いつしかついて来た犬と浜辺にいる

気になる事件と考えごと

室蘭女子高校生行方不明事件と「噂」について

20年以上経った今も多くの関心を集める謎多き女子高生行方不明事件。

何か心当たりのある方はささいな情報でも下記までご一報ください。

《連絡先》

室蘭警察署捜査対策室 0143-43-4220

室蘭警察署(代表) 0143-46-0110

 

事件の発生

2001年(平成13年)3月6日(火)午後1時半頃、北海道室蘭市東町2丁目のショッピングセンター「室蘭サティ」北側の道路で目撃されたのを最後に高校生千田麻未さん(ちだあさみ、当時16歳)の行方が分からなくなった。この日は高校で入学試験が行われるため、在校生は休校日だった。

 

麻未さんは前年11月から休日に自宅近くのパン屋「L白鳥台支店でアルバイトをしており、この日は知利別町にある「L本店でオーナーから「コーヒーの淹れ方」の研修を受けることになっていた。

当初、美容院に行くつもりでいたが予約が取れず、午前11時過ぎに「L」本店に電話を入れた。「午後1時過ぎに行きたいんですが、オーナーはいますか」と話し、応対した従業員女性はオーナーにその旨を伝達した(おそらく電話をオーナーに直接取り次いだのではなく、言伝したものと思われる)

麻未さんは正午過ぎに白鳥台一丁目の自宅を出たものとみられ、近くのコンビニに立ち寄った後、道南バス「白鳥台中央」バス停へ。12時30分発のターミナル行きのバスに乗車しているのを友人が目撃し、そのとき彼女は後方席から手を振っていたという。

 目的地となる「L」本店は自宅からおよそ10km離れた知利別町一丁目にあった。マンション一階にある路面店東通り」バス停から約20mと至近距離にあった。

下のストリートビュー正面に見える3階建ての建物一階がパン屋の入っていたテナント、二階、三階はマンションとなっていた。

麻未さんが乗ったバスは12時56分に「東通り」バス停に到着した。バスに多少の遅れがあったとしても午後1時過ぎには本店に到着できたはずなのだが、なぜか彼女は店に姿を現さなかった。

 

麻未さんは「東通り」で降りることなく、そのまま線路を越えて午後1時3分頃「東町2丁目」バス停で下車し、近くのショッピングセンター「室蘭サティ」(現在の「イオン室蘭店」)を訪れていた。

彼女が通う高校もJR東室蘭駅の南側、東町エリアにあり、周辺は勝手知ったる遊び場だったと思われる。

店の防犯カメラで午後1時4分26分にその姿が確認されており、化粧品売り場にいたことが伝えられている。購入履歴等は不明。すでに「1時過ぎ」を回っているが、ビデオの静止画像を見るかぎり、何か急な買い物をしているような慌ただしい印象は受けない。

ほぼ同時間帯の1時30分頃、サティ北側の通りにいた高校の友人2人が道路越しに彼女から声を掛けられ「どこに行くの」と一言二言会話を交わしていた。これが最後の目撃情報と見られている。

 

当時の服装はベージュ色のブレザーと紺色ジーンズ、バーバリーのチェック柄マフラー姿で、緑色の革靴を履いていた。特徴としてピアス、銀色のリングを身に着けていたことが伝えられている。

下の道警HPのリンクから室蘭サティ店内で映り込んだ際の画像等が確認できる。

www.police.pref.hokkaido.lg.jp

ここから知人による目撃は途絶えており、情報の不確定性は高まるが、道警は行方不明者が再びバスに乗車したと見て捜査中と報じられている。

報道によれば、サティ近くの「東町2丁目」バス停から午後1時31分発道南バス中央町・工大循環線〈外回り〉」に乗車したと推定されているという。

平日昼間のバスは常連客が大半で、同便には3人の客が乗り込んできたが、そのうちの一人が定期券を使用していた。これが通学定期を所持していた麻未さんではないかと有力視されているが、本人と特定できてはいない

バスは午後1時40分頃に「L」本店の最寄りである「東通り」バス停に停まり、ここで定期券の乗客を含む12人が下車した。週刊ポストによれば、2004年9月までに11人中8人の身元を特定し、残る3人は不明のままとされている。

また警察は当時バスの乗客は24人いたことが判っているが、彼女を記憶していた者は確認できなかったと発表している。

 

当時はスマートフォンのようなGPS付携帯電話は普及しておらず、麻未さんはPHSを身に着けていた。基地局での通信回線の履歴をたどることで、ある程度の使用エリア範囲を絞り込み、バスの乗り降りが推測されたものと考えられる。PHSは携帯電話に比べて基地局から電波が届く範囲が狭く、最大でも半径500mをカバーする程度であった。

13時42分、交際していた同じ高校の男子生徒(報道によって「友人」とも表現される)が麻未さんのPHSに入電していた。彼の「どこにいるの?」という問いかけに彼女は「もう〈下〉に着いた。これからバイト先に向かう」と答えたという。

〈下〉というのは地元の表現で、高台にあった白鳥台方面の住宅街を〈山〉、サティや「L」本店のあった東室蘭駅周辺の市街地を〈下〉と呼ぶとされる。 

男子生徒は直後の46分にも電話を入れたが「今話せないから」「後でかけ直す」旨を伝えられてすぐに通話は打ち切られた。しかしその後、彼女から折り返しの電話は掛かってこなかった。

