インデックスをヒロインとするオリ主転生系とある魔術の二次創作


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作:網浜
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10.とある高校のティーチャーズ


 わざわざ上条当麻を探し回らずとも、彼が帰ってくるのを待てばよい。これは裏返すと、探し当てることが出来たのならば、わざわざ帰ってくるまで待つ必要もない、ということになる。

 今はまさに、その状況である。

 俺とインデックスは速やかに『とある高校』に接近し、まずはその校名を確認した。校門に掲げられた表札に記されたその名に、なるほど、上条当麻が通う高校とはこのような名前であったかと感慨に浸る。

 無論、この校名は原作未登場であるが故ここでも記述はしない。今後も『とある高校』と表記されることとなる。悪しからず。

 ちなみにこの高校は書類上、俺が在籍している学校でもある。故に上条当麻と同じ学生寮に暮らしているわけだ。しかし『書類上』と記した通り、所詮は不正な手段で得た形式的な身分である。実際の俺は高校などには通っていないニート存在であり、学校的には諸事情により休学中ということになっているらしい。病気かなんかでちょっと休んでます、みたいな。詳細は知らない。

 書類上であれ所属してんなら名前や場所ぐらい把握しておきたまえよ、という意見につきましては真摯に受け止め、今後の活動改善に活かしてまいります。

「ほんとにここに、そのかみじょうとうまって人がいるの?」

「いる。間違いなくいる」

 疑わしげなインデックスに、俺は自身たっぷりに答えた。だって見てくださいよこの校舎。俺が前世でも慣れ親しんだ、どこにでもある、THE日本の校舎である。あまりにも普通。普通ではないこの学園都市に相応しくないことこの上ない。

 そしてその特徴こそ、上条当麻の通う『とある高校』が有する個性なのだ。

「ふうん。じゃあ、どうするの。忍びこんで、かみじょうとうまって人に会いに行く?」

「いや、忍ぶ必要はない」

「そうなの?」

「ここの警備はザルだ。というか何にも警戒してないし備えてもいない。どのくらいかというと、腹を空かせたシスターが飯を求めてゾンビみたいに徘徊しても誰も咎めないレベル」

「そんな可哀想なシスターがいたの?」

「故に忍ぶ必要はまるでない。正々堂々、正面突破あるのみ」

 前世では諸々の事件や世相を経て学校への部外者の侵入に対する警戒心も高まっていたものだが、こと『とある高校』に於いてはそうではない。少なくとも原作六巻辺り、インデックスと風斬氷華の出会いのシーンなどを思い返すかぎりそうだったはず。おおらかなる時代の名残であろうか。

 故に、俺たちは迷いなくその学舎に足を踏み入れた。

 上条当麻と出会ってからどうするかとか、詳細は特に考えていない。だがなんとかなるだろう。なにしろ主人公様との出会いであるからして、会ってさえしまえば後は勝手にドラマが展開されていくはず。強く当たって、あとは流れで。

 いざ行かん、上条当麻の御許へと。

 

 

「おめーら、どこのどいつじゃんよ。白昼堂々不法侵入とは、なかなか根性座ってんじゃん?」

 マッハで見咎められ、確保されたる俺たちであった。

 昼なお薄暗き夏休みの廊下にて正座で縮こまる俺、及びインデックスがそこにいた。生粋のジャパニーズたる俺はまだいいが、生粋のロンドンっ子たる彼女には少々酷な姿勢であろう。だが、逃れること能わず。

 その原因は、俺たちの眼前に屹立していた。緑色のジャージ、後ろで束ねた長い黒髪、大人の色香漂う美女。そして、野暮ったいジャージでも隠せぬ、圧倒的迫力を醸しだす胸部。

 とある高校体育教師にしてアンチスキル、後に一方通行の保護者にもなる、黄泉川愛穂がそこにいた。

「ぎ、ぎょうや、話が違うかも! 警備はザルだったんじゃなかったの!?」

「おおおおおおちつけままままだあわわわわ」

「あ? 今度は堂々と私語か? これはこれは、アンチスキルも随分となめられたもんじゃんよ」

 右拳を左掌にぱしぱしと当てながら、にやりと笑ってみせる黄泉川愛穂。その異様な迫力に、俺如き三下は瞬時に震え上がらざるを得ない。

「インデックスさん! はやくあやまっテ! アンチスキルはメンツが命なのでなめた相手をけっして許さず苛烈なケジメを要求することで有名」

「Japanese YAKUZAなの!?」

「ほーん、今度は当人目の前にデマゴギーかますたぁね。上等じゃん。ご希望通りケジメつけてやろうか?」

「そんな……こんな小さい子の小指を……詰めるとでもいうのだろうか!?」

「なんで私?」

「エンコは流石に詰めねーじゃん。いいからとにかくその口を閉じろ。そして吐け。おめーらはどこのどいつで、何が目的でこの学校に忍び込んだ?」

 口を閉じたら何も吐けませんや、という言葉を飲み込んだのは、黄泉川愛穂の目が切り替わったように見えたからだ。冗談はここまでじゃん、その目はそう語っているように思えた。

 いわばプロの目つきというやつだろうか。彼女はプロの教師、そしてアンチスキルである。いや、アンチスキルはボランティアなのだからプロではないか。まあ、でも敢えてね、その意識の高さの一つの表現としてね。

 アンチスキルのお仕事(ボランティアだが)は、学園都市内の治安維持。調子に乗った能力者の不良や拗らせた無能力者の不良を優しく導き、時にしばき倒す。例えば学内に颯爽と現れし不審者たる俺のような不良など、まさに恰好の獲物――あれ、ここは学内だから本来は風紀委員の範疇か? 越権か? 住み分けどうなってるんだ? 夏休み中だからいいのか?

