インデックスをヒロインとするオリ主転生系とある魔術の二次創作


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作:網浜
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8.茶番・イン・ザ・バス


 ヘイ、ステイル! アンド、ネーチン!

 怖がらずに落ち着いて聞いておくれよ、実はインデックスさんの記憶は消す必要なんてないんだ。だって考えてごらんよ。完全記憶能力なんてその辺に生えてる草花くらいに世界にありふれてるのに、誰も頭がパーンなんてしてないだろう? まさか彼らがみんな一年おきに記憶消してるなんて、そんなわけもないよね。ていうか記憶消すってなに? どうやって? こわすぎん? こんな事にも気が付かないなんてキミたち、プライマリースクールからやり直した方がいいんじゃない? あ、もしかしてそれすら行ってない? キミたちんトコの宗教ってそういうアレ? てか幼卒? HAHAHA! 保卒か? HAHAHAHA! マジウケるんですけど! HAHA! HAHAHA! ハはうわなにするやめ

 

 俺は脳内魔術師説得シミュレーションを打ち切った。

 問題点は多い。完全記憶力はそんなにありふれてないし、人の学歴をあげつらって笑うのは良くない。宗教を馬鹿にするなどもってのほかだ。

 これでは聞く耳を持つ持たない以前の問題だ。致命的にコミュニケーション能力が足りていない。

 まあ、こんな極端な事にはならないにしても、今のところ上手く襲撃者たちを宥めすかす言葉を考えつけずにいる俺である。どうあっても相手をキレさせるか、無視される未来しか見えない。

 そうである以上、やはりひとまずは逃げの一手を選択するほかない。

 

 そんなこんなで俺たちは今、バスに揺られている。

 学園都市を巡回する路線バスで、中途半端な時間帯の割には乗客が多い。夏休み期間故であろう。残念な事に学園都市と聞いて期待される未来科学的な自律バスではなく、運転手付きの至って普通のワンマン中型バスであった。

 このバスに乗ってひとまず時間を稼ごう案は俺の発案だ。詳細は伝えていないが、基本的に人目があるし運行ルートが決まっているので人払いの影響も受けにくいだろうという思いから提案した。いつまでもは無理だろうが、ほんの少し、彼女の話を聞く程度の時間ならきっと稼げるはずだ。そうあれ。

 そんなバスの最後部席の端に陣取って、俺たちはひそひそ話をしていた。

 話の内容は、先程インデックスが口にしていた『まだ話していないこと』である。

 十字教分裂の歴史、尖りゆく各宗派、彼女の所属するイギリス清教、特殊部署『必要悪の教会』。

 そしてその最たる存在、彼女の頭の中にある一〇万三〇〇〇冊の魔道書について。

「私の持ってる一〇万三〇〇〇冊を全て使うことができれば、この世の全てを捻じ曲げることができる。それはつまり、ひとつの例外もなく、本当の意味でなんでもできるっていうこと」

 なんでもない調子で語られる言葉は、しかし彼女にとってはただならぬ意味を持つはずだ。おのれの抱える事情を、こうして俺を相手に吐き出すその行為。そこに何らかの信頼を感じてしまうのは自惚れがすぎるのだろう。あるいは、真実を突きつけ突き放すための行為かも知れない。

 彼女の意図を考えながら、俺は慎重に返す言葉を選ぶ。

「つまりインデックスさんは、言うなればヒューマン・もしもボックスであると」

「なにそれ?」

 首を傾げるインデックス。言葉を選んだ挙句出た台詞がこれだ。俺は俺のコミュニケーション能力を、未だ高く見積もりすぎているようだ。

 幸い彼女は深く考えなかったようで、何事もなかったように話を続ける。

「私たちはそういう存在を『魔神』と呼んでるんだけど」

「なんでも叶えるランプのアレ?」

「アラブ世界でいうところのジンってやつかな。確かに日本では魔人や魔神と訳されているね。魔人、魔神、魔ジン……なんか面白いね。ちなみに、大本は西アジアの伝承なんだけど、その原典は明らかになっていないんだよ」

「博覧強記すなあ」

「まあ、実際ランプの魔神くらいの滅茶苦茶が簡単に出来ちゃうのが『魔神』なわけだから、ぎょうやのイメージも間違いではないかも」

「そんな魔法のランプを持っているのが、インデックスさんなのね。いや、むしろランプがインデックスさんでジンが魔道書か」

「それも回数制限なしのね。私が狙われる理由、わかってくれた?」

「理解理解。そんな代物があれば、そりゃあ女の子の一人二人、屋上から撃ち落とそうとする奴もいるだろうなあ」

 俺の言葉にインデックスはうんと頷いて、口を噤んだ。

 何故彼女が最初にこの話をしなかったのか。原作では『嫌われたくなかったから』が大きかったのだろうが、何しろ相手が大きく違っているため準用すべきかは微妙だ。やはりここは原作云々ではなく、一人の人間としてその心情を慮るべき場面であろう。

