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FGO:レイシフトとは何か(現状のまとめ)
筆者-Townmemory 初稿-2025年5月24日
[奏章4までの情報を元にしています]
FGOには「レイシフト」という謎技術があります。一言でつづめていうと、「過去ないし未来の特定の場所に人間を一瞬で送り込む」という技術。ほぼタイムマシン。
どういう理屈でそんなことが可能になってるのか、という問題について、個人的な考えが、あるていど腹落ちするところまでいきましたのでまとめておきます。
なおこの件に関する過去の記事がこちら。読んでおくとひょっとしたら理解が早いかもしれないです。
FGO:続・置換魔術(確率化する私たち)
■特異点に過去のぐだはいないのに
物語の描写からみえるレイシフトの手続きは、こんな感じになっています。
1)ぐだちゃんをコフィンに放り込む。
2)ぐだちゃんを霊子変換する(よくわかってない)。
3)なんかズバァアアンというトンネルくぐるようなエフェクトがあって、特定の時点・地点にぐだちゃん出現する。
なんかこう、描写だけみると、
「コフィンの中にいる人物を、別の時空への送り出し可能な状態に変化させて、送り出す」
ということをやってるように見えます。『スタートレック』の転送装置のような。あるいは『ハエ男の恐怖』における物質電送機のような(という例えはいまやどれだけの人に伝わるのだろう)。
けど、作中のこまかい情報を整理していくと、上述のSF映画みたいな、「人間を細かい粒にして、出張先までストローでフーっと吹き出して、現地で肉体を再構成する」というようなことはやってないみたいです。というのも、モルガンが「レイシフトで送れるものは情報のみ」っておっしゃってるんですね。
(モルガン)
レイシフトで送れるものは情報のみ。
実体のある人間を棺(コフィン)で情報体……疑似霊子化し、
『特異点』に転移させる。
『特異点』が正常な時空間ではないからこそ
可能となる、よく出来た魔術理論だ。
『Fate/GrandOrder』妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ 21節
情報のみって言うくらいですから、ぐだの身体のような「物理的実体」は、レイシフトにおいて、一切移動していないとみることができます。
モルガンは、2部6章アヴァロン・ル・フェで、レイシフトによって過去の異聞帯ブリテンに飛ぶということをしていました。
モルガンは自分の情報を過去に飛ばした。
その結果、異聞帯における過去のモルガン自身に、現在のモルガンの記憶や情報、情緒がまるごと転写されるという現象が発生しました。
(現在のモルガンは霧散した、消えてなくなったとのことです)
レイシフトは、個人の「情報」しか移動できない。個人の肉体(実体)をそのままレイシフト先に運ぶことはできない。
ただし、行き先に過去の自分自身がいるならば、過去の自分を「実体」とすることで、そこにレイシフトする(情報を送り出して転写する)ことができる。
じゃあぐだの場合は?
ぐだのレイシフト先である特異点には、たとえば古代ローマや古代メソポタミアには、実体となる過去のぐだはいません。
なら、特異点で実体を持って活躍しているぐだちゃんの身体はいったいどこから現れたの? って話になる。
・レイシフトは情報しか送ることができない(事実)
・人物をレイシフトする場合、送り先にその人物本人がいないとレイシフト不能(推定)
・過去の世界に過去の自分がいる場合、その過去の自分を情報の受け皿として、レイシフトすることができる(事実)
・古代ローマにぐだはいないはずだが、ぐだは古代ローマにレイシフトできる(事実)
前段3つと最後の1つが矛盾しています。
話の流れからすれば、古代ローマにぐだをレイシフトするためには、
a)実はレイシフトは情報だけでなく実体も送り出し可能
であるか、
b)実は古代ローマにもぐだ本人が存在する
であるか。このどっちかの条件がなければならない。
どっちが面白そうか、でいえば、「古代ローマにもぐだが存在する」のほうが、面白そうだ。
■またしてもシュレディンガー先生のお話
常識で考えれば、現代人のぐだの身体が古代ローマに存在してはいけないわけですが、FGOの世界観には、常識をまるっとくつがえす「魔術」や「魔法」があります。
そういうあやしげな邪術の中に、
「古代ローマにぐだの身体をむりやり存在させる」
というものがあればよい。
その、存在「させる」のための機材が、いわゆる「コフィン」じゃないかという考えです。
コフィンは直訳すればかんおけ。ようするに箱。人間がそこに入って、コフィンを稼働させると、コフィンの中身は外部からまったく観測不可能な状態になる。
外部からまったく観測不可能な箱といえばこれはもう「シュレディンガーの猫」を入れた箱を連想するしかない。
外部からは中身がまったく観測不可能な箱に猫を入れる。箱には、50%の確率で致死性の毒ガスが充満するスイッチがついている。
そのスイッチを押す。
箱のフタは閉じたまま。
この観測不可能な箱の中には、50%の確率で生存中の猫がおり、50%の確率で死亡した猫がいる。
一般的な常識では、
「この箱の中には、生きている猫か、死んだ猫か、そのどちらかが片方がいる。外からはそれが判別できないだけだ」
という考えになる。
しかし、量子力学の分野では、「そうではない」と言う。
「猫の状態はいまだ確率的であり、どっちなのかはまだ定まっていない」
「この箱の中には、生きた猫と死んだ猫が重なり合って両方いるのである」
ということを言うわけです。凄いよね。
でも猫は1匹しかいない。猫が2匹になって出てくるわけじゃない。箱を開けたら1匹の生きた猫か、1匹の死んだ猫かのどちらかだ。それはいつ決定するの?
