仕事は最低限に、定時で帰る…日本でも広まる「静かな退職」 専門家「選択肢必要」
職場で必要最低限の業務をこなし、出世は目指さない-。こうした働き方を指す「静かな退職」という言葉が注目を集めている。賃金の伸び悩みや夫婦共働きの増加などが背景にある。パナソニックホールディングス(HD)の楠見雄規社長が「人員は少し足りないというぐらいがちょうどいい」と発言するなど労働生産性の低さが問題視される一方、多様な働き方の選択肢として肯定的に捉える見方もある。 【主な事例】指示された業務しかやらない等…「静かな退職」とされる働き方 「静かな退職」という言葉は、米国人キャリアコーチのブライアン・クリーリー氏が2022年に交流サイト(SNS)で「仕事を辞めないが意欲は持たず、最低限の業務にしか携わらない働き方」として発信した。米国の調査会社ギャラップが22年~23年に160カ国以上の約12万人に行った調査では、労働者の約59%が静かな退職の状態にあるとする。具体的には、会議でまったく発言しない、残業を一切せず定時に帰る-などの勤務状況が想定される。 高度成長期に家庭を顧みずに長時間労働で会社に貢献する「企業戦士」「モーレツ社員」が当然視された日本でも、現在は「失われた30年」からの脱却のため、労働生産性の向上が急務だ。 日本生産性本部によると、23年の日本の1人当たり労働生産性(就業者1人当たり付加価値)は、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中32位で、先進7カ国(G7)で最低。どこまでが「静かな退職」と呼べるか不明な部分はあるが、従業員の生産性の低下は経営者にとって頭痛の種になっている。 パナソニックHDは今月9日、経営改革の一環としてグループ人員を1万人削減すると発表。楠見社長は記者会見でこう語り、人員の「余剰感」を強調した。 「人の数が仕事に対して少し余裕があるとなると生産性を高めるための創意工夫も起きない。人員は少し足りないというぐらいがちょうどよくって、その中で生産性を上げる努力をして人が成長する」 各種調査の結果を見ると、静かな退職は日本でも若者を中心に拡大。プライベートの充実、給料に見合った仕事を求める傾向がみられる。人事制度に詳しい大正大の海老原嗣生・招聘教授は「賃金を上げる代わりに長時間勤務で労働者を酷使する人事制度が持たなくなった」と指摘する。 国内では生産年齢人口(15~64歳)が1995年の8716万人をピークに減少を続け、2024年11月時点で7374万人。ところが、就業者数は年々増加傾向にあり、24年で6781万人と前年から34万人増え、比較可能な1953年以降で最多となった。
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