資料から読み取る日本アクアリウムにおけるエキノドルスの大まかな流れ

今回は少し方向性を変えて,エキノドルスがどのような歴史をたどってきたか,というようなことを資料をもとに書いていこうと思います。自分は歴史をリアルタイムで見られておらず,正直かなり頼りないので鵜呑みにしないことを頭に入れて置いていただけると幸いです。グリーンジャーナルのエキノドルス特集号では改良品種の家系図的なものもつくってみたので,あわせて楽しんでいただけるとより面白いかもしれません。
https://greenaquarium55.blogspot.com/2025/03/greenvol27-202534.html?m=1
・1960年代,水草黎明期
高度経済成長期真っ只中のこの時代,熱帯魚の流行と共に水草は趣味の世界に登場しました。当時はまだ育成ノウハウや設備,市場,生産などが発展途上であり,水草を狙って育てる人口は恐らくかなり少なかったと想像できます。流通する水草も多くなく,バリスネリアやジャイアントサジタリア等の古典水草が流通していたと聞きます。驚くべきなのは,当時流通していた水草のほとんどが現在でも流通がある点です。多くの草をアクアリウムに導入し,当時の発展途上の環境でも育つ強く観賞価値のある草が厳選された結果だと思われますがやはり古典,定番にはそうさせる魅力があるということですね。そんな当時にアクアリウムに持ち込まれた水草は,和泉克雄氏の『水草のすべて』 (緑書房1968)でうかがい知ることができます。時代に対して驚異的な内容の濃さで,非常に表記をあえてそのままにしますが,エキノドラス・ムリカートス(メロン・ソード),エキノドラス・パニキウラトス,エキノドラス・マルティ(ラフル・ソード・プラント),エキノドラス・コージフォリウス,エキノドラス・ベルテロイ,エキノドラス・テネラスといった種を水槽に植えている写真が掲載されています。それぞれ現代ではオシリス,パニクラータス,マヨール,コーディフォリウス,ベルテロイ,テネルスと呼ばれている物でしょう。また,おそらく未入荷であろう種のイラスト等も載っており当時の最先端を走っていたことが感じられます。ムリカートスは1959年に初めて世に紹介された,ベルテロイは成長した葉の形状からコージフォリウスと呼ばれた時もあった,コージフォリウスは数年前まで高価であったが実生と温水での生産が盛んになったことで非常に安価になった,といったことなどの貴重な情報が多く書かれてもいました。水草は山崎美津夫氏がレールを敷き,山田洋氏が機関車を走らせ,特急列車を天野尚氏が通したとする記事を見たことがありますが,和泉克雄氏も間違いなく大きな貢献をした一人だと感じます。
・1970年代,西洋のアクアリウム
正直あまり70年代の情報を自分は持っていないのですが,77年出版,ラタイ氏とホレマン氏の『aquarium plants』はビッグネーム二人による書籍で,驚くべきことに日本では当時未入荷だったホレマニーやオパクスがアクアリウムプラントとして掲載されていたりと西洋がいかに進んでいたかを伺えます。ラタイ氏は言わずと知れたエキノのエキスパート,ホレマン氏はあのホレマニーの名前の由来にもなっています。また70年代の論文にはペルーエンシスという名前でパルビフロルスが輸入されているとも書いていました。色々な意味でさすがヨーロッパですね。日本においても後年ペルーエンシスの名前で入荷したエキノドルスがありデビルテールと呼ばれるものに酷似したものが入荷していたようなので昔からアマゾンソード系インボイスのあるあるなのでしょうか。他にもこの名前でスバラータスに近い類と思われるものの記録もありました。
・1980年代,水草栽培のネクストステージ