それは「箱を開けて、誰かが猫の状態を見た瞬間に確定する」のだそうです。「見るという行為によってそれが確定する」。
ちょっと学問の分野から相当離れた曲解的な言い方をしますが、極論するなら、猫を殺したのは毒ガスじゃないのです。猫殺しの犯人は「見た人」で、死因は「観測」。
猫が生きてた。生きてた理由は毒ガスが出なかったからじゃなく、「生きた猫を観測した」という行為があったから。
さて、コフィンは外部から観測不可能な箱であり、ぐだは生きた猫である(かわいい)。
コフィンにぐだを放り込む。
コフィンには毒ガス装置は設置されていないので、ぐだの生死を問う必要はありません。ですが、こう捉え直してみてはどうでしょう。
「コフィンは外部から観測不可能なので、コフィンの中に、本当にぐだがいるのか、それともいないのかはわからない」
だって、箱に人間を入れてみた、開けてみたら誰もいませんでした、なんて、手品やミステリー小説の世界ではありきたりに起こってることじゃありませんか。マジックの世界で当然発生しうることが、魔術(magic)や魔法(true magic)で起こせないことなんてあります?
となると、コフィンの中には、「ぐだがいない」という可能性が50%ぶん入っていて、「ぐだがいます」という可能性が50%入ってることになる。ふたつの可能性がかさなりあってコフィンの中に入っている。
どっちなのかはまだ決定していない……というか、「両方入っている」ので、どっちなのかという問いは無効です。
いま、ぐだをコフィンに入れたはずなのに、論理と魔術の詐術によって、「この中にぐだはいません」という可能性を50%発生させることができました。凄いな。
コフィンの中にぐだがいないとするならば、ぐだはどこにいるのか。
箱の中に人を入れたら人が消える手品。人はどこにいったのか。もっとも間違いのない答えは「箱以外の全世界のどこか」。
なら、コフィンの中にいないぐだはどこにいったのか。「コフィン以外の全世界のどこか」である。
コフィンの中に50%の確率でぐだがいないなら、コフィン以外の全世界のどこかに50%の確率でぐだがいる計算になる。
はい、そこで。
我々はぐだちゃんを、全世界のどこかではなく「特定の特異点で」見つけたいのです。
■観測が結果をつくる
たとえば古代ローマにぐだをレイシフトしたいなら、まずコフィンにぐだを放り込んで、
「この中にぐだはいないかもです」
という状態をつくる。
ついで、
「コフィン以外の全世界のどこか、なかんずく古代ローマにぐだはいるかもです」
という現実を発生させればいい。
「猫が生きている理由は生きた猫を観測したからだ」という話がありました。
これを敷衍すると、
「古代ローマにぐだがいるとすれば、その理由は古代ローマでぐだを観測したからだ」
カルデアには、カルデアスとシバという、地球上の特定の場所をめちゃめちゃ精密にサーチする便利な機械がある。
これを使って、さらにあやしげな魔術をそえて、
「古代ローマにおいて、ぐだを絶対に見つける」
ものとする。
すると「古代ローマにぐだの身体が存在する」という現実が発生する。
コフィンからぐだは消えたので、世界のどこかにぐだは絶対にいる。世界のどこかにぐだはいるなら、その中の古代ローマにぐだがいる可能性はある。その小さな可能性を魔術か魔法で100まで引き上げる。
本稿のお話では、「観測が現実を決定する」ので、観測が可能だったものは絶対にそこに存在するのです。
常識で考えれば、
「ぐだがそこにいるから(原因)、そこにいるぐだを観測することができる(結果)」
のです。
だけど、量子力学的アイデアを暴論でぶんまわして、
「望んだものをそこに魔術で観測してしまえば(原因)、望んだものがそこにいることになる(結果)」
という形に転倒させる。
別の稿でも言いましたが、「当たるという結果を発生させてから槍を投げる」ゲイボルグにすごく似ている。
ぐだの身体が古代ローマに存在することになりました。なら、もう何も難しくない。情報の受け皿となる身体が存在する場所にはレイシフトが可能です。
