米ハーバード大学で最も古い建物であるマサチューセッツ・ホールは、アメリカ独立戦争中に軍隊の兵舎として使用された。この建物の時間軸から見れば、大学内での激しい紛争は決して珍しいことではない。
とはいえ、ハーバード大学が文化面や運営面を抜本的に改革しない限り財政破綻が待っていると脅す米トランプ政権の攻撃に対しては、これまでとは異なる防衛策が必要になっている。
トランプ政権が大学に突きつけた要求の正確な内容は不明瞭なものの、連邦政府が同大学から奪うことができる財政上の優遇措置には、研究助成金、学生への支援、税制優遇措置という3つがある。
中でも研究助成金は、同大学に痛手を負わせる簡単な手段。他の2つは強硬な圧力と法的な争いを伴うだろう。3つ目の税制優遇措置の剥奪の影響は、特に甚大だ。同大学の土地に巨額の税金が課される可能性があるほか、大学へ寄付をする人が寄付金を通じた税控除を受けられなくなる恐れがある。
こうした優遇措置を失えば、米国きっての名門であるハーバード大学は、ただの企業に過ぎなくなる。しかも株主のいない、大きな財政問題を抱える企業だ。ハーバード大学の2024年度の収入65億ドル(約9400億円)のうち、10%は研究助成金など連邦政府の支援によるものだった。同大学の営業利益率に当たる数値は、過去10年間で平均2.8%だった。同大学が抱える530億ドル(約7兆7000億円)にのぼる基金は、取り放題のクッキーのように自由に使えるものではなく、在学生や将来の学生のための資源であり、その利用目的は制限されている。
対応策は増収かコスト削減か
とはいえ、ハーバード大学が今持っている資源を有効活用できる方法はほかにもある。ビジネススクールで教わるように、「収益を増やすか、コストを削減するか」のどちらかを選べばいいのだ。ハーバード大学が前者を選ぶなら、富裕層のための学校になることを受け入れて授業料を引き上げるか、エグゼクティブ教育やオンラインでの収益をさらに強化する、といった選択肢がある。多くの大学は激しい競争に直面しているものの、米国東海岸の名門校「アイビーリーグ」は依然として価格決定力を持っている。
コスト削減の方が難しいが、まだ削減できる無駄はあるだろう。一部の大学は、学生支援関連の膨大な事務作業を含むバックオフィス業務をすでに外部委託している。上場企業であるグランド・キャニオン・エデュケーションは、かつて所有していた同名の大学の運営業務を担当している。成長幅が大きい事業ではないものの、同社の株価は過去5年間でS&P500種株価指数と同程度の伸びを見せている。
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