ゼロ・トゥ・ゼロ


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作:しづごころなく
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遠距離が強い代わりに近距離が強い



1、2話は時間がかかっても続くが、それ以降は反響があったら。
遅筆なので期待はしないでね。


 

×1

 

目が覚めたら、そこは廃墟だった。荒んだ町、と表現せざるを得ない、コンクリートの地面が質素な道の途中。道とは言っても道路に似ていて、高速道路らしさがあるが、周りには瓦礫がたくさん散らばっていて、社会治安を感じさせない。裸足で歩いたら怪我をしそうだ。

 

「…転生、なんて陳腐な言葉を使わなきゃいけなさそうだな、これは」

 

 直前の記憶は目の前に迫った一本の包丁だけ。誰かを突き飛ばしてた気がする。

…僕はそんな簡単に死んだのか。たかが包丁が胸元に突き刺さっただけで、意識を失ったってことか。…突き飛ばした人の顔を思い出せない、助かったんだろうか。

 

 …考えても意味はない。後の祭りだ。要するに、僕はあそこで死んで、転生だか何だか知らんがここに飛ばされてきたと。

 

「うん、しょうがないなこれは。なったもんはなったんだよ。どうにかするしかない、この状況を」

 

 周りを少し見て、尖った鉄の棒を見つける。

 

「まずは、自衛だね」

 

 こんな、瓦礫が当たり前のようにある荒んだ町の治安がいいわけがない。僕の常識が通用しない可能性も考えて、鉄の棒を持つ。軽さもちょうどいい。

 

 準備運動だけ軽くして、棒を振りながら歩き始める。まずは考察の時間だ。

 

「コンクリはある…線も引かれてるから科学の発達は間違いなくあるな、そんでもって、『元』かもしれないが法治国家の形跡もある」

 

目の前にある明らかに法的効力を持つ標識を見ながらつぶやく。矢印が書いてるだけだが、これがあるってことは交通関連の整備が行き届いていたということ。しかし、法の痕跡こそあれど、この辺りの治安は言うまでもなく。

 

「絶対に悪い、間違いない」

 

 そもそもゴーストタウンである可能性も捨てきれないが、僕の安全を守る上ですべきは全て「危険がある前提」だ。この辺りの何かの残骸は、ほとんどが人為的に破壊されたような跡がある。少なくとも、災害などで鉄の箱の一部だけが凹むとか、柱にヒビが入るとかはないだろう。いや、竜巻とかならあり得るのか…?

 

「壁に落書きとかがある時点でなあ」

 

地面の崩落に気をつけながら探すのはやはり地図だ。地図があるだけでだいぶ話が変わる。少なくとも、地名すら知らないGeoGuesserは辞められる。

 

「あれ」

 

 歩いていて気づいた。今までより早く走れる気がする。

 

「…」

 

 徐にジャンプ。明らかに前世の時より高い。

 

「いや、まさかな」

 

 冗談まじり、できるわけもないと思いながら、しかし何故かできる気がしたので、バク転をしようとしてみた。後ろに勢いをつけて地面を蹴る。手を地面につける。一回転する。

 

「できちゃったよ…」

 

 手についた汚れを払いながらつぶやく。

 

 進めば進むほど疑問が現れる。どこかもわからず、身体能力が何故か上昇。まさかとは思うが、「特典」じゃないだろうな。これで地球と同じような社会形成をしていたら僕はアスリートにでもなれてしまうぞ。それはいくら何でも、世界のバランスを崩しすぎだ、神様よ。

 

「Gi…GIGi」

 

 だって体操みたいな競技で無双できちゃうじゃないか。世界記録だって余裕だろ、このレベルなら。ああ、今のは体操と無双で韻が踏めてる。偶然だけど面白いな。

 

「Gia」

 

 ふざけたことを考えている僕を地獄へ引き戻す音がする。

 

「GIAAA」

 

 目の前の柱から、動く物体が目に入る。次に認識したのは、その物体が、鉱物のような何かを纏っていて、とても堅そう…ああ、いや、もっと特筆すべき特徴がある。

 

 その怪物は、人型だった。

 

 到底、意志を持っているとは思えないが。

 

「はぁっ…!?」

 

 最初に来たのは驚き。即座に後ろに下がり、目の前の怪物と距離を取る。

 

「二足歩行は人類の特権だったんだけどね…」

 