ぐだの情報を、古代ローマのぐだの身体に向けて送信する。すると、古代ローマに存在するぐだの身体は、現在のぐだの記憶・知識・情緒などが宿った状態になり、ぐだは実体を持った存在として古代ローマで活動可能になる。
ところでこの話、
「コフィンからいなくなったぐだが古代ローマで見つかるのだから、情報の送り出しって必要なくない? だっていなくなった人がそこに現れるんでしょう?」
とも思うのですが、たぶん必要なんでしょう。
たとえば、
「いま古代ローマで観測できたぐだちゃんが、いまコフィンに入ったぐだちゃんとは限らない」
ぐだは何十回もコフィンに入っている。いま古代ローマでみつけたぐだは、ひょっとして過去のレイシフトでコフィンに入ったぐだかもしれないし、未来のレイシフトでコフィンに入ることになるぐだかもしれない。
けど、古代ローマに存在してほしいのは、いまコフィンに入ったぐだなので、現在のぐだの情報を送り出しして転写する。
古代ローマにいるぐだがいつの時制のぐだであろうとも、転写によって、そこにいるのは現在のぐだになる。
■特異点はレイシフトが容易
しかしながら、この話には大きな問題点があります。
ぐだは現代人なので、古代ローマの時代には絶対に生まれていない。
だから、古代ローマでぐだが観測される確率はゼロパーセントである。どんなに探そうとも絶対に見つかるはずがないです。
この問題を解決しそうなのが、「レイシフトは原則的に特異点に対してのみ可能」という設定です。
(あれ、そういう設定があったと思うのだけど出典が出てこない。ぐだは原則、特異点にしかレイシフトしませんよね)
特異点は、歴史の流れから切り離された浮島のようなもので、前後の時代との整合性がまったく無視されており、その時代のその地域では絶対に起こらないことが平然と起こります。独立戦争時代の北アメリカに古代ケルト軍!
前後の歴史的整合性をまったく無視してよいというルールがある古代ローマには、現代人のぐだが存在してもよいので、現代人のぐだをシバで観測できてしまう……。
同じ引用をもう一回しますけど、モルガンはレイシフトをこう評価している。
(モルガン)
『特異点』が正常な時空間ではないからこそ
可能となる、よく出来た魔術理論だ。
『Fate/GrandOrder』妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ 21節
特異点みたいなあやふやな場所には、何でも存在していいので何でも送り込めるよね、くらいを言っているように見えます。その時空に本来存在しないぐだちゃんでも平然と存在していいってことになりそうですね。
■帰り道には体があります
特異点で仕事を終えたぐだは、カルデアに帰ってきます。
帰り道はどうするか。逆の手順でいい。
コフィンの中に、ぐだはいるかいないか半々だ。ボリュームつまみ(か何か)をジワーとひねって、「コフィンの中にぐだはいます」のほうをアクティブにする。
同時に、特異点のぐだから、ぐだの情報を回収する。
その情報をコフィン内のぐだの身体に再転写しておしまい。
これって、特異点にいるぐだ視点では、
「カルデアにある自分の身体に向かってモルガン式レイシフトをする」
行為になる。
なので、コフィンに入ってない特異点のぐだの身体は、モルガンがそうであったように霧散(消滅)する。
対象物をレイシフト先に存在させるためには、元の場所において不存在にならないといけない。なので元の場所の対象物は強制的に不存在になる=霧散消滅する。
元のモルガンはレイシフトしたら消滅し、特異点のぐだはカルデアにレイシフトしたら消滅する。
といった理解です。
つまるところコフィンの役目は、中に入ったぐだちゃんの身体を、「消滅したかなぁ~? それともこの中にまだあるかなぁ~? どっちかなぁ~?」というあやふや状態にすること。
ぐだちゃんが特異点に出張してるときは、
「コフィンの中のぐだちゃんは消滅してるかもしれない。じゃあ消滅ってことで、レイシフト先の特異点にいてもヨシ!」
という判定になっている。
ぐだちゃんが特異点からカルデアに帰ってくるときは、
「消滅してると思ったぐだちゃんは実は消滅してなかったから、ぐだちゃんはコフィンの中の身体に帰ってこられます。帰還成功。ヨシ!」
