舞台「艦これ」は成功であった
1.はじめに
はい、センセーショナルなタイトルですみません。
こちらのえるこ氏のnoteである『舞台「艦これ」は失敗だった』に触発され、それに対して批判的な立場を取っている文章となります。
また、ハッシュタグ的には艦これ舞台の方が主流ですが、舞台艦これの方がなんか僕はしっくりくるので本noteでは舞台艦これって書くと思います。
批判的立場から文章を起こすにあたり、えるこ氏と僕との違いを明確に示した方がえるこ氏と読み手に対して真摯であろうかと思いますので、先に示します。
艦これの沼浸かって早12年、ランカーは狙わない程度のゆるゆるアクティブユーザーです。推しは鈴熊とフェニックスと葛城。
アーケードは学生時代はやってましたが、百円玉が足りなくなって足が遠のいてしまっています。狂ったように鈴熊の建造ガチャは回していたよ・・・
リアイベは結婚以来あまり行ってないですが、観艦式と新春ライブは全通、呉佐世保はイベント日を外して訪問、氷祭りと深海サーカスに脳を焼かれています。
推しは無良提督と磨鎖鬼様。
舞台観劇は学生時代から宝塚を配信(スカステ)で少々、現地も貸切公演を幾度か、四季も数回嗜む程度のベリーライト観劇マンです。
あとは少女☆歌劇レヴュースタァライトを少々追いかけ、複数回現地チケットを握りましたが大体がコロナで中止となりました。おのれ。配信ありがとう。
ウマ娘はチケット握ってましたがやっぱり公演中止で配信。配信ありがとう。
そんな感じで非常にゆる〜く、それこそ年1レベルですが趣味に観劇は入っています。
えるこ氏とは
・艦これプレイヤーとしてのプレイ頻度
・推し艦
・見ているジャンル
・舞台観劇頻度
が明確に異なります。
また、舞台とは斯くあるべしという信念はありません。
(というか、そうやってハードル上げてハードル上げてどないするん的な立場です)
2.舞台の成功って何?
さて、そんな僕から見て舞台「艦これ」は舞台として成功であったと感じています。
しかし、その前に何をもって成功か、観客であった僕なりの要素を示します。フェアな議論に近づけたいので。
ここでは少々古い(2006年)ですが、
高橋孝志氏の、PINstage高橋孝志「さくてきブログ2」
による、公演の成功の要素を引用します。
高橋氏によると、公演の成功の要素とは、
① 舞台で行われた表現のクオリティ、完成度、エンターテイメントなど
② 観客の満足度(CS)
③ 内部メンバーの満足度(ES)
④ 制作的な目標達成度(予算・動員・認知度等)
⑤ 外部メンバー・関係者の満足度(外部スタッフや、劇場側とか)
⑥ 今後につながる成果(実験に成功して次の発展が見込めるとか、人脈が広がったとか)
以上の6つの要素ではないか、と考察されています。
では、観客が舞台の成功を議論するに際し、どの要素を議論すべきでしょうか?
