ゼロ・トゥ・ゼロ


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作:しづごころなく
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西部劇のムードって


 二話連続投稿とかしてみようと思ったんですが、思った以上に長くなったので辞めました。いつかやります。


 

 新米の治安官が零号ホロウのエーテリアスの一時退治に成功したというニュースは、民間には秘匿されたものの、ホロウ関係の人々には瞬く間に広がった。最も驚くべきは、新しく名付けられたエーテリアス「ニネヴェ」の行動パターンやエーテリアスとしての情報が、極めて詳細に集まったことだ。

 

 同伴していた機械の治安官の録画も途中から情報が残っておらず、それだけに青年の出してきた情報は細か過ぎたのだ。これによって、ニネヴェの討伐作戦は一気に加速することになる。

 

 

 

人に見つめられ続けると目を逸らしたくなるのは何故だろうか。僕らはいつだって初対面の人間とは気まずく会話せざるを得ない。

 青衣だったらこんなことは起きないのだけれど。

 

 僕が星見雅という人にさっきから見つめられ続けていることを知ってくれれば、僕の気まずさというものが少しは共有できるのかもしれない。

 

 個室。テーブルを介して向かい合っているだけ。他に人もなし。

 

 

「……」

 

「…えーっと、僕から語れることはもうなくってェ…」

 

 このままだと僕はコログ化してしまう。うんともすんとも言わない雅さん、一体どうすれば話してくれるのだろう。

耳がぴょこぴょこ動いているのを見るに、話を聞いてくれてはいるんだと思われる。もふもふしたい、という邪念が僅かに出てくるも、すぐに消し去る。

 

「…ありがとう。あなた、戦わないの?」

 

 主述だけで会話は成立しないんだよ雅さん。何を言っているのか全く分からない。

 

「対ホロウ6課は、いつでもあなたを歓迎する」

 

 スカウトじゃん。いや気付けるわけないんだよね。

 

「訓練とかには参加したくはありますが、本格的な所属はお断りします。まだ治安官になって1ヶ月なんですよね」

 

 そう断る旨を伝えると、雅さんは唐突に立ち上がり、僕らしかいなかった部屋を出ていった。出ていった先に待っていたのは、他の6課の人たち。

 

 「フラれた」

 

 開口一番に、雅さんがそう言った。ちょっと待って、それは大きな勘違いを産むことに……

 

 「そうですか、ご迷惑おかけしてすみません、ハルさん」

 

 メガネを掛けた女の人…一回じゃ名前が覚えられなかったのだけれど、柳さんだっけ。その人が僕に謝ってくる。予想した展開ではないな…?

 

 「雅さんは、多くを語らないので、勘違いが起きたかと思います。付き合ってくれてありがとうございました」

 

 「いえいえ、ご協力はさせてもらいますよ」

 

 ああ、やっぱりそういう人なんだ、と勝手に納得した。

 

 「次は逃さない」

 

 雅さんがそう言ってきたのだが、これは脅し?と疑って様子を見るも、表情に変化がない。何が言いたいいのかは分からないが、脅しではないだろう。

 

 「…次もスカウトするみたいです、付き合ってあげてくださいね」

 

 …半分くらい脅しでは??

 

 

 

 またしても病院生活となった僕は、暇すぎる生活が再び続くかと思われたが、存外にも訪れる人が多く、暇はしなかった。

 

 一番よく来てくれていたのは青衣だ。病院生活とは言っても一度侵蝕は経験しているので、歩けるようになるのは早かった。おかげで、青衣と一緒にルミナスクエアを回ったりできたわけだ。

 

 そうした生活を経て、僕は治安官に戻った。僕の功績を讃えてなのか知らないが、大きめの休みをもらえた。そこで、邪兎屋のみんなにも会いに行くことにした。

 

 

 「邪兎屋の皆さん、治安局の者です。この部屋は包囲されています。今すぐ投降してくださーい」

 