この時代を代表する書籍といえば日本における元祖とも呼べそうな水草レイアウト,アクアートで有名な山田洋氏の『ザ,グリーン:山田洋アクアートアルバム』 (ハロウ出版社1983)や『水草図鑑』 (ハロウ出版社1985)などでしょう。『水草のすべて』で水草を使った新しい芸術が出来るだろうと予想されていますが,見事に的中していますね。古い歴史をもつオランダのダッチアクアリウム,現在主流のネイチャーアクアリウムなど,水草を愛でる形としてはこれが最も普及していると言えるでしょう。当時のディスカスブームとほぼ同時,またはやや遅れながらセットで進み,ディスカスが病気の蔓延などで下火になったことで水草が目立つようになった,という記事も見かけました。昔の専門書にはやけにハイレベルな水草水槽にディスカスが泳ぐ写真が多いなと感じていましたが,なるほど納得です。ディスカスのため水質を調べる文化もここでできたらしく,それが水草を楽しむ事につながったのでは,ともありました。また,当時の大きな出来事といえば改良エキノドルスの台頭でしょう。資料によって多少のブレはあるものの,東南アジアファームで生じ,トロピカ社に渡りリリースされた最初の改良エキノであるパルビフロルストロピカ(キューピーアマゾン),次いでオーストラリアのファームでホレマニーレッドと他種の偶発的な交雑で生まれたとされるバーシーが輸入され,特に珍しい赤系水草としてバーシーは人気を博したとあります。学術的混乱があったことや研究者によって見解が違うこと,別名が多いことなどが原因と考えられる混乱は現在でも尾を引いています。こちらも資料によってやや矛盾がありますが,アクアプランツ3号にはこの頃ヨーロッパからホレマニーとしてウルグアイエンシス・クラシックとホレマニーが混ざったワイルド養生株が初入荷したとありますが,ほかの資料では二種が入荷したのは90年代初頭とするものもあります。88年にはローズ,レオパードが入荷したそうです。ハンス・バース氏による改良で,当時はルートが無く生産,販売をデナリーに委託していたようです。ちなみにバース氏の水草は96年以降バース便として独立した入荷があります。ホレマニー座標軸は89年にベルリンから筒井良樹氏が持ち帰ったという話も聞きますが,詳しいことはわかりません。
・1990年代,怒涛の入荷
90年代以降は新着種が立て続けに入荷し,水草黄金期と呼ぶ人もいるようです。トニナをはじめとした南米有茎草ブーム,レッドビーシュリンプの作出も90年代で,それらはアクアソイルが普及するきっかけになったといいます。アクアソイルの普及で水草は万人に育てやすいものになりました。代表的な書籍は山崎美津夫氏と山田洋氏による『世界の水草1・2・3』 (ハロウ出版社1994),松坂實氏と富沢直人氏の『THE AQUARIUM 2300 ATLAS 熱帯魚2000種&水草300種大図鑑』 (FAIR WIND1997),吉野敏氏の『水草の楽しみ方』 (緑書房1995)などです。エキノではファームからウルグアイエンシス,ホレマニーが入荷したと記録されているほか,多くの改良品種がもたらされました。またワイルド株もある程度入荷していたようです。ホレマニーの入荷は少なく,その名前で入荷してもふたを開けてみればウルグアイエンシスだった,ということが多かったといいます。ウルグアイエンシスの中でもやや変わったタイプがおり,それをホレマニーではないかと考える人もいたようです。その名残がウルグアイエンシスクラシックブロードと呼ばれるものであるという資料もあります。ニューホレマニーという詳細不明の幅広め,やや縁が波打っていたりするウルグアイエンシスがあったそうですが,詳細不明ながらこれはウルグアイエンシスとホレマニーの雑種だなんていう噂もあったようです。ちなみにこれはクラシックブロードと同じものだという考えもあるようです。オリエンタルから組織培養株と思われる本物のホレマニーレッドのナロータイプが入荷していたタイミングは恐らく90年代と思われ,その後ごく少数グリーンも入荷していたようです。グリーンは2000年代後半に再入荷を確認していますが葉幅はちょうど中間のようなものだったといいます。なぜかこれはホレマニー独特の香りがしなかった,とのことです。その後オランダのストッフェルズから組織培養かと思われるナローのレッドとグリーンを数多く入荷していましたがその後止まることになります。