文学フリマへの批判と提言

 2024年5月19日に、『アラザル』の新刊となる16号を発行します。「政治」を特集した13号(2020年発売)に続き、2度目の特集号として「経済」をテーマに制作しました。昨今の物価高や円安、税制改正によって、お金の問題が生活の中で大きくなっているこのタイミングで、同人それぞれがお金について考えたエッセーを掲載しています。

https://x.com/arazaru/status/1790958151883424005

 さて、「インディペンデント批評誌」として発行している『アラザル』は、2008年の創刊以来、常に都内で行われる文学フリマに合わせて新刊を作ってきました。増刊号を出す際や、何も新刊のないタイミングでも文フリに出店してきたので、我々にとっては文フリはもっとも大きな発表の場になっています。しかし、今回の16号は文学フリマで販売しないことにしました。正直に言うと、同人の誰もがぼやぼやしているうちに、申し込み期限を逃してしまったからです。しかし、これを書いている西中個人の意見としては、今回の「経済」号は文フリに出さなくてよかったと思っています。ここからは、同人(現在のレギュラーは12〜16人くらいいるので、同人誌としてはかなり大所帯です)の総意ではなく、あくまで西中の考えを記します。

 文学フリマは、2024年5月19日開催の「文学フリマ東京38」から、一般入場を有料化することになりました。今のところ東京開催の文フリ限定ですが、18歳以下は入場無料、それ以外は1000円の入場料が必要になります。これについて、公式HPでは「諸経費の増大や、近年の来場者数の増加への対応のため」(※1)という説明がなされています。これまで文フリは、各出店者が支払う出店料に加え、ボランティアスタッフや出店者が会場の設営・撤収を行うことにより、入場無料を維持してきました。しかし、昨今の物価高により「諸経費の増大」がかなりシャープに起きていることは明らかです。他の多くの同人即売会が、数百円でも入場料を取っているのを考えても、文フリの入場有料化は納得できない話ではありません。

 しかし私は、文学フリマの構造を大きく変えるこの改革を、「諸経費の増大や、近年の来場者数の増加への対応のため」という一文で説明するのはおかしいと考えます。「諸経費の増大」とは、具体的に何にいくらかかっているのか? 今回導入された入場料を何に使うのか? また、後半の「近年の来場者数の増加への対応のため」という理由も少し疑問が残ります。文フリHPで公開されている通り、この20年間の文フリは、出店数と一般来場者の増加がだいたい軌を一にしています(※2)。どちらかというと出店数の増加に対応するため、会場規模を大きくしてきたことは、文学フリマ事務局代表の望月倫彦氏の発言からも伺えます(※3)。その次のステップとして、12月開催の「文学フリマ東京39」から、東京ビッグサイトという日本最大級の箱に会場を移すことになりました。そうなると、会場費、警備費、設置・搬入費などなど、今まで以上にお金がかかりそうです。しかし問題なのは、やはり何にいくらかかるのかという「会計情報」と、ビッグサイト開催という選択肢を取ることでこれからの文フリをどういうものにしたいかという「行動計画」が、なんら具体的に示されていないことです。出店者も来場者も一緒になってつくる文学の「公共的な「場」」を目指すものとして、これは正しい姿勢だとは思えません(※4)。今回『アラザル』の新刊として出す「経済」号は、世の中のお金の仕組みについて、何かおかしいと違和感を持ったことが制作の出発点になっています。そういう本を、我々出店者が見えないところでこれだけの改革をやろうとしている文学フリマには出せないな、と感じました。それが西中個人の今の考えです。

 我々アラザルが初めて参加した「春の文学フリマ2008(東京)」は、「東浩紀のゼロアカ道場」とのコラボが行われた伝説的な回でした。我々も創刊号にして100部以上の売り上げを達成できたのは、ゼロアカに引っ張ってもらったことと、アラザル生みの親である佐々木敦さんの知名度のおかげだったと思います。当時の秋葉原の会場に出店したのは157ブースで、他の出店者の本を目当てに来た人が我々のブースで足を止め、中身を確認して購入してくれるというケースが大半でした。私も会場を回るうち、本屋では素通りするようなジャンルの本もたくさん買いました。感覚としては、みんながみんな大人買いを楽しみ、読みきれないほどの量の本を前に後悔しつつ、新しい本・書き手と出会う場になっていたという印象です。しかし今は会場が大きくなり、1800を超える出店者の本をすべてチェックするなんてことは不可能になりました。結果、知っている書き手(多くはプロとして本を出している作家)と友人のブースを回り、後はぶらぶら歩いて出てくる、という人が多くなったように思います。アラザルは売れそうな仕掛けをあえて避けてきたこともあり、売り上げは16年かけて下がり続けてきました。今書いていることはあくまでこのアラザルのケースと、私の印象です。ただ、他の出店者からも似たような声を聞くことは多く、この印象は現実とそう乖離していないのではないかと思っています。

 文フリ事務局代表の望月氏は、2011年のインタビューで「同人用語でいう“買い専”、つまり一般のお客さんを動員しなければ」ならないと語っています。でなければ出店者同士が買い合ったり、「物々交換」することになると(※5)。しかし、今でさえ上述のような状況なのに、“買い専”の一般入場者にいきなり1000円という本一冊分くらいの入場料を課すことは、妥当でしょうか? また、文学とは本質的にまだ見えていないもの・社会の周縁にあるものに形を与える営為だと私は考えています。そして同人の世界とは、経済合理性が働く商業出版が取りこぼしたものをすくい上げるためにあると思います。そのような文学の同人即売会を、東京ビッグサイトという市場原理の頂点にあるような場所に集約することは、はっきり言って悪手ではないでしょうか。私は90年代末〜2010年代前半までのコミケに足を運び、会場に企業ブースがどんどん増えていく様を見てきました。イベントの規模を追求すると、市場原理に囚われます。秋葉原の文フリの会場にあったユートピア的な状況は今や遠くなり、ごく一部の書き手と出版社のブースしか人が集まらないような過酷な風景が、もう出現しはじめています。