という都合のいい処理をする。
コフィンの目的は、
「(現在のぐだを疑似的に消滅させることで)レイシフト先でぐだの身体を発見できるようにする」
ことと、
「ぐだの身体を保存し、ぐだが特異点から帰ってこられるようにする」
ことの二つです(本稿の説では)。
なので、レイシフト先に自分の身体が確実に存在しているとわかる場合にはコフィンはいらない。
現実時間・現実場所に帰ってこられなくてかまわない場合にもコフィンはいらない。
だから、レイシフト先に自分自身がいることがわかっていて、6000年生きたら現代に戻ってくるモルガンは、コフィンを必要としなかった。
●100万の重なり状態のぐだ
ぐだはレイシフト成功率100%の逸材だ、という話がありますね。
本稿の序盤に挙げた以前の記事でも述べたんだけれど、なぜぐだが逸材かというと、ぐだという人は、私たち大量のFGOプレイヤーが一人の身体に詰め込まれた重なり状態の存在だからかもしれません。
1~2年前のデータですが、FGOは推定で約100万人の月間アクティブユーザーがいるそうです。現在ではちょっと人数が落ちてるかもしれませんが、この世にはだいたい100万人のぐだがいると考えてよい。
ぐだは1人しかいないのだけど、しかしこの1人のぐだは、100万人ものぐだが重ね合わされた多重存在だといえます。
猫を箱に入れてボタンを押したら、生きた猫と死んだ猫の二種類が重なりあった多重存在になりました。
それと同様に、ぐだはプレイヤー0000001番からプレイヤー1000000番までの100万種類が重なり合った多重存在です。
ぐだをコフィンに放り込んでフタをしめると、ぐだがコフィンの中にいる確率は50%です(文章にしてみると凄いこと言ってるな)。
しかし、ぐだを100万通りの重なり状態だとするなら、この50%はただの50%ではなく、
「50%÷1000000×1000000」
という式で表せるのです。
つまり、50%÷1000000=0.00005%の確率で「ぐだ0000001番」がいる。
0.00005%の確率で「ぐだ0000002番」がいる。
0.00005%の確率で「ぐだ0000003番」がいる。
これが100万回続いて0.00005%の確率で「ぐだ1000000番」がいる。
そして、コフィンの中にぐだが「いない」確率も50%なので、言い換えれば「(コフィンを除いた)どこかの特異点にぐだがいる確率」も50%。だから、
どこかの特異点に0.00005%の確率で「ぐだ0000001番」がいて、
(中略)
どこかの特異点に0.00005%の確率で「ぐだ1000000番」がいる。
すなわちぐだは、コフィンに閉じ込めて「存在・不存在」を検証不能状態にしてやると、世界中にうっすら散らばって全時空に遍在する人物になりうる。
この世の全時空に遍在しうる人物は、特定の特異点で存在を観測することがたぶんめちゃくちゃたやすい。
これが通常の人間だったら、
「人類史の長大なスパンの中で、大小いくつも存在しただろう無数の特異点のうちのどれかに、50%の確率で、たった一人存在する」
となるので、観測は困難をきわめる。この場合おそらくレイシフト成功率はゼロにひとしいだろう。
と、いうのが、ぐだのレイシフト成功率100%の正体なんじゃないかという話。
■アンサモンとサモンと英霊召喚
レイシフトの実行シークエンスで、システムアナウンスが、
「アンサモンプログラム・スタート。霊子変換を開始します」
みたいなことを言ってるのを目にします。
アンサモン。
サモン(summon)は召喚するという意味。それに否定の接頭辞のunがついていますから、直訳的には「非・召喚」くらい。たぶん「逆召喚」くらいのつもりで使われてるんじゃないかな。
unsummonで検索してみると、マジック・ザ・ギャザリングの「送還/Unsummon」というカードが出てきます。伝統的な英語ではないようで、ウィクショナリーには現代ファンタジー用語として紹介されています。「(召喚されたクリーチャーを)もとの場所に送り返すこと」と書いてありますね。
FGOは、レイシフトでぐだを特異点に送り込むという行為を「逆召喚」または「送還」と表現する。
