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わしには,センス・オブ・ワンダーがないのか?

翻訳もののSF短編を主に,あらすじや感想など、気ままにぼちぼちと書き連ねています。

胎動~マイクル・ビショップ③

2008-01-07 23:49:15 | 海外SF短編
 ローソンが或る朝目覚めたとき,そこは全くの見ず知らずの土地でありました。

 あらゆる人びとが突然住んでいた場所から切り離され,無作為に違う場所へと配置換えされていたのであります。

 混乱し,惑う人びと。

 ローソンは,ここがスペイン,セルヴィアであることを知ります。

 混沌の中にも,同言語を話すグループに分かれ,秩序も生まれ,曲がりなりにもそれぞれの生活が営まれるようになります。もちろん,妻や子などともに暮らしていた者たちの消息は全くわからないままですが。

 そのような絆をすべて剥ぎ取られ,人種・宗教などのバックボーンですら意味をなさなくなってしまった世界で,人びとは新たな生き方を模索していくのであります。


 さて,肝心の「何でこうなったのか」という説明はないままに,このガラガラポンのえげつない世界の姿が描かれます。

 生きていくうえでの社会的基盤から根こそぎ引っこ抜かれた人びとはどうなるのか,巨大な社会実験が行われているかのような小説であります。

 強烈な喪失感にもめげず,新しい生活を築いていく人々の姿をどうとらえればよいのでしょうか。
 それだけの犠牲を払いつつも,しがらみに絡められた過去からの脱出という肯定的なイメージが含まれているような気もします。
 したがいまして,故郷へと帰還しようとする人びとの乗り込んだ飛行機が爆破炎上事故を起こしてしまうという話には,“実験主”の意志(そのような連中は有害不要であるというメッセージ)を感じるのであります。

 人びとは,互いの回りにめぐらされていた障壁が崩れたことを体感しており,物理的にも,建物の壁という壁を壊しはじめています。

 ローソンは,ついに,大聖堂を壊し始めた人々の間に入って,作業をともにするようになります。

 そして,ここに埋葬されているコロンブスを“解放”するため,つるはしをふるうのですが,ここの解釈はなかなか難しいですなあ。

 新世界の扉を開いたコロンブス。
 新しい価値観のもとで新たに構築される世界を,再びの「新世界」ととらえているのでしょうか。
 大聖堂を壊すという行為には,「旧世界」からの訣別という意味がこめられているのかもしれません。

 ハヤカワSF文庫「80年代SF傑作選」下巻収録。  

ビショップの短編
○ 「灰色国からの贈物」

○ 「キャサドニアのオデッセイ」





 
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