ピンポーン
「 どうされました? 」
「 さっさとお茶持ってきて! 」
ピンポーーン
「 はーい、どうされました? 」
「 ご飯まだなん?! 」
ピンポーーーーン
「 はいはい~、どうしました? 」
「 お風呂入らへんねんから
ちゃんとアソコ拭いてな! 」
老人ホームにて。
1泊2日だけお泊りにこられた
D子さんの
ナースコールが鳴りやまない。
しかも怒鳴りつけるような口調で
要求がどんどんエスカレートしていく。
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ピンポーン
「 ちょっと濡れたからオムツ替えて! 」
ピンポンピンポーーン
「 オムツがズレてるから
ちゃんとして! 」
ピンポーンピンポンピンポーーン
「 さっきの人、
オムツ代えるの下手やから
次から来ないようにして! 」
マジか?!
ぼくを含むその場にいた職員が全員、
顔を見合わせて思わず笑った。
「 ちょっとヒドすぎるよな?! 」
「 いやマジでヤバいっすよ! 」
「 聞いてた以上ですよね?! 」
みんな思ってることは一緒、
( さすがにこの人は無理 )
だった。
ピンポンピンポンピンポンピンポーーン
「 早く誰か来て! 」
2分前に行ったばっかやん…
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ホームに来られる前の
D子さんの情報として、
❶D子さんはかなり大柄
❷ナースコールによる訴えが多い
❸同居している娘さんご夫妻の
介護疲れがピークに達している
❹これまで利用してきた老人ホームを
D子さんご自身が拒否され、
同じところを2回利用したことがない
というのを聞いていた。
この時点で
( ほんまに大丈夫なん? )
とみんなが思っていたが、
” オトナの事情 ” で
受け入れざるを得ないとのことだった。
ぼくは❸にある
娘さんご夫妻の介護疲れのことを思い、
介護部のみんなには
「 ぼくがメインで対応するから
1泊だけとりあえずがんばろう 」
と伝えていた。
フロアの主任さんも
「 オレもその日、
シフト変更して出勤にしますわ 」
と言ってくれた。
そして迎えた当日。
May 21, 2025 · 9:07 PM UTC
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ホームに到着するなり
ぼくたち職員をギロリとにらみつけ、
D子さんは
明らかに不満アリアリな態度だった。
ほんとにかなり身体が大きくて、
特注の車椅子から
ベッドに移っていただく際も
ぼくと主任ともう1人、
男性が3人がかりで ” やっと ” だった。
おうちでもずっと寝たきりだろう
と思うし、
介護するご家族の大変さも
容易に想像できた。
そしてベッドに寝るなり、
ナースコールの嵐。
怒鳴りつけるような要求。
さすがにぼくも、
( ❹の
” これまで利用してきた老人ホームを
D子さんご自身が拒否され、
同じところを2回利用したことがない ”
とかじゃなくて、
ホーム側から断られてたんやろ? )
と思った。
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エンドレスに訴えが続き、
そのつど怒鳴られることに
みんながイライラを通り越して
うんざりしていた。
フロア全体に
ピリピリしたムードが漂う中、
( 夜勤でもこれをされたら最悪や )
と思った。
ぼくは夜勤者をサポートするために
その日はホームに泊まることにした。
セブンイレブンに買い物に行き、
シャワーだけさせてもらった。
さいわいなことにD子さんは、
夜はよく眠られたので
ぼくも休むことができた。
だが、
D子さんは目覚めるなり
朝から再びナースコールを鳴らし始めた。
( 今日にはおうちに帰られる )
その思いでなんとか耐えて耐えて、
いよいよ夕方。
D子さんが帰る時間を迎えた。
そして思いもかけないことが起こる。
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再びベッドから
車椅子に移っていただく為に、
男性3人でお部屋に入る。
なんとかベッド脇に
座るような姿勢になっていただき、
ぼくが前から身体を
抱えさせてもらった時、
「 痛っ!! 」
D子さんが思いっきり
肩に噛みついてきたのだ。
激痛にこらえながらも、
ベッドから落ちないように
身体を必死でつかんだ。
なんとか車椅子に移っていただいた後、
「 何するんですか! 」
と言うと、
「 あんたら、私が嫌やったやろ!! 」
と怒鳴りつけてきた。
ぼくは思わず、
「 そりゃあ、あれだけエラそうに
ワガママばっかり言われたら
嫌にもなりますわ!
それでもみんな、
ちゃんとやってくれてたでしょ!
なんでこんなこと
されなアカンねん! 」
と、
怒鳴り返してしまった。
D子さんを乗せた車が
ホームを出発してすぐに
娘さんに電話で謝罪したが、
「 そうなんですね。
噛みつくなんて最低ですね。
こちらこそ
ほんとに申し訳ありません 」
と逆に謝罪された…
看護師さんに
肩の処置をしてもらいながら
「 部長が怒ってくれて
みんなスカッとしたと思いますよ 」
と言ってもらったが、
ぼくはモヤモヤがぬぐえなかった。
後日、
娘さんからホームに電話が入った。
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「 母がまたそちらに行きたいと
言っているので
あんなことがあって
申し訳ありませんが、
なんとかお願いできないですか? 」
とのことだった。
まさかと思いつつ、
対応した主任や職員さんに聞くと
みんな 、
「 1泊だけだったら別にいいですよ 」
「 どこのホームも断ってきたのに
スゴイじゃないですか!
オレらは大丈夫っすよ! 」
との返事。
( …別にいいんや )
とビックリしたが、
ぼくも
「 噛まないならいいですよ 」
とお伝えした。
次に来られた時、
D子さんのワガママは5割減になり、
口調も穏やかになっていた。
娘さんは、
( 母もまた拒否するだろうし、
ホーム側からも断られるだろう )
と、
あきらめていたとのことだった。
それだけに
継続して利用できたことを
とても喜んでおられた。
D子さんは
毎月1泊だけの常連さんになった。
じょじょにナースコールも減り、
職員さんとも
談笑をかわすようになっていた。
娘さんの
「 月に1泊だけですけど、
その間、
母の面倒を見ずにゆっくりできるので、
ほんと助かります 」
との言葉がほんとに嬉しかった。
ぼくがD子さんを抱える時、
毎回のように
「 噛むのだけはやめてくださいね 」
とか、
「 肩にアンメルツ塗ったから
噛んだらマズいですよ 」
などと言って、
D子さんを笑わせるのが
鉄板になっていた。
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今日もぼくの長文をお読みくださり、ありがとうございます。
D子さんはご自分の状況を
受け入れることができずに、
周りに怒りをぶつけることしか
吐き出す方法を
知らなかったんじゃないか
って、
みんなで話していました。
そんな自分に対して、
顔色を伺う対応ばかり
されていたことで
余計にイライラしていたところ、
思いがけず
言い返してきたヤツがいたことで、
かえって気持ちが
スッキリしたんじゃないかな
っていうのが、
統一した見解でした。
ぼくは、
主任や関わってくれていた職員さんに
「 なんで2回目もOKしてくれたん? 」
と聞きました。
「 2回目を利用したいって
言われた時に勝ったと思いました 」
「 娘さんご夫妻の
お役に立てたらと思ったんです 」
「 部長がぼくらの気持ちを代弁して
D子さんに
ガツンと言うてくれたからですよ 」
といった、
嬉しい言葉が返ってきました。
ほんとにたまたまでしたけど、
本音でぶつかるって大事だな
って、
D子さんに気付かせて頂きました。
娘さんご夫妻に、
” お休み ”
を取ってもらえるようになって
ほんとによかったと思いました。
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