すでにこのときにはだれかと一緒にいたと捉えられるが、身の危険を知らせるような様子はなかった。

最後に電話越しに会話した男子生徒は、2度目の通話時の印象を「背後から音がせず、静かな場所にいる気がした」「室内にいるような気がした」と語っているが、はっきりとどこに居たかまでは不明である。

その後、彼は16時頃に再度連絡を取ろうとしたが「通話不能な状態だった」という。

 

麻未さんの自宅から着替えなどが持ち出された形跡はなく、小遣いやバイト代も部屋に保管されたままだった。午後にも親友と会う約束をしており、数週間先のスケジュールも立てていた。

家庭や学校でもトラブルは確認されず、自発的な家出とは考えにくい状況で、その後の連絡などもなかったことから3月17日に公開捜索となった。

自宅近くの「L」白鳥台支店の支店長によれば、彼女は主にレジ担当で明るく接客態度もよかったという。「L」のオーナーによれば、麻未さんは「キャピキャピしていない」「普通のアルバイト」で夜間の勤務を避けていたと言い、3月からは本店勤務に移ってもらうことになっていたため、コーヒー研修をするつもりだったとされる。

明るく話し上手でみんなの人気者だった麻未さんは中学時代にファンクラブがつくられるほど評判の美人としても知られていた(「高校時代」という報道もある)。また以前から彼女はストーカー被害を受けていたとの噂も聞かれている。

2003年にテレビ朝日系列の事件追跡番組『奇跡の扉TVのチカラ』で取り上げられて大きな注目を集め、その後も『スーパーJチャンネル』等で断続的に報じられたことや、行方不明者の美貌も相まって、本件はインターネットを中心に頻繁に話題となった。

そして疑惑は、失踪当日、コーヒー研修で彼女を呼び出していたオーナー犯行説を中心に拡大していく。

 

室蘭の環境

室蘭市は2000年当時の人口がおよそ10万人規模、製鉄を中心とした重化学工業の盛んな港湾都市である。最盛期の1970年前後には人口18万人を超えて道内で最も人口密度が高かったが、基幹産業の合理化や札幌への人口一極集中、苫小牧の発展や近郊への工場移転などにより人口減少傾向が続いている。

だが市町村の財源の余裕を示す財政力指数(平成15年度)で見れば、全国平均0.43、北海道平均0.25に対して室蘭市は0.60と道内でも有数の高水準を維持しており、過疎地域には指定されていない。

海と山に抱かれた平地の少ない地方都市ながら公共交通は整っており、大都市のような娯楽は望めないかもしれないが中心市街ではカラオケやショッピングなど学生には充分な余暇を楽しむこともできた。生産人口の割合が高く、医療機関も充実しており、生活に不自由な僻地という印象はない。

道内でも比較的温暖(厳冬期でも寒さが緩い)な地域とされ、失踪した3月6日正午の気温は0度、日中は0cm(1cmに満たない微量)の降雪が断続的にあったものの、積雪は2~3cmだった。

「L」本店の前を通る道道107号線は1時間におよそ600台の交通量があり、周辺にはデパートやホテル、公園や住宅街が混成した市街地であった。下のSTVニュース動画2:20あたりから周辺の町の様子が見られる。

www.youtube.com

 

検討

家出説は可能なのか

16歳と言えば、家庭の事情や学業、恋愛関係などを理由に自発的な家出もありうる多感な年頃だ。しかし家族関係に問題はなく、成績優秀、恋人もおりトラブルは聞かれず、過去に無断外泊など非行の兆候もなかった。

アルバイトも可能で、その容姿からすれば年齢をごまかして水商売や風俗店などで働くことも非現実的とは思わない。そうした点では幼児や小学生の失踪とは異なり最低限の生活力があると判断されて、家出人扱いになるケースが多く、捜索が遅れるのがこの世代の行方不明事件の問題点でもある。

だが本件では家族、交際相手が数時間のうちに彼女の「異変」に気付き、10日ほどで公開捜索に踏み切られている。

イメージ

将来の夢は「看護師」。高校一年生でどの程度具体的に思い描いていたのかまでは分からないが、アルバイトなどでの経験を通じて大いに学び、思い悩むことが許されるまさにこれからという時期にあった。

地元進学校に入学するまでにも進路計画を立て受験勉強を積み重ねてきたはずで、目標達成に向けた展望や準備の重要性は年相応に心得ていたことであろう。休校日とはいえ、この日、金も着替えも持たず、唐突に「家出した」と捉えるのは現実的ではないと筆者は考えている。

町を離れるような本格的な家出となれば、家族に明かせずとも恋人や友人には何かメッセージを残していたり、周囲の人に現状への不満将来への不安のサインを覗かせたりと、それまでにない挙動を見せるものだがそうした前兆も全く聞かれない。

単身であれば公共交通機関を頼ることになるが、自宅から徒歩圏にある最寄りのJR室蘭本線「崎守駅」や青森行きのフェリーターミナルに向かう様子もなく、利用履歴も確認されていない。尚、室蘭港フェリーターミナルは「室蘭サティ」のあった東室蘭駅からさらに3駅離れた室蘭駅が最寄りとなる。

 

ではだれかと家出した可能性はあっただろうか。たとえば車を所持する知人でもいれば遠出の手助けは可能だったかもしれない。

また2000年前後は携帯電話におけるいわゆる「出会い系サイト」の利用者が拡大しており、一方では未成年者を狙う買春や、美人局など犯罪の温床としても社会問題視されていた時期である(規制法の成立は2003年)。人知れず見知らぬ相手とも親しくしていた可能性は全くのゼロとは言い切れない。

