(交論)「中道政治」の時代 吉田徹さん、中島岳志さん

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 「私たちは右でも左でもなく中道です」――そう自任する政党が、日本でも欧州でも注目されている。なぜ、いま中道を掲げる政党が支持されるのか。リベラルでも保守でもない政党に、明確なビジョンはあるのか。参院選を前に、「中道政治」の可能性と限界を考えた。

 ■両極台頭へ抵抗、分断防ぐ手段 吉田徹さん(同志社大学教授)

 ――世界的に政治の中道化が進んでいる、と論じていますが、そもそも中道政治とは何ですか?

 「中道を自任する勢力は、単に中間点にいるだけでなく左右の対立を乗り越え、現実的で実践的な政策実行能力を重視すると自己規定してきました」

 「例えばフランスのマクロン大統領は、新自由主義者のように思われていますが、労働市場の自由化を進める一方で、人的資本投資を重視する柔軟な統治を試みています」

 「ドイツのメルケル元首相も、中道右派出身ながら、同性婚合法化や女性の活躍促進などリベラルな社会政策を進めました。共通するのは、不均一な中道勢力を何とかまとめ上げるために、イデオロギーよりも個別の政策課題ごとに対処しようとする姿勢です」

 ――欧州では「極(きょく)中道」という言葉が流通しています。穏健な立ち位置のはずの中道がなぜ「極」と結びつくのでしょう。

 「基本的には『極左』『極右』と同じく否定的な他称あるいは蔑称です」

 「対立や競争が民主主義に欠かせないとする立場からすれば、コンセンサス重視の中道政治は課題解決を常に漸進的なものにしてしまう。ドイツのメルツ新政権は、同じ連立枠組みのメルケル政権の路線を転換し移民政策を厳格化しましたが、左右の批判者は、選挙戦略のために世論に迎合し政策をつまみ食いする風見鶏と見るでしょう」

 ――極中道は従来の中道と本質的に変わらないと?

 「現在の極中道は、1990年代に独シュレーダー政権が掲げた『新しい中道』や英ブレア政権による『第三の道』のリバイバルとも言えます。ただ異なる点もあります。90年代の中道路線は、冷戦終結で左派が力を失うなかで、社会民主主義を再定義する試みでした。社会政策においては個人の権利を重視しながら、経済政策では保守と同じく資本主義を否定せず、イデオロギーから距離を取った政治スタンスです」

 「一方、今の極中道は、左右のポピュリスト政治への抵抗という側面が強い。極右と極左の台頭で既存政党が衰退し、分断が深まるなかで、それに対するオルタナティブとして中道での統治が模索されているのです。かつての中道政治と中身は変わっていなくても、状況が大きく違います」

 「実際にフランスでは、80年以降、政権交代を繰り返してきたドゴール派(共和派)と社会党候補の得票率は、22年の大統領選ではいずれも5%に届きませんでした。ドイツでも、90年には中道右派と中道左派の得票率は合わせて約8割ありましたが、昨今は5割程度に。一方で、2010年代以降、欧州では左右両極のポピュリスト勢力が合わせて2割超の得票率にまで支持を広げています」

 「ただ、左右どちらにしても、ラジカルな政治は大きな混乱をもたらし、ガバナンス能力を低下させます。特に中間層の不安が、社会の安定と現実的な問題解決を目指す中道政治の価値を浮上させたのです」

 ――左右のラジカルな政治を敬遠する中間層に中道政治が響いていると?

 「先進国の政治的対立軸はこれまで、平たく言えば、過去を向くか未来を向くか、でした。前者は、成功モデルを『古き良き時代』に見いだし伝統を重んじる右派や保守。後者は、理想的な将来を目指し変革を求める左派やリベラル。でも今やどの先進国も、眼前の生活不安を抱える人が圧倒的多数派です。そういう人たちにとって重要なのは、過去でも未来でもなく『今』。主義主張よりも、物価高や社会保障の問題を解決してほしいのです」

 「『合意的争点』という政治学の用語があります。課題そのものに対しては広くコンセンサスがあり、解決策や対応策のみが争点になることです。多くの先進国でそれが増え、教育や医療、社会保障など誰もが重視する政策が、今やほぼ合意的争点となっています」

 「日本で言えば、どの政党が政権を担おうが、少子高齢化を緩やかにして、労働力を維持し、社会保障の水準を極力切り下げないという課題は同じ。であれば、あとはそれをどう実現するかという政策実行能力で差異化を図るしかない」

 「昨秋の衆院選で、具体的政策を訴えて中間層の関心を引いた国民民主党が伸長したのは象徴的です。その是非はともかく、イデオロギーに固執する政党は一層訴求力を失っていく。ゆえに中道あるいは極中道の時代は今後も続くでしょう」(聞き手・石川智也)