 棒読みでそんなセリフを言いながら、邪兎屋のアジトを開く。開いた瞬間見えたのは、治安官の来訪に間に合わず、いろんなところに隠れている邪兎屋のみんなだった。しかして、見ればわかる。みんな体の一部や武器が見えている。

 

 「お粗末…」

 

 正直な僕の感想を聞いて、アンビーが僕であることに気づいたらしく、ソファの下から出てくる。

 

 「ハル!」

 

 「久しぶり。映画見にきたよ」

 

 「ハルゥ!なんだお前かよ!完全に終わったかと思ったぜー!」

 

 ビリーも一緒に出てくる。…僕が治安官なのは事実なのだが、こうも気を抜くとはびっくりだ。

 

 「ここ数週間連絡がつかなかったけれど、いつの間に治安官らしくなったじゃない」

 

 僕は仕事中は治安官の制服を着ているが、今は休暇中なので制服じゃない。しかしニコがそう言うなら、それでも雰囲気が変わったというのだろう。

 

 「分かる?別に1ヶ月くらいなんだけどね」

 

 「…それで、本当に映画を見に来ただけなのかしら」

 

 アンビーが僕とニコの会話を切り、話しかけてくる。この質問はかなり核心をついている。映画は本当に見ていくつもりなのだが、それ以上に用はある。

 

 「いやね。大きめの休暇を貰ったんだけど、せっかくだから観光に近いことでもしようかなって。僕って異世界由来の人間だからさ、この世界のことまだまだ知らないんだよね」

 

 僕が異世界から来たことを知っているのは青衣に朱鳶さん、そして邪兎屋のみんな。…ついでにまだ会ったことすらない『パエトーン』。僕としてはこの悩みを躊躇なく打ち明けられる相手というのは極めて貴重なのだ。

 

 「ああ…意外と難しいことを聞くわね。そういうルーツでも持ってないと、外に興味は向かないもの」

 

 確かに。僕も日本にいたけれど、他の世界が気になるからってブラジルとかに行った事があるか、と言われたらない。

 

 「郊外!!」

 

 ビリーが声を大にして言う。

 

 「郊外は治安が悪いわ。ハルが危ない目に遭うかも」

 

 郊外。名前くらいは聞いたことがある。治安局の情報か何かで、危ないから近寄らないように、って感じの…

 

 「心配してくれて嬉しいよアンビー。でも流石にそのくらいじゃ死なない、治安官だし」

 

 僕のその言葉を聞いて、アンビーが少し頬を膨らませ、抗議の意を伝えてくる。

 

 「だからよ。あそこじゃ、治安官っていうだけで、きっと毛嫌いされる」

 

 「でも、ハルのいたところは旧エリー都に似てるんだろ?郊外は旧エリー都の跡がたくさん残ってるから、楽しいと思うぜ」

 

 それは魅力的だ。僕も郷愁の念がないわけではないので、あらゆる点でこの世界におけるレトロを味わってみたい。

 

 「…行くことにするよ。もっと治安の悪いところを体験することも、治安官として必要な経験な気がするしね」

 

 「とりあえず映画見よー」

 

 郊外とは、いかなる場所か。

 

 

 

 目の前に迫る剣。首を傾けてそれを避け、裏拳で横から剣に力を加える。このくらいじゃ折れない可能性は想定済みだ。そのまま握る。

 

 「使い物にならなくするよ」

 

 侵蝕を大気から回収し、指向性を与え剣に流す。それを察知したか、剣の持ち主はそれをすぐさま取り下げる。

 

 「お前、やるなぁ!!」

 

 雄叫びを上げながらその女性は跳んでくる。棘が多く付いた盾をこちらに向けながら。

 

 僕は咄嗟に、地面に転がる何かの液体が入っていたであろう瓶を投げる。当然割れる。重要なのは投げていると思わせることそのもの。その間に指先に軽く侵蝕を溜める。

 

 あんまりやりすぎると侵蝕症状が一気に進むので、ニネヴェを倒した時のような膨大な火力は出せない。だが、小さな宇宙を作り出すだけでも戦闘においてはかなり脅威だ。

 

