インデックスをヒロインとするオリ主転生系とある魔術の二次創作


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作:網浜
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3.影月暁夜という男


ここから転生後のお話となります。


 洗面台の鏡の向こう側から、俺が俺を睨み返していた。

 学園都市、学生寮、洗面所。それが俺の現在位置である。夏も盛りの七月二十日、額に汗を滲ませながら鏡を覗き込んでいる。

 俺の名前は影月暁夜(かげつき ぎょうや)。十六歳。学生、あるいは無職。そういうことになっている。

 

 本来、物語の作法に則れば、ここに至るまでの出来事を時系列順にじっくりと語るべきなのだろう。しかしそうするとひどく長くなるし、原作から離れたオリジナル過去話など求められてもいまい。なので端的に説明すると、俺は『とある魔術の禁書目録』シリーズを彷彿とさせる世界に転生をした。これで概ねご理解頂けたことだろう。あーね。よくあるやつね。そういうことだ。

 前世の記憶を持ってこの世界に転生した俺は、いろいろと酷い目に遭った末、この学生寮に住んでいる。アニメにてよく見ていた、あの学生寮に。あと、なんかすごい能力も持っている。転生ってすごい。

 説明を省いた諸々については、必要となり次第、都度開示されていくことだろう。

 

 そんなわけで、今である。

 かつて中二であった中年男性垂涎のこの世界に生まれ変わり、十六年。俺は今、ある種、運命の時に直面していた。もちろん、おわかりであろう。七月二十日。テレビジョン曰く、水瓶座のあなたの運気が最高潮に達するこの日、一体何が起こるのか。何が始まるというのか。あなた方は知っている。

 降ってくるのだ。白磁の聖衣を身に纏うヒロインが。

 インデックス。彼女に会える、かもしれない。俺の推しのヒロインに。いやがおうにも期待は高まり、平静ではいられない。クソったれな前世を終え、それ以上にクソだった今世をここまで耐えた。すべての苦しみは、今この時のためにあったのかもしれない。控えめにいって、今日の俺はだいぶソワソワしている。

 

 だが、しかし。この期待に水を差す、大きな問題が一つあった。

 俺は、鏡の中の俺を睨みつける。

 そこにいるのは、どうしようもなく俺であった。

 影月暁夜。何の因果か、この世界においてそう名付けられた。かつて、禁書の二次創作に傾倒していた折、無双系オリジナル主人公に付けたのと同じ名前。母なるチャットGPTに頂いたのと同じ名前。プロンプトにて最高に格好良いヤツと指定したら出たその名前。

 一方、鏡に映るその姿。べっとりとした黒い髪。薄い一重瞼。太い眉。下膨れ。ぶっちゃけぶさ……いや。いやいやいや。卑下はやめよう。普通。おおむね普通の範囲。そんな、これくらいなら、別に、とりたてて、ねえ。という具合の顔。

 そんな顔を見て、俺は思わずにいられない。

 おかしくない?

 影月暁夜って感じのツラじゃなくない?

 ていうか、転生前と顔変わってなくない?

 そういうことであった。

 俺は、なんか知らんがこの禁書風世界に転生した。そして影月暁夜というかっこいい名前と、詳細は不明だが凄い能力と、禁書世界ならよくある程度のちょっと引くくらい可哀想な過去を得た。だが。最も重要な、核心とも言える要素は得られなかった。イケてるマスクだ。

 冷静に考えてみてほしい。ライトノベルに限らず、フィクション界全般にみられる凄くイカしたクールな名前。それらは並べて、イカしたクールな外面を前提に設定されたものであるはずだ。そういう名前を付けるのであれば、その者の責任として、見合った『見てくれ』というものを保証すべきではないか。全命名権者にそう言いたい、そんな今日この頃の俺である。

 格好良い名前、そうでもない見た目。それらが俺を責め立てている。運命の日を迎えんとする、この俺を。

 このツラで、俺はなにを迎えようというのだろうか。

 運命の日。七月二十日。落雷だかなんだかの影響で、学生寮の電化製品の八割がイカれたこの日。舞い落ちるその少女。始まる遠大なる物語。

 そこに、この顔は、まったくもってふさわしくないのでは。

 

