ユスリカ ~大量発生のひみつ
生態系の大切な一員でもあるユスリカは、ときに大発生して人々を困惑させることがあります。
ユスリカは、水たまりがあればどこにでも
ユスリカは清流から汚い水まで、河川や側溝、池などの水中に幼虫が育ち、水の中から成虫が羽化します。日本には大小さまざま約2000種が知られる、とても身近な虫です。幼虫が水のなかの有機物を食べて育つので、水をきれいにしてくれる大切な存在でもあります。
「蚊」の近縁種ですが、口がない種類が多く、人の血を吸うことはありません。成虫が大量発生することがあり、大きな蚊柱を作ったり、壁を覆い尽くしたり、死骸が山と積もったりして「不快」であるというのが主たる被害です。
成虫の寿命は大変に短く、一週間以内で死ぬものがほとんどです。
また、現在の日本において感染症の原因となる病原菌やウイルスを媒介するという報告はありません。
生態系においては、生物の種類が豊かな場所では、捕食者となる天敵や競合相手がたくさんいるため、生き物の数はそれほど大きく変動することがありません。
ただし、環境に大きな変化が起こった場所や、人為的に作って間もない環境では、生物の種類が豊富ではないため、ユスリカに限らず特定の生物の大量発生が起こりがちです。これは生態系の遷移の過程に起こる自然の現象の一つでもあります。
また、大発生には必ずピークがあり、いつまでも同じ生き物の天下が続くわけではありません。大発生には「終わり」があります。
汽水・海水で発生する「シオユスリカ」
現在開催中の大阪・関西万博の会場にユスリカの一種「シオユスリカ」が発生しています。このユスリカは、珍しくも海水と淡水が混ざる汽水域や潮だまりなど浅い海水に発生する種類です。
あまり大量発生の事例は多くはないのですが、大阪では2000年に埋め立て中の港湾地区に大発生したという記録があります。
シオユスリカは、昼間は植栽の中や、風があまり当たらない場所などに潜んでいるようですが、日暮れ時に「群飛」と呼ばれる行動をとります。オスの成虫が集団で「蚊柱」を形成し、そこに突っ込んでくるメスとの出会いを待つのです。
また、群飛を終えた夜になると、灯火の光に多数が寄ってくることがあります。
交尾に成功した虫は、水の中にゼリー状の卵を産みつけ、水中の泥の中で幼虫が育ちます。なお、水がないと育つことができませんので、土の中や建物の壁などに卵を産み付けて増える、などということは決してありません。
また、シオユスリカは、汽水や海水などの塩水で幼虫が育つ種類なので、この種については万博会場内の他の池など淡水で大量繁殖することも考えにくいです。
ユスリカ成虫には口がない種類が多く、消化管さえ退化した種もあります。羽化してからは、とにかく交尾を成功させて卵を産めば、すぐに死んでしまう、大量発生で鬱陶しいけれども儚い昆虫でもあるのです。
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