①②は観客が定義する成功の要素として間違いないでしょう。これは議論するべきです。
③④⑤は観客の立場から測定困難であり、触れてはならない領域です。観客の領分を超える以上、議論するべきではありません。avexとC2機関の偉い人が考えることです。
⑥は観客が期待する今後として議論の余地があるでしょう。議論しても良いかもしれません。
よって、本noteでは①②⑥の要素からなぜ舞台艦これが成功であったかの理由を述べていきたいと思います。
3.①舞台で行われた表現のクオリティ、完成度、エンターテイメントなど
いきなり難しいの来ましたね。なんなら舞台の成功の9割はこれではないでしょうか…
さて、舞台で行われた表現のクオリティ、完成度を評論家でも専門家でもないド素人の観客が軸もなく議論する事は非常に難しいですので軸を一本定めます。
舞台である以上、観たもので議論すべきであり、舞台艦これである以上、艦これであったか?という軸で議論するべきでしょう。
この軸であれば、私は間違いなく高いクオリティと完成度で艦これを表現したエンタメであると感じました。
まず最も重要であるキャラのビジュアルの表現。
これについて、一般的にどの様に表現すべきか、その確立した手法は存在し得ないというのが前提です。
もし、一般的にこうである。と決め打ちが出来るのであれば、恐らく観ている範囲が相当狭い(もしくは意図的に観ていない)と批判します。例外出されたらどう説明するのでしょうか…あくまで「私の中の一般的な舞台としては」を付けるべきでしょう。
また、観劇を趣味として物申す立場からのグッズ絵と実際のビジュアルに差異があるから違和感を覚えた。という批判は失当です。
完全に二次元的表現と三次元的表現の差異がない舞台を私は寡聞にして存じ上げません。ここでの違和感を批判の理由にするのはいささか難癖に近いでしょう。
(勿論、1MYBクリスマスライブの様に二次元を三次元に寄せることも可能ですが、当時の山田さんは金髪ではなかったためこれも差異が出ます)
私はキャラビジュアルの表現に正解は無く、あくまでキャラビジュアルは舞台で表現したいものに付属するものであり、観た人にどう感じさせたかが肝要であると主張します。
その点で評価すると、私にとって彼女らは艦娘そのものであったと感じさせたと言えます。
キャラ立ち絵のエッセンスを可能な限り三次元に落とし込み、違和感無くそこに生きて会話をし、食事を摂り、そしてインラインスケートで海上を駆けた。
舞台を語るならば、ビジュアル写真1枚ではなく舞台全体を通して観た物をして語るべきです。
そこにキャラに寄せたウィッグは必要だったでしょうか、目隠れでインラインスケートの高速走行は可能だったでしょうか。照明に負けない派手なメイクは必要だったのでしょうか?(深海棲艦のダンスでは派手目のメイクが映えていましたね!)
清霜を勇気づける流し髪の朝霜が、そして黒髪でシースルーバングな、サイドテールがちょっと短い霞がそこに"艦娘として生きていた"と私は思います。
さて、次に重要なシナリオ(脚本)ですが、88分という枠の中で、描くべきものを描いたと評価しています。何を描かず、何を描くかの取捨は難しかったと思います。
そこで描かずに観客に委ねたのが「艦これ世界観の提示」でした。
つまり、艦娘は深海棲艦と戦う存在である。という大前提は観客が持っているものとして舞台は進行しました。
それこそ説明すべきであろう。何故説明しないのだ。という批判は当然該当します。
そこに何故を見出すならば、各人の持つ艦これ世界観との干渉を避けた、もっと平たく言えば世界観での解釈違いを避けに行った。と考えられます。
艦これ、というコンテンツの特性上、12年の積み上げの中で各人が各人の艦これ世界観を持っています。逆に事細かに説明してしまうことで、解釈違いによる違和感が生じてしまい、舞台への没入感を損なう、という点を避けに行ったのではないかと思います。
しかしながら、それでも最低限提示したい世界観はあった。それが朝霜の「ひでぇ戦いだったな」からの冒頭の一幕、つまり大きな戦いで敗北したこと、戦力を多数失ったこと。
そして足柄さんによって敗北が重なっており、また礼号作戦で負けに行こうとしていることを皮肉る一幕。これらによって負けていること、多くの艦これ世界観と異なり、戦力が失われていることが示されていれば十分ではないでしょうか。
では逆に、何を描きたかったのかというと「生きている艦娘」だったのではないでしょうか。
普段、我々がブラウザ上で目にする艦娘の姿は一人あたり数枚の立ち絵と幾つかのセリフ、残りの動き、例えばセリフ外の姉妹艦の掛け合いは脳内での補間が行われています。
戦闘であっても、画面両サイドに艦娘と深海棲艦が向き合い、砲撃戦を繰り広げているわけですが、ここで繰り広げられている動きも一定のセリフ、立ち絵をベースとした脳内補完です。現実に動いて艦隊戦をしているわけではありません。
