16話:前所有者一家 来る
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不動産競売でお安い戸建てを落札し、自宅として使い始めた漫画家の根本尚さん。念願のマイホームに住み始めて5~6年、新たな我が家での暮らしにも慣れてきました。
慣れない手続きやトイレの水洗化工事も経て、ようやく落ち着けると思ったら…。次はなんと、物件の「前所有者一家」が訪ねてきました。
競売ルポ漫画『競売物語』、第16話ではまたトラブルに巻き込まれてしまうのでしょうか?
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【登場人物】
本作のあいづち役。北海道弁がチャームポイント
丸の内ソレイユ法律事務所の阿部栄一郎弁護士が、不動産トラブルを数多く担当してきた経験を活かし、法律の豆知識をご紹介します。
解説:競売で買った物件、どこまで自分のもの?
さて、今回問題となっているのは祠です。この祠には抵当権が及ぶのか…すなわち、競売の対象だったとして主人公が所有権を主張してよいのでしょうか。
本編第4話で解説していますが、抵当権が及ぶのは不動産の「付加一体物」までです。付加一体物は「不動産に付合した物及び従物」とされています。この基準に照らして考えてみましょう。
祠は、不動産に「付合している」とはいえません。付合というのは、不動産と一体で独立性がない物をいいます。ですので、「従物といえるかどうか」が問題となります。
従物は「主物の常用に供するために、その主物に附属させた物」(民法87条1項)とされています。
「主物」とはメインの建物や土地と理解してください。その「常用に供する」というのは、一般の取引観念上、「主物の機能が果たせるような働きをすること」を意味します。
イメージしづらいかもしれませんが、要するに、建物に付属する納屋や倉庫、庭石など。これらが「従物」の代表となります。
では、祠はどうなのか。実際のところは、「ケースバイケース」ということになるかと思います。
過去の3点セットを確認したところ、執行官の意見として従物に該当しない=競売の対象とはならない、と書かれたものがありました。他方で、執行官の意見が特に付されておらず、競売の対象とされていたと考えられるものもあります。
作者の根本先生によると、漫画の物件の3点セットには特段の記載はなかったようです。なお、抵当権設定契約において特別な定めがあった場合(民法370条ただし書)には、それに従うことになります。
大家歴15年の「空き家再生人」こと広之内友輝です。漫画と同じ北海道で、ガラガラ・ボロボロのワケアリ物件を「直して貸す」のが得意です。不動産にまつわるリアルな「現場の話」をお伝えします!
解説:物件にひそむ「競売紛争の母」
庭に残された祠に関連して、「家の中に残されたモノ」の話をしましょう。これらは「残置物」とよばれ、「競売紛争の母」ともいえるくらい、トラブルの種になります。
たとえばどんなトラブルがあるか。購入した物件に行ってみたら…ある1部屋に、見覚えのないガステーブルが数十台積まれていたことがありました。
購入前に室内写真を確認したはずですが、写りが悪く、こんなものがあるなんて分からなかったのです。「こんなん写真であったっけ?」ととても驚きました。
広之内さんが実際に見つけた3点セットの写真。「ガステーブルの部屋ではありませんが、3点セットの写真がいかにわかりにくいかが伝わるかと思います」と語る(広之内さん提供)
これは競売と似た「公売」で買った物件で、競売と同様、購入前は3点セットでしか情報を見られませんでした。資料がアテにならないこともあるのだなあ…と思いましたよ。
そんな残置物をどうするのか、話を競売に戻します。物件の落札者であっても、競売の目的物ではない残置物は勝手に処分できません。債務者と交渉するか、法的手段により強制的に処分する必要があります。
債務者に連絡が取れるのであれば、交渉の上、処分の承諾を書面でとります。期限を設け、「期限までに引き取らない場合は、買受人側で処分する」といった具合です。
なお、処分を円滑に進めるために、本来であれば請求可能な処分費用を免除したり、所有権放棄の承諾料を支払ったりするケースも見聞きします。不要な残置物撤去費用が過大になり、争いになることもあるようですので…。
競売物件を買うときは、まず3点セット内の写真で残置物を確認すること。そのうえで、一定の処分費は見積もっていくべきでしょう。
◇
ちなみに、前出のガステーブルはまだ私の物件にあります。物件の1部屋を倉庫にし、そこに収めることにしました。処分するのにお金もかかりますし、総合的に判断した結果です。
漫画の物件のことを漫画家さんに聞いてみると、法人が賃貸で使っていたこともあり、残置物はほとんどなかったそうです。ただ、実際にはこんな面倒ごとに巻き込まれてしまうリスクもあるのです。
(漫画:根本尚、監修・解説:弁護士 阿部栄一郎、広之内友輝)
根本 尚/漫画家(X)
『プリンセス』(秋田書店)で連載中。 『怪奇探偵・写楽炎』(文藝春秋) 『現代怪奇絵巻』(秋田書店・週刊少年チャンピオン)、 『恐怖博士の研究室』(同・ミステリーボニータ)他。 同人サークル名、札幌の六畳一間。 北海道ミステリークロスマッチ会員。北海道の自宅を競売で取得した。
広之内 友輝/不動産投資家
不動産投資歴15年。32棟400室を所有する。北海道で、ガラガラ・ボロボロの「ワケアリ物件」に数多く投資。物件再生に関して豊富な知識と実績を持つ。楽待では「空家再生人」としてもお馴染み。
阿部 栄一郎/弁護士
2007年東京弁護士会登録。不動産オーナーのサポートを中心に、不動産に関する問題の解決実績多数。不動産関連のイベントや相談会への参加不動産専門紙への寄稿も行っている。
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『競売物語』作者の漫画家。北海道の自宅を競売で買った。