言われてみると、英霊の座から英霊を取り寄せることが「サモン(召喚)」なのですから、ぐだをどこかに送りだすことは「アンサモン(逆召喚)」ですわね。
カルデアから特異点にぐだを送り出すのが「逆召喚」であるのなら、ぐだを特異点からカルデアに呼び戻す行為は「順召喚」、つまり「召喚」ってことになります。
いま特異点に立っているぐだを情報のみに変換し、その情報をカルデアに取り寄せて、コフィンの中のぐだの身体に転写する行為(レイシフト)は「召喚」である。
あ、と思ったのですが。
英霊の情報を英霊の座から取り寄せて、魔力で作ったマネキン(身体・霊基)にその情報を転写して、活動可能状態にする……というのが、カルデア式英霊召喚でした。
おんなじことをやってる。
つまりレイシフトとカルデア式英霊召喚は同じものだ。
カルデアが、レイシフトと英霊召喚というすごい技術を二つも持っているのは当然のことだ。なぜならこの二つは同じものだからだ。
両方とも、
「何らかの物理的な身体を用意しておいて、そこに記憶やスキルや情緒(情報)を憑依させる」
ものであって、ほぼ何も違わない。
それでふと思い出したのが、モルガンの話。
ブリテン異聞帯でベリル・ガットに召喚されたモルガンは、その日のうちにレイシフトを完全解析し、その夜のうちに過去の自分にレイシフトしました。
召喚されたその日、モルガンは、ベリルと挨拶しかしていない。彼女はレイシフトを見てもいないし体験もしていないのです。見たこともないレイシフトをなんで解析できるのか。
でも、モルガンはカルデア式英霊召喚でついさっき召喚され、それを自分の身で体験しました。レイシフトとカルデア式英霊召喚がほとんど同一のものなら、英霊召喚を解析してレイシフトを会得できます。
また余談のような話になりますが、『型月稿本』によれば、ゼルレッチの並行世界移動法も、レイシフトとほとんど同じアイデアになってます。
たとえばA世界からB世界に移動するのなら、B世界にある宝石がザザーッとゼルレッチのカタチになるまで集まって、そこにゼルレッチの魂が転移する。瞬間、宝石ゴーレムはゼルレッチに変身する。この時点でA世界にいたゼルレッチは元の宝石の山に戻る。
竹箒『型月稿本』p34
レイシフトは魂を扱っているから、第三魔法がらみの技術なんじゃないかと思えるけれど、じつは第二魔法から派生した技術がそうとう使われていそうな感じ。歴史上のどっかの段階でゼルレッチがアニムスフィア家に技術提供したとか、そんな裏事情はあってもおかしくない感じだ。
さらに余談で話を発散させますが。
カルデアスは地球の模型に地球の魂をコピーしたものだとされていますね。
これ、ちょっと言い方をいじれば、レイシフトみたいに言えそうだ。
「地球の模型という物理的実体をあらかじめ用意しておいて、そこに魂の情報を憑依させる」
カルデアスを作ったエンジニアリングの基礎も、実はレイシフトなんじゃないか……。ただ、コピー元のオリジナル地球が霧散消滅してないのがちょっと変かもですね。
たとえば、「オリジナルが爆散する理由は、まったく同一のものが二つ存在してはならないというルールで世界が修正力をかけているから」くらいに想定し、「地球は世界そのものだから世界の修正力は働かない」くらいに言えばいいのかもしれない。
カルデアスのコアエンジニアリングもレイシフトなら、
「英霊召喚」
「レイシフト」
「カルデアス」
というカルデア三大超技術が、全部ひとつの基礎理論から作られていることになる。アニムスフィア家が基礎理論を持っていたら、三つの超技術は全部作れてしまう。
いいね。こういうタイプの「一点に収束する真相」って、私、大好きなんです。
(このブログは基本、「私、こういうの好み」を書くところ)
■生死不明の重ね合わせ状態
関連書籍等でレイシフトについて書かれたものを見ていると、コフィンの機能を、
「魔術的に作成した、生きているが死んでいる箱」
「マスターの生命活動を不明状態にする」
といったように説明しているのを見かけます。
直近のところでは『ますますマンガで分かる!Fate/Grand Order』でも同様の説明がありました。