 慮った結果、俺如きには到底わからんであろう事がわかったので、ひとまず話を進めることとする。

「何にしてもとりあえず、ナントカ教会やね」

「イギリス清教?」

「それそれ。敵がどこの組の刺客であれ、そのイギリス性教? とやらに保護してもらえればこっちのもん」

 実際のところ、追っ手の二人はまさにそのイギリス清教・必要悪の教会の者なわけだが、現時点のインデックスが知る由もない。

「私もそう思って、これまでいろんな教会に逃げ込んできたんだけど……」

「宗派違いで門前払い? 神に支えてる割には、心は冷たいもんだ」

「仕方ないよ。それが派閥ってものだから」

「ま、エゲレス式の教会なんて俺も聞いた事ないし、インデックスさんがハズレを引き続けたのもやむなし。しかしここにきて、状況は大きく変わったと言えよう」

「おお? なんか知らないけどすごい自信を感じるんだよ」

「いいかね、インデックスさん。ここにありますは、文明の利器たるスマート・フォーン」

「smart phone……!!」

 俺が取り出したるスマホに、素晴らしい発音と共に目を輝かせて身を乗り出すインデックス。

 その反応に満足しつつ俺は優雅なるスワイプ捌きを披露する。かつて不正に入手した不正なる我が愛機に、学園都市謹製地図アプリが表示された。

 

 

 物語の途中だが、ここでひとつご説明したい事がある。この世界における年代、あるいは文明の発達具合――端的に言ってしまえば、スマホ事情についてである。

 外部より二、三十年は進んでいると言われる学園都市であるが、原作において、少なくとも第一巻時点ではスマートフォンなる機器はまだ作中存在していなかったと思われる。執筆された当時に現実世界に存在していなかったのだから、当然だろう。

 その後、時を経て発売された新約とか創約では普通に出てたような気がするので、その辺は突っ込むだけ野暮なところかもしれない。長いシリーズだからね。(あるいは、俺が知らないだけで深い設定があるのかも知れない)

 それを踏まえて、この世界ではどうなのか。まあ今し方俺がドヤ顔で取り出したわけなので、答えは既に出ているのだが、スマートフォンはある。あるし、普及している。アンチIOTな学園都市内ではスマホよりガラケーの方が逆にトレンド、なんてこともない。

 もちろん、一口にスマホなんて言っても学園都市内で流通するそれはやはり外のものとは一味違うわけだが。

 これが何を意味するのかは、俺にもわからない。わからないが、長々話した挙句にとにかく俺が言いたいのはこれである。

 作中、今後もスマホとかが出てくることがあるかと思います。主にアニメなどの描写と矛盾するかと思いますが、ご了承ください。

 

 

 時は再び動き出し、場面はスマホに首ったけの二人に戻る。

 俺はなんか知らんが凄そうな物を見る目のインデックスに気をよくし、大いに画面をスワイプし、タップし、ピンチした。カラフルに動き出す最新鋭のマップアプリ。AI技術とかも導入された優秀なる検索機能、その果てに俺たちは――