 一方で、こうも思うのだ。何を無駄な心配をしているのか。すべては杞憂ではないか。

 まるで、禁書目録の少女と俺が運命の邂逅を果たすのが既定路線かのように考えているが、そもそもそれが大きな間違いではないのか。

 そういう考えだ。

 もちろん、根拠はある。それも、かなり強力な根拠が。

 

 上条当麻。

 

 彼だ。

 今まで言及していなかったが、実は彼はこの世界に存在している。

 具体的には、俺の隣の部屋で暮らしている。

 そりゃあいるだろう、禁書の世界なのだから――と思われる方もいらっしゃるかもしれない。しかし俺としては、この学生寮にやってくるまでは、むしろいない可能性の方が高いとすら思っていた。

 俺が影月暁夜とかいう名前になったその瞬間から、俺は怖ろしい想像をしていのだ。この世界は実は『とある魔術の禁書目録』の世界などではなく、俺の二次創作の世界なのではないかと。全ては死ぬ前の俺の妄想で、これからは都合の良いことしか起こらず、上条当麻なき世界でハレム酒池肉林一歩手前まで突き進むのではないかと。この俺に空前絶後のモテ期が到来してしまうのではないかと。それはいっそ、想像や危惧の域を超えて、ある種の確信に至ってすらいた。

 この世界は俺の妄想が作った偽物で、出会う連中も再現度の低い紛いモノ。ただのオリキャラ。真剣に向き合う価値はないのだと。

 だが、幸いにも、その可能性は否定された。上条当麻の存在によって。

 かつての俺の二次創作世界には上条当麻はいなかった。あえてそういう設定にした。しかし、この世界にはいた。隣の部屋に住んでいた。因みに、もうひとつ隣には金髪グラサンの不良が暮らしている。

 明確なる設定の相違。この世界は、かつての俺が創作した歪んだ二次創作世界などでは決してなかったのだ。

 そもそも冷静に考えてみれば、この世界は全く俺に都合よくなどはない。今世に生を受け十六年、今のところ俺の思い通りに進んだ事例などただのひとつもなく、むしろ前世よりよっぽど苦痛の多い人生であった。理不尽は常に容赦なく牙を剥き、だのに他者は俺に見向きもしない。まして惚れるなどあり得ない。そして、上条当麻はそんな俺とは無関係に、初めからずっと存在している。俺にだけ都合の良い世界などでは、はじめから全くなかったのだ。本当によかった。

 長くなった。言い訳はいつも長い。ご了承いただきたい。

 とにかく、この世界は上条当麻が存在する健全な世界であるということを言いたかった。

 そして上条当麻が存在する、ということはだ。あのシスターが降ってくる先は、必然的にこれ、彼の元になるのではないか。

 だって原作がそうなのだもの。そうなるのが自然だろう。そうなるべきだ。わかっている。

 

 とはいえ、卑しき期待を捨てきれない俺もいる。

 なにしろ、原作にはいないはずの俺が存在してしまっているのだ。ならば原作とは違う事だって、当然に起き得るのではないか。

 そしてなにより、推しなのだもの。会いたいし、お話したいし、仲良くもなりたい。あわよくば、もっとずぶずぶの深い関係をも。

 いやでも無理か。会ったところでな。この俺本来の、素材の味そのままの冴えない顔ではな。

 いやいやでもでも、人間は顔じゃない。今日日ルッキズムなどポリコレ的観念からも忌避される傾向にあるだろうし、そうであればむしろ、俺くらいのガチめの冴えなさはむしろトレンドであるとすら言えるのでは。

 そしてなにより、彼女は顔で人を判断するような底の浅い女性でもない。多分ない。ならばやはり、ワンチャンあるのか?

 いやいやいやでもでもでも、そもそも俺が期待する展開になるということは、上条当麻がこの世界に存在する都合上、俺の信条的に許されざる原作蹂躙の極みたるNTR行為という――

 

 鏡を睨みつけ、ごにゃごにゃと答えの出ない問答を繰り返していたその時。

 ベランダの方から、どすんと鈍い音がした。

 まるで、なにかが落ちてきたかのような。

 

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