角張った鉄の棒をしっかりと持ち直す。今の一瞬で鳥肌と汗がすごい。

 

この怪物は、二足歩行で、顔がない。顔面がただの球なのだ、悍ましいことに。身体中に尖った鉱石がくっついていて、トゲトゲとしている。

 

そして、片腕が凶器のように尖っていた。

 

そこのお前ら、今僕が相対してるの、等身大の敵で、片腕の凶器は普通の剣だと思ってるだろ。

 

「デケえ…」

 

 僕の2倍くらい、こいつはでかいぞ。しかも、片腕が明らか、弓でかつ剣。見なくてもわかる、あれは弓でもあり剣でもあるのだ。長距離近距離が完璧ときたら、勝てるわけないだろ。

 

 こちとら鉄の棒一本が武器だぞ。

 

 僕のとる判断は当然…

 

「逃げる…しかない…!!」

 

 鉄の棒なんざ捨て置いて、目の前の怪物に背を向けてダッシュ。あいつを見ている暇はない。ここで逃げなきゃ殺される。一心不乱に走る。走る走る走る。

 

 たった一瞬、それでも僕にとってはとても長い時間の闘争を経て。

 

 突如、マントの一部が見え、僕は足を止めてしまった。

 

 …なんだ、このマントは。

 

 あれ、そういえばさっき遭ったあの怪物、マントつけてなかったっけ…。

 

 何もない空間から、怪物が出現する。テレポートした、と表現できるだろうか。つまり、僕が逃げようが逃げまいが、今と同じ状況になっていた、と言うことになる。

 

 怪物が弓を構える。突撃しながらあれを刺すつもりみたいだ。きっと今の僕の身体能力でも致命傷だろう、肋骨は意味をなさなそうだもんな、あの尖り具合は。

 

「最初っから、詰んでたんじゃないか…」

 

 凶刃が迫る。せっかく二度目の生を受けたって言うのに。しかもまた刃物かよ、代わり映えがしない。ああ、くそ。死にたくないなぁ…。

 

 胸元の皮膚を弓の先端が突き刺す。貫通する。骨を破る。心の臓を

 

 

×2

 

 目が覚めたら、そこは見たことのある光景だった。瓦礫にあふれた廃墟。さっき僕は胸元に刃物を突き刺されて死んだはず。あの時の痛覚は本物だったはず。何で、生きてる…?

 

「というか、鉄の棒は据え置きになってるのは何でだよ」

 

 さっきまで一応持っていただけの鉄の棒が手に残っている。何の意味があるのだろうか、あんな化け物がいるならこの程度の武器は意味がない。

 

「…正確な場所が分からない、俺はさっき、どっち側から来たんだ…?」

 

 見たことのある光景だとは言ったが、どこも似たような町の姿をしているから、どこがどこだか分からない。でも、間違いなく通ったんだ。

 

「とりあえず左行くか」

 

 勘だけで左を選ぶ。歩く歩く歩く。

 

…少し歩いて気づいた。

 

「崖になってる…何で…怖」

 

 断崖絶壁。ここを無理に通ろうとすれば、怪我は必至、足を滑らせれば必死だ。こっち側は通れない。

 

 僕がさっき行った方向がどちらにせよ、道は限られた。僕は逆方向に行くことを余儀なくされているようだ。

 

今度は右に行ってみた。どこも同じような景色なので、だんだん飽きてきた。…少し歩いて。

 

「…あれはまさか」

 

 遠目だがわかる。ひどい既視感だ。さっきあの怪物が出てきたボロボロの柱。間違いない。

 

「嫌な、オーラを放ってる」

 

 さっき遭ったあいつが後ろにいる雰囲気がする。こういう時の勘は役に立たない。僕が死んでも生きてた理由はわからない。僕が偶然生きてて、気絶していただけだとしても、普通移動してるだろって、僕も思う。だが、理由もなく、柱の裏にそれがいることだけがわかる。

 

「クソが」

 

 後ろに行っても行き止まり。前を行けば怪物。後ろに行くよりは、僕は前を選ぶ方が可能性があるのが本当に釈然としない。このままずっと居座ったところで、救助の目処がない時点で脱水症状で死ぬだけだろ。

 

「行くしか…」

 

 選択肢は一つ。ダッシュで走り抜ける。さっさと距離を取れば、もしかしたら、彼方が気づかない可能性がある。それに、柱の後ろに怪物はいなくて、僕の勘違いで終わる可能性だってあるんだ。それが最善。

