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効率的で公平な物価高対策を

2025 年 4 月 11 日

制度・規制改革学会有志(別紙)

1、前提

物価高対策は、以下を前提として検討すべきである。

1)現役世代の負担の大半は社会保険料である。社会保険料は逆進的なので、特

に低所得層に重い負担がかかる。こうした重い負担のかかっている人たちが、

物価高により更に深刻な打撃を受ける。

※上記図は給与所得者の負担率だが、フリーランス・自営業などの場合、低所得層に

さらに逆進的に社会保険料負担がかかる。

2)一方、高齢者は同じ年収でも負担が軽く優遇されている(社会保険料負担が

軽いことに加え、所得税制における大きな公的年金等控除のため)。その分、

現役世代には重い負担がかかっている。

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3)以上を前提に、物価高で深刻な打撃を受ける人たちに焦点を当て、特に重い

負担のかかっている現役世代を中心に、物価高対策を講ずべきである。

特に深刻な打撃を受ける消費性向の高い人たちを支援することが、経済活性

化に最も有効であり、経済のパイの拡大は社会保障の安定的運営にもつながる

から、すべての国民が利益を受けることになる。

2.従来の対策等の問題点

1)「住民税非課税世帯への給付」の問題点

従来、「住民税非課税世帯への給付」が繰り返されてきたが、以下の問題が

ある。

・本来支援を必要としない人(資産や配当収入などの多い者)に対する過剰な

支援が生じがちである。そもそも非課税か否かを判断するのは前年の所得情

報にもとづくため、現時点で困窮しているかどうかは判然としない。

・特に、所得税制ですでに優遇されている高齢者をさらに優遇することになる。

※公的年金等控除(110 万円~)を受けられるため、年金受給権者数 3,978 万人に対

し、住民税課税対象の年金受給者は 1,031 万人。

2)「消費税減税」の問題点

「消費税減税」論が与野党で浮上しているが、以下の問題がある。

・社会保険料負担が圧倒的に大きい現役世代にとって、効果は限定的である。

平均水準の年収の世帯では、軽減税率を 0%にしても、減税額は世帯で年間 5

万円程度。一方、社会保険料負担(事業主負担を含む)は年間 150 万円程度。

・現役世代・高齢者ともに、さほど困っていない高所得者ほど手厚い減税にな

る。

<世帯年収に応じた減税額概算>

世帯年収 200 万円 500 万円 1000 万円 1800 万円

消費税額 17 万円 29 万円 43 万円 61 万円

減税額(軽減税率 0%にした場合) 4 万円 5 万円 7 万円 8 万円

減税額(一律 5%に) 8 万円 14 万円 21 万円 30 万円

※家計調査(2024 年)及び家計構造調査(2019 年)より推計。

3)「国民全員への給付」の問題点

政府・与党は「国民全員への給付(所得水準を問わず)」を検討していると

報じられるが、高所得者に給付を行う意味はなく、選挙向けの人気取りとしか

考えられない。

コロナ初期の「国民全員への 10 万円給付」は、相当部分が貯蓄に回り、効

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果が限定的だったことが指摘された。今回も、少なくとも高所得層に関して、

消費拡大・経済活性化につながるとは想定しがたい。今回は、当時のように経

済活動全般が急減速するような状況ではないから、こうした措置の必要性・合

理性は皆無である。

3、講ずべき対策

このように、「消費税減税」(軽減税率 0%にしても、世帯の年間減税額はせい

ぜい 5 万円程度)や、「国民全員への給付」(報道によれば一律 5 万円など)」で

は、本当に生活の苦しい人たちの助けにはならない。結果として、経済活性化に

もつながらない。

すでに優遇されている高齢者や高所得層にまで減税・給付を行うのではなく、

物価高で特に深刻な打撃を受けている現役世代を中心に、より手厚い対策を講

ずべきである。

1)現役世代向けの所得補給(日本版の勤労税額控除)

諸外国で広く導入されている勤労税額控除などを参考に、現役世代向けの

所得補給制度を設けるべきである。

※「勤労税額控除」(ないし給付付き税額控除)は、諸外国で広く導入されている制度。

例えば、米国の勤労税額控除(EITC)は、現役世代(25~64 歳)を対象に、一

定年収までは就労促進のため逓増、一定年収からは逓減・消失。また、「勤労税額控

除」のほか、「児童税額控除」(英国、米国、カナダなど)、「社会保険料控除」(オラ

ンダ、韓国など)、「消費税逆進性対策税額控除」(カナダ、ニュージーランドなど)

などの制度例もある(併用されることもある)。

※所要額の試算:

・米国のEITCを参考に、低所得の現役世帯を対象に「最大 40 万円(年収 250 万

円で逓減消失)の所得補給」とすれば、所要額 1 兆円程度(2024 年 11 月制度・規

制改革学会意見書)、

・より幅広い現役世帯(高所得層を除く)への所得補給とし、「定額 10 万円(年収

500 万円まで)」、あるいは「最大 20 万円(年収 500 万円で逓減消失)」とした場

合、所要額 1.6 兆円程度、

・さらに、「定額 10 万円(年収 800 万円まで)」、あるいは「最大 20 万円(年収 800

万円で逓減消失)」とした場合、所要額 2.7 兆円程度、

・いずれにせよ、消費税減税(軽減税率 0%の場合 4 兆円超、一律 5%の場合 11 兆

円超)よりはるかに小さな所要額で、特に深刻な打撃を受ける世帯により手厚い

支援が可能となる。

※今後に向けては、年収基準だけでなく、マイナンバーを活用した資産把握を前提と

した設計も検討すべきである。

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※なお、現役世代のほか、極端な低年金者・無年金者については、別途、特例的支援を

行うことが考えられる。

2)社会保険料の引き下げ

社会保険料の引き下げにより、現役世代への過大な負担の軽減を図るべきで

ある。

・昨年導入を決定した子ども・子育て支援金は、少子化対策としての効果が小

さいのみならず、およそ合理性を欠いた健康保険料への上乗せであり、撤廃

すべきである。

・OTC類似薬は原則として健康保険の適用から除外するなどして公的医療

費の膨張を抑制すべきである。

・基礎年金の財源はすべて公費(税財源)でまかなうこととし、基礎年金相当

分の保険料から置き換えるべきである。

3)コメの減反廃止によりコメ価格の引き下げ

コメの減反補助金を廃止し、それを農家への直接支払いに充てることで、農

家保護を維持しつつコメ価格の引き下げを図るべきである。

以上のほか、消費税のあり方については課題が多く(経済状況に応じた機動的

な増減、税表示の方式など)、今後に向けて検討すべきである。

<賛同者(2025 年 4 月 11 日時点)>

八代尚宏 昭和女子大学特命教授、制度・規制改革学会代表理事

八田達夫 アジア成長研究所理事長

竹中平蔵 慶應義塾大学名誉教授

大林 尚 ジャーナリスト

岸 博幸 慶應義塾大学教授

田中秀明 明治大学教授

原 英史 政策工房代表