成長も、演習や出撃で経験値を積ませますが、それはあくまで数値であり、どう強いのかは数値以外で示されていません。
今回の艦これ舞台は普段提督の脳内で補完されている艦娘の生きている姿を描くこと。
これに殆どの時間とリソースを注ぎこんで描くことを選んだのだと思います。
その点からすると、我々が何気なく旗艦に選んでいる子は種々重圧に悩み、食事を選び、演習を指揮しているという点に一種の感慨深さを覚えます。
また、演習で段々と鍛えられていく姿、一方的にやられて艦隊運動も怪しかった杉榧樫が、立派に艦隊戦ができるようになっていく。
今までは数字でしか見れなかった練度向上が、グッと現実のものとして感じることができました。
生きている艦娘を描く、これが僕の感じた今回の艦これ舞台の主題だったとも言えるかもしれません。
最後、演出面に関してですが、会場の特色を最大限活かし、
所謂ハズレ席が出ないような最大限の配慮があったと評価しています。
ClubeXでやる以上、フラットな席配置であることは避けられません。
当然、後方席になればなるほどメインの舞台は見えにくくなります。
そこで舞台艦これは客席外周をインラインスケートで滑走し、戦闘もそこで行うこと、2階のバルコニー席を関係者分以外潰し、外周モニターを用意することでその課題を解決しました。つまり、後方席だからこそ見れたものを用意したわけです。ここは上手い采配だったでしょう。言うまでもありませんが、後方席では見れないものがある分、前方席にも見れないものがあったわけです。
特にClubeXでやるのであれば客席降りは当然期待されるところであり、予想できたところですが、インラインスケートでの滑走を予想できた人は少なかったのではないでしょうか、度肝を抜かれる体験だったのではないかと思います。私は度肝を抜かれました。おっと全員でくるかと。
一方でこの手法は一度で全ての演技を見切ることは不可能という点とトレードオフです。見れなかったものを見たいので、速やかに再演することを希望するところであります。
4.②観客の満足度(CS)について
劇場で観客が体験したことの満足度について議論の余地はないでしょう。
これは連日公演後にTLとトレンドが賑わい、ふせったーに肯定的な感想が溢れていたことがその根拠です。
千秋楽後には解禁されたネタバレ感想やレポイラストでTLが賑わっていたことを否定することはできないと思います。
一方で、観客の満足度を下げる要素があったことは否定できません。
最も触れるべきは告知期間の短さでしょう。2週間。
えるこ氏の舞台艦これは失敗である論を批判する立場に立つ僕もここは確かに短いねと同意します。
ただ、次節にも繋がりますが、見方として一つリスクヘッジの観点を提示します。
舞台艦これの目玉であるインラインスケートを用いた高速走行が演目の多数を占める以上、いつ何時事故が起きるか分かりません。
(スタンバイは居たかもしれませんが)代役を立てるということも難しい以上、確実に開催できると確信できるまで告知を引っ張った。という見方も可能ではないかと思います。
少なくとも我々よりは舞台に詳しく、賢い人が判断している事柄であり、そこには最低限の敬意は払うべきものであると考えます。
それはそれとして、提督全員に見てほしいし、初めて舞台艦これを観た人間の悲鳴は栄養価が高いので再演を希望するところです。
次いでキャスト・スタッフの告知について
この点は私は明確な意図を感じました。
「"艦これ"を観にきたい観客に来て欲しかった」です。
当然、各演者様にもこれまでのファンがいることは重々承知していますが、
今回見せたかったものは生きている艦娘だということ、
観客は約400名×12公演(後に14公演)=4800名であり、
パシフィコ横浜の新春ライブ一回に満たない数でしかないこと、
そして、インラインスケートを用いた稽古中の事故によって急なキャスト変更が起こり得たこと。
これら4点から、まず優先したかったのは舞台艦これというタイトルで来てくれる人たち、だったのではないでしょうか。
この点に賛否あるのは重々承知していますが、自分の沼コンテンツが舞台になって何がなんでも観たかった自分は恐らく優先されたい観客だったのでしょう。
もちろん、演者様のファンで艦これ世界初見の方が多数いらっしゃったことは存じておりますし、感想文を拝見して理解度と言語化能力の高さに驚愕しました。
それはそれとして、艦これ世界への導線として素晴らしいエンタメであり、提督全員のみならず、演者様のファン全員に見ていただきたいので再演を希望するところです。
だって今まで追いかけてきた演者様が初めて習得したインラインスケートで高速走行する姿、観たくない訳がないじゃないですか。
最後にグッズについてです。
あいっかわらずねぇ!在庫のゼロの数が一個少ないねぇ!
