ゼロ・トゥ・ゼロ


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作:しづごころなく
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電撃、斬撃、矢の如し。


お久しぶりです。忙しいとやっぱり筆を置かざるを得ない瞬間がありますね。
今回は「あ、ここだ」と読者の皆様が思ったタイミングでSuperflyさんの「覚醒」でも流してみてください。
https://m.youtube.com/watch?v=7u052cW1e1Y


僕が治安官を始めて1年ほどが経過した。随分と時間も経って、僕についていたはずの新人という肩書きは、気づけば「ホロウ探索のエキスパート」へと変わっていた。

 ホロウにばかり潜っていた僕も悪いが、肩書きはもうちょっとなんとかしてほしい。

 

「ツール・ド・インフェルノ?」

 

「ええ。かなり時期としても近くなって来ましたわ」

 

 郊外にて、ルーシーと僕はホロウに向かいながら会話を重ねる。

今の話題は、ツール・ド・インフェルノというレース大会だ。ツール・ドまで来たならスイス、と続くべきじゃないかなと僕は思うけれど、異世界だからなんでもありだ。

 

「フューエルの供給元である噴火口に向かってとあるボックスを先に投げ込んだ方が勝ち、というシンプルなルールですわ」

 

「それで権利関係とか決めるからそんなに真面目に話してるんだね」

 

「私はいつもこんな話し方ですわ!まるでいつも適当に喋ってるみたいに言わないでくださいまし!?」

 

 ははは、と笑いながら怒りを交わす。

 

 「で、今回の目的は?」

 

 話を切り出す。

 

 「ルートの事前確認ですの、何があるのかくらいは把握しておくべきですわ」

 

 なるほど、今日の目的は事前にルートを明瞭にして、少しでも勝てる確率を上げることか。でも、ホロウ内の状況は常に変わり続ける。ルートの確認自体はほとんど意味がない。

 

 「確かにルートを知ったところで数日後には道も変わってますわ。どちらかというと、その間にどのような障害があるかを知りたいんですの」

 

 ホロウ内の道の構造などは変わっても、そこに居を置くエーテリアスなどは変化しないことが多い。それを利用したいみたいだ。

 

 「ところでさ」

 

 「なんですの?」

 

 「運転うまくない?」

 

 「お褒めいただき光栄ですわ」

 

 「いや、本当に。全然揺れないかと思えば結構無理ある挙動してるし。流石」

 

 現在、僕はルーシーのバイクに乗せられている。心地のいい郊外の風が髪を揺らす。風切り音が僕らの声を拾っていく。そんなことを考えられる余裕もあるくらいに、ルーシーの運転は心地が良かった。

 

 ふと、手を横に広げてみた。全身に当たる風。圧倒的な爽快感。

 

 「気持ちいいー…」

 

 「そ、そろそろホロウですわよ。衝撃に備えてくださいな」

 

  指示に従い、ルーシーの腰に手を回す。

 

 「ちっ、近いですわ…!!」

 

 ルーシーが一瞬こちらを向く。顔を僅かに紅潮させているが、僕の視線はそこに置かれていなかった。視線の先にいるのは、歩廊に入り口でガトリングを乱射しているロボット。懐かしい、ビリーと一緒に戦った個体に見た目が酷似している。

 

 「ごめん、ルーシー。一旦止まってほしい」

 

 そうとだけ伝えて、僕はバイクから跳躍する。そして。

 ロボットと空中で正対。剣を空中で居合する構え。

 

 「星見家相伝、見様見真似(なんちゃって)抜刀」

 

  剣に込める侵蝕。周囲をつん裂く歪みの音。

 

 抜刀。

 

 別に、空中でジャンプみたいな格ゲーじみた真似はできない。だが、エネルギーを飛ばすくらいはできるようになったものだ。

 

 「この技、見たまま真似ただけの嘘抜刀だからなあ…まあこんなもんか」

 

 着地。剣を軽く回してから、佩く。

 

 チン、と鞘と剣がぶつかる音がなると共に、後ろから聞こえる衝撃音。振り返ってみれば、ロボットは見事に大破していた。膝は崩れ落ち、電気がショートして、火花を散らしている。

 

 「そもそも刀じゃないしな」

 

 多分雅さんなら粉々にでもしてたんじゃないだろうか。案外覇気だけで大破させてたりして。*1

 

