インデックスをヒロインとするオリ主転生系とある魔術の二次創作


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作:網浜
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7.はじめての


「さっき言ってたことだけど」

 とインデックスは言った。

 馬乗りで滅多打ちにされていたあの体勢から無事解放された俺は、今はインデックスと向き合う形で床に座っている。

 今となっては少し惜しい気もしなくもない。だって女の子に馬乗りにされていたのだ。これはもう大変な経験ですよ。今後二度とないかもしれない。

「さっき、というと、地獄のお供にうってつけのくだり?」

 自身の極めて下卑た内心をおくびにも出さず、俺は言葉を返す。

「うん」

 とインデックスは頷き、

「ぎょうや、本気で言っているのかな」

 そう口にして俺に視線を向ける。探るような目であった。

「冗談で自分の首を切りつけるほど狂人じゃないつもりだけど」

「冗談でも本気でも、あれは狂気的以外の何物でもないんだよ」

「そっか。狂人だったかあ」

 まんざらではなかった。狂人。人は皆、中学二年生の頃に一度は狂人になりたがる。少なくとも俺はそうだった。そうなることで、手軽に特別な存在になれる気がしていた。いや、実のところ今でもまだそんな気がしている自分もいる。狂ってる? それ誉め言葉ね。

「本当に危険なんだよ」

 ひとり悦に入る俺に、インデックスは真剣な眼差しで告げる。

「私を追ってる連中が、この部屋ごと爆破しちゃうかも」

「むしろ、そんな時のための俺ってわけ。仮にその爆破とやらが核兵器クラスで、この学園都市そのものが消し飛んだとしても俺は死なない。もちろん、ホウオウ級とやらに守られてるインデックスさんも死なない。ついでに学園都市第一位の人も多分死なない。ていうか何だかんだで高レベルの人たちは結構死なない。シェルターとかに籠ってる闇権力者たちも死ななそう」

「死なない人多くない?」

 不審気な顔をするインデックス。確かに多い。学園都市とはそういう場所だ(偏見)。

 しかし、例えば上条当麻はどうだろうか? そんなこの場にはあまり関係のない仮定が浮かぶ。彼は核の嵐を、そしてポストアポカリプスを生き残れるだろうか。生き残れるだろう。主人公だもの。

 閑話休題、無意味な妄想を打ち切り、本筋に戻る。

「でもそういう人らはきっと危ない人達なので、必然インデックスさんが頼るべきは俺しかいないって寸法。お分かりいただけただろうか」

「なんか詐欺師みたいな論法」

 インデックスは俺をじっとりとした目で見つめ、ややあって少し笑った。かと思うと、今度は不思議そうに小首を傾げる。なんとも表情豊かな少女である。

 首を傾けたまま、彼女は問うた。

「でも、なんでそこまでしてくれるの? たまたまさっき出会っただけの人に」

「ベランダで行き倒れはだいぶ衝撃的な出会いだったと思うけど」

 そう言いながら、俺は問いへの答えを考える。

 何故彼女を助けるのか。非常に簡単なようでいて、しかし考え甲斐のある質問かもしれない。

 彼女がインデックスで、つまり『とある』シリーズのヒロインであるから、というのは当然理由の一つだろう。俺はシリーズのファンで、彼女のファンで、だから仲良くなりたいし助けたい。だがそれが全部ではない。

 そもそも困っている人を助けるのは当たり前のことだ、などと嘯くほど出来た人間ではないが、しかしそういう善意がまるで存在しないわけでもない。

 真面目に考えすぎると深みに嵌りそうなので、とりあえず頭に浮かんだ答えを口にする。

「女の子の友達が欲しくて……」

「命を掛けてまで?」

「俺には女の子の友達がいない。ていうか男の子の友達もいない。いや、むしろ知り合いといえる人がほぼいない。俺には何もない。寂しい。そんな人間であれば、当然そうするのではないかね」

「そんなものなのかな」

 姿勢はそのまま、考え込むように口を閉ざすインデックス。その心中を測ることは俺には難しい。

 その沈黙に、もしかすると迷惑だっただろうか、などと不安を覚えてしまう。

 そうであったとて、何もおかしくはなかろう。現にこれまで彼女は一人で逃げてきたわけだし、その方がよっぽど自由に動けるかもしれない。たとえ死ななかろうが俺みたいな人間の帯同は、逃げるという行為においては重荷にしかならず、かえって彼女の足を引っ張ってしまうかもしれない。

