「定年した人」1000人調査で"人生の大後悔"が判明…お金、仕事、家族「やればよかった」ベスト10
定年後も人生は続く。定年後も生き生きとした毎日を送るには、いま何をしておくべきなのか。リタイアした読者たちの失敗例、成功例から学んで将来に備えよう。 【図表をみる】お金編 長いデフレ時代に投資しなかった後悔が強い ■60代は定年したとてまだ枯れる年ではない 「定年後の準備は早くしておいたほうがいい。それが、65歳になった私の実感として伝えておきたいことです」 そう語るのは、経済ジャーナリストの渋谷和宏氏だ。 準備によって、定年後の満足感や後悔に大きな差が生まれる──それは、今回プレジデント編集部が定年退職後の読者に行ったアンケート結果にも、はっきりとあらわれた。 顕著なのが、お金の後悔だ。 〈やればよかったこと〉の1位となったのが〈投資や資産運用を早くから始めておけばよかった〉。2位は〈もっと貯金をしておけばよかった〉。また〈定年後の悩み〉でも〈年金が少ない〉〈投資の運用益が少ない〉〈貯金が少ない〉が上位を占めた。4位の〈死ぬ前に貯金が尽きないか不安だ〉は切実な現状を示している。渋谷氏は言う。 「お金に関する後悔は予想以上でした。考えるに、2022年以降の物価高に加え、この数年で株価が大きく上がりましたよね。それ以前に投資していれば老後資金の不安がなくなったのに、と考える人が多いのではないでしょうか」 14年12月の日経平均株価は1万7450円だった。10年後の昨年2月にバブル期に記録した最高値の3万8915円を抜き、7月には4万2000円台に。今年3月現在は3万6000〜3万7000円台で推移する。 「仮に10年前に日経平均株価と連動する投資信託を購入していたら、倍以上になっていました。ただし、10年先の経済状況を予想するのは困難です。当時はデフレで物価が下落していて、貯金したり現金を手元に置いておくだけで、現金の価値が相対的に上がりました。そんな経済状況では積極的に投資する意識を持ちにくいですよね。逆に言えば、将来の経済状況や社会の変化を読むのは困難だからこそ、人生の折り返し地点となる40〜50代のうちから定年後に備える意識が重要だと思います」 それは、渋谷氏自身の後悔でもある。 渋谷氏は、40代の頃、ビジネス誌の編集長として、日々コンテンツ制作に追われ、雑誌の売れ行きを気にする毎日を送っていた。 「目の前の仕事に一所懸命で、老後や定年後を考える時間はありませんでした。実際に65歳になったいま、40代から65歳までは本当にあっという間だったなと痛感しています」 後悔の一方で〈やってよかったこと〉が、定年後の準備の成功例だ。トップが〈住宅を買っておいてよかった〉。 「3.91ポイントという高スコアが、定年を迎える時期に住宅ローンを払い終えた安堵を示しています。また現在は東京23区内の新築マンションの平均価格が1億円を超えています。高騰前に住宅を購入していてよかったという思いもあるに違いありません」 渋谷氏は、9位の〈ずっと賃貸住宅に住んでよかった〉にも注目する。「1.8ポイントと低めのスコアですが、賃貸には家に縛られずに、それぞれのライフスタイルや収入に合わせて借り換えられるメリットがあります。定年後に、医療機関などが充実する暮らしやすい町に住む選択肢もあります」 持ち家か、賃貸か。現役世代にとっては、その選択もまた定年後の準備のひとつと言えるだろう。 次に仕事編に移ろう。 渋谷氏は20年ほど前に開かれた高校の同窓会で再会した旧友たちと情報交換をしてきた。しかし定年を迎えた途端に疎遠になる同世代の友人を目の当たりにして、渋谷氏はしみじみと思った。仕事を通じて、社会とつながっていられたからこそ、みんな生きがいを感じられていたのだな、と。 「現代の60代はまだまだ枯れるような世代ではありませんし、ほとんどの人が定年後も社会のなかで自分の責任を果たしていきたいと考えています」 アンケート結果も渋谷氏の指摘と符合する。〈やればよかったこと〉の2位になった〈定年後も働けるように資格を取っておけばよかった〉や、〈再就職に向けた準備をしたほうがよかった〉〈老後を意識して、定年のない仕事に就いておけばよかった〉などは、仕事を通じて社会とつながっていたいという思いからの後悔だ。さらには〈定年後の悩み〉の〈定年後も働きたいが、資格やスキルがない〉もそうだろう。 渋谷氏も、定年のない仕事に就いておいてよかったを体現するひとりだ。 渋谷氏が出版社を退職したのは、54歳のときのこと。ビジネス誌の編集長を6年間務めたあと、ビジネス局長として100人を優に超える部下を抱える立場となった。しかし──。 「管理職は向いていないとつくづく思いました。外で取材し、記事を書いたり、情報を発信したりするのが、自分には向いていると実感したんです」 管理職時代は、電話の着信があるたびにトラブルや不祥事の連絡ではないかと気持ちがざわついた。そんな毎日が、フリーランスとして独立するきっかけになる。独立してから着信への受け止め方が、大きく変わった。「次はどんな仕事だろう」と着信のたびに期待感を覚えるようになる。 フリーランスは会社員に比べ、収入も立場も不安定だ。が、渋谷氏は語る。 「フリーランスには定年がありませんし、興味がある仕事を自分のペースで楽しんで続けられます。独立して本当によかったと感じています」 とはいえ、渋谷氏のように65歳のいまも、社会のなかで自分の責任を果たしているという実感を持てる人ばかりではない。定年後も働きたいのに、思うような仕事を見つけられないという人のほうがほとんどだろう。 昨年、そうした状況を打破する可能性を持つ提言がなされた。OECD(経済協力開発機構)が、日本経済を分析した「対日経済審査報告書」で「日本企業は定年制を廃止すべき」と訴えたのである。OECDに加盟する日本をふくめた38カ国のうち、定年制があるのは、日本と韓国の2カ国だけ。 「対日経済審査報告書」について渋谷氏はこう解説する。 「人口減少による人手不足を解決する手段としても定年制を撤廃すべきだという提言でした。私自身も将来的に定年制が廃止される可能性は極めて高いと考えています。現在は希望する人に対して、高年齢者雇用安定法で65歳までの雇用を義務づけられています。それが今後、70歳、75歳と延びていくのではないでしょうか」 ただし、と渋谷氏は付け加える。 「現状では65歳で定年を迎えざるをえません。そのためにも、資格を取ったり、スキルを身につけたりといった定年後も働く準備を40〜50代のうちからすべきでしょう」 では、仕事編で〈やればよかったこと〉の1位〈外国語を勉強しておけばよかった〉という回答は何を意味するのか。定年後の仕事に外国語が必要とされるのだろうか。渋谷氏は「2つの側面がある」と続ける。 「1つ目がインバウンドの増加です。昨年の訪日外客数は3687万人。英語や中国語ができれば、定年後も接客などのサービス業や観光業の仕事を見つけやすい。2つ目は純粋に教養として外国語を学び、外国の人たちと交流したかったという後悔なのではないでしょうか。40〜50代の脳のほうが外国語学習に適しているという研究もあるので、定年を見据えて外国語の勉強を始めても遅くはないでしょう」