改良品種では,詳しい時期はわかりませんでしたが88~93年の間にオリエンタルからコーディフォリウスの変異であるマーブルクイーン,93年にはバース氏によるホレマニーレッド×バーシーの交配種ルビン,94年にはリリースしたファーム名のついた品種,オリエンタルが入荷し話題になったといいます。オリエンタルはローズの兄弟株だとか,組織培養中に出た変異だとか言われていますが,ローズが関わっているのは間違いなさそうです。同年バース氏作出のアパートも入荷,数少ない深緑系の改良品種として今も親しまれています。95年にはバース氏のオゼロット,デナリーのジャングルスターシリーズも入荷が始まります。フィッシュマガジンのデナリーに関する記事では,ステファン・ヴァルター氏が解説しており最初にNo.1とNo.7グロスオシリスをリリースしたと書いてあります。それぞれスバラータス×ホレマニーレッド,ローズの変異としていました。日本に初めてジャングルシリーズの品種が入荷した際のアクアライフにはナンバーは掲載されずジュンゲルスタール(ジャングルスター)とだけ掲載されておりそれは新芽が赤く緑っぽいかすれ模様の入る丸葉系でした。バーシーなどを親に使ったのではとの事です。後にスモールベアが同連載アクアフィーチャーに掲載された際には先月号でビッグベアを紹介したとある他バーシーとホレマニーレッドをかけあわせできた兄弟株のうち15cm程度に収まる小型のものをジャングルスター,大型のものをビッグベア,中間のサイズをスモールベアと呼ぶとの記述がありました。根拠も大してない個人的な考えですが,推察するにデナリーが適当に輸出したものを事情を知らない日本人が真に受けてしまったか,デナリー側もリリースした直後でありネーミング等が最適化されていなかったり混乱があったのではないか,と想像しています。おそらくはグリーンパンダも入荷したのもこの頃のようでその大きすぎる斑により水中での育成が困難という類を見ない改良品種として今でも比較的高い知名度があるのではないでしょうか。現存はしていないと思いますが,観賞価値はとても高い為当時に屋外での水上栽培がもっと普及していれば,とも感じます。のちにグラからパンダという本種の斑の白を少し緑っぽくしたようなものも入荷していますが関係性は不明です。97年にはオゼロットから出現したオゼロットグリーンが輸入されました。オゼロットと名のつくものでは2003年にはデナリーからジャングルスターNo.8としてオゼロットゴールドも輸入されています。98年にはルビンの兄弟株や変異と考えられているルビンナローリーフ,アクアフローラからはアフレームが登場とアクアプランツ3号に記載されています。アフレームは交配親不明ながら今までにない毒々しい暗赤紫色,育成難易度が高いなど非常に濃いキャラクターを持ちます。2005年リリースとする資料も見かけましたが詳細は自分はわかりません。そして98年のインターズーにて,バース氏作出のレッドフレームとインディアンレッドが紹介されたそうです。レッドフレームの親は諸説ありますが,フィッシュマガジンにあったバース氏による記事ではオゼロットの兄弟株と説明されていました。後に色違い的立ち位置のグリーンフレーム,ゴールデンフレームも登場します。本種やオゼロット,スモールベア,ビッグベア等は特に多く改良の親となっているようで,グリーンジャーナルの企画で家系図を作った際には苦労しました。インディアンレッドは諸説ありますが,フィッシュマガジンのバース氏による解説ではコーディフォリウスミニと赤系数種をかけ合わせたものだそうです。最近見かけませんが,オリエンタルでは維持されているとのことで再入荷が望まれます。96年インターズーをきっかけにデナリー便ではなくバース便としての入荷がスタートしたそうであり,当時未入荷のクリプトコリネ ヒュードロイやアヌビアス コーヒーフォリア,カボンバ シルバーグリーン,オテリア ウルヴィフォリアといった種が紹介されたといいます。