 だが、一方で彼女はまた、助けを求めてもいたはずなのだ。

 目ざとい俺はその兆候を逃さなかった。会話の初め頃、彼女は俺がニートであることを聞くと、即座にその後のスケジュールが空白であることを確認した。これは、原作にて上条当麻が補習を控えている様子から、彼の予定を邪魔してはいけないと彼女が考えたのと逆のパターンだ。こいつなんの用事もない暇人らしいぞ、じゃあちょっとぐらい手助けしてもらってもいいんじゃないか――そんな感じの想いが脳裏を過ったに違いない。

 そもそも論として、まったく望んでもいないのであれば、いわゆる「ワタジゴ」など口にすることすらないのでは。

 故に、俺は間違っていない。いや、これまで散々吐き散らかしてきた言葉の選び方は間違いにまみれていた気もするが、方向性としては間違っていないはずだ。そうであれ。

 それから少しして、何らかの決断を下したのだろう、インデックスが口を開いた。

「……そこまで言ってくれるのなら」

 彼女はその場で居住まいを正し、俺を見据えた。

「ぎょうやにはまだ、話していない事があるんだよ。それを聞いて、それでもまだ私を助けてくれるというのなら」

 インデックスは一瞬、言葉に詰まったように止まる。唾液を飲み込んでいるのが傍から見て取れた。何か緊張しているのか、先の言葉を口にするのに躊躇いがあるのか。しかしその間も所詮は一瞬で、彼女は確かな口調で言葉を続けた。

「その時は、地獄の底まで一緒に来て欲しい……かも」

「やったぜ!」

 俺はガッツポーズとともに立ち上がった。突然の奇行にインデックスの目が丸くなる。だがそれほどの喜びであったのだ。長年連れ添った彼ピから遂にプロポーズを受けたオフィースレディはこのような気持ちなのではなかろうか。ジブン寿退社キめていいっスか。

 そんな喜び舞い上がる俺に、インデックスはやや慌てたように「あ、でも!」と言葉を繋げる。

「私の話を聞いて、もし、やっぱやめようってなったとしても」

「そうはならんと思うけど」

「仮になったとしても! それでも、私とぎょうやは、もうお友達なんだよ」

 俺は喜びの舞を止め、インデックスの顔を見た。彼女は真っすぐに俺を見返していた。真摯で、優し気な視線。綺麗な緑色の目。

 そして。

「実は私も友達いないから。お互い、はじめてのお友達だね」

 そう笑顔を見せるインデックスに――俺はトゥンクした。

 

 

 その後、俺は初めてできた友達に、自分の首を包丁でぶっ刺すような真似は二度とするなと厳しく言いつけられた。

 今度したら絶交と言われた。

 それは俺の芸風的にかなり厳しいお達しであったが、しかし無二の友人の頼みである。絶交も勘弁であるし、受け入れざるを得なかった。

 

「ところで」

 今生初めての出来たお友達関係にほっこりしている俺に、インデックスが言った。

「いいかげん、そろそろここから離れないと、ホントのホントに部屋が大爆発しちゃうかも」

「えっ?」

「さっきも言ったけど、敵には私の位置が筒抜けなんだよ。一箇所にぐずぐず止まり過ぎると、襲撃待ったなしかも」

「確かに」

 彼女の言葉に、俺は原作での展開を考える。

 本来ならばインデックスはここで上条当麻と別れ、部屋を後にする。その後、彼女が部屋に置き去りにした被り物を回収するために戻ったところで、聖人神裂に襲撃されズタズタに。そして地に伏し、無慈悲なるお掃除ロボに絡まれている所を、補習より帰還した上条当麻に発見され、上条当麻は魔術師ステイルとのバトルに挑む。大体そんな流れだ。

 上条当麻と別れた後のインデックスの行動については小説内に描写がなかったため不明。もしかすると何かで描かれているのかもしれないが、とにかく俺は知らない。

 だが、上条宅の前で倒れていたところを見るに、少なくともそれまでは逃げおおせていたのだろう。歩く教会が無効化されていたのも、隠密的にはプラス要因だったのかも知れない。

