マンモスの再生に挑むスタートアップ企業、その収益化の方法とは?

Riddhi Kanetkar原文翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:井上俊彦

Mar 22, 2025, 8:00 AM

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Ben Lamm, founder of Colossal Biosciences.
コロッサル・バイオサイエンシズ(Colossal Biosciences)の共同創設者でもあるベン・ラムCEO。
Colossal Bio.
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  • コロッサル・バイオサイエンシズ(Colossal Biosciences)は、ケナガマンモスなどの絶滅種を復活させることを目指している。
  • このスタートアップは、絶滅種の再生と自然保護のミッションに取り組む資金として、これまでに4億ドル(約590億円)以上を集めている。
  • 共同創設者でもあるベン・ラムCEOはBusiness Insiderに、同社が模索している潜在的な収益源について語ってくれた。

絶滅種のケナガマンモス(ウーリーマンモス)を蘇らせようとしているスタートアップは、どのようなかたちで、投資家に利益を還元することができるのだろうか。

絶滅種を再生する「脱絶滅(de-extinction)技術」を開発するスタートアップ、コロッサル・バイオサイエンシズ(Colossal Biosciences)の共同創設者でもあるベン・ラム(Ben Lamm)CEOは、真の利益はその過程で得られる発見にあると語る。

同社は、絶滅種の再生と自然保護を主なミッションに掲げており、これまでに投資家たちから4億ドル(約600億円)を超える資金を調達している。

ラムCEOによると、宇宙開発競争に付随して、GPSや人工義肢といった技術革新がもたらされたように、コロッサル・バイオサイエンシズのマンモス再生計画は、収益化につながる進歩をバイオテクノロジー分野にもたらす可能性があるという。

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ラムCEOはBusiness Insiderに、「人類の月面着陸には、非常に多くの技術が関わっていた」と語る。

「それは、脱絶滅においても同じだ。計算生物学や、細胞工学、幹細胞のリプログラミング、遺伝子工学、モノクローナル抗体(ウイルスやがん細胞などの特定の目印に結合する抗体)のスクリーニング、発生学などの技術を構築しなければならない」

それらの技術には「非常に強力」なものが含まれる可能性があり、同社では、長寿、ヘルスケア、プラスチック分解といった分野に生かせる技術のスピンアウトを模索している、とラムは述べる。

しかし、その前にまず、4000年ほど前に絶滅した動物を復活させる方法を見つけなければならない(ほとんどのケナガマンモスは1万4000年前から1万年前に絶滅したが、北極海のウランゲリ島に残っていた地球最後の個体群は、紀元前2000年頃に絶滅したとされている)。

最後のマンモスは、なぜ北極の小さな島で死んだのか | Business Insider Japan

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巨大な目標

では、絶滅した動物をどのようにして蘇らせるのだろうか。

テキサス州を拠点とするコロッサルは、『ジュラシック・パーク』とは逆のアプローチを取っていると、ラムCEOはBusiness Insiderに語った。同作では、架空の科学者たちが、歳月を経て分解した恐竜のDNAの欠損部分を、カエルのDNAを使って補完していた。

代わりにコロッサルでは、現生種でケナガマンモスに最も近縁と考えられるアジアゾウを基盤に用いる。

次に、AI(人工知能)を使って、ケナガマンモスのDNAサンプルを分析する。ラムCEOによるとこれには、アラスカやシベリアで採取された、保存状態の良い「約3500年前から約70万年前」のサンプルが含まれる。

分析によって「マンモスをマンモスたらしめている特徴を理解」した上で、アジアゾウの細胞にマンモスの遺伝子を組み込む、とラムCEOは説明する。言い換えれば、恐竜のDNAの欠損部分をカエルで埋めるのではなく、カエルに恐竜の遺伝子を追加するのに近い。

「『ジュラシック・パーク』の逆バージョンといった感じだ」とラムCEOは話す。

コロッサルは、2028年末までに、ゾウの「代理母」に子どもを産ませる形で、ケナガマンモスを蘇らせることを目指している。

マンモス再生への道筋として、コロッサルは2025年3月、「コロッサル・ウーリーマウス」を作製したと発表した。同社によるとこれは、マウスを遺伝子操作して、寒冷環境に適応できるような厚い毛皮など、マンモスに似た形質を持たせたものだという。

この遺伝子操作について同社は、(1つのゲノムに対して、一度に複数の遺伝子編集を施す)多重ゲノム編集における新たなブレイクスルーだと称している。

Colossal Woolly Mouse
「コロッサル・ウーリーマウス」。
Colossal Biosciences.