他にもバース便タイガーロータスグリーンは他より格段に美しいと有名ですが,それは交雑しやすい本種のため専用のハウスを設けるほど他種との交雑に気を配って生産を行っていたからとのことであり,オーナーが交代してからはそのような株は見られなくなったといいます。2022年入荷したスリランカ便のタイガーロータスグリーンは昔のバース便の物によく似ており,大変近いものとも考えられます。バースとスリランカのファームはつながりがあったと言われることも根拠になるのではないでしょうか。バース氏は他のファームに比べ丁寧な対応をとっていたようで,他の種を混ぜて出荷しかさ増ししたり,全くの別物を送ってきたりすることもなく草の品質も良かったそうです。個人的には,世界の水草728種図鑑に掲載されているトリグロキンの一種も入荷していたという記録を見た覚えがあり気になっています。話が脱線しましたが,ここらで消費者も改良品種に慣れてきておりそう簡単には売れなくなっていった,とアクアプランツ3号にはあります。ちょうどそのころ,Appo工房という業者により南米で採集されたワイルド株が入荷し大きく流れが変わったようです。なお90年代のワイルド株入荷は母数が少ないながらも黄緑系が割合を多く占めている印象で,深緑系はAppo工房の株が本格的に入荷するまでほとんど資料には出てきません。この時代の黄緑系だと97年に三浦氏が採取し種子からの発芽で国内での栽培がスタートしたというアルタミラが有名でしょうか。Appo工房により99年に入荷したオパクスヴェルデを筆頭に日本での熱は原種深緑系に移り,それと同時に多くの魅力的なワイルドエキノがもたらされました。
・2000年代,深緑系が台頭,改良・原種双方の飽和,漸減
深緑系はその名の通り深い緑を呈するエキノドルスで,生長が遅く独特な透明感やホレマニーを除き異質な硬質の葉をつけ,多くは河川に生え水中生活をメインとしているようです。また自分の知る限りすべて自然交雑種とされます。開花はまれで倍数体と報告されている物が多いですが種子をつくる場合もありあるようです。ポルトアレグレンシス,ホレマニー,サターン,オパクスイボレなどが代表的であり,それぞれ個体差があったり,同じ名前で入荷毎に違うものが入荷したり,違う名前でも実物の見分けがつかない,似通った名前が付けられたり産地名が付く場合と付かない場合がありそれらを区別すべきか紛らわしい,複数種混ざって入荷などやや混沌としていたようです。この現象は近年のブセファランドラの流行にも近い物を感じました。名前が先行し混乱しているだけで形態自体のバリエーションはそこまで数が多く複雑なわけではなく,アクアプランツ1号の仲里祥行氏の記事では形態により深緑系を8タイプに分類しているのでこれを読めばかなり見やすくなると思います。サンタマリア,サターン,オパクスサンタマリア等は複数回入荷し便ごとに区別されるものものの最たる例でしょう。サンタマリアは2001年に初入荷し,種としてはポルトアレグレンシスに含まれると思われるものの葉脈やウェーブ感が美しく人気であったそうです。ポルトアレグレンシスは葉の伸びる方向,ウェーブ感,サイズ,葉脈などのバリエーションが豊富であったようですが,比較的流通が多かったため軽視されることもあったと聞きます。サターンは2000年に入荷とのことですが,当時を知る人によれば大阪府八尾市のショップに1995年当時オパクスとして入荷したものの中に少数混ざっていたとのことです。1995年サターンは存在を疑問視する声も大きいですが,これはひとつの根拠になるのではないかと考えます。ですが2000と1995で違うのは名前だけで,ものとしては同じものであったとも聞きました。またネットオークションなどで取引されるものが本当に1995年のものかは疑問が残ります。なお2000にはポルト系の種が混じっていたそうです。後年にはゴンサロ,イビラプイタ,パイパソなどといったものが入荷しており,特にゴンサロは有名で形態的にも区別されます。オパクスサンタマリアは2003年に2回,採集者は異なると思われるものの2011年にも入荷していますが,2011年のものは恐らく名前を偽装されその名前で現在流通していると思われます。