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レビュー「Supreme: Story of the Year」
※2003年春頃に書いた文章です。
~伏線の張り方は細心に、ストーリー展開は大胆に~
推理小説の醍醐味。それは何と言っても最後の謎解きであろう。序盤の意外性や、中盤のサスペンスも大事だが、終盤の解決部分が破綻していては、もはや推理小説とは呼べまい。一見無関係と思われたささいな事実が、名探偵の論理によって結びつけられ、思いもかけぬ真相が明らかにされた時、読者の心には大きなカタルシスが訪れる。ジグソーパズルの一片一片を組み合わせて、一枚の絵柄を完成させた時の喜びとでも言えばいいだろうか。残念ながら、アメコミの場合、一つの作品としての起承転結はあまり明確ではなく、こうした推理小説的醍醐味を味わえる作品というのは少ない。今回紹介する『Supreme: Story of the Year』は、そんな数少ない作品の一つである。
主人公は、赤いマントをたなびかせて地球の平和を守る白髪のヒーロー、シュープリーム。宇宙空間での冒険から帰還してきた彼は、地球が二重写しのように微妙にブレているという不思議な現象を目撃する。驚きとまどうシュープリームの前に、自分と同じような姿の謎の一団が現れ、彼をシュプリマシーと呼ばれる異次元へと連れていく。そこはパラレルワールドのシュープリームたちが大勢集まっている聖域のような場所であり、シュープリームはそこで、自分こそが過去の歴史を「改訂」する役割をになった人物だと告げられる。シュープリームは自分が置かれている状況を全て把握したわけではなかったが、地球を守るためにその役割を引き受けると、次元の扉を越えて地球へと帰還する。そこで、彼は自分がオメガポリスという大都会で暮らすイーサン・クレーンという中年の男性で、ダズル・コミックスという出版社で「オムニマン」という漫画を描いているアーティストだということを発見する。こうして、シュープリーム=イーサン・クレーンは、新しい世界のなかで、自分自身と過去を再発見する人生の第一歩を踏み出すことになった。
当初は過去をうまく思い出せなかったシュープリームだが、徐々に過去の事件や出来事を思い出していく。自分のオリジン、宿敵ダリウス・ダックスとの戦い、恋人ジュディ・ジョーダンとのロマンス、ヒーローチーム「アライズ」との友情、スーパーヒロインの妹シュープリーマ、超能力を持った飼い犬レーダー……。やがて、親友プロフェッサー・ナイトの謎の失踪事件を思い出したシュープリームは、グローリーやパトリオットといった昔の仲間を召集して、救出作戦に向かう。シュープリームと仲間たちは仇敵ハルヴァー・ラミックやオプティラックスを倒し、無事にプロフェッサー・ナイトや他のヒーローを救い出すことに成功する。
一方、私生活でも、同僚のコミックライター、ダイアナ・デインと親密になり、ようやくシュープリーム=イーサンの人生に平穏が訪れたかにみえたその時、読者の予想をはるかに超える大事件がおきるのだった……。
主人公は赤いマントをひるがえして空を飛ぶ正義のヒーロー。とくれば、これはもうDCコミックスのスーパーマンのパロディでしかない。実際、シュープリームの世界はスーパーマンやDCコミックスを連想させる登場人物に満ちている。シュープリーマはスーパーガール、恋人ジュディ・ジョーダンはロイス・レーン、宿敵ダリウス・ダックスはレックス・ルーサー、プロフェッサー・ナイトはバットマン……といった具合である。これが低俗で粗悪なパロディならば、ただの三流作品でしかないのだが、本作品の脚本を書いたのは巨匠アラン・ムーアである。オリジナルをうまく換骨奪胎し、読みごたえのある見事な作品に仕上げている。また、脚本だけでなく、アート面でも、過去の事件を描いた部分はアーティストを変えて、ゴールデン・エイジ風のアレンジを加えるなど、出版スタイルそのものにも遊び心が満ちていて実に楽しい仕掛けがほどこされている。
さらに、この「Supreme: Story of the Year」は、さまざまな角度から読み解くことのできる作品である。当初、シュープリームは自分が何者なのかすらわからない。しかし、物語が進むにつれて、徐々に記憶を取り戻していく。シュープリームにとっては、これは過去の再構成であると同時に、現在の自分の居場所を確認することでもあり、未来を形作ることでもある。もちろん過去の再構成というのは、複雑化しすぎたDCユニバースの再構成(いわゆるクライシス)のパロディである。また、作品のなかで、イーサンが自分の描く「オムニマン」について、シュープリームと重ね合わせて語る部分がある。これなどは、イーサン=シュープリームはオムニマンを描き、我々読者はシュープリームを読むという入れ子構造になっており、メタフィクションとして解釈することもできよう。
しかし、何よりも素晴らしいのは、これが一流のエンターテイメント作品に仕上がっているということである。冒頭でも触れたが、ここに登場する人物や用語や設定の全てが、ラストの大団円へといたる計算されつくした伏線なのである。一度目はストーリーのおもしろさを楽しみながら読み、二度目は絶妙な配置の伏線を確認しながら読む。そんなマニアックな楽しみ方のできる傑作である。