2019年に鹿児島・仙厳園近くで遺体で見つかった女性はおよそ13年前に高校3年生で失踪しており、インターネットを介して知り合った男性に家出の手助けをしてもらっていたとされる(下の過去エントリ)。2010年代には、SNS上で「神待ち」と呼ばれる家出支援や金銭援助を募る家出少女たちが話題となったが、そうした第三者の介入はなかったか。

sumiretanpopoaoibara.hatenablog.com

サティまで赴いた理由も、ひょっとすると誰かと待ち合わせがあったように深読みすることもできなくはない。化粧品売り場にいたことから、男性と会うつもりでメイクを気にしていたのではないかといった見方もある。

しかし「サティ室蘭」の防犯カメラ記録や店外で顔を合わせた学友は麻未さんの同行者の存在を認めていない。仮にバスの車内で待ち合わせようとすれば、移動中や店内でもPHSで時間調整などのやりとりをすると考えられるが、そうした情報もない。

そもそも地元を離れるほど家出の意志が強固であれば、アルバイト先のコーヒー研修などキャンセルしていようものだが、麻未さんは自ら本店にアポイントメントの電話を入れているのである。

スピリチュアルなことを言うつもりはないが、失踪直前の行動を素直に捉えれば、彼女の気持ちが地元室蘭から離れていたようにはどうしても思えないのだ。

 

なぜ「1時過ぎ」の約束は果たされなかったのか

本店の従業員女性は、午前中に「千田さんから1時過ぎに来たいんですけど」と電話があったが、時間を過ぎても来なかったため、「その後オーナーは出掛けた」と話している。

「1時過ぎ」という慣用表現には「1時ちょうどには間に合わない可能性がある」といったニュアンスが含意され、大抵の場合、「1時10分ないし15分頃になるかもしれないが、1時半まではかからないと思う」といった程度が一般的な言語認識かと思う。

前提が明示されていないため、アルバイト学生の方から研修時間を指定するやりとり自体が奇妙にも感じられるが、オーナー証言と併せて「想像」すれば、3月から本店での勤務となるため、(白鳥台支店ではやっていなかった)コーヒー提供の研修を受けることになり、以前から都合が合う時間に連絡を入れてほしいと言われていたものと考えられる。

コーヒー研修の具体的な内容は定かでないが仮にいつでも空いた時間でできるようなものであれば、わざわざ休みの日に呼び出さずとも本店に勤務するようになってから業務時間にトレーニングすればよさそうに思える。

店頭には「自家焙煎コーヒー¥240」と掲示してあったことから、おそらくラテアートのような練度を要する技能研修ではなく、抽出と提供の手順を確認するだけではなかったかと推測する。

ネット上には「(これまで休日のみのバイトだったが)学校帰りに働けるように本店勤務を希望していた」「夕方から交際相手と遊ぶ約束をしていた」「他の従業員はコーヒー研修を受けていない」などの関連情報も出回っているが情報元が見つけられていないため、本稿では確定事項としては扱わない。

そもそも支店から本店に移ってくること自体がレアケースだったと考えられ、他のスタッフと単純な比較はできないものの、なぜ彼女にコーヒー研修をしようとしていたのかはやや疑問が残る。

また麻未さんのアポイントの取り方にしても、営業時間中(それも2時間前)というのはやや忙(せわ)しない印象である。オーナーは「好きなときに連絡くれればいつでもできるから」くらい自由に気兼ねなく連絡をしてくるように話していたのだろうか。

だとすると、1時半ごろに「来ないから帰る」というオーナーの態度も性急に思え、また余程の遅刻常習者などでなければ、真っ先に未成年者の事故やトラブルを心配して連絡を取るのが優先行動に思われる。本店側から彼女のPHSに入電はあったのかは伝えられていない

そもそもオーナーや支店長らは彼女のPHSの番号を知っていたのだろうか。履歴書などですぐに確認できる、支店長に聞けばPHSの番号が分かるといった状況であれば、むしろ彼女に電話をせずに帰るという行動は不自然に感じられる。

一部には、1時半ごろにオーナーが「店を出て周辺を探しに行った」との情報も出回っているが、やはり情報元が見つけられないため、オーナーや店員の発言ではない可能性がある。

バスは必ずしも定刻通りに到着しないため、多くの人は何分も待たされたり、電車に比べて到着時間が読みづらいと感じた経験があるだろう。しかし彼女は1時過ぎに間に合うバスに乗車していた。

麻未さんはこれまで遅くに帰宅するようなこともなく、手帳でスケジュール管理する几帳面さを備えていた。学校関係者もバイト先の支店長も彼女の「遅刻」については全く言及していない。

外出の1時間前に自ら電話しておきながら、伝えた刻限を忘れていたというのも常識的に考えづらい。警察の見立てと併せて考えれば、友人が入電した午後1時45分前後には「東通り」バス停付近に到着していたと推測されるが、この時間的なずれは何を意味しているというのか。

ネット上では、麻未さんが「さんじすぎ」「じゃあ、さんじすぎ」などと口にしたのを従業員が「じゅうさんじすぎ」と誤認した聞き間違え仮説も唱えられているが、それならば1時半にサティを出るのはあまりに早すぎることになる(サティから本店までバスで10分程度である)