オパクスイボレは形態的によく似たラウンドリーフウルグアイ,オパクスパラグアイといったものをまとめてライノとAppo工房は呼ぶことにしたようですが,これでは個々の区別がつかず混乱する,という意見もあります。オパクスイボレは形態的には記載種E.opacusに近いですが,葉脈がよりクッキリとして目立つ他大型化すること,側脈が左右非対称になることや葉先がキューピー人形の様に尖るといった特徴があります。E.opacusの原記載がかなりざっくりとしており変異の範疇とするかはわかりません。オパクスヴェルデは記載者であるラタイ氏のファームから2000年に入荷したものと酷似するため,E.opacusとしてよいと考えます。なお,キューピーアマゾンはオパクスと呼ばれることがありますがこれは葉先の形が共通するオパクスイボレ系と混同した結果なのでは,と個人的には考えています。この名前の出どころは不明ですが,日本よりヨーロッパが早くオパクスイボレ系を発見しており,何かの本に載っていた,といった具合に。もちろん根拠はありませんが,調べてみると面白いかもしれません。ホレマニーは現在ではウルグアイエンシスのシノニムですが,ナローとブロード,グリーンとレッドがあり,初期はナロー,後半になるにつれブロードが入荷したと言います。当時入荷の代表例はホレマニーグリーンブロードリーフとして入荷したものなどではないでしょうか。グリーンがメインの種ですが,変異が生じやすいのか現地では赤みの強い株がグリーンと混ざって生えていたりするらしく興味深いです。新芽が茶色になり,古葉が緑になるものから赤というより黒や紫になるものなどカラーバリエーションは豊富です。ダークグリーン,スーパーレッド,ブラッドレッドといった名前の株は今でも維持されていますが,ダークグリーンをディープレッドに改名しようとしたりダークレッドなど似通った名前で何度か同じような株が入荷していたようで紛らわしいです。オレンジホレマニーというものもあったそうですが,これはかなりややこしいものであったようで株の信憑性を疑う声があったりダークグリーンとして出回るものに多く混ざっていたこと,当初入荷していたものと現在のワールドフィッシュ由来の株の表現が違うことなど様々な事情があるようです。さらにはウルグアイエンシスのシノニムとなったホレマニーの学名,E.uruguayensis var.minorとして入荷したものはホレマニーのように葉幅が広く,ウルグアイエンシスの様な黄緑色と両者の中間の様な奇妙なものまで入荷しています。これはカッセルマン氏がウルグアイエンシスブロードとするものに酷似する為そう呼ばれることもあります。後年にはAZ便で中間の様な株も複数入荷しているので,おそらくそれらに近いものでは,と考えています。ホレマニーに関することは研究者によっても主張が異なり,明確な結論を出すことはなかなか難しいのが現状です。ファーム物では2000年代に入ってバース便では本物のホレマニーグリーン,レッドのが入荷しているようで,どちらとも現存するようです。ちなみに現在ファームものとして流通するホレマニーグリーンは基本全てウルグアイエンシスでレッドは赤系改良品種です。過去入荷したファームが全て生産しなくなっていることからも察しがつきますが本物のホレマニーは増殖スピードが遅いからなどの理由が考えられます。また、座標軸を除き現在残っているホレマニーはほぼ全てこの時期かそれ以降に入荷したものとしていいと思います。世間では深緑系がもてはやされ高値で取引される一方,黄緑系ワイルド株はあまり人気が出ず多く業界から消えたものもあったようです。現在残っているワイルド黄緑系で代表的なものは,97年のアルタミラ,02年のモンテカセロス,07年のジュルアトルマリンなどでしょうか。ボリビアンレッドなど癖のあるものも多数入荷したようですが現存はおそらくしていないと思われます。