 距離を詰め、軽くジャンプ。構えられた盾を踵落としで文字通り叩き落とす。

 

 空中で、指を銃の形に変える。

 

「蝕め」

 

 容赦はする。顔面ではなく道路に向かって侵蝕の弾丸を撃つ。ブラックホールが僕の着地時間を稼ぎながらも、その女性を引き込むことによってダメージを与える。

 

「はぁっ!?」

 

 その小宇宙に驚いている相手を尻目に、そいつの手首を掴み、足を払いながら手首を捻って剣を奪取する。それに反応し、奪い返そうとする女性の勢いを利用して、そのまま背負い投げる。

 

 地面に伝わる衝撃と共に、土煙が舞った。

 

「優先順位をつけるといいよ。一瞬の判断の鈍りが誰かの命を零すことに繋がる」

 

 咄嗟の判断は僕の度量だ。コツは即断即決、ついでに大胆であること。…とは言っても、一度でもミスしたら僕が負けていたので、ギリギリではあるのだが。

 

 投げ飛ばされて寝っ転がった彼女の首に剣を当てながら、僕は口を開いた。

 

「で、なんで急にホロウ内で襲ってきたわけ」

 

 不満そうな顔で彼女もまた口を開く。

 

「…強そうだったからだ!」

 

 …おい。自信ありげに言うな。いくら郊外の治安が終わっているとしても、僕としては即戦闘は想定していなかったんだけど。

 

 いくつか会話を交わすと、彼女はシーザーと名乗っていて、普段は郊外にいる人物だと言うことが分かった。こちらも名前くらいの自己紹介は返しておこう。

 

「僕はハル。観光でもしようと思って郊外に来たよ」

 

 そう伝えると、シーザーは鳩がガトリング食らったみたいな顔で言う。

 

「お前…頭がおかしいのか?」

 

 …郊外の人間からしても、郊外はとんでもない場所らしい。観光に来るやつの頭を疑わなくてはいけない世界だとは。

 

「一応聞いておくんだけど、観光地とかある?」

 

「ねぇよ」

 

 だと思った。

 

 話を聞いていくと、シーザーは「カリュドーンの子」という組織のリーダーをやっているらしい。確かに、リーダーシップはありそうだし、名前もふさわしい。異名がカエサルだったりしないかな。

 

 「それで、君がルーシー」

 

 「シーザーのアホが、ご迷惑をおかけしましたわ」

 

 お淑やかな喋り方と柄の悪い喋り方がミックスされた彼女は、ルーシー。本名はとっても長いので、覚える気もない。シーザーは、彼女の隣で縮こまったようになっている。リーダーとは。

 

 「いいよ、僕は怪我もしなかったし」

 

 「…あなた、シーザーに勝ったんですの?」

 

 前衛的なデザインの帽子を上げ下げしながら僕に聞いてくる。事の顛末を軽く語ると、ルーシーは驚いたような顔をする。

 

 「あなた、何者ですの?」

 

 ズバリ聞いてきた。この質問が怖かったんだよ。でもしょうがない。治安官とか言ったら絶対に突っぱねられるので…

 

 「秘密ってことで」

 

 「怪しすぎますわ」

 

 間髪入れずツッコミが入った。冷静だな、この子。それに頭もキレる。僕と同類だ。

 

 「多くは語れないんだけどね。今はただの観光客としてきてるよ。受け入れてくれてありがとう。優しいねぇ」

 

  善意だけで感謝を伝えると、少し顔を赤くさせながらルーシーが「べっ、別に、シーザーがご迷惑をおかけしたみたいだから対応しただけですわ」

 

 と言う。素直じゃないなあ、僕と同じで、人を見捨てられないんだろうに。

 

 「せっかくだから僕はこの辺を回っていくよ。数日くらいここに泊まるかもしれないんだけど、都合よく宿があったりする?」

 

 「ありませんわ。基本的に余所者は来ないところですもの。ですけど、ちょっとやってみますわ」

 

