函館・恵山岬タンカー座礁事故 ~「前例のない事故」当時何が?~
- 2025年2月14日
函館市の海岸でタンカーが座礁した事故から1か月。事故後、燃料の重油が広い範囲に漏れ出し、地元の漁協は一部の魚を除いて今シーズンの漁を取りやめることを決めるなど、影響が広がっている。一方、タンカーは不可解な航路をたどっていたことから、捜査関係者は事故直後から「これまでに前例のない事故だ」と口をそろえていた。また、危険を呼びかける船舶電話にも座礁する直前まで応じていなかったことも判明。船内に置かれていた事故を防ぐ装置などはなぜ機能せず、事故を引き起こしてしまったのか。
(NHK函館放送局 吉本はづき・国分美穂)
不可解な航路
まず、事故からこれまでを振り返る。
1月6日の午後6時24分ごろ、11人の乗組員と石油製品を積み、苫小牧港から秋田県の港に向かっていた愛媛県の会社が所有するタンカー「さんわ丸」が函館市の恵山岬近くの岩場で座礁。
その2日後の早朝、燃料の重油が漏れ出し、長さおよそ2.7キロ、幅およそ1キロにわたり広がっているのが確認された。
その後、タンカーに積まれていた軽油などを抜き取る作業が行われるなど、サルベージ船によって沖合に引き出され、えい航されたタンカーが函館港に着岸したのは座礁から8日目の1月13日だった。
船の位置情報や航行する速度などがわかるAIS=船舶自動識別装置のデータによると、タンカーは事故があった6日の午後6時前、津軽海峡で西の方向に航路を変更したおよそ4分後、恵山岬付近で突然、陸のある北に航路を変更していた。
さらにその際、タンカーの右側から別の大型船が向かっていたが、「原則、右に見える船に針路を譲らなければいけない」と定められている海上衝突予防法に違反し、大型船の前を横切るようにかじを切って、まっすぐ陸に向かってほぼ一定の速度で航行を続けた。
タンカーの異変に気づいたこの大型船の乗組員は、タンカーに直接危険を呼びかけるとともに、第1管区海上保安本部に通報したが、タンカーはそのまま減速することなく航行を続け、午後6時24分ごろに座礁した。
捜査関係者によると、操船を行っていた乗組員は聞き取りに対し、「自分が陸に向かっているとはわからなかった。かじを切ったあとの航路は正しいと思っていた」と話しているという。
一方で、位置情報を知らせるレーダーなど機材の異常は確認されていないということで、この状況を専門家は「ブリッジ(操舵室)に人がいないのと同じ状況だ」として、ブリッジにいた乗組員の当時の対応について問題視している。
海上保安庁OB 日本水難救済会 遠山純司理事長
「針路を曲げた後、船や沿岸に衝突の恐れがないか必ず確認する。今回の場合は誤った航路を取ったことを自覚せず、さらに危険かどうか確認せずに進み続けていたことがわかる。厳しい言い方かもしれないが、船員は責務を全く果たせていない」
また、別の関係者は、北側に急旋回した際、船体は横に強い重力がかかり傾く現象が生じたはずだが、なぜ11人の乗組員がその異変に気づけなかったのかという疑問も指摘している。
呼びかけた“危険”も反応なし
緊急時に備え、船内には無線や船舶電話が搭載されていた。
大型船の通報を受けた第1管区海上保安本部は、タンカーに危険を知らせるため、これらを通じて繰り返し呼びかけていた。このうち、船舶電話は、通常すぐに反応できるよう、呼び出し音も大音量に設定されているが、タンカーの乗組員はこの呼びかけに数分間応じることがなかったという。
この原因について捜査関係者は、「何らかの理由で船舶電話の音量が下げられていた可能性がある」という見方を示している。また、無線の呼びかけにはこの間、一度も応答することはなかった。
結局、タンカーが船舶電話の呼びかけに応じたのは座礁直前。減速が間に合わず、およそ12ノット、時速およそ20キロの速度で座礁した。
船には重大な事故を防ぐため、こうした複数の装置があるが、いずれも機能せず、座礁という事故を招いてしまった。函館海上保安部は業務上過失往来危険の疑いで事故原因の解明に向け、捜査を続けている。
ウニなどの今季の漁取りやめを決定
タンカーが座礁地点から引き出されたあとの、1月17日から数日間、えさん漁協は、函館市や道とともに、現場海域の海産物や水質について調査を行った。座礁現場付近で取れる海産物に油の付着などの影響は確認されなかったことから、沖合で行われる「ごっこ」については漁の再開を決めた。
そして、2月9日、恒例の「恵山ごっこまつり」が開催された。この祭りは、1991年(平成3年)に始まり、長年、地元の人たちから親しまれてきた。タンカーの事故を受けて、開催を一時危ぶむ声もあったが、ぎりぎりまで検討が続けられた結果、なんとか開催が決まり、会場となった道の駅にはおよそ1900人が押し寄せた。
そして、大勢の人たちが、旬を迎えた「ごっこ汁」などに舌鼓を打った。
出店していた地元の漁業者からは、無事に開催できた喜びとともに、改めて恵山の海産物の魅力を多くの人に知ってほしいという声が聞かれた。
「恵山ごっこまつり」を主催した漁業者
「当初はどうなることかと心配していましたが、例年通り開催できて、一安心です」
しかし、他の海産物については重油漏れの影響を受けている。水質調査などの後に行われた漁業の会合で、漁業者からは、「まだわずかながら油の臭いがある」とか「時間をかけて調査をしないと安全が確立できない」といった意見や不安の声が相次いだことから、地元漁協は今シーズンのウニやアワビ、海藻類など沿岸で行われる漁については取りやめる苦渋の決断をした。ウニ漁はちょうど1月から2月が最盛期と言われていて、生活がかかる漁を中断せざるを得なくなった現実に、漁業者たちは、不安やいらだちを募らせている。
現在、えさん漁協は、タンカーの保険会社と補償について交渉を続けている。
平穏な地域を突然襲った今回のタンカー座礁事故。影響は各方面に及んでいて、いつになったら元の姿に戻れるのか見通しは立っていない。
取材後記
事故原因について取材を進めると、当時の操船状況について、看過できない過失がいくつも浮上してきた。なぜ陸に向かって不可解な変針をしたのかについては、未だ謎に包まれている一方、操船者の話からはタンカーの位置を十分確認せずに変針、直進したことがうかがえる。加えて、右側前方に位置していた船舶の航行を邪魔するような形で前を横切り、繰り返された無線や船舶電話での呼びかけにも応じていなかったというのは、操船の責任を全く果たしていなかったと言っても過言ではない。座礁した巨大なタンカーを離礁させることは容易ではなく、多くの人員と時間を要した。また、重油漏れは漁業に大きな影響を及ぼしている。
変針から座礁までは30分もなく、全体の航海時間からみれば一瞬の出来事だったかもしれない。しかしその一瞬の出来事が今回のように重大事故に至ることがある。事故原因のいち早い究明とともに、今回の事故を教訓に乗組員たちの安全意識がさらに高まることを期待したい。
吉本執筆👇
国分執筆👇
吉本・国分共同取材👇