(ガレス)
つまり 情報を遮断した 密閉空間に
生死不明の 重ね合わせ状態
を作り出して おいて
別の時空に 自分の情報を
投影するのが
レイシフトの しくみ なのですね
リヨ『ますますマンガで分かる!Fate/Grand Order』第405話
本稿で「存在・不存在」と呼んでいる状態と、「生きているが死んでいる」「生死不明の重ね合わせ状態」は、同一のものとみてよさそうです。
私個人には「存在・不存在」という言い方がわかりやすいのですが、これを「生か/死か」で表現していることには強い意味があると思います。以下それについて。
ひとつめとして、「生死不明の重ね合わせ状態」という言い方は、きわめて強力に「シュレディンガーの猫」を連想させます。レイシフトのコアアイデアはシュレディンガーの猫ですよ、という真相に導く(これが真相だとするならですが)重大なヒントになる。
ふたつめ。英霊召喚は、「情報だけになった死者に魔力の肉体を与えて憑依させる」ものです。英霊とは死者である、という念押し表現はあちこちに出てきます。
そして本稿では英霊召喚とレイシフトは同一のものです。
英霊召喚の説明にも、レイシフトの説明にも「生死」の表現をちりばめることで、「英霊召喚とレイシフトは同一のもの」という仮説に到達しやすく(仮説を構成しやすく)もなっている。
英霊召喚は死者の情報を取り寄せる技術で、レイシフトは対象を疑似的に死者にして情報を送り出す技術、という言い換えができますね。
これひょっとして「死者の情報を扱う技術」なのかな。
みっつめ。Aチームはコフィンに保存されていたとき、謎の光に呼ばれて「生きるか死ぬか選べ」と言われていました。コフィンの中で「生きてるが死んでる重なり状態」にある人物が、「生きるか死ぬか選べ」と言われるのはきれいに整っている。
奈須きのこさんがレイシフトの設定を作ったとき、すでに「Aチームが生死の選択をせまられる」というプランは握られていたでしょう。設定とストーリーがうまく合わせてある。
(こう考えると、生きたり死んだり自在な虞美人パイセンにレイシフト適性があるのはめちゃめちゃ納得だ)
よっつめ。
「生/死」と「存在/非存在」が同じものとするならば。
「死んだ人間はその場において不存在と判定されるので別の場所に存在していい(レイシフト可能)」
ということになる。(くどいですが本稿における仮説)
この話が示唆する最大の極論は、
「死んだ人間は、どこか別の場所で生きてることにできる」
これを使ってカドックを蘇生できたら御の字なんだけどたぶんそう都合よくはいかなくて、これで生き返るのはデイビットに詰められて拳銃自殺したマリスビリーだろう。
拳銃自殺したマリスビリーはその時点で「不存在」という判定になるのでレイシフト可能条件を満たす。
マリスビリーはレイシフトによって、死んだ瞬間どこか別の場所に生きた状態で出現することができる。死んでさえいれば不存在判定を満たすので、死体がそこに転がっていても問題はない。
■レイシフトの目的
(モルガン)
異聞帯という隔絶世界において、
これだけの力を発揮する術式は、異常だ。
……この先、機会を得る時があるのなら、
もう一度、原初の因果に立ち返るがいい。
カルデアとは何なのか。
レイシフトとは、何のために用意されたものなのかを。
『Fate/GrandOrder』妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ 24節
「レイシフトは何の目的で作られたのか考えてみろ」という宿題を出してモルガンは去って行きました。
出題者のモルガンは、レイシフトで過去に飛び、歴史改変を行った人です。それよりキッツイことは多分やってない。モルガンは「レイシフトで実現しうる究極の事象は歴史改変だ」と思っていそうです。
じゃあ、素直に考えて、宿題の模範解答はこうでしょう。「レイシフトは過去を改変するために作られた」。
レイシフトを実用化したのはマリスビリーなので、マリスビリーは過去改変のためにレイシフトを開発した。
おそらくすでに過去は改変されており、登場人物はそれを知らないだけでしょう。