 

 柱に近づけるだけ近づいて、鉄の棒を捨ててからクラウチングスタートの姿勢をとる。今の僕の身体能力なら、ここからは7秒もあれば余裕を持って離れられるだろう。

 

 息を整え、腰を上げる。

 

「3」

 

道は一直線。

 

「2」

 

走り抜けるだけ。

 

「1」

 

 

「今」

 

 地面を蹴る。さっき一心不乱で逃げた時は必死で気づかなかったが、やっぱり明らかに早い。足を回し、柱の横を通ろうとする。この辺りが大通りで本当に良かった。可能性が少しでも上がる。

 

 柱に差し掛かる。横は見ない。スピードが下がる。駆け抜けろ、僕ならできる…

 

 柱を過ぎ去った!やっぱり僕の勘違いで、あいつはいなくて、僕が死ぬこともないんだ!

 

 

 

「…マントだ」

 

 咄嗟にスライディングの体勢に変わる。…だと、思ってたよ。信じたくなかったけど。ずっと嫌な予感がしてたんだ。さっきの二の舞になる可能性を僕が踏んでいないわけがない。

 

 先ほどの怪物の動きを踏まえれば、弓を使うにも構えがいる。ちゃんと矢を引いてるのは見てないが、弓を引く必要がある時点で下への攻撃はしにくい。咄嗟のスライディングは対応できないはず。

 

 目の前にマントを翻しながら現れたソレ。ソレは、僕の予想なんざ、嘲笑うかのように、出現した時すでに、弓を構えていた。実体を持っていないが、多分矢も引かれている。その弓の方向は、下を向いていた。

 

「さっきわざわざ止まってまで構えをしたのは、僕が食われる側だって知ってたからかよ」

 

 くそ、今度こそ逃げ切ったと思ったのに。この怪物、僕を食われる側としてしか認識していない。

 

 ああ、今度は弓か。今度こそ、僕の人生はここで

 

 

 

×3

 

 目が覚めると、そこは廃墟だった。最初の一回をカウントして、3回目だ。しかも今度は、見慣れたおかげかここがどこだか分かる。

 

 2回目に目が覚めた時と、同じ位置だ。きっと左を行けばまたあの崖に出会えることだろう。

 

 そろそろ、僕も認めなければいけない。

 

 僕は、「死に戻り」をしていそうだ。

 

 リゼロよろしく、サマータイムレンダよろしく、タイムリープを伴う「セーブポイントへの帰還」。ただしその条件は、死。

 

 僕もおおよそ彼らと同じ条件で発動しているだろう。セーブポイントはランダム、タイムリープを伴う。最初に死んだ時に鉄の棒を持って目を覚ましたのは、据え置きだったんじゃなく、シンプルにセーブされた時間軸が違うだけ。鉄の棒を拾ってちょっと歩くところまでは、もう未来が確定したってことになる。

 

 死に戻りなんて最強だ、って一瞬思ったさ。でも、痛いもんは痛いし、さっきから致命傷の攻撃を喰らってるせいでちょっと精神的に来てしまっているのも辛い。

 

「もう、痛いのは嫌なんだがなあ」

 

 壁に背中を預けながらつぶやく。相変わらず手に持った鉄の棒。こんなもの、もう持ってる意味ないだろうに。

 

「……死にたくない」

 

 死に戻りなら大丈夫だと思うなかれ。僕の死に戻りは、回数制限があるタイプかもしれないのだ。一定回数以上死ぬと、本当に死んだことになるタイプの死に戻りである可能性は、常にある。

 

 近くに落ちてた、ペンを使って自分の手に「3」と記入する。油性だといいな、模様が擦れて何が書いてあるか分からないけど。

 

「行こう、作戦を考えながら」

 

 さて、あの怪物、憎悪を込めて「弓カス」と呼ぼうか。あいつの最大の特徴は、テレポートと弓剣だ。テレポートにはおそらく予備動作がない。あってもマントの翻りくらいだろう。

 

 弓剣は、弓を引くときに予備動作が要りそうなのは間違いない。ただ、テレポート前に弓を引いておけば実質ノータイム射出が可能なのだが。弓カスは弓を使えるくせにテレポートを持ってるというのが噛み合いが悪い。しかし、テレポートが防御面にも使えることを鑑みると、やはり厄介だ。

 