 「最悪なくてもいいよ。でもありがとう、丁寧な歓迎は誰だって嬉しいからね」

 

  やったね、もしかしたらマトモな寝床につけるかも。

 

 「ところで…あなたのその左手の甲の数字は、何なのかお聞きしてもよろしくて?」

 

 おや、目敏いね。僕は笑顔を浮かべながら口に人差し指を当て、『秘密』の意味を伝える。

 

 「しーっ。意外にみんな気づかないんだから。…それじゃあ行くね」

 

 僕は秘密の意だけ伝えて、この辺り、ブレイズウッドの観光をすることにした。

 

 

 「…さっきの笑顔、ズルいですわね…」

 

 隣にいるシーザーは何を言っているのか理解できていなかったようだが、ルーシーは恨むような顔をしながらも、頬はうっすらと紅潮していた。

 

 「ニトロフューエルって、石油じゃないのかな?」

 

 歩けば歩く度、僕にとって見覚えのあるものが現れる。CDプレイヤーにエンジン稼働のバイク、ピアノもあった気がする。

 

 「でも、飲料になっている時点で論外か…名前的にはニトログリセリンあたりは濃厚だけど、燃料としては危なすぎる」

 

 街の人たちは僕みたいな余所者を見せ物にすることもなく、いつも通りであろう生活をしていた。みんな色んな背景を持っているから、僕みたいなのはいてもおかしくないんだろう。

 

 「お〜い、あんた、さっきルーシーと会話してただろ〜?」

 

 呼ばれた方向にいたのは小柄で金髪な少女…にしては堂々としている気がするが。

 

 「そうだね。僕はハル。君は?」

 

 「パイパーっていうんだぜ〜、久しぶりの来客だから、もてなしてやろうと思ってな〜」

 

 ゆらゆらと、掴み所のない話し方をするパイパー。もてなすとは一体。

 

 「バイク、乗ってみるか〜?」

 

 「いいの?」

 

 これは、随分と楽しそうな話が舞い込んできた。エンジン稼働の乗り物に乗ることすら結構久しぶりだ。バイクに乗れるなら願ったり叶ったり。

 

 「見るに、多分あんたは走り屋の才能があるぜ〜。長年の勘がいってるんだ〜」

 

 長年とはどのくらいなのかは知らないが、少なくともバイクに乗っていた年数は彼女に勝つことはできないので、とりあえず聞き流す。

 

 「だから、一人で乗ってみろよ〜」

 

 

 

 えーっと、ここがエンジンで、あれ、何だこのパーツ。知らないぞ。あ、速度が書いてあるパネルか。

 

 「準備はできたか〜?」

 

 「とりあえずは」

 

 流されるままに、バイクにいつの間にか乗っていた僕は、ホロウを目の前にして立ち止まっていた。

 

 「シーザーを負かしたって話は聞いてるぜ〜、ホロウに入っても大丈夫なんだろ〜?」

 

 だからホロウに突入させようとしてるのね。まあいいんだけどさ。

 

 「じゃ、いってらっしゃ〜い」

 

 ちょっ、まだ心の準備が…

 

 「速っ!!」

 

 エンジンが稼働する音とともにバイクは一気に加速し、西部劇な雰囲気の砂舞う地を駆け始める。風を切る音が心地よく響いた。

 

 だが、そんな心地よさに数秒浸っていると、重大な問題に気づく。

 

 「ゴールどこだよ!!」

 

  今から引き返したら事故るだろうし、僕はバイクに乗るのこれで初めてなんだからな!

