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台湾・頼清徳総統就任1年 中国では入学優遇に奨学金…“若者取り込み”に躍起

2025年5月24日 11:13
台湾・頼清徳総統就任1年 中国では入学優遇に奨学金…“若者取り込み”に躍起

台湾の頼清徳総統が就任して1年。中国は台湾周辺で軍事演習を繰り返してきたが、圧力を強めるのは軍事面だけではなく“教育現場”にも及んでいる。その狙いに迫ると共に、中国に住む台湾出身の若者のホンネを聞いた。

■『黒く塗られるべきだから』 中国に不都合な表現は“なかったこと”に

中国・北京の大学で経済学を学ぶ、大学2年生の陳さん(20歳・仮名)。台湾で生まれ、小学4年生の頃に父親の仕事の都合で中国・深センに引っ越した。

現在、中国に暮らす台湾出身者は、ビジネス目的だけでも推計およそ20万人。家族なども含めるとその数は100万人ほどと言われる。なかでも台湾企業が多く進出する中国南部・広東省や上海には、台湾からのビジネスマンの子供などが通う“台湾学校”が存在する。

陳さんも、広東省の“台湾学校”で、高校生まで勉学に励んだ。体育や美術などの専門教科を除き、教員の大半は台湾出身。使用する教科書も台湾で編集され、大陸に運ばれたものだが、陳さんはこれまで台湾の学校で手にしていた教科書との“ある違い”に驚きを隠せなかったという。

広東省の台湾学校で見た教科書は、「歴史」や「地理」「公民」「道徳」などの教科書の一部が黒く塗りつぶされた状態だった。しかも、黒塗りの部分は学年が上がるにつれ増え続けたという。

陳さんは険しい表情で、こう話した。

「『歴史』の教科書の一部は完全に黒塗りされていて、何を伝えたいのか全く理解できなかった。イラストや画像よりも、特定の文字や文章が消されている印象」

当時は背景などがわからなかったが、“黒い教科書”の異様さに違和感を覚えたという。

「なぜ黒く塗られているのか、教員に尋ねたことがある。先生は『黒く塗られるべきだから黒く塗っているのであって、それ以上でもそれ以下でもない。理由なんてない』と答えた。幼い頃は光に当てて透かし、塗りつぶされた内容を知りたいと必死だったが、どの科目も黒塗りが多すぎて段々と興味を失った』

黒で塗りつぶされていた部分には何が書いてあったのか、台湾学校の現役教員に話を聞くと、こんな答えが返ってきた。

「学校に届く前に中国政府によって黒く塗られて、子どもの手に渡る。自分たちで黒く塗り潰す部分を判断しているわけではないが、おそらく台湾独立の考え方がにじむ言葉や、それを推測させる表現が消されているのだろう」

台湾が中国の一部とする「一つの中国」の原則に沿わない表現が、中国当局による事前の検閲で黒く塗りつぶされているとみられる。そして教科書は、学校を卒業する際に回収されるケースがほとんどだという。

中国と台湾の緊張が高まる中、中国に住む台湾出身者の間では中国と台湾の関係などについて口にすることがタブーとなっているという。こうした中で、広東省の学校に通う男子中学生が匿名を条件に話を聞かせてくれた。中学校の教室にも“中台の摩擦”が影を落としているという。

「クラスメートは台湾独立を支持する仲間がほとんど。一方で、自分は平和統一を望んでいる。だから仲間から“親中派”とみなされてしまい、いじめに遭っている」

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■『あなたは中国人?台湾人?』アンケートに戸惑いも
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