引き続きファームからの入荷は続き,2002年バース便のゴールデンフレームなどの入荷,デナリーのパイソン,エレファントといったジャングルスターシリーズなども入荷しているほか,トーマス氏作出のズーロジカ便改良エキノが数多く入荷,入荷した改良品種の種数ならここがトップではとも感じます。デビルズアイやスパイダーネット,ファンタスティックカラー,パウルクロッカー,フランスストフェルス,インディアンサマー,タンゼンデフォイフェーダーなど現在にも受け継がれている改良品種の入荷記録があります。レイナーズキティなども作出はズーロジカであるようですが,アクアライフで新着種として紹介された際はグラから入荷とあり,初入荷はズーロジカではないようです。グラは他にもパンダやスバラータスルナカスや日本の問屋の名前が付いた品種のリオ等,原種ならトゥニカータスなどを生産していたようです。トロピカ便でで今なおメジャーなレッドダイヤモンドもこの時代と思われます。ラタイ便もドカッと入荷し,ウルグアイエンシスとして入荷したものの新芽が赤みを帯びるブロードのホレマニー,ハイコブレヘリー,ロンギスカプス,オバリスやインパイといった原種の他,イザベラやグル,エニセイなどの改良品種も入荷しています。ラタイ便はそこまで入荷数は多くなかったと思われる他,入荷したものは特徴の大してないものを含めた玉石混淆であったことから現存する株は少なめなようです。アクアフルールのクリレニやルブラも入荷,またアクアフローラ便2006年のアイスクイーンはとても美しく,流通の途絶えた今でもほしいという人が多いです。ゴールデンフレーム入荷の2002年時点でアクアライフには改良エキノのオンパレード、と書かれるほどこの頃は非常に多くの新着エキノがもたらされていますが,何でもかんでも売ればいいという訳ではなくしっかりと良い物を厳選して販売してほしいという声が当時の記事には見られます。ブーム後期になるとネットオークションにより水面下で取引が盛んに行われたり,ワイルド株と称して明らかに育てたような小奇麗な株が入荷するようになったり,ショップにおいてもネット上においても産地偽装と思われる株が増えていき少しずつ業界の熱が冷めていったように思います。アクアプランツもそのころから水草そのものよりもレイアウトをメインで特集するようになり,時代の移り変わりをひしひしと感じさせられます。その後にもスリランカ便や2007年バース便のルビンコンパクト,深緑系のケリュケイオン2007,日本人が採取し,今でも高い人気を誇るイグアス2009などいくつか入荷はありますが,当時の資料であまり盛り上がっている様子はありません。代表的な書籍は2004年『アクアプランツ』 (マリン企画)が創刊,特に1号と3号はエキノファン必見の資料となっています。吉野敏氏の『世界の水草728種図鑑』 (エムピージェー2005)も日本の水草書籍でトップクラスの完成度です。カッセルマン氏の『Echinodorus』,ラタイ氏の『aqua Journal of Ichithyology and Aquatic Biology』通称“白本”,『ODORÚDY ECHINODORÚ』通称“黒本”などの洋書も出版され,これらもエキノドルス関連書籍といえば,真っ先に名前が挙がるものになっています。このタイミングでインターネットが普及し,当時の愛好家同士の交流はもちろん現在まで多くの人が残した情報が受け継がれています。ブログやレヨンベールアクアをはじめとしたショップのページなどなしにはこの記事は到底成り立ちません。とても価値あるものですが,先日のSSブログの様にサービス終了などにより消えてしまうことも多いのが不安です。2008年にはHelanthium属がつくられ,いくつかの種が移動されました。
・2010年代,おもしろ入荷と静寂
