2017年12月29日

鈴木光弥「藤田霊斎・丹田呼吸法-向上し続ける人生の構築」(2)

 ●【小波浪息】 簡単に、固くなっている上腹部がゆるんでくる。

①上体をやや前傾させ、肩や胸が楽に緩むようにする。太極拳や気功で言う「含胸抜背(がんきょうばっぱい)」と同じ。大きなボールを胸に抱え込み、肩甲骨が開いて、背中の力を抜いた状態

②右手の指を揃えて上腹部(臍の上2センチの屈曲線)に当て、左手は丹田に当てておく。

③胸を張りながら息を吸う。縮んでいた上腹部も伸びる。約3秒。

④上腹部の、小指の先端が触れている辺りを境に状態を前傾させつつ、息を吐く。約5秒。吸気・呼気共に鼻から。

 上腹部を緩めること(柔凹にする)が目的で、みぞおちと臍が接近するようにすることが重要。呼気に心を込めて丁寧に行うこと。

吸気のことは考えず、息を吐き出しながら上体を折り曲げて、みぞおちの下を柔軟にすることだけを念頭に置くこと(藤田霊斎)

【中波浪息】 小波浪息に、みぞおちを落としながら短い呼気をすることと、手で上腹部を摩擦することを加えることで、上腹部を柔凹にする効果を促進する。みぞおちをストンと落としながら「フンッ」と息を漏らす(漏気)。

●明治天皇の側近の間で、天皇の姿勢がよくないという話が出て、武官が胸を張り下腹部を引くように進言したところ、天皇はみぞおちのところを凹ませて、そこに皺があるようにし、下腹部を前に張り出すようにと山岡鉄舟に教わった。それを直す訳にはいかない」と言ったという。(藤田霊斎『人は腹』)

みぞおちに皺

【屈伸息】 長い呼吸を身につけるための呼吸法。江戸時代の武術の達人は、両国橋を一息で渡ったという。息が長いのは、高い境地に達した一つの表れだ。普段の呼吸では肺の10~20%程度しか使わないが、この呼吸法では100%使われる。身体は十分に使われたとき、能力が高まる。

①吸気…仙骨を前方に押し出すように立て、胸を張っていきながら、息を鼻から吸い入れる。胸部レントゲン写真を撮るときにする格好に似ている

②呼気…カイコが糸を吐くように、細くしっとりとした息を少しずつ吐き出す。と同時に、上体を前屈していく(股関節から曲げる)。上体は水平近くまで曲がる。五体投地の礼拝に似ている。

【完全息】 完全息は正しい呼吸を身につけるための完全な型であり、「動的坐禅・静的武道」とも言われる。「完全息の6原則」とは、

吸気

胸入

肋骨を挙げ、胸を前へ張り出す(いわゆる胸式呼吸)。

腹満

横隔膜を緊縮・下降させ、下腹部を膨らます(いわゆる腹式呼吸)。①+②で、肺は容量の限度まで空気を満たすことができる。

持気

漏気

肺一杯に空気を満たした上体で充実すると、頭蓋内や胸腔内に圧力がかかる(努責)ため、胸部の息を少し息を漏らして、胸腔内に余裕をもたせる。みぞおちがストンと下がって、臍に近づくようにしながら、鼻先から「フン」と息を漏らす。ほんの1秒。

充実

「ウーム」と息を漏らしつつ丹田を巻き上げ、下腹部を充実する。5秒程度息を静止する。腹圧に対処するために、肛門が閉まっていなければならない。

呼気

膨満

呼気腹圧をかける。

緊縮

下腹部を緊縮する。

純良な血をよく作り、よく回し、凝りを除くが健康の素。(藤田霊斎)

腹は第二の心臓である。(二木謙三)

形なき寿(いのち)のもとは形ある息と悟りて息道(そくどう)を知る(藤田霊斎)

活ける泉、腹より湧く、と説きなせる聖キリストの教え、尊し(藤田霊斎)

 ただし、最近の訳では「腹」とは言わずに「人の内」などと訳されている。腹から、聖霊、神的活力、命の根源が湧き上がってくる。

智は頭脳、情はみずおち、意志は腹。この調和こそ真人の道(藤田霊斎)

 智は上丹田、情は中丹田、意は下丹田にある。この3つが調和したとき、人間本来の生き方ができるという。

息で生まれ、息で生き、又息で死ぬ。生死去来は息のまにまに。(藤田霊斎)

上虚下実! 真ことの人となる基は、ゆめな忘れぞ上虚下実を(藤田霊斎)