 

 「カーブですらギリなんだけど」

 

  体に大きくかかる遠心力に耐えながら、高速で地面を駆ける。そこで、スマホに電話が掛かってくる。

 

 『楽しんでるか〜?言い忘れたんだけど、ゴールは進んでたら着くぜい。一本道だから迷う必要もないな〜』

 

 「事前に情報は教えてほしかったかなあ!!」

 

 風を切りながら文句を言うも、パイパーは返事をしない。

 

 『…ちょっと急の要件が入ったから切るぜい、ごめんな〜』

 

 …なんであれ、僕は死ぬ気で事故らないようにしなければならない。さっきからちょこちょこ加速しないと事故を起こしそうな障害物を無理やり越えている。

 

 「…ホロウにしては安全だな」

 

 一本道だからなのか、エーテリアスが見えない。ちょっとずつ慣れてきたし、このままならゴールにも辿り着ける。

 

 電話だ。

 

 『…パイパーだぜい。ルーシーがこの辺りのホロウで、ちょっと苦戦してるらしいんだ。だから、一回ゴールからは離れるぜ。悪いんだけど、ドライブを一人で楽しんでくれ〜』

 

 …ふうん、ルーシーがねぇ。あの子が死んだら僕の宿がないんだよなあ…どうヤバいんだか知らないけど、ちょっと興味あるな。

 

 「ちなみに場所を聞いても?」

 

 『…何をする気なのか知らないけど、そんな簡単に情報は渡せないぜ〜』

 

 おや、しっかりしてるね。確かに正しい。

 

 「じゃあ、本当に不味くなったら呼んで。絶対助けに行くよ」

 

 『わかったぜい』

 

 電話が切れた。やることもないし、言われた通りドライブを楽しみますかね。

 

 

 

 その時のルーシーは、本当にただの趣味でホロウに突入していた。と言うより、ホロウに突入しないと快適なドライブが確約されないから入っていた。

 

 「あり得ませんわ、この状況でパンクなんて…!」

 

 ホロウの中心あたりで、ルーシーのバイクのタイヤがパンクした。ルーシーは燃料の確認は怠っていなかったし、バイクの調子自体も良いものだと思って外出したのだが、こういう事もあり得ると言うのがホロウだ。

 

 「徒歩は、相当時間がかかりますわね。…助けていただくしかありませんわ」

 

 ルーシーは躊躇なくパイパーに電話をかけた。基本的に暇していて、かつ助けに来てくれる友人。ルーシーも、大体異常事態は彼女に電話をかければ問題ないと考えている。

 

 「パイパー、私のバイクがパンクいたしましてよ。助けに来ていただけませんこと?」

 

 良い返事を受け取れたルーシーは僅かに安心の声を漏らすも、目の前に現れるエーテリアスに舌打ちする。

 

 「そんなにぶっ殺されたいんですの!?」

 

 ルーシーは手持ちのエスカリボルグ…棍棒を振り始めた。

 

 

 ルーシーが戦闘を開始して約10分が経過した。ルーシーとしてもかなり疲労してきた段階で、増え続けるエーテリアスに反吐が出ていた。

 

 「どれだけいるんですの!?」

 

 呼吸は荒く、このまま消耗戦にされては困るという辺りで、車の音が聞こえてきた。

 

 「ル〜シ〜!!」

 

 ルーシーの耳元に響く友人の声。目に生気が戻り、そちらの方に向かって走り出す。

 

 「パイパー!!遅いですわ!!」

 

 遅い、と言いながらもルーシーの表情は笑顔そのものだった。遠くでパイパーが車のドアを開けたのが見える。ルーシーにとって、そのドアの内側に入ればそれは勝利だった。

 

 トラックまで残り十数メートル、といったところで、事件は起きる。

 

 トラックが停車していた場所が、運悪く、引火するガソリンやニトロフューエルの近くだったのだ。

 

 遠くからのエーテリアスの攻撃。それは当然、逃げるルーシーを狙ったものだった。しかし、それは狙いを逸れ、不幸にも、ガソリンに直撃した。

 

 「!!」

 

 それに気づいたルーシーは、『トラックに入る』から目的を変更し、『パイパーを助ける』に。

 

 「パイパー!!逃げなさい!!」

 

 パイパーも異常に気づいたものの、発火する速度の方が早かった。

 

  耳に鳴り響く轟音。視界を埋める粉塵。鼻をかすめる炎の香り。

 

 その爆発は、トラック内のガソリンにも引火し、連鎖爆発を引き起こした。

 

 