 まあ、いずれにせよ、アンチスキル以前に学校教師である以上はカチ合った不審者を放っておくことなどあり得ぬだろう。このままでは導かれてしまう。最悪、しばかれてしまう。彼女は決して子供に武器を向けないが、防具でどつき回す等の暴力は平気で振るう。

「いや、違くてですね」

 言い訳をせねばと、閉じろと言われた口をとりあえず開く。否定から言葉を始めるのは悪手だとはわかっているが、しかし口をついて出たので仕方ない。言い訳なんてそんなものだろう。

「全然そうではなくて。そう、全く異なるわけですよ、微塵も!!」

「なにが」

 俺の渾身の弁明を一言で切って捨てる黄泉川愛穂。それはそうだろう。そもそも弁明などと表現すべきではない、稚拙以下の否定語の羅列に過ぎなかった。

 困った俺は横目でインデックスを見やる。彼女は足の痺れと闘っていた。その聡明な頭脳は今は当てにできないようだ。というか、こんな魔術もへったくれもない場面、俺が切り抜けるべきところであろう。己の弱さ、情けなさを自覚し、自省する。反省したのでよし。

 その反省によってか、多少冷静な思考が戻ってきた気がする。そもそも俺は、言い訳などする必要もない立場ではなかったろうか。

「あっ、いや、俺、この学校の生徒なんですけども」

「そうなの?」

 俺の言葉に、隣のインデックスが首を傾げる。そういうリアクションは怪しまれるのでやめて欲しい。君は足に集中していたまえ。

 そして、首を傾げるのは黄泉川愛穂も同じであった。

「いや、お前の顔なんて見た覚えないじゃん」

「ふ、不登校なんですぅ! いや、休学中? 病気で? とにかく、そんな感じなんですぅ!」

「んんー? そんなやつ……」

 いねえじゃん、と言おうとしたのだろう彼女の言葉が、僅かな時間ながらも途切れる。そして、やや思慮深げな面持ちで「いや」と続けた。

「よそのクラスにはそんなのもいたか? じゃあ、なんで休学中の奴が学校に来てんじゃんよ」

「……病気? が治ったので」

「ふうん。それが本当ならめでたい事じゃん」

「ですよね!」

 めでたい、などと言いながらもその顔からは疑念が拭われていない。黄泉川愛穂は、俺の隣で尻の位置を微動させ痺れと格闘しているインデックスに視線を移し、問う。

「じゃあ、隣の尼さんは?」

「私?」

「彼女は、休学中大変お世話になったシスターさんでして! ほら、宗教がよくやるアレ、慈善活動とか奉仕活動的なアレで! 俺も日頃から奉仕、そう、ご奉仕を受けていて! そのご縁で、今日は久々の外出に不安を覚えたもんで、ちょっと付き添ってもらっていたというか!」

 インデックスが余計なことを言う前にと早口で適当な事を捲し立てる俺を、黄泉川愛穂は胡散臭げに目を眇めて見下ろす。

「急にべらべら喋り出すじゃん」

「ていうかご奉仕って、なんだか言い方がいやらしいんだよ。sexual harassment?」

「緊張がほぐれてきたといいますか! 元来俺は随分お喋りな性質で、地元では口から先に産まれてきたんじゃあないかと」

「ま、いいじゃん。そういう事なら確かめるのは簡単じゃんよ。お前のクラスの担任に聞けばいい。お前、何年何組の出席番号何番の誰? 担任の名前は?」

 知らぬ。

 そもそも休学者にクラス割りとかあるんだろうか。いや、あるか。復学する時に備えなきゃならないだろうし。

「あっとぉ、いやあ、それはぁ……へへ」

「あん?」

 言葉に詰まり愛想笑いをかましてみるも逆効果であったようで露骨に睨まれた。

「言えないの? 自分のクラスも?」

「いや、そのう。な、なにぶん休学中の身でして、普段通ってもいないクラスなんてこれ、記憶に残り難いものがあると言いますか」

「学生証は? 休学中でも発行されてると思うけど」

「タンスの奥にぃ……しまい込んでましてそのう。やっぱ学校行ってないと持ち歩くこともないっていうか、これ休学中あるあるなんですけども」

 彼女の追求になんとか言葉を搾り出す俺。口から出まかせにしてはそれなりに説得力のある返しができたのではないか。

 そんな自画自賛はどうやらただの思い上がりではなかったらしく、黄泉川愛穂も渋面ながら頷いてくれた。

「……ま、言い訳としてのスジは通ってなくもないじゃん」

「へへ、どうも」

「じゃ、名前だけでも教えて。そっから職員室の名簿あたればはっきりすんじゃん。顔写真もあるだろうし」

「あ、はい、ええと」

 意外と言っては失礼だが話を聞く耳を持ってくれている黄泉川愛穂に、名乗ろうとしたその時であった。

「あー! そこにいるのはもしかして、影月ちゃんですか!?」

 意識外の方向、廊下の向こう側から、随分と可愛らしい声が飛び込んできた。色で表現するなら、ピンク色の声であった(共感覚)。

 俺とインデックス、そして黄泉川愛穂は一様に目を丸くし、声の方向に視線を向ける。

 そこに立っていたのは想像通りの人物。身長驚異の一三五センチ、今日日の小学六年生の方が余程発育がいいと評判の奇跡のミニマム系女教師。

 初見だが、間違いはあるまい。

 月詠小萌が、驚きの表情とともにこちらを指差していた。

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