2010年代初頭はなんといってもアズールアクアリウム,AZ便甲斐氏によるエキノドルスが熱いです。現地画像および動画の他採集株も入荷しました。入荷したショップは少ないもののパラグアイやウルグアイ,アルゼンチンといった国からホレマニー,ウルグアイエンシス,その他黄緑系,またそれらに属さない奇妙なものも入荷しています。既存のブラジル産ホレマニーとは異なりややウルグアイエンシスの要素もあるのがこの便の多くのホレマニーの特徴で,南部に多いウルグアイエンシスとの分布的にも形態的にも中間的な立ち位置にあると思われます。AZ1110-6  Ech.uruguayensis[Type horemanii] from Montecarlo-1,AZ0112-13 Ech.sp Physalis from Rio Itu Rio Uruguay サイサリス,AZ1110-16RS Zephyranthes from santiago-1 Rio Uruguay ゼフィランサス, AZ1110-16.5RS Ech.cf opacsu from santiago-2 Rio Uruguay フルバーニアン等が代表的です。モンテカルロ1は丈夫なうえとてもシュートをよく出し増えるため,現在とても普及し親しまれています。容姿は環境により変わるもののやや黄緑っぽい色で縁は細かく波打ち横方向にシュートを出している姿をよく見かけ比較的見分けやすいです。,サイサリス,ゼフィランサス,フルバーニアンはガンダムが名前の由来であるほか,後者2種は深緑と黄緑の中間の様な形質で,唯一無二の存在です。水中葉は硬めで,色は黄緑,現地では深緑っぽく水上葉は大型。水槽内ではまったく異なるものの,現地ではオパクスに似ていたことからサンティアゴオパクスなんて呼ばれていたりもしたそうです。株数及び入荷したショップが少なかったことと,価格がやや高価であったこと,過去入荷していたThe深緑といった株とは微妙に雰囲気が違ったことなどが原因でしょうか,物の面白さの割に過小評価されている気が個人的にはしています。また2011年松栄便のオパクスサンタマリアは,イグアス2009にも似たハート型の葉と美しい葉脈を持つ品種ですがおそらく名前を偽装され普及種として流通しているとも言われています。ファーム物はラタイのホレマニーで来たウルグアイエンシスに近いもの,なぜかオシリスばかり作っていたフロリダ便のオシリスピンウィール,オシリスマーブル,オシリスゴールデン,ポルトアレグレンシスなど,チョイスが謎に渋く変わり種が多いスリランカ便のアルゼンチネンシスイエローフレーム,スバラータスポインティ,レッドアロー,イタリアのアヌビアスから入荷のエルディアブロ,トロピカのレッドスペシャル,インドネシアのゴールデンリーフファームからのハディレッドパールやクアドリカラーなどが入荷したようです。2015年にはデナリーからレッドカメレオン,グリーンカメレオンが,2016年にはインドネシアからハディレッドパール斑入りも入荷しています。かなり面白く個性派なラインナップですが,そこまで盛り上がることは無く多くが日の目を浴びず消えています。黄金期を支えた消費者が様々な理由で趣味から離れたり,不景気や震災などいろいろな理由があってのことでしょうが水草の勢いは弱まり,10年代後半はほとんど目新しい入荷の無い数年間になったようです。また,震災の影響で黄金期から維持されてきた種が一気にアクアリウムから姿を消しています。アクアプランツは何年かレイアウトに重きを置いていましたが,アクアプランツ10号はかなりクオリティの高い図鑑に仕上がっています。高城邦之氏の『レイアウトに使える水草500種図鑑』 (エムピージェー2018)もレイアウト向けとのことですがマニアックな内容も多く現代の水草図鑑として完成度は非常に高いと感じます。
 ・2020年代,エキノドルスの今とこれから