 耳鳴りがする。火薬の匂いが鼻につく。それでもルーシーは顔を起こした。

 

 ルーシーは粉塵に塗れた体で、地面を這いながらパイパーを探す。トラックの残骸の反対側に行くと、意識は失っているが命はとどめているパイパーが倒れていた。

 

 「パイパー!!起きなさい!」

 

 体勢を整え、肩を揺らしても声をかけても返事はない。命はあっても、これではルーシーがパイパーを守る必要があった。

 

 ルーシーにとって本日二度目となる、孤独な戦いが始まった。ルーシーは気づかなかったが、パイパーの側には、通話を終えた形跡が残っているスマートフォンが野ざらしにされていた。

 

 

 ルーシーは満身創痍だった。通話を他のカリュドーンの子のメンバーに掛けようにも、スマホは爆発の衝撃を受けて動かなくなっていた。

 

 「このスマホ、結構値段が張りまして…よっ!!」

 

 恨みつらみを吐きながらエーテリアスを殲滅する。敵を殴る度、腕が痛み、足が痛み、頭が痛む。

 

 二度目の戦闘開始から3分が経過した。

 

 喋る余裕がなくなってきた。このままだと自分もパイパーも死ぬという危機感がルーシーを焦らせる。それでも増え続けるエーテリアス。

 

 二度目の戦闘開始から4分が経過した。

 

 先程の爆発の影響なのか、視界がぼやけて来る。その度に頭を振ってリセットする。一緒に戦っているイノシシたちにも、そろそろ限界が来ようとしていた。

 

 二度目の戦闘開始から5分が経過した。

 

 「ゲホッ、ごほっ」

 

 咳が漏れる。その隙を狙われて、エーテリアスに殴られる。倒れ伏す。立ち上がる。

 

 二度目の戦闘開始から、8分が経過した。

 

 ルーシーは戦うことを辞め、パイパーを引き摺りながら逃げることにしていた。後ろを追って来るエーテリアスたちを尻目に、それでも全速力で逃げる。

 

 「いくらなんでも、多すぎ、ますわ」

 

 足が棒のようだ。もう動くわけがない。

 

 「ここで、終わりですわね」

 

 ルーシーは足を止めた。魑魅魍魎を見届けながら、自分の死を覚悟した。

 

 「ごめんなさいパイパー、あなたを助けられなくて。私、案外あなたと一緒で楽しかったんですの」

 

 目の前に迫る20体ほどのエーテリアスたち。その集団の内の一体が腕を上げる。

 

 ルーシーは空を見上げた。憎らしいほど青いそれを見た。

 

 そして。

 

 その視界の端に、バイクのタイヤを見たのだ。

 

 「間に合えええええ!!」

 

 爆発によって赤に塗れた世界に差し掛かる、コントラストの効いた空色の髪。

 

 ルーシーの目の前に、エーテリアスをバイクで轢きながら現れたのは、ハルだった。

 

 「生きてる!?よく耐えた!」

 

 バイクから降りながらもルーシーの様子を一瞬確認し、状況をおおよそ把握するハル。前を向き直し、指を銃の形にした。

 

 「蝕め」

 

 突如としてエーテリアスらの中心あたりに出現するブラックホール。引力を伴い、エーテリアスを中心に集めていく。

 

 「ハル、さん」

 

 「ハルでいいよしゃらくさい、とりあえずこいつらを全員潰す」

 

 腰から引き抜いたサバイバルナイフを構えて、ハルはブラックホールが吸い切れなかったエーテリアスから倒していく。

 

 「ナイフを用意しておいて正解だった」

 

 シーザーから襲われたことを考えて、似たような状況になるのが嫌だったハルは、サバイバルナイフを携帯していた。

 

 「集団戦は得意だよ、50体くらいの小型の空を飛ぶエーテリアスから狙われたことはあるか?」

 

 ハルはニネヴェ戦での地獄を思い出しながら、後方に迫るエーテリアスを切り伏せる。

蹴って吹っ飛ばし、鉄槌をそのまま別のエーテリアスに喰らわせ、サマーソルトよろしく回転蹴りをきめる。

 