 本当に、ビッグサイトで開催する以外に「公共的な「場」」を広げる施策はないのか。一般来場者から1000円も取らなくていい方法だってあるのではないか。出店者の増加への対応も、単に会場を大きくする以外の選択肢はあるだろう――。今から、文学フリマ事務局に提言します。出店者に、これまでとは違う角度でアンケートを取ってみてはいかがですか? 自分たちが同人誌の制作にいくらお金をかけ、いくら売り上げたのか。東京ビッグサイトで文学フリマを行うことについてどう感じているのか。自分たちが文学フリマという場のために何ができるか。そうしたアンケートに加え、有名・無名を問わず出店者と対話を行い、公開する。そうすれば、今やっているデータ分析とは違ったものが見えてくると思います(※6)。もちろん、現在の文フリの「会計情報」と「行動指針」を具体的に示すことは必須です。ここまで批判的なことを書いてきましたが、私は文学フリマ事務局が私心や悪意を持って今回の改革を行っているとは思いません。しかしこのままでは、機会に乗じた便乗値上げと、参加者の思いを無視した拡大路線と受け取られても仕方がありません。

 次回、東京ビッグサイトで開催される文フリにアラザルが出店するかどうかは、まだ決めていません。私はただの一同人であり、独断で決められる立場にはないので。しかし、文学フリマ事務局が私も納得のいく対応を取り、また気持ちよくブースを出せる状況になることを、心から願っています。

(※追記 5月21日付けで、当記事へのコメントに返信する形で補足と訂正を行いました。コメントしてくださった方の意見も非常に参考になります。本文をお読みいただいた後にお読みいただければ幸いです)

※1 入場有料化についてのアナウンス
https://bunfree.net/event/tokyo38/
※2 文学フリマの出店者数と一般来場者数のデータ(「開催終了」の項に各年のリンクあり)
https://bunfree.net/event/
(会場を秋葉原に移した2004年から、現在の東京流通センター開催に至るまで、大まかに出店数:総来場者数=1:6〜7で推移している)
※3 2022年の望月倫彦氏のインタビュー
https://realsound.jp/book/2022/11/post-1184723.html
※4 文学フリマについて
https://bunfree.net/about/
※5 2011年の望月氏のインタビュー
https://bunfree.net/archive/articles/minicomi/
※6 文学フリマのデータ分析について
https://www.threads.net/@bunfree/post/Cy56bsQScYW

その他、参考となる記事
●「大規模イベント」に対する「中小イベント」の意義が書かれた記事
https://bunfree.net/archive/articles/online_entry_and_catalog/
●文学フリマ百都市構想
https://bunfree.net/about/100_city_plan/
●2024年1月に公開された望月氏のインタビュー
https://finders.me/kqFQxAjndj6B4BgBsg

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コメント

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西中様

丁寧なお返事ありがとうございました。

なるほど、必ずしも財務的な意味での会計情報ではなかったのですね。入場有料化を「諸経費の増大のため」という簡素で紋切り型の説明で行うことに対する、ある種の乱暴さへの異議申し立てであるようなことと理解しました。

例えば事務局から公式に、入場有料化で実現したいこととして、このような表明があればいいのにということでしょうか。
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代表の望月さんが文学フリマだけで食べていけるようにする。当日以外に様々な業務の発生する事務局のコアメンバーも、その業務に応じた支払いを受けるものとする。当日のスタッフには日給を支払う。それぞれの支払額は当然最低賃金以上とするとともに、一般企業と同程度以上の水準とすることを妨げない。
文学フリマは文学の同人誌即売会として、まだ見ぬ地平を目指す。コミケの文脈では無きに等しいジャンルである文学の名で、コミケの聖地であるビッグサイトで同人誌即売会を行う。これは誰も見たことがない風景を見たいという、単なる主催者のエゴかもしれない。
しかし青山の本屋の一隅から始まったこのイベントが、規模の拡大を経てビッグサイトで開催されることは、文学の可能性そのものの開拓であると固く信じるものである。
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文章の拙劣さはご容赦ください。具体的な金額よりは「どんな思いで、何がしたいのか」という情の面を主眼にしました。
まあ文学フリマ事務局に私が書いたような動機や情熱が実際あるのかどうかはわかりませんが、そういえば望月さんの熱のこもった文章をしばらく読んでいない気がするので、一抹の寂しさはありますね。全国の文学フリマの采配で多忙なことは想像に難くありませんけれども。
ビッグサイトでの開催一発目には、是非とも激熱な一文をしたためていただきたいなと願うものではあります。

ただし私はどうしても各地域の文学フリマに、西中様には、もう少し目を向けていただければという思いはあります。単に(目立ちすぎてしまうがゆえに)有名人が来ないから戦いやすいのではというのもありますが、近年の文学フリマが最も力を傾けてきた分野でもあると思いますので。
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野田光太郎
野田光太郎

大塚さんが言っていた理想とはますますかけ離れたものになっていますね。物々交換でよかったのに。初期のフリマで出くわした人たちとはいまだに少しだけ交流あります。

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文学フリマへの批判と提言|西中賢治
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