンバーガー屋あるしそこで食べていこうか、いやいや何なら今さっきいった配達先のラーメン屋に行けば……流石にそれは気まずいか?)

 

 が、あれこれ考え出した結果その場で立ち止まった俺は腕を組んでしっかり考えることにした。

 

(ラーメンは食べたいけど今から戻るの気まずいから無し。じゃあハンバーガーかコンビニ飯……どうするかなぁー、ぶっちゃけどっちでもいいなぁ……)

 

 我ながらくだらないことで悩む(たち)である。でもこういうことで悩んでる時間もまた幸せって感じがして嫌いじゃなかったりするんだよね。

 

(よし!フィッシュバーガーのセットにしよっと!)

 

 今日の昼食を決めた俺は内心ルンルン気分でハンバーガー屋へと向かって歩き始めた、

 

待て

 

 ーーそんな時だ。そんな声が後ろからして。

 自分にかけられた言葉なのかもわからないままにその凛とした女性らしき声に俺は足を止めた。止めてすぐにまた声がした。

 

「ーーそこの金髪(・・)()シリオン(・・・・)

 

「ーーお前に言っている」

 

「ーーゆっくり、こちらに振り返ってほしい」

 

 金髪の狐のシリオンと自分の特徴を言われて俺は思わずため息をついた。どうやら相手は確かに俺を呼び止めているらしい。何だろ、俺なんかまずいことしちゃったか? ポイ捨て……はしてないな。信号無視……もしてないな。

 

(俺なんで声掛けられたんだろ、怖いなぁ……)

 

 何も悪いことはしてない筈だが無性に悪いことをした気になった俺は恐る恐る振り返った。

 

(うわ、顔良っ……!?)

 

 そこに居たのは刀剣を持ち、浅葱色の羽織を着た、黒髪の狐のシリオン。今時珍しい大和撫子然とした彼女はハッキリ言って美人だった。見惚れながらびっくりした。だが俺的には全く知らない顔だった。顔の良い美人に声を掛けられたという事実は俺にちょっとした喜びを感じさせたが知り合いでもないであろう他人(しかも刀を持っている)に声を掛けられたという事実はそんな喜び以上の恐れを俺に抱かせた。

 

 そんな俺の内心を知ってか知らずか、振り返って見た彼女の澄んだ表情、

 

「ーー!?」

 

 ーーその変化は劇的だった。俺の顔を見たかと思えば目を見開いて驚き、こちらにゆっくりと歩み寄ってきて、俺はぎょっとして固まってしまう。

 

「ーーお前は………何故、お前が……生きて、いたのか……?」

 

 かと思えば震えた声で言葉を発し、見るからに歓喜した様子で震えた両の手をこちらの頬に伸ばしてきた。

 

「ーーあぁ、生きていて、くれたのか………!」

 

 そうして気付けば両手で頬を挟まれた俺はただただ混乱して、まるで死人を目の当たりにしたかのような彼女の反応に……遂に静かに涙まで流す瞳と目が合ってーーゾッとした。

 

「っ……!」

 

 何かとんでもない人違いをされていると確信した俺は頬にそっと触れられた手から逃れようと思わず飛び退いて。そんな俺の動きに彼女は僅かに驚いてから、

 

「ーーどうした? 何故逃げる? ……あぁ、そうか、驚かせてしまったか。だが許してくれ。私もまさかこうして再びお前と会えるとは夢にもーー」

「ちょ、ちょっっっと待った!!」

 

 言葉を続けようとしたのを俺は声を上げて遮った。名も知らぬ彼女には申し訳ないがこれ以上人違いでぬか喜びさせるのは俺としては気まずい以外の何者でもなく。涙まで流すところを見るに彼女はどうやら俺を生き別れた家族か友人かとでも人違いしているに違いない。

 

「すっごい感動してるところ申し訳ないんですけど……多分人違いしてらっしゃると思いますよ? マジで」

「……人違い……?」

「ですです! まぁ、そういう訳なんで……あの、そのー……えっと」

 

 目を泳がせながらゆっくり後退ることで距離をとった俺は気の利いた言葉を脳内で探し回った果てに。

 

「ーー否。その顔。その声。その髪。その目。………見間違える筈がない。お前はーー」

 

 また音も無くずいっとこちらに一歩近付いて来た彼女ーーその瞳を再び間近で見た俺は、

 

 

 

ご、ごめんなさああああーいっっ!!

 

 どうしようもなく怖くなって素早く一礼だけしてその場から逃げ出した。

 

 一度として振り返ることなどせずに。ひたすらに。全力で。

 

 その後、彼女が俺を追ってくることはなかった。

 

 

 

 

 そうして、謎の人違いの一件から小一時間後、ルミナスクエアからの帰りの車内でふと思った。

 

(あ、フィッシュバーガー買い忘れた)

 

 これは何故か不思議と誰かと人違いされる配達員の話だ。

 





キャラ紹介
・オリ主
天馬エクスプレスに勤めるしがない普通の配達員。
アルバイト。名前はまだない。
外見は金髪の狐のシリオンだがここ新エリー都に於いては別段珍しくはない。


最後まで読んでいただきありがとうございました。
1/4 



メニュー

お気に入り

しおり

▲ページ最上部へ
Xで読了報告
この作品に感想を書く
この作品を評価する