 「明らかにニネヴェ戦で僕は成長したなあ」

 

 残り14体。

 

 遠くから攻撃を狙うエーテリアスに向かってサバイバルナイフを投げ、その勢いで近くのやつの顔面を蹴り抜く。

 

 「容赦はしねえよ」

 

 胸元を狙って侵蝕を放つと、心臓あたりからエーテリアスは吸い込まれ、倒れる。

 

 走ってエーテリアスの軍団を駆け抜け、先ほど投げたナイフを回収する。ついでにもう一体倒しておこう。

 

 残り10体。

 

 また別のエーテリアスが遠距離からの攻撃を狙ったので、近くにいた手頃な敵さんの首根っこを掴み、盾にしながらそいつに近づく。

 

 切り伏せる。切り伏せる。切り伏せる。

 

 残り2体。

 

 「邪魔」

 

 そのうち一体を崖から蹴って突き落とす。最後の一体。

 

 「終わりっ」

 

 ナイフを横に振って、終了。

 

 僕は後ろを振り返った。ルーシーは、いつの間にか気絶していた。さっさと助けよう。

 

 

 

 ルーシーは心地よい風を感じていた。僅かなガソリンの匂いが、彼女の意識を起こした。

 

 後ろを見ると、自身の腰にしがみついている、意識のないパイパー。ルーシーはバイクに乗っていた。

 

 「お、起きた?寝てていいよ」

 

 ルーシーがしがみついていたのは、ハルだった。全身に走る痛みに耐えながら、会話を続けようとする。

 

 「なんで、助けたんですの…」

 

 「え、理由いるかな?ルーシーも理由なくパイパーを守ってたんだからさ」

 

 指摘されたルーシーは、痛みがあるにも関わらず、

 

 「そっ、それは、パイパーがいなくなっては、輸送関係に傷が…」

 

 ハルは振り向かない。運転中だからだ。しかしそれでも、笑っていることは分かった。

 

 夕焼けが世界に溶け込む。茜色の空が、雑音を消していく。

 

 「本当にただ、助けたかっただけだよ。すごいのはパイパーの方だ。あんなギリギリな状態で、僕に助けを呼べたんだし」

 

 それを聞いてもなおルーシーは、疑問が絶えなかった。

 

 「ですが、それでも、あなたは余所者ですわ。わざわざ命をかける理由なんて…」

 

 そのあたりで、ハルが発言する。

 

 「せっかく助かったんだから、助けられた人は『ありがとう』って言っておけばいいんだ!ストレートな感謝が一番伝わりやすいんだよ!」

 

 これはハルがニネヴェ戦で学んだ、一番嬉しいことだった。シンプルな感謝が、彼を前に進ませたのだ。

 

 話を切られたルーシーは、何か言い返そうとするが、それらの発言を飲み込んだ。

 

 「感謝、しますわ…」

 

 「ちゃんと言えるじゃん、どういたしまして」

 

 笑いながら後ろを向くハル。茜色の光が照らしたその笑顔に、ルーシーはふと。

 

 「そぉ、それっ!!本当に、ずるいですわ!!」

 

 恋をしてしまった、という。

 

 「なんのことだか知らないけど、疲れてるんだから寝てね」

 

 帽子の上から、頭を撫でられる。顔が熱くなって、火を吹きそうだった。

 

 胸を打つ心臓の音。戦闘の跡として発生しているはずがないその動悸は、寝ようとしても、ルーシーの心を強く打ち続けていた。

 

 (お、おかしいですわ…なんですの、コレ…)

 

 エンジンの音がうっすらと、bgmのように流れ続けた。




 そういえば青衣がヒロインです、って確定させてなかったなと思い、やりました。
愚かなことに主人公のビジュアルをあんまり描写してなかったことを思い出したので、できるだけルーシーの脳を焼けそうな感じにしました。

 ルーシーはチートピアでもムードを大切にしてる的な話をしてます。効果は抜群だ!
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