電話を受けた従業員女性は落ち着いた様子で取材に答えており、その口調からは何かを誤魔化したり、口止めされているといった様子は読み取れない。

(目線をカメラに向けていない、顔を逸らしていることから「疑わしい」と見る向きもあるが、周囲への影響を考慮して顔出しを避けたり、カメラを極度に苦手とする人も存在するため、筆者はそれほど「怪しい」とは感じなかった。)

時間的なずれの正体は、次の2パターンに絞られるのではないか。

A;電話の中で食いちがいが生じていた可能性・・・たとえば「何時がいいでしょうか」「昼時はお客さんも多いから…」といった会話の中で「1時すぎか、2時ごろなら」などのやりとりが生じ、従業員女性の中では「1時過ぎに来る」という了解、麻未さんの方では「1時ではどうも早いようなので2時ごろに訪ねよう」と双方の認識に齟齬が生じていた可能性が考えられる。

あるいは、麻未さんが「2時頃に…」と言っていたが、従業員女性が多忙などにより他意なく「1時過ぎ」と誤認して伝えた可能性もなくはない。

;希望時刻は「1時過ぎ」だったが後から「2時前後」にずらされた可能性・・・たとえば従業員女性から「千田さんが1時過ぎに来るそうです」と聞いたオーナーが後から麻未さんに「少し遅くしてもらえる?2時ごろとか」と変更の連絡を取っていたとも考えられる。

 

出掛ける準備を整えていた麻未さんとしては、1時間ほど生じてしまったスキマ時間を潰すためにサティまで足を伸ばしたように見える。意図せずバスを乗り過ごすなどしていれば「すいません。少し遅れます」といった連絡を本店に寄越すと考えられ、むしろ1時45分ごろの到着(「午後2時前」と言い換えてもよいだろう)を目指していたと見る方が自然なのだ。

電話を受けた本店の従業員女性は「オーナーから直接千田さんに連絡を取ったなんてことはあったんですか?」という記者からの質問に対し、「いや、うちらにはそんなことは分からないです」と返答している。

 

ストーカー説について

番組では、麻未さんが「ストーカーみたいなつきまとい」を受けていたと示唆する友人が2人紹介されている(顔や名前は出ていないが別の人物)。またパン屋支店長は、PHSにあまり応答しないようにしていると話す麻未さんにその理由を尋ねると「いたずら電話が多いから」と聞かされたという。オーナーは「白鳥台の方で、自宅の近くでストーカーみたいなことがあるって(聞かされた)」と話している。

だれか一人がそう話している訳ではないことからも事実、何かしらのストーカー被害はあったと考えてよさそうだ。

白昼、目抜き通りからの連れ去り犯罪と捉えるならば、車両での犯行が推測される。同窓生などであればPHSの電話番号を入手しやすい立場にあったかもしれないが、車両持ちとなると18歳以上という見方になる。

また②Bとストーカーの混合説として「三者が後から時間をずらした」という仮説も存在する。麻未さんが電話したタイミングで偶々「L」本店に居合わせた彼女のストーカーが、会話の内容から「1時過ぎ」に彼女が本店を訪れることを察知し、従業員になりすまして彼女に連絡を取り、「2時前後」に予定をずらして犯行を行ったというようなものだ。

しかし第三者=ストーカー介入説は、通信履歴によってすぐに発覚しそうなものである。またストーカーが1時の来店を知っていたならば、あえて時刻を遅らせるまでもなく1時まで待ち伏せて犯行に及ぶと考えられる。

話を戻すと、この日の彼女の行動はイレギュラーなもので、自宅や普段バイトしていた白鳥台支店ではなく、本店近くで消息を絶っている。東西をつなぐ目抜き通りで車通りも絶えないなか、その姿はだれにも見られていなかった。

家を出てからすぐストーキング被害に遭っていれば、午後1時段階でバスを降りて本店にでも駆け込めばよさそうなところ、サティまで足を伸ばしていた。化粧品売り場は(一般論として)男性がひとりで立ち入りづらい場所だが、人に助けを求めたりといったことなく、30分と経たずにぶらりと店を後にしている。

その間、PHSで交際相手や本店に連絡を取った形跡なども伝えられておらず、やはりストーカーからの「避難行動」と断じるには説得力に欠ける。購入履歴は聞かれず、店外の通りで級友男子2人を見掛けて助けを求めるでもなく「どこに行くの」といった他愛のないやりとりを聞く分には、やはりウィンドウショッピング時間つぶしといった印象を受ける。

警察とて店内外の複数の防犯カメラ記録を検索したはずであり、彼女の周囲に度々映り込む男性の影があればそれと気づくと考えられるが、おそらくそうした不審者は浮かび上がらなかったため、再びバス移動したと見当付けたのであろう。

下のストリートビューは、最後に目撃された「東町2丁目」バス停のある通り。尚、サティは2011年にイオンリテールに吸収合併され「イオン室蘭店」となっており、2027年に移転予定と報じられている。

 

バスの車内で麻未さんをはっきりと認識した人物がいない以上、彼女が男子生徒二人に声をかけた直後にサティ近辺で拉致され、10分後に「東通り」バス停付近まで連れてこられた(拉致のタイミングや経路が偶々バスと重複した)可能性というのも理論上は成り立つかもしれない。

しかし、だとすれば連れ去り犯は、交際していた男子生徒と電話で二度も会話させたことになり、そんなハイリスクな行動を許すとは考えづらいのである。

警察の見立て通り、麻未さんがバスで移動し、「東通り」バス停付近でトラブルに遭ったというのは事実と見てよいのではなかろうか。

 