ここで詳しく書いたのだけど、マリスビリーは聖杯戦争というものが2004年に行われていたことを事後に知った。どこかの誰かが勝利して願いを叶えたとのことだ。オルガマリーによれば、カルデアがそれを知ったのは2010年。
(オルガマリー)
そのラプラスによる観測で、2004年のこの街で
特殊な聖杯戦争が確認されているのよ。
(略)
カルデアがこの事実を知ったのは2010年。お父さ……
いえ、前所長はこのデータを元に召喚式を作った。
『Fate/GrandOrder』序章 4節
もし2004年の聖杯戦争に参加していたら、カルデアスを稼働させるための燃料代を稼げていたのに……と2010年のマリスビリーは考える。
そこで、この聖杯戦争に登場するサーヴァントの弱点を調べておき、2004年以前の自分自身にレイシフトする(自分の自然死の瞬間に実行すればいい)。自分が死ぬ瞬間までのすべての経験を持った若い自分が過去に発生する。
ソロモンの指輪を入手して2004年の聖杯戦争で無双する。手にした資金でカルデアスを完成させる(歴史改変成立)。カルデアスで地球白紙化を決行する。
この想定の場合、マリスビリーが改変した歴史は「2004年聖杯戦争」の勝者。これにより、本来なかったはずの「カルデアスが完成」というイベントが発生するので、地球白紙化が起きる。つまりFGOにおける2004年以降の歴史は、本来の歴史から分岐した枝。
このへんのことは、以下の動画に教えられて書いているものなので、ご覧になって下さいね。
【FGO考察】特異点Fに関する現状の論理的考察(れもんまい)
■正史か特異点か
この話の流れで言うと、「マリスビリーが聖杯戦争に参加しなかったのでカルデアスも完成しなかった歴史」が本当の正史なのであって、ダ・ヴィンチちゃんやぐだが正史だと思っているものは、少なくとも2004年以降に関しては「正史とはいえない」のではと疑える。
ところでモルガンは正史ではありえなかった「空想樹を枯死させる」というイベントを発生させ、正史ではありえなかった妖精國を建国し、正史には存在しない女王歴を2000年間積み上げました。空想樹の枯死以降はブリテンは異聞帯ではなくなったので、それ以降は「特異点」と呼ばれている。
じゃあ、マリスビリーの過去改変で生まれた、正史とはいえない2004年以降の世界は、なんと呼べばいい?
それって、「特異点」と呼べるのでは……。
マリスビリーが歴史を改変しようとしたために、2004年の冬木市はおそらく特異点化した。それが修正されることなく継続したらどうなる? 全世界に広がる。特異点が正史を乗っ取る。
FGOの登場人物は、特異点Fのことを特異点だと思ってる。なぜなら自分が属する世界を正史だと思っているからだ。
でも、FGOの基準平面がじつはぜんぶ特異点なんだとしたら?
特異点からみて特異点に見えるもの。
もし仮に、FGOの冬木市に正史がコリジョンしてきたら、それは特異点に見えるだろう……。
特異点Fは、この世全てが特異点となった世界に一点だけポワッと浮かび上がった正史の空間なのである……。
なんていうアイデアは、世界がひっくり返った感じがして私の大好物です。
だから特異点Fには、正史の聖杯戦争の本来の勝者であるセイバーが仁王立ちしている。セイバーはこの「特異点に見える実は正史」の時空で全世界を再上書きし、「正しい歴史を取り戻す戦い」に勝とうとしている。特異点修正をしているのはセイバーのほうだったんだ……。
なんて展開になっていったら、それはそれで大問題が発生しますね。セイバーに肩入れしたくなるけれど、セイバーに勝たせたら白紙化の問題は消えてなくなるかわり、これまでのぐだの旅路もぜんぶなかったことになる。なかったことになってもいいのか? 私は絶対いやですよ。
でも、「ぐだの世界は存続してもらったら困るので、ぐだの世界には消えてもらいます」は、異聞帯の物語をまるごとひっくり返したものなので、これを主人公につきつけるのは魅力ある展開だよなあ……とも思います。以上レイシフトに関する考えのまとめでした。
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