「ホテルへ行こう」セクハラを受けた新任教師はなぜ沈黙を強いられたのか? 「嫁入り前の娘だから」と説得されて……

取材に応じた、校長からセクハラ被害を受けた横山香奈さん(仮名)=5月9日、大阪市

 「一緒にホテルへ行こう」「胸とお尻はいい」。2022年末、新人だった高校教師の横山香奈さん(仮名、20代)は飲み会の場で、親子ほど年の離れた50代の校長からセクハラを受けた。校長は「お酒に負けてしまった」と釈明し、減給の懲戒処分を受けたが、学校側は処分を公表しなかった。
 それまで横山さんは、教育や部活指導に力を入れ、実績も残してきたつもりだった。だが「結局、女って性的な部分でしか評価されないのか」と、裏切られた思いだった。
 一方、事態を知った上司や同僚たちは「外部には言わない方がいい」「まだ嫁入り前の娘だから」と、大ごとにしないよう横山さんを説得した。当初、「自分の身を心配してくれているんだ」と考えた横山さんは、学校法人への通報を済ませた後、約2年間、沈黙してきた。しかしいつまでたってもセクハラの事実は公表されず、校長の処遇も変わらないまま。「何かがおかしい」。横山さんは不信感を抱き始めた。(共同通信=武田惇志)

▽校長主催の飲み会で

私立大阪夕陽丘学園高校(提供写真)

 問題が起きたのは私立大阪夕陽丘学園高校(大阪市天王寺区)だ。ホームページによると、運営する学校法人「大阪夕陽丘学園」は1939年、大丸(現、大丸松坂屋百貨店)の社長(当時)により創設された。高校と短大を経営し、「愛と真実」を建学の精神とする。高校は、生徒が中心となって教員らと対話を重ね、校則を見直す「ルールメイキング活動」でも知られる。

 横山さんは2022年春に大学を卒業し、高校の体育教師になった。3年契約の非正規雇用だったが、ダンス部の顧問としても力を入れる日々を過ごしていた。
問題が起きたのは、2022年12月17日の土曜日に開かれた校長主催の飲み会だった。関係者によると、校長の派閥のための飲み会で、横山さんはそれまでにも3度、誘われて出席していた。
 校長は別の学校で女子ハンドボール部の監督としてインターハイ優勝の実績がある。また、「ブラック校則」問題に関連し、生徒の自律性を信じるリベラルな校長としてメディアに好意的に報じられたこともあった。

 横山さんは言う。
 「校長と親しい男性教員から、日付が指定されて飲み会が案内されました。私は参加には乗り気ではなかったのですが、校長主催ということもあって、行かないと何か言われるかもしれないと思い、行っていました」
 参加した計8人の教員らは、いつものように大阪・梅田で飲み会を開き、2次会に突入。場所は毎度恒例で、校長が好きなダーツができるスポーツバーだった。横山さんは、一部始終をこう説明する。

▽「セクハラオンパレードでした」

親しい同僚にセクハラ被害を訴える横山さんのLINE(ライン)画面

 「2軒目に着くと、『横山は俺の隣や』と言われ、校長の隣に座らされました。私の手を握りながら『横山先生のこと大好きだけど、(正規で)採るならあの先生や』と、同期の女性の名前を出して人事の話をされました。
 それから『横山先生が彼女になるんなら(話が)変わってくる。このあと一緒にホテルへ行くんなら』と言われたので、『行かないです』と答えたら『俺の輪から離れようとしてる』と脇腹を殴られました」

 横山さんはトイレへ逃げたが、参加していた別の女性教員から「校長の隣空けるのはやばいから戻って」と席へ戻るよう促された。
 「席に戻っても、向かいに座っていた他の男の先生たちが助けてくれるようなこともなく、また校長に手を引っ張られて隣に座らされました。それから腰に手を回され続け、胸を触られることもありました」

 同席した教員は誰ひとり、校長の振る舞いをとがめることはなかったという。飲み会が終わると、男性教員が酔っ払った校長を抱えるようにして解散した。

 横山さんはその夜、親しい同僚にLINE(ライン)を送り、飲み会の様子をこう伝えている。
 「今日の校長の飲みセクハラオンパレードでした」
 「やばすぎました、、、お尻とか胸触ってくる感じの、、、」
 「酔っ払って覚えてはないと思いますが、、、」

▽謝罪はあったものの

校長が横山さんに送った謝罪のメッセージ

 翌12月18日の日曜日、飲み会に参加した男性教員から校内で使うチャットアプリを通じ、メッセージがあった。横山さんがセクハラを受けていたとき、目の前に座っていた教員だ。
 「すいません。止めてあげれなくて。反省してます」
 「昨日はあんな感じでしたが、横山先生にはお仕事頑張ってほしいなと思ってます」

 メッセージは校長からもあった。
 「大変失礼な振る舞いをしてしまい、誠に申し訳ございません」
 「もう二度と横山先生には近づかず、食事もお誘いいたしませんのでご安心ください」

 さらに、週明け月曜日に横山さんが出勤すると、校長から直接、こう謝罪を受けた。
 「最近、(校長の)グループから外れつつあるのかなって勝手に感じてて」「僕の中では、先生にぜひ頑張ってほしいという思いだったんですが、ちょっと行きすぎたというかお酒に負けてしまって。本当にご迷惑をかけたと思ってます。申し訳ございませんでした」

▽学校側が投げかけた言葉「嫁入り前の娘だから」

飲み会に出席した男性教員が横山さんに送ったメッセージ

 だが横山さんは精神的な負担を感じ、翌日から3日間、欠勤した。心療内科を受診すると「急性ストレス障害」の診断を受けた。

 その間、女性教頭からは「飲み会の件を聞きましたので、きちんと聞き取りまして、公益通報していただく手順をお伝えしたい」と案内を受けた。横山さんは出勤すると、担当者から聞き取りを受け、学校法人への内部通報の手続きを終えた。