 普通「上虚下実」と言うと、上半身の力が抜けていて、下半身がしっかりと充実していることを言う。しかしその基本として、腹が上虚下実でなくてはならない。つまり、上腹部(みぞおち~臍)が虚、即ち凹んで柔らかく、下腹部(丹田)が充実していることだ。目標を腹部に絞り込むことで、上虚下実の実現をずっと具体的で容易なものにしている。腹部が上虚下実になれば、それが全体に及んで、身体全部が自然に上虚下実になっていく。

腹を錬れ。腹を鍛えよ。人は腹。腹の人こそ世に尊けれ(藤田霊斎)

 藤田霊斎は、腹には「犬腹」「洋樽腹」「瓢(ひさご)腹」があると言う。

犬腹

みぞおちから臍までの上腹部が固く出っ張っていて、下腹部がそげたように凹んでいる腹。虚弱で気力にも乏しい。内部には硬結症状がある

洋樽腹

堂々たる「太鼓腹」。見た目には活力旺盛だが、上腹部は犬腹と同じく固く凸状態になっていて、やはり硬結症状が見られる。高血圧・脳溢血・心臓疾患の素因を抱えた人に多い。上記2つは不完全な腹

瓢腹

完全な腹の形。みぞおちが柔らかく凹状で、臍から3センチくらい上のところがくびれていて、下腹部丹田は弾力があって充実していて、腹全体がひょうたんのような形をしている白隠が最高の腹を称して、臍下(さいか)瓠然(こぜん)として未だ篠(しの)打ちせざる毬(まり)の如しと言ったのと同じ腹だ。白隠は、瓢腹になっても病気が治らなかったら「私の頭を切って持ってゆけ」と自信をもって言い切る。物事に過剰反応して、やたらムカツイたりキレたりするのは、腹のできていない人の典型的な態度

腹で歩き、腹で坐りて、腹で寝よ。日々のつとめも腹の力で(藤田霊斎)

 腹で歩くとは、腹を充実させて歩くということだ。筋力は臍下よりして運動すべし(佐藤一斎)とは、まさにこのことだ。何事も腹で行なうとき、そこに心がこもり、その成果は高いものになる。

朝な夕な、息の功徳に感謝する人こそ、いつも無病健全(藤田霊斎)

肛門を締めて、下腹巻き揚げよ。心窩(しんか:みぞおち)を凹(くぼ)く、胸を開いて(藤田霊斎)

●肛門は重要な身体部位だ。腸の手術をした人の話では、手術後おならをすると、固形物まで出てきてしまって困るという。健康なときの肛門は、固体か気体かをギリギリのところで判断して、出し分けているのだ。このような驚くべき高等技術を、さりげなく行っている肛門は、実は偉い存在だ。

高慢自我の民は地獄の先達ぞ。世尊は深く教え給いぬ。(藤田霊斎)

老いてなお、己が勤めにいそしみて、微笑み暮らす身こそ楽しけれ。(藤田霊斎)

我人の道は一筋調和道。ゆめな迷いぞ道は一筋。(藤田霊斎)

適応の修練程度を守れかし。過不足ともに萎縮退嬰(藤田霊斎)

 私たちの身体は、使わなければ廃用性萎縮を起こし、使い過ぎれば過用性萎縮を起こす。いずれにしても「過不足ともに萎縮退嬰(たいえい)するものだ。「適応」しているとき、自ずと微笑みが表れるのだろう。

雑念と妄念は病魔の元の原。せめて欲しきは凝念の境。(藤田霊斎)

普賢経に一切の業障の海は、皆妄想より生ずとある。「雑念と妄念」とは、心のエネルギーが分散して統一して働かない状態で、磁気の流れが一方向に揃って磁石のように心が働くのが「凝念」だ。横隔膜によって腹圧を高めて、いつも下腹部に気力を充実させておくと「凝念状態」が現れ、その凝念状態が作用となって現われるときの力が「観念力」だ。観念力まで行かなくても、せめて凝念という境地を実現したいものである。

腹を作るための呼吸の仕方の要点は、「呼吸に意識を込める」ことだ。日常無意識に行っている呼吸を、意識的に行なうのだ。その意識呼吸の実践が、腹(丹田)に充実感をもたらす。つまり、意識呼吸は丹田呼吸になるのだ。修行だ、修養だと言うと物々しいことになるが、要するにそれは、時々意識呼吸に切り替えることに始まるということだ。

ブックマークボタン
posted by samten at 04:39| 読書録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
検索する
投稿する
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。