④彼氏説

一部には、最後に連絡を取り合っていた交際相手の高校生男子の証言を疑う向きも存在する。表に出ている情報は、麻未さんがバスを降りた直後とみられる「13時42分と46分に電話を掛けた」ということだけで、そのタイミングと要件が明らかにされていないことから、若干の不自然さを感じさせる。

また当時未成年ということもあり、彼の素性は明かされず、いつからどんな交際関係だったのかなどあまりにも情報がないため、不信感を持つ人もいるようだ。この事件全体に関して言えることだが、家族、オーナー、交際相手といった重要な人物がいずれも積極的に発言してこなかったことが、却って無用な疑惑や憶測を生んでしまっている感がぬぐえない。

(報道が皆無だったわけでも彼女の家族が捜索活動をしていなかったわけでもないのだが、とりわけインターネット上で過熱化した情報需要を満たす量ではなかった。)

だが先のストーカー説でも挙げたように、仮に16歳前後の高校生に拉致や人殺しが可能だとしても、車両や仮置きできる場所がなければ監禁先の手配や移送、死体の遺棄や処分ができたとは思えない。交際相手に関して非行グループなどとの係わりや、恋人との険悪な関係は聞かれていない。

もし彼にバイクなどの交通手段があれば、恋人と待ち合わせをして、後ろに乗せ、監禁や遺棄に適した場所まで連れ去ることができたと想像することもできなくはない。ドラマティックな想像を膨らませるならば、彼女の家出を手助けして嘘の証言で庇っている状況もありえないとは言い切れない。

しかしそうするとやはり彼女が自ら「コーヒー研修」の予定を入れた事前行動と合致しないのである。また警察も交際相手の証言の裏取りとして、発信元の基地局などは把握している筈で、証言に大きな矛盾がない、犯行可能性がないと判断していると考えてよい。

遠回りしての僅か30分のウィンドウショッピングは一見不可解にも感じられるのだが、麻未さんがコーヒー研修に出向こうと本店に向かったのは事実と捉えるべきである。

理詰めで捉えようとすると不可解に思えても、私たちは日常行動の中で、道草を食ったり、無駄遣いをしたり、何十分も長考した挙句に結局何も買わずに店を出るといったことはままある。

また毎日のように顔を合わせていても急に会いたくなったり、取り立てて用事がなくても連絡を取りたくなるのは、若者の恋愛行動として異常とまではいえないだろう。私たち第三者はどうしても関係者、登場人物を絡めて事件を解釈しがちだが、正当な理由もなく少年を容疑者扱いできる立場にはないことは肝に銘じなければならない。

あくまで筆者の想像にはなるが、短時間でのリダイヤルに関して最も自然に思える状況としては、一度目の電話の時点で「下」には着いていたがまだ乗車中でバスの移動(基地局の切り替わり)によって電波が切れた、あるいは降車のため麻未さん側から切ったかのいずれかと思われる。

2004年に茨城県美浦村で起きた女子大生殺害事件でも、インターネット上で真っ先に疑われたのは彼女が深夜の外出中に「うたたねをしていた」交際相手の男性だった。現在も事件はクローズしていないが、隣町で就労していた外国人グループの犯行であることが判明している。

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事件は唐突に起こり、思いがけない容疑者を生むが、判っていることだけが事件のすべてではない(だから未解決なのだ)。

 

北朝鮮拉致

室蘭市港湾都市であることなどから、北朝鮮による拉致説も多く語られた。

2002年9月17日、第1回日朝首脳会談(小泉純一郎金正日)で、北朝鮮側が長年否定し続けてきた日本人拉致をはじめて認めて謝罪し、10月には拉致被害者5人が帰国を果たすなど、拉致問題は国民的ニュースとなった。インターネットの普及や匿名掲示板の人気もあり、排外的ナショナリズムを軸とした「ネット右翼」言説が爆発的に広まったのもこの時期である。

その影響もあり、インターネット上で話題となる行方不明事案はしばしば北朝鮮拉致に結び付けられるようになった。尚、『TVのチカラ』で本件が取りあげられ、改めて全国的な話題となったのは2003年3月のことである。

産経紙では、昭和40年代に道内で若い女性の謎の失踪が頻発していたことを報じている。5年間で14~20歳の女性6人が失踪する動機もなく行方不明になっているという。ひょっとすると…という思うようなケースもあるが、漁師町や炭鉱など生産年齢の男性が多く集まる地域性から性的被害に遭った可能性なども考えられ、一概に北朝鮮による拉致と決めつけるには根拠が薄い。

道内で諜報・工作活動に協力する「土台人」はいない、北朝鮮による拉致は存在しないと断定できる証拠はないが、日本人性犯罪者の方がはるかに多いことは明白である。

失踪者家族にとっては見つかってほしい、忘れてほしくない、生きていてほしいと藁をもすがる思いで、特定失踪者調査を頼ることはやむをえないと筆者も思う。だが家出の動機がない、事件の痕跡が見つからないというだけで、部外者が隣国の仕業と決めつけるのではなく、相応の証拠や根拠のうえで検証していくのが筋道であろう。

www.sankei.com

過去エントリでも北朝鮮による拉致事件及び疑いを排除できない行方不明事案を何度か扱ってきた。筆者の意見としては、国家的犯罪としての日本人拉致は1987年11月の韓国・大韓航空機爆破事件以降は行われていないと見ている。日本人を拉致するメリットがないためである。