 そんなインデックスが結局学生寮にて捕捉されたのは、おそらく戻る事を予測され、待ち伏せをされていたからだろう。ステイル戦でべたべたと貼り付けられていたルーン文字の量を考えると、それなりの準備時間はあったはず。

 翻って、今の状況はどうだろうか。

 インデックスは歩く教会を失っていない。つまり魔力の探知とやらはビンビンに生きている。それでいて我々は未だに一箇所に止まっている。

 今頃部屋の外ではステイルがルーン紙(非ラミネート)をぺたぺたやっていてもおかしくないし、なんなら、次の瞬間には玄関が炎で吹き飛ばされてるなんてこともあり得るのでは。

 無論そうなったとて、俺は平気だ。熱く苦しく痛々しい目にはあうだろうが、その苦痛にさほど意味はない。だが、部屋が吹き飛ぶのは困る。俺も困るし、建物管理者も困るし、多分隣の部屋の住人たる上条当麻も困るだろう。ヒト様に迷惑をかけるべきではない。

「……どうしよう?」

 俺は素直にインデックスに問うた。こと逃走に関して彼女は偉大なる先達、そのアドバイスは傾聴すべきであろう。

「だから、離れようって言ってるんだよ。ひとまずは、人の目のあるところに行こう。魔術師なら人前で大っぴらに魔術を行使するのは嫌うはず。人払いされたらそれまでだけど、時間稼ぎにはなるかも」

 そうする事になった。

 

 

 かくして自室を後にし、広大なる学園都市へと逃れたる我ら二人。(因みに、血塗れになった俺の服は当然着替えたし、歩く教会は軽く拭うだけで輝く白さに元通りであった。魔術の力ってすげー)

 逃走のプロたるインデックスの後に続きつつ、俺は今後の展開に思いを馳せる。

 端的に言って、このままではこの逃走の果てに未来はない。それは明らかだった。ただ逃げているだけでは、みなさんご存知の通り、いずれインデックスの頭に仕掛けられた時限爆弾が爆発して全てはおじゃんだ。

 我々は重大なピースを手に入れていない。言うまでもなかろう、上条当麻である。彼の『そげぶ』こと幻想殺しなくしては、インデックスに纏わる悲劇が解消されることはない。

 よって、彼を味方に引き入れることは不可避。しからば、原作から捻じ曲げられしこの世界において、いかにして彼を巻き込めばよいのだろうか。

 今現在、彼は小萌先生の補習に向かっているはずだ。部屋から出た際、一応インターホンを鳴らして確かめてはみたが、隣人は不在であった。原作と違いインデックスが降ってきていないため、朝の準備も多少なりともスムーズであったのだろう。

 彼の通う学校に向かうのも手だが、残念ながらそこの住所はおろか、学校名すらも知らぬ。学生寮に住んでるくせに知らぬ。とある高校――なんて名前ではもちろんないはずだが。

 これは俺が非正規のルートで捩じ込まれた、書類上在籍しているに過ぎぬ幽霊生徒であるが故に生じた無知である。あ、第七学区にあることは前世で調べたので知っている(インターネッツ調べ)。

 無論、それでも文明の利器を駆使すれば突き止められないこともないだろうが、しかしそこまですることもない気がする。何にせよ、上条当麻の自宅は押さえてあるのだ。俺んちの隣だ。彼の帰りを待てばいくらでも会えるというもの。

 しかしその場合、せっかく逃げているのに部屋に戻って大丈夫か、神裂&ステイルに待ち伏せされるんと違うか、という不安を抱くものもいることだろう。だが、個人的には待ち伏せられる可能性は低いと思う。原作と違い、歩く教会完全装備のインデックスがこの学生寮に戻る必然性がないからだ。少なくとも魔術師達の目からはそう見えるはず。

 以上から、学園都市内を逃げ回りつつ、折を見てインデックスを誘導して学生寮に戻り、上条当麻と接触する、というのがベストの行動ではなかろうか。

 会った後どうやって上条当麻を味方につけるのかという問題もあるが、それはどうにでもなるだろう。というか何もしなくてもなんやかんやで助けてくれるはず。彼は多分そういう人間だ。

 因みに、俺はこの世界の上条当麻との面識はない。一方的に姿を見た事がある、くらいのものだ。そこがネックではあるかも知れない。

 正直、インデックスの時以上に緊張する。

 うまく喋れないかも。

 

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