 横山さんによると、この手続きの前後、女性教頭や聞き取り担当者から、セクハラの件を周囲や外部に漏らさないよう念を押されたという。
 「寄り添うような感じで、『聞き取りが入ったらうわさになるよ』『嫁入り前の娘だから』『長引けば気持ちもしんどくなるから、学校にすべてを任せて、内部通報で安心しなさいね』などと言われました」
 さらに別の日には、飲み会に出席していた別の男性教員からも「訴えるのは身のためにならない」と、車の中で約2時間にわたって説得されたこともあったという。もし大ごとになって、せっかくの仕事を失うことになったらどうしよう――。横山さんは迷ったあげく、学校側の聞き取り調査に対して「校長には注意をしてほしいが、他の出席者にヒアリングせずに穏便に納めてほしい」と述べてしまった。

 学校のハラスメント防止規定は、ハラスメント調査委員会の設置について定めているが、学校側は年が明けた2023年1月、学内の規定に定められている調査委員会の設置を経ずに校長を減給の懲戒処分にし、事態を内々にスピード処理した。
 校長は、飲み会翌日に「大変失礼な振る舞いをした」とメッセージを送っていたにもかかわらず「酔って前後不覚の状態であり、覚えていない」と主張。そのため、弁明せずに横山さんの被害申告をそのまま受け入れると説明していた。

▽校長は在職したまま

横山さんに口止めの念を押す教頭のメッセージ

 その後、限られた関係者以外には校長の懲戒処分の事実は知られることなく、2年以上が過ぎた。職場ではハラスメントに対する基本的な注意喚起が出されたものの、横山さんの身に起きた具体的な出来事が公表されることはなく、校長も変わらず在職し続けていた。
 横山さんは気持ちを切り替え、仕事に打ち込もうと必死になった。だが、頭の片隅にはいつも性被害のことがあり、もやもやした気持ちは晴れないままだった。

 「これでよかったのかと、だんだんと違和感が高まっていきました……そんなとき、フジテレビの性暴力問題のニュースを見て、やはりセクハラは大きな問題なんだと思い直し、教頭に詳しい経緯の確認を求めました」
 横山さんによると、教頭からは2025年2月に「(学校法人の)理事長と話す機会を設けます」と言われて待たされたが、予定した日になっても連絡が来なかった。そのため、直後に労働組合に相談することに決めたという。

▽セクハラ問題は団交の場に

大阪夕陽丘学園高校の理念

 3月、学校側と組合の団体交渉が開かれた。学校側は、横山さんの「穏便にしてほしい」「これ以上の処分を望まない」などの意向を受け、それに沿った対応をしてきたと説明した。他方で組合側は、横山さんが受けてきた周囲からの説得を、事実上の「口止め」だったと問題視し、反発した。
 「新卒の先生ですよ。自分の本当の気持ちが言えないというようなこともあるでしょう」
 「普通に考えると、(個人情報を伏せた形で)セクハラがあった事実を周知されることを被害者は嫌がりませんでしょう」

 また、団交に出席した山田清理事長(当時)は「一番のポイントは、私的な飲み会の場で酩酊状態になったこと」と持論を展開した。「だから、先生方に、私的な場で飲むなというのが今回の教訓」とも述べた。
 これに対し、組合側は反論した。
 「酔っててもセクハラしない人はいるし、酔ってなくてもセクハラする人はいる」
 「一番の問題は(セクハラという)人権侵害だ」

 3月14日に共同通信がセクハラ問題を報道すると、校長はその日付で辞任。学校側は取材に「調査結果が出た時点で改めて回答する」と応じた。教員らに対しても「法人として事実関係を調査する」と表明した。

▽裏切られた教員像

取材に応じる横山さん=5月9日、大阪市

 3月19日にはセクハラ問題に関して、臨時で保護者会が開催された。出席した保護者らは学校側の対応について、口々にこう批判した。
 「女性の方が、初めに厳罰を求めないとしたのは当たり前ですよ。そこに第三者の方が入ってケアされるんじゃないですか?そういったこともされずに、理事会は勝手に、『女性が(厳罰を求めないと)言っているから』と言って無視されたわけですよね」
 「(セクハラは)犯罪ですよ」
 「人権を重んじるんじゃないんですか?」

 さらに保護者らは、当事者である学校法人による調査ではなく、第三者委員会による調査を要求した。
 山田理事長は「今のところ考えておりません」と拒否していたものの、保護者の声に押される形で設置を明言することになった。一連の対応に関し、ある保護者は取材に「法人としてガバナンスが機能していない」と憤った様子だった。

 一方、横山さんは3月末、契約更新がされずに高校を去り、別の学校で非常勤講師を始めた。現在の心境を聞くと、こう語ってくれた。
 「最初は、私のことを心配して、セクハラのことで騒がれないようにと助言してくれているんだと思っていたんです。でも、もし本当に心配してくれていたなら、『絶対に許されないセクハラが起きてしまった』と事態を真剣に受け止め、職場に周知したり責任者を退陣させたりしてくれていたはず。でも実際は、沈黙させられただけでした。大学時代にあこがれていた教員の世界は、夢見ていたものとは違っていた。残念ながら、そう感じています」

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 武田惇志 2015年入社。大阪社会部を経て特別報道室。著書に『ある行旅死亡人の物語』(伊藤亜衣との共著、毎日新聞出版)。同書で第13回広島本大賞(ノンフィクション部門)受賞。
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