~伏線の張り方は細心に、ストーリー展開は大胆に~
推理小説の醍醐味。それは何と言っても最後の謎解きであろう。序盤の意外性や、中盤のサスペンスも大事だが、終盤の解決部分が破綻していては、もはや推理小説とは呼べまい。一見無関係と思われたささいな事実が、名探偵の論理によって結びつけられ、思いもかけぬ真相が明らかにされた時、読者の心には大きなカタルシスが訪れる。ジグソーパズルの一片一片を組み合わせて、一枚の絵柄を完成させた時の喜びとでも言えばいいだろうか。残念ながら、アメコミの場合、一つの作品としての起承転結はあまり明確ではなく、こうした推理小説的醍醐味を味わえる作品というのは少ない。今回紹介する『Supreme: Story of the Year』は、そんな数少ない作品の一つである。
主人公は、赤いマントをたなびかせて地球の平和を守る白髪のヒーロー、シュープリーム。宇宙空間での冒険から帰還してきた彼は、地球が二重写しのように微妙にブレているという不思議な現象を目撃する。驚きとまどうシュープリームの前に、自分と同じような姿の謎の一団が現れ、彼をシュプリマシーと呼ばれる異次元へと連れていく。そこはパラレルワールドのシュープリームたちが大勢集まっている聖域のような場所であり、シュープリームはそこで、自分こそが過去の歴史を「改訂」する役割をになった人物だと告げられる。シュープリームは自分が置かれている状況を全て把握したわけではなかったが、地球を守るためにその役割を引き受けると、次元の扉を越えて地球へと帰還する。そこで、彼は自分がオメガポリスという大都会で暮らすイーサン・クレーンという中年の男性で、ダズル・コミックスという出版社で「オムニマン」という漫画を描いているアーティストだということを発見する。こうして、シュープリーム=イーサン・クレーンは、新しい世界のなかで、自分自身と過去を再発見する人生の第一歩を踏み出すことになった。
当初は過去をうまく思い出せなかったシュープリームだが、徐々に過去の事件や出来事を思い出していく。自分のオリジン、宿敵ダリウス・ダックスとの戦い、恋人ジュディ・ジョーダンとのロマンス、ヒーローチーム「アライズ」との友情、スーパーヒロインの妹シュープリーマ、超能力を持った飼い犬レーダー……。やがて、親友プロフェッサー・ナイトの謎の失踪事件を思い出したシュープリームは、グローリーやパトリオットといった昔の仲間を召集して、救出作戦に向かう。シュープリームと仲間たちは仇敵ハルヴァー・ラミックやオプティラックスを倒し、無事にプロフェッサー・ナイトや他のヒーローを救い出すことに成功する。
一方、私生活でも、同僚のコミックライター、ダイアナ・デインと親密になり、ようやくシュープリーム=イーサンの人生に平穏が訪れたかにみえたその時、読者の予想をはるかに超える大事件がおきるのだった……。
主人公は赤いマントをひるがえして空を飛ぶ正義のヒーロー。とくれば、これはもうDCコミックスのスーパーマンのパロディでしかない。実際、シュープリームの世界はスーパーマンやDCコミックスを連想させる登場人物に満ちている。シュープリーマはスーパーガール、恋人ジュディ・ジョーダンはロイス・レーン、宿敵ダリウス・ダックスはレックス・ルーサー、プロフェッサー・ナイトはバットマン……といった具合である。これが低俗で粗悪なパロディならば、ただの三流作品でしかないのだが、本作品の脚本を書いたのは巨匠アラン・ムーアである。オリジナルをうまく換骨奪胎し、読みごたえのある見事な作品に仕上げている。また、脚本だけでなく、アート面でも、過去の事件を描いた部分はアーティストを変えて、ゴールデン・エイジ風のアレンジを加えるなど、出版スタイルそのものにも遊び心が満ちていて実に楽しい仕掛けがほどこされている。
さらに、この「Supreme: Story of the Year」は、さまざまな角度から読み解くことのできる作品である。当初、シュープリームは自分が何者なのかすらわからない。しかし、物語が進むにつれて、徐々に記憶を取り戻していく。シュープリームにとっては、これは過去の再構成であると同時に、現在の自分の居場所を確認することでもあり、未来を形作ることでもある。もちろん過去の再構成というのは、複雑化しすぎたDCユニバースの再構成(いわゆるクライシス)のパロディである。また、作品のなかで、イーサンが自分の描く「オムニマン」について、シュープリームと重ね合わせて語る部分がある。これなどは、イーサン=シュープリームはオムニマンを描き、我々読者はシュープリームを読むという入れ子構造になっており、メタフィクションとして解釈することもできよう。
しかし、何よりも素晴らしいのは、これが一流のエンターテイメント作品に仕上がっているということである。冒頭でも触れたが、ここに登場する人物や用語や設定の全てが、ラストの大団円へといたる計算されつくした伏線なのである。一度目はストーリーのおもしろさを楽しみながら読み、二度目は絶妙な配置の伏線を確認しながら読む。そんなマニアックな楽しみ方のできる傑作である。
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