 弓カスの動き自体は、おそらく身体能力の上昇とともに動体視力も上がっているからか、目で捉えられる。ただ、テレポート後の即攻撃にはおおよそ反応手段がないと言っていい。いや、正確には、反応できても防御手段がない。

 

 避けられるなら話は変わるが、少なくとも「受ける」という手段は意味を成さないだろう。よって、やるにしても「避ける」。

 

 構えた弓に思いっきり石でも当てたら、弓の角度が変わって僕に当てられないかもしれない。やってみよう。

 

 

 高速道路らしき道に立つ、これまた別の高速道路を支えるために建設された見覚えのある柱の近くまできた。

全力で逃げようとした時よりはゆっくり目に、それでも走っているくらいの速度で、柱を駆け抜けようとする。

 

 目の前に出現するマント。大丈夫、今回は鉄の棒が一緒だ。変化があるはず。

 

「まずはスライディングから」

 

 先ほどと同じようにスライディングをして、横を通ろうとする。しかしそれに対し弓カスは弓の照準をこちらに合わせてくる。

 

「今!」

 

 鉄の棒を弓の端に向かって投げる。近距離だから威力はあるはず。

 

「照準が変わって、僕に弓は当たらない…そうだろ…!?」

 

 直後、僕が目にしたのは。弓を手首らしき部分で強く回転させて鉄の棒を斬り、その勢いのまま、弓カスが弓を鎌のように振り下ろしている姿だった。

 

「そんな簡単に切れるんだね」

 

しかも今回は趣向を変えて首チョンパと来たか。流石に体験したことはな

 

 

 

×4

 

やあみんな。いつもの高速道路っぽいところのど真ん中からお送りする。

 

 ちょっと手詰まりになってきたので、今回はあの弓カスの攻撃を一発くらいは凌げる装備探しをする。鉄の棒一本じゃちょっと無理があったね。

 

 幸いこの辺りは、ガラクタだけはたくさんあるし、探す価値はあると思う。あと、時間が経ったら弓カスもいなくなってる説の検証も兼ねてる。喉の渇き具合と相談しつつ、辛くなってきたら戻ろうと思う。

 

 いろいろ漁ったが、どれも使えない。耐久性に欠けていたり、銃を見つけても弾切れだったり。結局近くにあったあのほっそい鉄の棒よりかは硬い棍棒と、硬さに自信がありそうな何かの板だけだった。これしか見つからないんだったらそんなに遠くまで行かなくても良かったな。

 

「…ちょっと、気持ち悪いな」

 

 脱水症状以外にも腹の減りもあるのか、だんだん体調そのものが悪くなってきている。そもそもいつから僕はここで寝てるんだ?目が覚めたら、とは言ってもここに飛ばされてから何時間ほど睡眠していたのかは到底想像できない。僕が考える以上に、体調に皺寄せがきてるのかも。

 

「…行こう」

 

 口数が減ってきた。これは相当まずいサインだ。とりあえず、この棍棒(何に使ったのかは分からない)と板(何からできてるのかすら分からない)の使用感に慣れるところからだ。

 

 例の柱を駆け抜けてから弓カスが出現し、相変わらずマントをバサバサと靡かせる。

 

 まずは実験。硬い板で、どれくらいの攻撃に耐えられるのか…。前回とは打って変わってスライディングをせずにその場に立ったままの僕に、矢が飛んでくる。相変わらず矢の正確な形がわからないが、板を構える。

 

「重っ……!!」

 

 耐えは、した。だが、この板の、半分以上が貫通している。二発目は致命傷コースだろう。

 

「防御可能なリミットは一発ね」

 

 そして今までの当たった時の感覚でわかるが、矢としての攻撃より、弓を剣にして振ってる時の方が痛い。つまり、威力が高い。剣の場合、この板はハムのようにサラリと斬られることだろう。

 

 近づいて棍棒で殴ってみる。

 

「硬すぎじゃない?」

 

 殴っている感覚がしない。岩に棍棒を叩きつけているような感じ。

 

「これはちょっと、やっぱり倒すのは現実的じゃないね…」

 

 僕を斬るために大きく振り上げられた弓を見ながら、僕はそう呟いた。

 

「次は逃げ切ってみせ

 

 

×5




ぶっちゃけヒロインは決めあぐねてるのでもし良ければ推しの魅力でも語ってって下さい。良いね!と思ったら本当にヒロインは変わります。

ゼンゼロ面白いなぁ
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