 少し先で止まっているルーシーを見ると、口をあんぐりと開けている。珍しい表情だ。

 

 「…あなた…強くなりすぎじゃありませんの?」

 

 ルーシーと一緒に戦闘を行うのは1年ぶりだ。このくらい驚かれるのは想定済み。

 

 「頑張ったんだよね」

 

 ルーシーの視線が僕の左手の甲へ移る。

 

『362』。

 

 ははは、意外と、頑張ったでしょ。

 

 

×339

 

 「セス。どうやったらあの子は救えたと思う?」

 

 「…俺にも分かりませんよ。どうしようもないじゃないですか、発見時点でもう無くなってたんですよ。ハルさんが急に子供の位置を正確に言い出した時はびっくりしましたけど」

 

 「くそ…」

 

 ハルは、とある子供を救うために20回ほどやり直した。最初の1回目の時点で子供は発見時に死亡しており、それを見たハルは即座にリセット。あらゆる手段を用いて、発見時に生きている可能性を探った。

 

 「僕ならやれる可能性があった。それを拾ってやれなかった僕が悪い…」

 

 最速で、一人で向かってもダメ。ボンプを用いた遠隔での発見すら間に合わず。最後には車やバイクを使ったが、間に合わなかった。

 

 ハルにとって初めての、失敗だった。

 

×361

 

 「ごめん。お前は死んだほうがいいみたいだ」

 

 ハルはボロボロになった犯罪者を上から見る。もう、本部からの殺害許可は出た。言葉は出ても、引き金が引けない。

 

 「僕は諸事情でね、一番痛くない死に方を知ってるから。それで殺す」

 

 「好きにしろ。俺はどうしようもなかった。ここで殺さないと、エーテリアスになって更なる被害をもたらすだけだ」

 

 死にかけの男は、瓦礫を背に、血だらけの体を抑えながら会話を続ける。

 

 「お前は、償えるくらいに、優しいんだけどな…」

 

 「逆にあんたは優しすぎる。俺を練習台にでもするといい」

 

 男の視界に、涙ぐむハルの姿が映る。ホロウの空には似合わないくらい青い髪が、コントラストを醸す。

 

 「ごめんな…」

 

 「…はっ、俺みたいなのには似合わない、綺麗な視界だ。これが最後ってのも、悪くないなぁ…」

 

 大量虐殺犯にしては優しすぎるその男を、ハルは手にかけた。

 

 

 

 ×362

 

 ぞわ、とルーシーの背中を汗が伝う。視界に映るくすんだ瞳のハルを見て、またこの目だ、と思考する。

 

 (私がハルに関して一番知らないことですわね…)

 

 (今日で、距離を詰めて見せますわ」

 

 「距離ってなにさ」

 

 思考を邪魔するように、ハルの声が届く。

 

 「え」

 

 「聞こえてましたの!?」

 

 自分を疑うルーシー。口に出てた!?という感じである。

 

 「とりあえず、行こうか」

 

 露骨な話の逸らし方をするな、と思いながらも、ルーシーは歩みを進める。

 

 

 

 ルートの確認は、かなりスムーズに行った。そりゃあ、ホロウ内に何か不思議なものがあるなんてことのほうが珍しいし、深いところへ潜っても何体かエーテリアスがいるだけ。

 

 「問題はここだよね」

 

 ただ、一箇所だけ。奇怪な場所があった。

 

 「ですわね」

 

 六角柱の形の建物と、重厚な扉。一体何の為に、いつ造られたのかも分からない。

 

 「…旧時代の遺物かもしれませんわ」

 

 「じゃあ本当に何があるか分かんないね」

 

 躊躇する気持ちはありながらも、扉の前にあったパネルを操作して、僕らは中に侵入した。

 

 「まあ、いるか」

 

 何体かのエーテリアス。数は多いが、僕とルーシーの敵ではない。

 

 刹那。

 

 僕の視界に、地面から出てきた、機械製の手のような何かが迫る。

 

 「は」

 

 反射で避けようとするも、辛うじて間に合わず、衝撃が体に伝わる。

 

 「いっ…!!」

 

 壁にそのまま腕はスライドしていき、壁に背中が叩きつけられる。

 

 「トラップハウス…!」

 

 ルーシーが遠くでそう呟いたのも、どうにか聞き取れたくらい。僕の体は意識を平静へと戻しつつ、現在の状況を理解する。

 