爆破事件は、近く予定されていたソウルオリンピックや韓国大統領選挙に打撃を与える目的で画策され、男女工作員を(よど号グループのような)日本人新左翼活動家であるかのように偽装させていたことが明らかになっている。実行犯・金賢姫によれば、拉致被害者女性が日本語や慣習の指導役を担っていたという。

西側諸国は制裁措置を行い、さらにソ連崩壊で経済的・軍事的な後ろ盾を失って、1990年前後の北朝鮮は国際的な立場を悪化させていた。日本と接近し、91年には在日韓国人の留学生を受け入れるなど関係の軟化が試みられており、11月の「拉致講義」によって非公式なかたちで拉致を認め、外交取引を打診していたのである。

金日成死没の94年以降、立て続けの大飢饉が発生して数百万人の餓死被害が起きており、農業生産の破綻、工業不振など喫緊の課題が山積するなか、金正日テポドンミサイル開発に傾注しており、すでに日本人の拉致工作など眼中にはなかったと考えられる。

そもそも拉致・殺害が国外の人権団体や日本政府に発覚すれば国際的な非難や経済封鎖などの大きなリスクを伴う。日本人拉致帰還者たちの証言からすれば、北朝鮮は日本人拉致被害者たちの工作員教育をとうの昔に断念して持て余していたことも明らかである。

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本事件の発生は2001年4月の小泉純一郎首相就任の直前に起きている。つい先頃まで女子高生を拉致していたとなれば、さすがに外交カード拉致問題を切ってくるはずがないと筆者は考える。

 

オーナー説

当初、警察が重要人物としてマークしたのが「L」のオーナーだった。従業員の話では、普段オーナーは午前中と夜の閉店作業に立ち会うが、午後の営業中に店に待機していることは稀だとされている。

番組や雑誌で伝えられた証言はどこか的を射ないもので、「店で千田さんを待っていたが現れないので1時半ごろに店を出た」「15時に自宅に帰った」と話しているが、その間の1時間半にわたって何をしていたのかは明らかではない。

オーナーの親はかつて歯科医をしていた資産家で、「L」本店のあったマンションは自社の持ちビルだった。当時マンション内に空き室があったことから、そこに連れ込んだとする見解が多数見受けられる。普段からオーナーが私用に使っていたのか否かは不明なのだが、オーナー犯行説を成り立たせるには都合がよいのだ。

 

元オーナーは事件から10年後のテレビ取材で「店である程度待っていたんですけど、だけどその、なんかの用事があったのか、私も覚えてないんですけど、一回家に帰ってて、そのまま寝ていた。具合が悪かったのかな。親のほんと目の前で寝てますからね、こたつの中で」と述べた。

だが警察は、家族の証言を確たるアリバイとは見なさないため、信用されなかったと振り返っている。

その証言によれば、3月7日の朝、就寝していたところ刑事たちが令状なしに家に訪れ、部屋を見ていき、そのまま任意聴取に駆り出されることになったという。取り調べで犯人視されたこともあり、捜査に対する不満の色を垣間見せている。3日間に渡って任意聴取が行われ、店は臨時休業を余儀なくされた。その間、警察による行動確認(張り込み)も受けたという。

失踪初期からそれだけ重点的にマークしていたということは、道警から公表されていないだけで、失踪間際の通信履歴の中に「本店からの電話」が含まれていたのではないかという気もするのだが明らかではない。

しかし失踪から10日後に公開捜索に踏み切っているということは、逆説的に、その間、関係者から「事件」と断定するに足る証拠が何ひとつ出なかったことを意味している(あくまでも特異行方不明として捜査が継続されている)。

下の地図はロブジェからオーナーの自宅までのおおよそのルート。車で2~3分、徒歩でも10分の距離である。

 

番組視聴者らは、1時半頃に店を出ていれば、他の店員に気取られぬ間にバスを降りてくる麻未さんと接触できる、つまり何らかの犯行が可能と想像し、取材に対してぎこちなくしどろもどろに言葉を探すような元オーナーの態度に疑惑を膨らませていった。

ディティールは各人各様だが、オーナー犯行説をおおよそ分類すれば次のようなものかと思う。

a;単独+偶発的犯行・・・本店を出たオーナーがバスから降りてきた麻未さんを偶々見つけ、犯意を催してマンションの空き室などに連れ込んだ。

b;単独+計画的犯行・・・時間をずらすなど事前に犯意をもって呼び出し、バスを降りた麻未さんを拉致した。

c;複数+積極的犯行・・・時間をずらす、協力者を集めるなどして拉致に関与した。

d;複数+消極的犯行・・・「コーヒー研修」と偽っての呼び出し、時間をずらすなど拉致の仲介役として関わっているが、その後の行方などについては関知していない。

c、dのような複数犯説となると、単にわいせつ目的以外にも人身売買に係る可能性も生じてくる。根拠はないが、たとえばdは、金銭貸借やトラブルによって「金が用意できないなら若い女を差し出せ」などとオーナーが暴力団関係者などから脅迫を受けていた背景も想像される。

 

しかし、冷静に考えてみてほしい。

記者の取材に対して説得力ある弁明やアリバイを示せず、どこかしどろもどろになって結局ますます疑われてしまう人物に、跡形もなく人ひとりを消し去るような完全犯罪が可能だったのだろうか。

