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元給食営業マンが「問題が相次いでいる大阪市内の小学校給食」の原因と背景を考察してみた。

ゴミ箱に触れた手でピザ調理・毛髪混入、大阪市の小学校で給食業者が不適切業務…市長「契約解除の可能性も」(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース

汚れがついたままの食器、毛髪混入… 大阪・市立小の給食で何が | 毎日新聞

給食の食器に金属片のようなもの混入 大阪市内の小学校で問題相次ぐ 不安に感じる家庭も…57人の児童が弁当持参(ABCニュース) - Yahoo!ニュース

「米がじゃりじゃり」大阪の小学校で給食に問題相次ぐ 弁当の児童も(朝日新聞) - Yahoo!ニュース

大阪市東住吉区の小学校の学校給食で、今年4月の業者変更以来問題が起き続けているのが大きな話題になっている(上記リンク記事参照)。異物混入、洗浄不足、不完全調理等問題のオンパレードで、弁当持参をしている子供もいるようだ。なお、市教委は、学校名や事業者名を明らかにしていない。

最初に言っておきたいのはこの事案は、問題を起こした業者およびその現場の技術と意識の低さが主原因ということである。プロとしてありえない仕事で批判を受けても同情の余地はない。だが、一方で、現場のプロ意識の欠如に問題を矮小化してはいけない。僕は給食営業マン、つまり委託給食契約のプロだ。今回の件も背景にあるのは契約にあると睨んで調べたら図星だった。

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背景にあるのは、方式と契約(選定方法)だ。まずこのリストを見てほしい。大阪市が公開している給食実施学校及び受託業者の一覧である。毎年4月1日時点のリストが公開されている。で、報道によれば「東住吉区の小学校で今年から業者が変わった」とあるので令和6年と7年のリストを比較。変わった学校が4校ある。業者は3社(マーカーを付けてある)。

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市教委は学校名や事業者名を明らかにしていないけど、特定しようと思えばできるよね。だが、問題の業者がどこかはここでは触れない。業者から恨まれたくないのと、それがこの記事の主旨ではないからだ。

このリストから読み取れるものがもう一点ある。おわかりだろうか。それは各学校の厨房に受託した給食会社が入って調理提供する自校式を採用していることだ。つまりリストの通し番号でいえば約200校の厨房を各々委託に出しているということ(親子方式もあり)。今事案は自校式の悪い面が出てしまったと見ている。なぜなら自校式において各学校の給食のクオリティを維持するためには、本部マネジメントが大変であるとともに、現場に相応の人員が必要になるからだ。給食業界は他の飲食業界同様に人材不足だ。僕の会社でも人材確保に苦戦している。分かりやすく説明しよう。200名の生徒を抱える小学校の給食を5校分1000人分を受託している。メニューは焼きそば。調理業務をセンターに集約したセンター方式なら、回転釜を使って1人で調理するところ(要複数回戦だがサンプルなのでご容赦)、自校式では最低5人は必要になる。

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(センター方式は一匹のクマだけど自校方式では5匹必要。クマ不足のためネズミが業務を行っている)

調理技術と経験のある調理師を1名確保するのと5名確保するのとではどちらがハードモードかは明白だ。もちろん自校式とセンター式では双方にメリットデメリットがあるので優劣はつけられないが、人材の確保という点では、特に人不足の状況下では自校式の方が厳しくなるのは言うまでもない。今回の事案はこうした背景が少なからずあったと推測している。

もう一点は契約(選定方式)である。大阪市では今年度の給食業務の入札を今年1月に実施している。4月スタートの事業に対して決定時期が遅いのではないかという声はもっともだが、給食の世界ではよくあることだ。選定方法は書類審査として「事業実施運営」「調理従事体制」「調理工程」「事故発生時対応」などの項目について、定められた様式の書類を提出したうえで業務実施にかかる費用(見積金額)を入札する方式だ。
入札経過調書が公開されている。選定方法に問題があるのでは?と無難なことを言っていたコメンテーターはまずはこの資料を見てからコメントしてほしい。得点配分は技術点が60点、価格点が40点。なお、技術点の詳細な配点は不明(調べれば分かるかもしれないけど)。大阪市鷹合小学校その他の入札経過調書を見てほしい(この学校と業者が問題というわけではない。あくまでサンプル)。

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落札会社は技術点32.5点、入札金額4.26点、総合36.76点で他参加二社を抑えて選定されている。いいんじゃないでしょうか。なお100点満点である。もう一つサンプルをあげる。大阪市立東田辺小学校以下略だ。

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ここでは落札会社は技術点41.25点、価格点1.58点、合計42.83点で決定している。なお参加は一社。いいんじゃないでしょうか。なお100点満点である。
さて、これを見てどう思うだろうか。金額が適正かどうかはこれら資料ではわからない。だが、安全衛生も項目に入っている技術点が満点60点から程遠い得点で選定されているのがよくわかる。もちろん落札業者に非はない。選定する側の問題だ。書類選考で満点から遠い得点でも落札が可能な選定システムにこそ今回の事案の背景があるように見えてならない。入札金額に予定価格が設定されているように技術点に最低限度を設けてもいいのでは?

この調書からはもう一点読み解ける。1月に書類だけで選考が完結していることだ。試食等が行われた形跡がないのだ。前々から僕はこうして書類と金額だけで学校給食の業者選定が行われることが疑問だった。冒頭のリンクを貼った記事では「4月から問題が相次いだ。同月3日の教職員向け試食会では」とある。つまり教職員向けの試食会は業者決定「後」の4月3日に実施されている。おかしくないですか。試食なしで味をどう判断しているの?大阪市にかぎらない。学校給食業者決定のプロセスに「試食」がないのが一般的なのだ。また、参加業者の条件に「同規模の給食事業の受託」「当該地方自治体内での受託実績」を設けて事実上既存の業者以外が参加できないようにしているのも公正さを欠いているように思える。このように今回の事案の背景には、自校式の悪い部分が出てしまっていること、選定プロセスに問題があるのが見え隠れしている。

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さて、大阪市の学校給食の入札資料を眺めていたら面白いものを見つけた。あれー、なんか同じような名前の会社が同一の入札に参加していて、技術点が偶然まったく同じなんですけど、こういうのはいいのですかね。あと今回の問題で、おそらく市議会議員さんや市の職員さんが現場視察をして「安全衛生ガー」「調理工程ガー」と騒いで業者変更すると思われるけど、この文章で指摘した問題点を見直さないと同じことが起こるだけだと思いまーす。くれぐれもこの記事は選定の背景にある問題点について語ったものであり特定の業者を批判するものではない。早く問題が解決して美味しい給食が提供されることを祈っております。以上。(所要時間29分)