コロッサルによる3月4日付のプレスリリースで、同社のベス・シャピロ(Beth Shapiro)最高科学責任者は、こう述べている。

「これは、絶滅によって失われ、当社が復元を目指す形質について、それらの再生に向けた当社のアプローチが正しいことを証明するための重要な一歩だ」

収益を上げる方法も模索

同社が常に野心的な目標として掲げ、また投資家に提示してきたテーマは、古代の絶滅種の遺伝子操作にとどまらず、研究や技術開発の事例をスピンアウトさせ、医療などのより幅広い用途に生かすことだ、とラムCEOは述べる。

2021年に創設されたコロッサル・バイオサイエンシズは、これまでに多数の著名な投資家を引きつけてきた。その中には、俳優のクリス・ヘムズワース(Chris Hemsworth)やパリス・ヒルトン(Paris Hilton)といったセレブリティのほか、ベンチャーキャピタルのアット・ワン・ベンチャーズ(At One Ventures)や、ドレイパー・アソシエイツ(Draper Associates)といった企業が含まれる。

TWGグローバル(TWG Global)が主導した直近の2億ドル(約300億円)の資金調達ラウンドにより、コロッサルの資金調達総額は4億3700万ドル(約655億円)に達し、企業評価額は102億ドル(約1兆5300億円)となった。

Colossal Bioscience's Lab
コロッサル・バイオサイエンシズのラボ。
Colossal Bio

コロッサルから最初にスピンアウトした企業で、計算生命科学のプラットフォームを手がけるフォーム・バイオ(Form Bio)は、研究者が大規模なデータセットを管理するための資金として、3000万ドル(約45億円)を調達している。

2番目にスピンアウトしたブレイキング(Breaking)は、合成生物学を生かしたプラスチックの分解に取り組んでおり、2024年に新たに1050万ドル(約15億7500万円)を調達している。



「当社の投資家にとって、こうした他のさまざまな取り組みが付随してくるのは楽しいことだ」とラムCEOは言う。

「恐ろしいような事態」

絶滅種の再生技術と並行して、コロッサルは、現生種の保護活動を支援するツールの開発も手がけている。

気候危機の深刻さによっては、2100年までに脊椎動物の最大27%が絶滅する可能性があると欧州委員会は2022年に予測している。

「新しいツールがなければ、生物多様性の喪失に対抗できない」と、ラムCEOはBusiness Insiderに語る。

「少々恐ろしいような事態だ」

同社は、「脱絶滅ツールキット」と称する保全技術を、非営利団体の「セーブ・ジ・エレファンツ(Save the Elephants)」や「リワイルド(Re:wild)」を含む48のパートナーに提供しているという。ツールキットの中には、絶滅が危惧される種の保全、特に人獣共通感染症の脅威にさらされている種の保全に役立つ繁殖プログラムも含まれると、同社のウェブサイトには記されている。

収益源の一つとして考えられるのが、「自然クレジット」の提供だ。炭素クレジットと同様に、企業が自然保護の取り組みを買い取るというこのアイデアについて、ラムCEOは、「長期にわたる定期収入源」になり得るものだと述べている。

ラムCEOは具体的なスケジュールを提示しておらず、あくまで仮説の域を出ないが、自然クレジットは、より広範な炭素クレジット市場において、コロッサルに大きな収益のチャンスをもたらす可能性がある。

「再野生化(重要な生物種の再導入などによって生態系を修復する取り組み)は、生態系に大きなインパクトをもたらすと我々は確信しているが、一方で、純粋に資本主義的に言うなら、動物を健康な状態で野生に戻すことは、我々に年間数十億ドルの定期収入をもたらすだろうとも考えている」とラムCEOは付け加えた。

このスタートアップにとって、もう一つの潜在的な収入源は、エコツーリズムだ。コロッサルは目下、「9桁(1億ドル超)」に上る契約の可能性について、複数の政府と協議中だという。しかし、『ジュラシック・パーク』のような事業を構想できるようになる前に、まずは1頭でもマンモスを復活させることが、同社の最優先事項だ。

1兆ドルの野心

コロッサルは2025年、旗艦となる研究所の開設を予定しているが、この先も多くのマイルストーン達成を目指している。

新たな資金を調達した同社は、復活させたい他の鳥類や哺乳類の種についても検討を進める計画だ。すでに、17世紀に絶滅した鳥類、ドードーの再生を計画している。

また、マンモスのほかにも、キタシロサイ、ホッキョクグマといった種の胎児を生育するための人工子宮の開発も進めている。同社の人工子宮チームは2026年までに、子宮外で育った哺乳類を誕生させることを目指している。

ラムCEOは、このスタートアップの成長軌道について、強気な見通しを示している。

「我々は、当社が1兆ドル(約150兆円)規模の企業になると確信している。そして当社がいずれ、他の多くの企業を超えるインパクトを地球にもたらす可能性があると信じている」

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