 壁に叩きつけられ、身動きを取れなくされた僕。一人では荷が重い量の敵を捌き続けるルーシー。

 

 僕の、弱点を突かれたことになる。

 

 僕の弱点。それは、死に戻りを発動させなければ有利な状況に持ち込めること。即ち、「捕らえる」ことが目的の場合は、僕は自殺手段が限られるために、やり直せないことの方が多いのだ。

 

 とりあえず舌を噛もうとしてみる。…ほらね、猿轡みたいなのつけられた。あ、でもすぐ外してくれる。やろうとする度止めてくるみたいだ。

 

 今度は後ろに頭をぶつけて脳震盪を起こそうとしてみる。ふわふわの枕をセットされた。

 

 「お世話トラップじゃねえんだから」

 

 冗談を言ってみるも、そんなこと言ってられる状況ではないくらい、ルーシーはまずい状態にある。

 

 「ハル!!問題ありませんわ!!私一人でやって見せますの!」

 

 かっこいい、なんて思いながら、悔しがる。どうして僕はあれに参加できない。

 

 

 目の前に迫ったエーテリアスの腕を避けながら、ルーシーは棍棒を振る。ハルの様子を横目に、次々と薙ぎ倒していく。

 

 「ヘルバ、アルボム、ラテレム!!」

 

 従えるイノシシにも手伝ってもらいながら、頭数を減らす。

 

 消耗しながらも残り数体のところまで削り切るルーシー。ハルの脳内に希望が生まれたあたりで、施設のドアから轟音が鳴る。

 

 「!?」

 

 ルーシーがその音に驚き、振り返る。

 

 ゴォン!と、再び木霊するドアから鳴る叩くような音。

 

 一瞬の静寂を挟み、再び音が鳴る。

 

 ドアに凹みができた。

 

 「何か、まずいものが来てるみたいですわね…」

 

 衝撃はだんだん強くなる。鳴り響く轟音は空気を伝って室内を圧迫する。

 

 ドアにヒビが入る。

 

 次の瞬間。ドアはその耐久性の限界を超え、無惨にも穴が開く。人1人が入れるくらいの大きさの穴から、何者かが侵入する。

 

 中肉中背、拳銃を腰に刺し、色は全て黒に染まっている。目に光はなく闇しか見えない。

 

 しかし。

 

 しかしその姿は、ハルそのものだった。

 

 「ハル、じゃ、無いですわね…」

 

 バットを持ち直し、帽子をもう一度被るルーシー。ホロウ内で時たま見られる、ドッペルゲンガーが出現する現象。まさしくその噂に違わぬ再現度。

 

 ドッペルゲンガーのハルはルーシーを視認すると、ノーモーションで銃口をルーシーに向け、弾丸を放つ。

 

 バットで防御するルーシー。しかし、バットで防御を行ったために狭まった視界を利用してか、ハルの距離は目の前まで詰まっていた。ルーシーよりも高い打点から放たれる踵落とし。

 

 後ろに蜻蛉返りすることで間一髪避けるルーシー。しかし、ハルの指先はルーシーに向いていた。

 

 周囲のエーテル粒子が一気にドッペルゲンガー・ハルに集まる。指先に溢れる小宇宙。

 

 「ルーシー!!右!」

 

 その声に従いルーシーは右に走り抜け、どうにかハルの攻撃を避ける。しかし、自分がいた所を見れば、地面すら抉るブラックホールの跡。

 

 「冗談じゃありませんわ…!」

 

 反逆とでも言わんばかりにバットをドッペルゲンガー・ハルに向けて振るルーシー。黒い影は、まるでそれを知っていたかのように、ルーシーの手元に蹴りを入れることで振りかぶるモーションを中断させる。

 

 剣を抜くドッペルゲンガー・ハル。その勢いのままルーシーの首元まで剣を走らせる。

 

 その剣は、横から割り込んできたエーテルの塊によって中断させられる。

 

 「足からも、撃てないことは無いんだな、これって…。知らなかったよ」

 

 壁に貼り付けられたハルが呟く。ハルは自身の靴と靴下を器用に足だけで脱ぎ、足からエーテルを放ってみせた。

 

 侵蝕をモロに喰らい、ドッペルゲンガー・ハルの手元を離れて空中に放られる剣。

 