肩入れするつもりはないが、信用が回復されないどころかネット上でも疑惑の人物とされた彼がパン屋を閉め、自宅を手離しても、尚、この町に留まり続けた理由は、自身の潔白を証明するためだったのではないかと言う気がしてならない。(もちろん廃業後も支援してくれる親戚や知人がいた地元だからこそとは思うが。)

オーナーの証言がすべて真実とは限らない。ひょっとすると多少は女に困っていたかもしれないし、若くてかわいい子が本店勤務になることを密かに望んでいた(多少のスケベ心はあった)かもしれない。

だが性的な動機で拉致監禁をするのであれば、あえて日時すら定めずに店に呼び出して攫うというのは計画として不合理だ。彼女が本店で勤務するようになってから「渡すものがあるから帰りにうち(部屋)に寄ってもらえる?」「家まで送るよ」などと店から連れ出す方が犯行には都合がよく、連絡先を知っていたのであれば店以外の場所(たとえばサティなど)に呼び出す方が自然に思われる。

三者に強要されて拉致の仲介役になったdのような状況であれば、オーナー権限で日時を指定して共犯者に予め決行のときを伝えておくのが常道である。あえて彼女に時間指定させて、連絡を受けてから仲間を呼び出し、午後1時には招集が間に合いそうもないため2時にずらしたとでもいうのだろうか(一層のこと研修「帰り」に攫えばよい)。

筆者にはオーナーの人間性までは分からないが、しどろもどろになってしまう説明下手なところも警察に追及された要因、テレビ視聴者の疑惑に火を点けた要因のひとつと思えてならない。しかし彼は偶々事件のすぐそばに居合わせただけで、運悪く「未解決事件」のスケープゴートにされてしまったのではなかったか。

 

オルレアンの噂

オルレアンの噂」という話を聞いたことはあるだろうか。

1969年、フランスのオルレアンの旧市街ブルゴーニュ通りで「衣料品店に行った白人女性たちが次々に失踪している」と噂が立った。噂に上った6つの衣料品店はいずれもユダヤ人経営者によるものだった。地元住民たちは経営者らが試着室に入った白人女性たちを拉致して国外に人身売買していると疑惑を唱えた。

5月には地元検察官も不穏な噂を耳にし、地元警察に確認が取られた。しかし現実にはそうした行方不明者は記録されていなかった。人々の「噂」によれば、ユダヤ人コミュニティがロビー活動をして知事や行政当局の動きを封じているため、これまで事件は表沙汰にならなかった(もみ消されている)のだという。

地元住民たちはユダヤ人コミュニティに対する憎悪を募らせ、5月31日には店の周りに群衆が大挙して一触即発の事態が迫っていた。だが翌日、店が閉業となり、大統領選挙の投票日を迎えると事態は一時的に鎮静化した。

地方紙に記事が掲載されたが、ユダヤ人経営者が名誉棄損の訴えを起こし、多くのユダヤ系組織・労働者団体・政党が抗議や非難の声明を発表し、パリの新聞にも載って物議を醸した。だが6月半ばには該当する事実は存在しないことが周知されて、噂は収束した。根も葉もない典型的な反ユダヤ主義的な陰謀論であった。

翌月から社会学エドガー・モランらが実態調査し、10年以上前の少女の人身売買事件の記録を確認した。「女性が試着室で誘拐される」というシナリオは、約1年前に出版された英国人ジャーナリスト・スティーブン・バーレイの著書『Sexual Slavery(性的奴隷)』の中で原型らしき記述が確認されたが、なぜそれがオルレアンの衣料品店に結び付けられたのかは不明だった。

1966年、セーヌ川を臨むルーアンでも事実に基づかない「噂話」が火種となって暴動が発生していた。さる貿易商が300人もの女性たちを貨物に紛れ込ませて中東レバノンに送り込んだという人身売買の疑いを掛けられたのである。市長や警察当局はそうした失踪者が出ていないことを発表したにもかかわらず、脅迫や破壊行為が収まらず、貿易商一家は他国への亡命を余儀なくされた。

1970年2月にはアミアン衣料品店を巻き込んでオルレアン同様の女性失踪事件の噂が拡散された。その後の調査でも、数年おきに各都市で同様の噂が流布されては沈静化が図られる事態が判明しており、カナダ・ケベック州やイタリア・ローマ、韓国などでも同様の噂の事例が報告されている。

 

都市における噂は、社会情報の欠乏を埋めようとして拡大する「流言」、コミュニケーションとしての「ゴシップ」、娯楽としての「都市伝説」に類別される。

流言は、たとえば災害時の混乱状態に起こる「外国人犯罪の噂」や「銀行の取り付け騒ぎ」などが代表例に挙がる。多くの人にマイナスの影響を予感させる情報は信じられやすく、さらに情報共有したくなる欲求から不正確な情報でも早く伝達されやすい。

ゴシップは、コミュニケーション上の雑談、よもやま話など広義をもつが、都市空間においては同業他社の噂や自分たちのサークルの外にいる他人の陰口である。構成メンバーとは異なる人物がその対象となる。

都市伝説は、エンターテインメント性の高い物語が大筋のストーリーを保ったまま語り継がれて「学校の七不思議」「ドラえもんの幻の最終回」など、細部がブラッシュアップされていく可塑性の高い噂話である。

上述のオルレアンの噂では、ユダヤ人差別が拡散や信憑性を高めた「流言」の要素が強い。だがひょっとすると元の噂は「ユダヤ人たちが通りに次々に店を出している。どうして潰れないんだ?裏で何かやっているんじゃないのか?」といった近隣の商店主の口から漏れた些細な陰口だったかもしれない。