という冗談はさておき、これに関しては正確な需要を読むのは不可能でしょう。
初日にはあれだけ人気だったアクリルボードも後段作戦では開演まで余ってましたしね。逆に格納庫足りなくなるという事態に。
我々は簡単に増産せいと言えますけど、在庫リスクを抱えるのは向こうですからね。我々スポンサーでもないですし・・・グッズ全体の印象として、我々が思っているより売れてない気がします。新春ライブの時もバックパックが余ってましたし、需要予測とロット数の兼ね合いで在庫最適化が無理なんじゃないかなー・・・と慮っています。予算も無限じゃないですしね。
また、自分はえるこ氏の書き方に少し違和感があって、会場入ってすぐ左手のカウンターに物販の各種グッズの実物があって絵柄等々確認できるんですよね。ClubeXだと見本はあそこにしか置けないので会計から見えるところに無かった、という批判は少し違う気がします。確かに会計からは見えませんがそこに至るまでに見本に気づかないことはない気がするんだけど・・・という感じです。
そして、あまり触れられていない話なので触れるのですが、
今回の物販では高く評価できる点があって、ブロマイドがランダムじゃなかったんですよ。全部が全部ではないですが、ランダム販売の文化もあるところはあるんですよね・・・"舞台のやり方として"ランダム販売という手段があったのに取らなかったわけで。これは評価しないわけにはいかない。
窓口で諭吉数人を叩きつければ間違いなくコンプできるという点を高く評価していますし、満足度も非常に高いです。
じきに再販もあるっぽいので期待しましょう。
5.⑥今後につながる成果について
これは一観客、一ファンの観点から論じますが、
今後の艦これの表現を大きく広げることに成功したと確信しています。
私がそう感じたのはどこか。遊撃隊の皆様のインラインスケートの習得です。
これまで、深海サーカスや新春ライブでは無良提督や、遊撃隊の朝雲山雲など、熟練した方に限ってスケートを着用していましたが、多くの遊撃隊メンバーが環境さえ整えばインラインスケートを着用できることとなり、今後彼女らが彩ってくれるイベントでの出番において取りうる選択肢が増えたと言えるでしょう。
また、多くの観客が舞台に対して肯定的評価を下していることにより、年号シリーズでの舞台化への期待感が醸成されたことも成果でしょう。例えば・・・血戦!異聞坊ノ岬海戦1945、とかね・・・
そして何より、演者とスタッフの皆様が無事14公演を走り抜けた。
また、"何か"が開催される可能性を観客に示したというのも今後の成果として言えるのではないでしょうか。
(次は舞台ではない可能性もありますけどね!)
6.まとめ
以上、先人が提示した舞台の成功の要素に沿って、
僕はなぜ舞台艦これが成功であると思うか、を主張しました。
今回の主張のまとめとしては、舞台艦これは舞台として成功である。
しかし、艦これリアイベ特有の物販の弱さがClubeXというより制約の多い会場で改めて露呈した。という点が明らかになったと言えます。
物販周りはどうにかならんかと思うんですがどうにもならんからどうにもなってないんでしょう。
そこは"丁寧に、嫌味や皮肉なく、礼儀正しく"お願いし続けるしかないんだと思います。
当然、これをして舞台が失敗である。と論じるのも(一定の尊重と礼儀と倫理の範疇を越えなければ)結構だと思いますし、えるこ氏のnoteがなければ僕が筆を執ることもなかったと思います。そのきっかけを頂いたえるこ氏には感謝申し上げると共に、氏の文章に対して、僕の誤読誤認があれば遠慮なく指摘いただきたいと思います。
僕はえるこ氏の主張に対して批判的な立場から筆を執りましたが、当然僕の立場に批判的な立場を取る人間もいるはずです。尊重と礼儀と倫理の範疇であればそれは健全なことであると思います。是非健全な言論を交わしましょう!
以上、お気持ち表明でした!
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