「検索結果! ゼロ件! この国にイギリス清教の施設はありませえん!」

「そう……」

 答えを得た。ありがとう、学園都市謹製マップアプリ。ありがとう、学園都市謹製AI。なんかろくでもない機能が仕込まれてそうで最高に素敵な響きだね学園都市謹製。

「存外にマイナーなんすね、おたくの会派」

「そ、そんなことないもん! ここ、外国だから! ホームのイギリスならそりゃもう凄いんだから!」

「お客様、車内ではお静かに。ここは公共交通機関内ぞ?」

「ぐぬぬ、腹立つんだよ……!!」

 インデックスは歯を食いしばり悔しがりながら、俺とスマホ画面を交互に睨みつける。

「しかし、国内に無いとなると困ってしまうね。逃げ場なしってやつ?」

「イ、イギリスならもっと……」

「国外かー。旅券持ってないんだよなあ。インデックスさんも持ってないよね。不法滞在者だし」

「決めつけないで欲しいかも! ……持ってないけど」

「なら密航か。密航なんてどうすればできるんだろう。インデックスさん、密航者とかブローカーとかに伝手ない?」

「ないよ!」

「でも日本へは密航してきたんでしょ?」

「それは……もしかしたらそうなのかもしれないけど、覚えてないんだよ」

「覚えてない」

 彼女の言葉に、そう言えばその件についてはまだ話を聞いてなかったなと思い出す。

 彼女の抱える大きな問題、記憶喪失。

 危うくそれ前提の話とかするところだった。原作既読系二次世界転生者特有の悩み。

「私、気づいたらこの国にいたから。イギリスでのこととか、どうやってここに来たのかとかは、わからないんだよ」

「物心ついた時から日本で育った、ということ?」

 俺の原作既読系二次世界転生者特有のすっとぼけにインデックスは小首をかしげる。

「うん? ああ、いや、そういうことじゃなくてね。生まれはロンドンなんだけど」

「ロンドンっ子ってわけだ」

「うーん、どうかな。聖ジョージ大聖堂の中で育ったみたいだから、cockneyではないかも。londonerではあると思うけどね」

「あーね」

 インデックスが何を言っているのかは微塵も理解できなかったが、取り敢えずわかった感を醸し頷く。きっと本筋ではないので大丈夫だろう。

「でね、私が日本に来たのはどうもここ一年くらいのこと、らしいんだね」

「らしい?」

「うん。一年くらい前から、記憶がなくなっちゃってるからね」

「え、でもめっちゃ覚えてるじゃん。ロンドンとか魔術とか魔道書とか教会とか。言葉とかも」

「そういう知識は覚えてるの! でも、私自身の、なんて言うのかな、思い出みたいなものは、何も思い出せない。大聖堂で育ったという事実は知ってるけど、そこでどんな人と何をして過ごしたのかとか、誰と仲が良くて誰を嫌いだったのかとか、そういう事は何一つ思い出せない」

 意味記憶とエピソード記憶というやつだ。俺はとあるシリーズでその言葉を知った。あと手続き記憶とかいうのもあるらしい。俺は記憶に詳しい。

「なんか大変なんすね」

 そんな記憶博士な俺の一言に、インデックスは目を釣り上げた。

「適当な事言って! あのね、本当に怖かったんだよ。路地裏で目を覚まして、自分のこともわからなくて、でもとにかく逃げなきゃって。頭の中から出てくるのは魔術師、禁書目録、必要悪の教会、そんな知識ばかり」

「可哀想」

「言葉が軽い!」

「でも」

「デモもストもないんだよ!」

 なんとも渋い言い回しをご存知じのインデックス女史に感服しつつ、俺は言葉を続ける。

「でも、それじゃあなんで記憶をなくしたのかとかもわからんわけよね」

「ん、まあ、うん。わかんないね」

「脳を物理的にアレしたのか、はたまた精神的にアレしたのか……」

「あるいは、魔術的にアレしたのかもね」

 彼女にとってそれは何気ない一言だったのだろう。しかしみなさんご存知の通り、その言葉はまったくもって正鵠を射ていた。インデックスの記憶は魔術的に消去されている。

 無論その事実をまだ彼女は知らない。俺に合わせて放たれた、ただの軽口に過ぎない。

 故に俺は素知らぬ顔をして会話を続ける。

「魔術って、記憶を消すなんてこともできるんすか」

「さっき言ったでしょ。一〇万三〇〇〇冊があればなんでもできるんだよ。まあ、魔神じゃなくても一端の魔術師なら記憶の操作くらい……」

 言葉が途切れる。インデックスは視線を中空に彷徨わせ、少しだけ深く息を吸い、「……準備さえ整えば、わけないんだよ」と何事もなかったかのように続けた。

 俺はごく短い沈黙の意味を探る。彼女は何かに気がついたのだろうか。極めて聡い少女である、その可能性もあるだろう。しかし俺にそれを確かめる術はなく、そもそも如何なる真実も世界の裏側も知る由もない事になっているため、結局は言及する事も能わず。

「なんにしても」

 ただ俺にできることは、話を軌道修正するといった程度のことばかり。

「そんな状態のインデックスさんにイギリスに帰る術はないし、俺にもない。そうこうする間にも敵魔術師の魔の手が迫っているかもしれない。開始早々手詰まり感漂ってきたね」

「ぬぐう……」

 インデックスは俯いて唸り、そして上目で俺に視線をよこした。

「……やっぱり、やめよう。こんなどうしようもない状況に、ぎょうやを巻き込むわけには」

「まあまあ、そう言わず」

 ここぞとばかりに慈愛のヒロインムーブをかますインデックスを宥め、俺は彼女の小さな肩を軽く叩いた。役目を終えた学園都市謹製マップアプリを閉じ、スマートフォンをポケットにしまう。

 そしてなるべく彼女の顔から視線を離さぬまましっかりと頷き、言った。

「俺に考えがある」

「考え?」

「むしろ増やそう」

「え?」

「地獄への道連れ。増やそう」

「は?」

 インデックスの目が点になり、その顔が四十五度、がくんと横に傾いた。

 

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