Echinodorus属に属していた種はE.berteroiを除き全てAquarius属とする考えが広まりました。かつてHelanthium属がEchinodorus属から分けられた以上の衝撃です。全体的なところを言うと,数年間の静けさから少し賑わいを取り戻したイメージがあります。最近はX(旧Twitter)などで愛好家の交流,特に若い世代が活発な印象を受け,それと共に新しい水草がこれまでとは違うルートを含め様々なところから入るようになりました。また,黄金期の水草リバイバルの傾向も見られます。ヨーロッパファームからの入荷は少なくなり,代わりに東南アジアファームが占めています。エキノであれば,タイから入荷するロシア系改良品種のウルグアイエンシスバリエガータ,台湾便のロシア系品種セルブス,同じく台湾便で詳細不明のピラニア,東南アジアのファームで作られているズーロジカなどに由来する改良品種,東南アジア新作でルビン,レッドダイヤモンドと親が同じという情報もあるミラクルをはじめ,2010年代後期に入荷し最近メジャーになったスペクトラ,ごく最近になって入ってきたレッドフェニックス,レッドエッジ等,愛好家により維持されていたオシリスマーブルやインぺリスク,クアドリカラー,グル,ビューティーレッド,リュディーン等,実生株がネットオークションなどで取引されることが増え混沌に足を踏み入れつつあるイグアス2009や個人輸入のイキトス産ホリゾンタリス,また2016年のものとは別物と思われ,より観賞価値の高いタイ便ハディレッドパール斑入り,2022,2023年に再入荷したスリランカ便,今流通するのは一時期安価であった東南アジア便の増殖株であり商品名の産地は偽装という声が大きいものの,分類の見直しにより人気が上がったベルテロイ等が面白いでしょうか。特に特徴的な姿のクアドリカラー等は今も度々ネットオークションに出品されては驚くほど高値がついたりするので興味深いです。世界的にもう黄金期ほどの盛り上がりはないのでかつての様にファームも多くの品種を持っているわけではないですが,よく入荷する東南アジアは変なものをたまに作りますし,アクアフルールは勢いがあります。レオパードやエルディアブロなど絶えたと思われていたものも割と古くからの愛好家によって維持されていることもあります。ただ以前とは違い大量輸入大量消費に若い消費者は慣れていないので,維持することをとても重要視する傾向もあると感じます。また趣味的というより学術的な価値観がベースの人も現れ,これまでの観賞価値とは違った方面で植物の魅力を感じる人や感覚で語っていたことを理論で話す人も増えた気がします。ブログ等デジタルの情報が消えつつあることなどから,情報媒体として紙を再評価する流れもありますし,これまで不明瞭だった過去の産物をそれらから調べる動きも盛んになりました。全体的によりきっちりした雰囲気になったのかな,とも感じます。個人的に思う今後の課題としてはファームの水草の信憑性と将来性でしょうか。もうワイルドはかなり厳しいと思いますが,ファームに関しては名前と中身が違ったり,今後の入荷が望めるのか等の問題はあると思います。生産,消費双方に熱が無いせいか管理もアバウトであったり全くの別種を送ってきたりもするようで,明らかな別物に入れ替わっている種も多くありそういう面でもこうやってより一つ一つの水草を大切に扱う,一見消費者が自立しているように見える感じになってきているのかなと思いました。エキノドルスに限って言えば,小型水槽が主流の今では一本植えでお手軽に育てるのがよりメジャーになるのかなと思うのですが,外なら大きく水上葉を,レイアウトも大変そうですが絶対楽しいですし,現地再現も好きな人は絶対好き,と思います。収集癖があるならコレクションも楽しいですね。最近はポット植えにしてズラッとコレクションするのが流行り(?)なようで面白いです。個人的なオススメとしては大きな水槽が置けるならやはり大きく育てるスタンダードな楽しみ方をしてみてほしいですね。大きく育ったエキノはそれだけで完成された圧倒的な存在感と美しさをもっていて,何物にも代えがたい魅力があります。大きく育ったホレマニーは言わずもがな,軽視されがちであれどアマゾンソードの大株は水草の王様と呼ばれるのも納得の姿です。趣味は自由ですし丈夫できれいな草なので様々な方法で楽しめますが,とにかくでかいエキノはかっこいいので是非機会があればお気に入りのエキノを大きく育ててみてください。きっと素晴らしい眺めになると思います。

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