 

2011年に放映されたテレビ朝日『追跡!真実の行方』では、「(オーナーは)自己破産した」と語る地元住民が登場する。パン屋は少女失踪からおよそ1年後に閉業し、オーナーは自宅や土地を売り払ったと伝えられているが、破産は事実ではない(破産名簿に記載はない)ことが確認されている。

翻して見れば、偽情報が出回るということは、それだけ地元住民からも元オーナーへの悪評・風評が立っているということだ。そのため、匿名掲示板に書き込まれる「地元情報」は元より、室蘭市民など事情通から直接耳にした話などに関しても眉に唾をつけて受け止めねばならない。

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本件をインターネットで調べていくと、巨大掲示板サイトや個人の事件サイトのコメント欄などでテレビで放映されていない数多の「地元情報」を目にすることになるが、その真贋を見極める術を我々は持たない。

(なかには遺体が埋められている場所をほのめかす書き込みも存在し、真面目に検討し始めたり、現地の立ち入り禁止区域や私有地まで確かめに行こうといったカキコミも散見される。)

テレビや新聞で伝えられない情報をインターネット上で目にするようになると、エコーチェンバー現象(SNSや動画サイトのレコメンド機能によって繰り返し刷り込まれて影響されてしまうこと。一般的な宣伝行為と同じだが、レコメンド機能のアルゴリズムによってスモールサークルの遮蔽された情報空間に引き込まれていく)で短期間のうちにネット右翼になったり、Qアノンになったり、反ワクチン主義者になったりする事例が近年よく聞かれるようになった。

それまで知らなかったこと、ありえないと思っていたことでも二度、三度と見聞きするうちに、頭の中で認知的不協和が生じ、中にはそうした偏った情報享受に気づけず「メディアが隠そうとする真実」などと曲解しようとする人が出てくる。

私たちは与えられた僅かな情報の中で、犯人を捜しているつもりが、元オーナーという適格者に執着するあまり、犯行仮説に都合がよい情報ばかりを集めて「物語」を構築してはいないか。

 

車社会で暮らす室蘭市民にとっては、誰もが知る目抜き通りで起きた事件なだけに老若男女を問わず会話に挙がったことであろう。室蘭市は今日では人口7.6万人と小さな規模の町であり、さらに犯人は逮捕されず事件は未解決、それも疑われた人物はまだ町で飲食店を営んでいる(2023年に閉業)となれば、折に触れて話題に挙がりやすい。娘を持つ親や女孫を持つ高齢者などはその後も元オーナーを「危険視」していた人もいたはずである。

元オーナーが出した飲食店は大学近くにあり、市内外から集まる学生たちの中には「好奇の対象」として来店した者もいたであろうし、飲み会や肝試しなどで何年にもわたって「話のネタ」にされ続けていたにちがいない。そうした中には、「地元民」「情報通」としてネット上で噂の拡散に加担した若者もあったことだろう。

室蘭市民の言っていることはおかしい、間違っているというつもりはない。知らず知らずのうちに情報汚染を浴びやすい状態に置かれているということだ。

事件当時、元オーナーは「元々は資産家の息子」「水商売人」「30代半ばで結婚していない」「経営者として彼女を採用する権限があった」「特別な研修で彼女を呼び出していた」「車や監禁場所を準備可能だった」「アリバイがない」など様々な条件が犯行適格者に当てはまり、陰口の対象とされやすい登場人物である。

しかし、一人暮らしで車を持っている大学生やフリーター、不定休の販売員などでも十分犯行は可能である。たとえば塾の講師や中学校教諭(その日は高校受験の当日であった)などでも連絡先を知ってストーカー化したりしても不思議はなく、平日昼間の犯行も可能だった。

初動捜査の失敗とまでは言えないが、疑惑の対象とされた人物は充分に捜査対象とされており、彼の存在が真犯人をうまくカモフラージュしてしまっているのではないか、というのが筆者の心証である。

真犯人はだれと名指しすることはできないが、犯行可能な人間は彼以外にも何十人、何百人といた。コーヒー研修や遠回りに見えるサティへの「寄り道」という特殊な条件が、かの人物をより怪しく感じさせてしまっているだけのように思う。

 

所感

拉致未遂など類似事件が出ていないとすると、犯人は転居したと思われ、3月という時期もあり、卒業や転勤を機にそれまで秘めていた犯罪願望の決行に至った可能性がある。

長期監禁目的で拉致されたとすれば存命の可能性は残されているが、性犯罪目的であれば口封じされているおそれが大きい。3月とはいえ残雪もある時期で土中に埋めたとは思えず、港湾都市とはいえ沿岸部は工場などが多く寂れた海という訳ではないことから、遺体を処分したとすれば湖(ダム)か、解体して廃棄物として処分するなどが手口として推測されるが、真相は今のところ何も分からない。

皮肉なことには違いないが、たとえ何年経とうとも全国の人々は彼女のことを覚えているというのは、数多ある未解決事件においてささやかな希望である。九州の酒場や東京のタクシーであっても中年男が「実は北海道にいたとき、女子高生を拾って…」などという話を耳にすれば、与太話とは思わず事件とのリンクに気づく人も多い。

「犯人が分かっているのに捕まらない事件」などとレッテルを張って終わらせることなく、捜査の奇跡的な進展に期待したい。