新宿ゴールデン街が「綾部つむぎ」にやってきた
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11日、京都府綾部市五津合町の自然食おばんざいの店「綾部つむぎ」でオープニングパーティーとして開かれたバンド「Ti'Punch ティポンシュ」のライブに行ってきました。
古民家をリノベーションした「綾部つむぎ」の主人は滋野悦子さん。綾部高校のぼくの3年先輩だそうです。どちらも60代で綾部にUターンしましたが、面識があったわけではありません。「ティポンシュ」も名前を初めて聞くバンド。メンバーに知り合いがいるぼくの友人が教えてくれたのです。
「ティポンシュ」は2020年結成。カリブ海の旧フランス領の音楽を中心に演奏する20人のビッグバンドで、本拠地は東京・新宿のゴールデン街です。メンバーのうち11人がこの日の朝7時に東京を出て、2台の車で9時間かけて綾部市東部の上林地区にある「綾部つむぎ」にやってきたそうです。
古民家の「田」の字に配置された四つの部屋の戸を取り払った畳座敷が客席で、玄関を入ったところの土間がステージです。混ぜご飯やおでんなどの料理をいただきながら、アコーデオン、ブラス、ドラムス、ギター、パーカッションなどとボーカルによる演奏で、カリブ海のごきげんなダンス音楽を楽しみました。
演奏が終わった後は、バンドのメンバーと座敷で歓談。バンドになんとなくアングラ感が漂うのもそのはずで、ボーカル、パーカッションの渡辺ナオさんは1994年、新宿ゴールデン街の酒場「ナベサン」の主人、渡辺英綱さん(『新宿ゴールデン街物語』の著者)と結婚し、英綱さんが2003年に病気で亡くなった後は、この店を経営しています。アングラ文化の拠点だった新宿の演劇人や作家のたまり場として知られている店です。
ナオさんはその一方、2017年から東京都武蔵野市の吉祥寺北町で「galleryナベサン」を運営しています。バンド「ティポンシュ」が誕生したのがこのギャラリーだそうです。
愛知県で2019年に開かれた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由・その後」が事務局への脅迫などを理由にいったん中止に追い込まれたことに対して、ナオさんが「何かしなければ」と思い立って、美術家のほか、俳人、長唄の唄方、漫画家、デザイナー、舞踏家などさまざまなジャンルの表現者21人が「galleryナベサン」に集まって開いたのが、「不自由の不自由展 吉祥寺トリエンターレ2019」。
そのメンバーが作ったバンドが「ティポンシュ」だそうです。
メンバーの一人で、チラシのデザインや写真撮影担当の田中芳秀さんは、毎日新聞出版が発行する『サンデー毎日』の校正が本業ですが、歌舞伎町で行き場をなくした少女らの駆け込み寺となっている一般社団法人「青少年を守る父母の連絡協議会」の事務局長を務めています。
ほかのメンバーとはゆっくり話ができませんでしたが、リーダーの渡邊未帆さんは大阪音楽大学ミュージックコミュニケーション准教授で、大学の公式サイトによると、研究テーマは前衛音楽、実験音楽、即興音楽、植民地主義と音楽、カリブの音楽など。
山崎春美さんはWikipediaによると、ロックミュージシャンで、前衛的なロックバンドの中心的なメンバーとして活動し、坂本龍一さんらとアルバムを作ったりしています。
そんなバンドのメンバーが大挙して「綾部つむぎ」にやって来たのは、メンバーの一人、チコさんの友達のちーちゃんが東京から移住して滋野悦子さんと一緒に住むようになったのがきっかけ。滋野さんやちーちゃんは仲間たちと一緒に自力で古民家のリノベーションをしています。
東京ゴールデン街のアングラ文化と京都の奥の綾部の文化が一つに溶け合ったかもしれない一夜でした。