 一旦は攻撃を乗り切ったと落ち着くルーシー。しかしハルは、史上最大の危機感を覚えていた。

 

(あの偽物の僕の数字…最悪だよ本当に)

 

 ドッペルゲンガー・ハルの左手にもまた数字が刻まれている。だが。その数字は。

 

『∞』。

 

 ハルに漂う、首を絞められるような感覚。ドッペルゲンガーは真似た対象の特徴を完璧に再現しようとする。ハルの特徴といえば、やり直しによる擬似未来予知。直感的に、アレはいついかなる時も最大値の動きをしてくるであろうことを、ハルは理解していた。

 

 この状況。2対1にでもしなければルーシーが殺され、ハルはこの壁に拘束されたままドッペルゲンガーからの一方的な攻撃を喰らって死ぬであろう状況で、

 

 ハルの脳内には、郊外で見たルーシーの死体の映像が過り続けていた。パイパーと抱き合うような形で、血に塗れ、片足を欠損し、腐敗臭を漂わせ、目に光はなく、涙の跡だけが残っている映像が。

 

 込み上げる吐き気。どうにか飲み込み、ハルは決定した。

 

(ルーシーの死体は、見たくない)

 

 「ルーシー。今から『異世界から来た』くらいのあり得ない話をする。信じれる?」

 

 相変わらずこれを伝えるのはいつも怖い。それでも、それでも僕は。君の死を見届ける方が怖い。

 

 「僕は、死に戻りをしている」

 

 

 

 

 「だと思いましたわ」

 

 「はっ??」

 

  僕はつい、拍子抜けな返事をする。え、いやいや。どういうこと。「だと思った」って何!?

 

 「私、貴方の事が気になって少々調べたことがありますの。貴方、「ニネヴェ」という大型エーテリアスを初めてながらに倒してるんですのよね?」

 

 ルーシーは偽物の僕の攻撃を避けながら飄々と返事をする。

 

 「それ以外にも沢山活躍は拝見しましたわ。ですが、その左手の数字。その左手の数が増えているのは、大抵強い敵がいるところに行った時でしたわ。相関関係があったんですの」

 

 そんなデータどうやって回収したんだろう、とは聞きたいがルーシーはこの辺の話は上手くやるから多分本当に取れたんだろう。

 

 「しかも。貴方、避けるのが上手すぎるんですわ。まるで未来でも見えてるみたい、なんて私が思うくらいには、知ってないとできない避け方をしますわよね」

 

 確かに、ここら辺の話をうまく繋げようとしたら未来が見えてるくらいのことは無いといけないのかもしれない。

 

 「だから私は仮説を立てたんですの。あの数字は、貴方がループしてやり直した回数であると。まさか、そのトリガーが死だとは思ってもいませんでしたけど。推測としては七十点くらいのもんですわ」

 

 だが、その理解をしてくれているなら話は早い。今はこっちが優先だ。

 

 「じゃあ、僕の頼みは理解してくれるね。お願いだ。僕を殺

 

 「嫌ですわ。お断りしますの」

 

 遮るように、食い気味に返事をするルーシー。

 

(誰が、恋する殿方に手をかけたいんですの?)

 

 ハルがルーシーの死体を見たく無いと思ったのと同じように、ルーシーもまた、ハルを殺したいとは思っていない。

 

 「でもっ、このままだとルーシー、君は殺される!」

 

 偽物のハルの剣がまた首元に迫る。バットで叩き落とす。近くに来たイノシシを吹っ飛ばし、偽物のハルに当てる。

 

 「悔しいですがジリ貧なのは事実ですわ。でも、私知ってますの」

 

 爆発がルーシーの目の前に広がる。その爆発を居合で切った偽物のハルが中から現れる。

 

 「貴方がわざわざやり直さなくても事を解決できるくらい、かっこいい殿方だってことを、ですわ!」

 

 「青衣さんという治安官の方から聞きましたわ。あの治安官さんの言葉でやる気を取り戻してニネヴェの撃退に成功したんですのよね?」

 

 ルーシーが飛び上がる。その跳躍は偽物のハルの打点を超え、空中から踵落としを「お返し」と言わんばかりに叩きつける。

 

 右にステップすることでドッペルゲンガー・ハルは避ける。

 

