「定年した人」1000人調査で"人生の大後悔"が判明…お金、仕事、家族「やればよかった」ベスト10
■スケジュール帳に「空白」をつくろう 私生活編のアンケートは、渋谷氏の予想を裏切る結果だったという。 それが、〈配偶者といい関係を築いておいてよかった〉が1位だったこと。 「アンケートに回答してくれた読者は、仕事へのモチベーションが非常に高い人たちだと想像していました。仕事一辺倒で、家族を顧みなかった男性の層が、一定の数いるのではないか。そんな先入観を持っていたんです。しかし〈配偶者といい関係を築いておいてよかった〉が高スコアだったのは、いい意味で意外に感じました。配偶者やパートナーとの関係は一生もので、しかも仕事にもプライベートにも影響を与えます。その点でバランスのいい生き方をしているのだな、と感じました」 ちなみに、定年経験者を対象とした本アンケートの回答者の88%が男性だった。とくに男性は定年後に仕事上の人間関係が切れがちだといわれる。定年後のプライベートを充実させるには、パートナーや配偶者をふくめた、仕事以外の人間関係が鍵を握るのかもしれない。 またアンケートから家族関係の後悔もうかがえる。〈やっておけばよかったこと〉で上位だったのが、〈もっと親孝行をすればよかった〉と〈子どもと過ごす時間を増やせばよかった〉。 30代末で父親を亡くした渋谷氏もその気持ちがわかると語る。 「私自身も後悔しているんです。父親ともっと向き合って、いろいろな話をしておけばよかった、と。我々自身もどんどん年を取っていきますが、同様に親世代も老境にさしかかり、やがては死を迎える。それは避けようがありません。親孝行はいつかではなく、いまやるべきです。現代はリモートで顔を見ながら話せます。ぜひ親御さんが元気なうちにたくさんコミュニケーションをとってほしい。それは子育てでも同じです。子どももすぐに成長し、自立してなかなか会えなくなりますから」 子どもとの関係という点で、渋谷氏が着目するのが、〈やってよかったこと〉の3位になった〈子どもの配偶者といい関係を築いておいてよかった〉。「お子さんの配偶者やパートナーと忌憚(きたん)なく話せる関係のほうが、楽しい老後を過ごせるのはもちろんですが、それだけではありません。語弊があるかもしれませんが、高齢者にとって、頼りにできるお子さん夫婦の存在がリスクヘッジになるのです」 定年後も働きたい。プライベートでも満たされたい。それが可能なのは心身の健康があってこそだ。 渋谷氏は、健康編の上位は〈タバコを吸わなければよかった〉や、運動や食習慣の後悔になるだろうと予想していた。しかし1位となったのが〈歯をしっかりケアしておけばよかった〉。 「私自身は幸い、歯に問題はないから気づかなかったのですが、同世代の知り合いでも『最近、歯が悪くなって硬い物が噛めなくなった』と話す人が確かに増えてきました」 歯は、栄養を十分に摂取するうえで重要な役割を果たす。日本歯科医師会では、健康の維持や病気の予防のために「60歳で自分の歯を24本以上保つ」「80歳で自分の歯を20本以上保つ」という運動を推進している。 「インプラント治療には数十万円から100万円を超えるお金がかかります。歯を大切にすることは、健康を維持するだけではなく、金銭的なリスク回避のうえでも重要になります」 渋谷氏が深く共感するのが〈やってよかったこと〉の4位〈悩みすぎず楽観的に生きてよかった〉である。 「不安になりだすとキリがありません。病原菌やがん細胞を破壊するNK細胞は、ストレスによって働きが弱まります。健康のために、とムリに禁煙や禁酒をしてストレスをため込むくらいなら、好きなことをしたほうが精神的にも楽だし、楽しい老後を過ごせるかもしれません」 渋谷氏が、後悔が少ない人生を歩むうえで大切だと考える習慣がある。 それが、現役時代に、スケジュール帳にあえて空白をつくること。 会社員時代、渋谷氏のスケジュール帳には、予定がびっしりで空白がなかった。毎日、忙しく働く自分に満足していた。しかし、と渋谷氏は振り返る。 「仕事では、目標を達成するために目の前の課題を解決しなければなりません。目先の仕事に集中しなければならないから、結果的に将来やプライベートについて考える余裕がなくなってしまう。視野の射程が短くなりがちなのです。週に1日、できれば2日、スケジュールに空白をつくって、自分の将来や、家族、プライベート、健康について考える時間をつくる。それが定年後のリスクや後悔を減らすのではないかと感じるのです」 現役時代の“空白”づくりが、定年後の準備の第一歩になるのかもしれない。 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2025年4月18日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 渋谷 和宏(しぶや・かずひろ) 経済ジャーナリスト、作家 大正大学表現学部客員教授。1959年横浜市生まれ。84年法政大学経済学部を卒業後、日経BP社入社。日経ビジネス副編集長などを経て2002年4月『日経ビジネスアソシエ』を創刊、編集長に。ビジネス局長(日経ビジネス発行人、日経ビジネスオンライン発行人)、日経BP net総編集長などを務めた後、14年3月末、日経BP社を退職し、独立。日本テレビ「シューイチ」、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」などに、コメンテーターとして出演中。著書に、『文章は読むだけで上手くなる』(PHPビジネス新書)、『「IR」はニッポンを救う! カジノ? それとも超大型リゾート?』(マガジンハウス)、『東京ランナーズ』(KADOKAWA)、『働き方は生き方 派遣技術者という選択』(幻冬舎文庫)、『日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか』(平凡社新書)などがある。 ----------
経済ジャーナリスト、作家 渋谷 和宏 文=山川 徹