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 よしだとおる 1975年生まれ。専門は比較政治学、欧州政治。仏パリ政治学院招聘(しょうへい)教授、北海道大教授などを経て現職。著書に「『野党』論」「くじ引き民主主義」「アフター・リベラル」など。

 ■リスクと価値、新たな対立軸に 中島岳志さん(東京科学大学教授)

 ――国民民主党など、「中道」とされる政党が支持されています。

 「僕は中道という概念を積極的には使いません。中道は『右と左』という概念の中にありますが、もう右か左かの図式が成立しない時代で、中道の意味が非常にあいまいになっている」

 「安倍晋三政権で、政治がかなり右に傾斜したといわれますが、当時でも自民党のコアな支持層は2割から3割しかいなかった。イデオロギーで支持している人は1割以下でしょう。一方、左派を支持している人はもっと少ない。右・左のイデオロギーから距離のある人が、中道支持に見えるのだろうと思います」

 ――なぜ「右と左」の図式が成り立たなくなったのでしょうか。

 「この変化は、冷戦終結後、左派が崩壊していったことで起きたのでしょう。日本だけではなく、欧州でも『右派対左派』という二分法の枠組みが機能しなくなり、近年では『極中道』の政党が伸びている」

 「政治の課題が変化し、右・左といった1本の対立軸で並べることができなくなっています。政策の立ち位置が違う政党を『中道』とくくってしまうのは、むしろ有害だと思います」

 ――どんな基準で政党を選べばいいのでしょうか。

 「僕は、複数の対立軸が必要だと思っています。政治の大きな仕事のひとつはお金の配分です。配分の問題をめぐっては、リスクの個人化と社会化という対立軸があります」

 「リスクの個人化とは、基本的には自己責任で、自分でリスクを取る。行政サービスは小さくするという考え方です。社会化は、いろいろなリスクを国民全体で負担する。当然、行政サービスは大きくなります。リスクへの姿勢で、政党の立ち位置を判断できます」

 「もうひとつは、価値の問題をめぐる対立軸、リベラルとパターナル(父権的)の対立です。リベラルは個人の自由を尊重するのに対し、パターナルは力を持った人間が価値の問題にも介入していく。従来の『リベラルか保守か』や『右か左か』という図式より、こちらのほうが対立が明確になります」

 ――実際の政党に当てはめるとどうなりますか。

 「この対立軸で分類すると、(1)リスクの社会化でパターナル、(2)リスクの社会化でリベラル、(3)リスクの個人化でリベラル、(4)リスクの個人化でパターナルの四つに分かれます。自民はもともとリスクの社会化に軸足を置いていて、(1)から(2)の立場だったんですが、小泉純一郎政権の頃から(3)、リスクの個人化でリベラルという新自由主義路線に移行しました」

 「そして第2次安倍政権では、リスクの個人化でパターナルという(4)になりました。小泉さんに比べ、安倍さんは価値の問題に関心が強かった。一方で、連立を組む公明党は、リスクの社会化を重視するので、立ち位置が違います」

 ――野党はどうですか。

 「国民は(2)と(3)の中間でしょう。価値の問題ではリベラルですが、リスクについては社会化と個人化の双方の側面がある。日本維新の会は(4)と(3)の間に位置しています。リスクの個人化では一貫していて、教育無償化も、公立高校に競争原理を導入する発想です。一方、価値の面では、新自由主義的な部分とパターナルな部分が混在しています」

 「立憲民主党やれいわ新選組は、大まかにいえば(2)に分類されるでしょうが、立憲は価値の問題に、れいわはリスクの社会化に重きを置いています。税制のあり方をめぐっても見解が分かれています」

 ――立ち位置がかなりばらけていますね。

 「右か左かという図式にとらわれていると、中道に見える政党は違いがわかりにくい。この政党は、リスクを社会と個人のどちらが引き受けるべきだと考えているのか、価値の問題にどう向き合っているのかという複数の対立軸で、新たな政治の見取り図を作っていく必要があります」

 ――夏には参院選があります。

 「有権者は『中道』という空虚な言葉に惑わされず、政策やビジョン、人物を吟味して票を投じるべきです。自民は石破茂政権になって、リスクの社会化、リベラルに向かいつつあります。政策的には国民や維新よりもむしろ立憲に近い。参院選の結果次第では、自民と立憲の大連立の可能性もあると思います。ビジョンは近似しているので、野合とはいえないでしょう」(聞き手 シニアエディター・尾沢智史)

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 なかじまたけし 1975年生まれ。専門は南アジア地域研究、近代日本政治思想。著書に「中村屋のボース」「思いがけず利他」「保守と立憲」など。

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