 「その、うまく行った周の一個前の周回で貴方がやる気を取り戻していたら、()()はならないんですわ。いつものハルに戻った状態でニネヴェを倒してるはずですの」

 

 ルーシーの発言は的を射ていた。ハルはニネヴェ戦にて、活力を取り戻した回に、そのままニネヴェを討伐している。もしそれ以降にも死に戻っていたら、すでに精神を回復させたハルの状態で戦闘を継続しているはず。

 

 彼はあの瞬間、死に戻りにすら頼らず侵食を放ち、死に戻りに頼らずニネヴェを撃退していた。

 

 「だから。私にはもう手段は思いつけなくても、貴方はどうにかできるって知ってるんですの」

 

 「クソッタレな偽物なんか瞬殺しなさいな」

 

 

 

 

 

 

  ハルは思考する。僕の今使える手段はなんだ。この状況を打開する手法はなんだ。

 

 「侵蝕の溜まりすぎた機械は、大破するはずだよな…」

 

 自身の体に一気にエーテルを集め始める。自身を捕らえるため接着状態にある機械に侵蝕が移り始める。

 

 「蝕め」

 

 ハルの胸元に小宇宙が出現する。それは、ハル本人の体を削る。しかし、それより早く機械の体を削る。

 

 「これしかない、肉を切らせて骨を断つ…!!」

 

 ハルの皮膚が削れる。機械が変色する。ハルの皮膚に鉱石が生え始める。機械の先端から火花が飛ぶ。

 

 「痛ぇ…!間に合え…!!」

 

 機械が軋む。ハルの動きが軋む。

 

 実に1分ほどの引力の出現を経て、機械はその支えを壊し、地面に崩れる。

 

 「ゲホッ、がはっ」

 

 着地すると同時に、出血し続ける胸元を抑えるハル。顔を上げると、そこには今にも死の寸前と言わんばかりの、首を刎ねられる寸前のルーシーが映る。

 

 ズズ。

 

 脳内に過ぎ去る、首を刎ねられた後のルーシーの屍。

 

 ズズズ。

 

 彼女を手にかけようとしているのが自分であるという事実に、怒りを覚える。

 

 バチバチバチ。

 

 許せない。お前は人を助けたいんだろ。殺すな、その人を。

 

 バチバチバチバチ。

 

 やってやる。僕を信じてくれる君のために。この刹那で。僕を瞬殺する。

 

 バチッ。

 

 猶予は、0.5秒。

 

「速攻」

 

 ブラックホールが自分を吸い込める最長距離に小宇宙を放つ。急速に吸い込まれる。距離が縮まる。

 

 このサイズであれば、きっとやれるはずだ。

 

 「斬り伏せる」

 

 ブラックホールを切断する。また遠くにブラックホールを放つ。吸い込まれる。距離が縮まる。斬り伏せる。

 

 ハルの黄金色の目には、電撃が宿っていた。

 

 0.3秒程度で距離は偽物の目の前に。

 

 剣を構える。この偽物を消し去るべく。ルーシーを救うべく。

 

 斬る。

 

 ハルの放ったその一閃は、史上最速だった。下から切り上げるように偽物に刃を通す。

 

 刃に纏った侵蝕は形を変形し、電撃のような様相を保ちながら、偽物の内側を通る。

 

 電撃が偽物に走る。その電撃は内部から引火性を発揮し。

 

 爆発と共に、ドッペルゲンガー・ハルは黄色い粒子になった。

 

 「ルーシー。助けに来たよ!」

 

 ハルは、その手をルーシーへと差し伸べた。

 

 「ええ。助かりましたわ!」

 

 ルーシーはその手を強く握り、笑みを浮かべた。

 

 その表情を見たハルはつい零す。

 

 「かわいい」

 

 「へっ」

 

 「あ、ごめん。つい。本心だから許して?」

 

 何事もなかったかのように軽い謝罪を返すハル。一気にルーシーの表情が真っ赤に染まる。

 

 「そーゆー、とこですわ!!!」

*1
んな常識外なことある訳……ないよね?




ハル君はまだまだ進化する。
完全オリジナルとなるハル君の1年間編は書くかは決めてません。いつでも書けるように種だけ置いといた感じです。成長したんやなくらいに思っておいてください。

ところで、ハルマサ君=タナトス説が出てて、謎の因縁が発生してるんですけどこれどうしたらいいんでしょう。
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