ソフトウェアエンジニアがHondaに転職して感じたこと4選

はじめに

 みなさん初めまして、本田技研工業デジタルプラットフォーム開発部のTera-Cです。ソフトウェアエンジニアを10年程度経験してから自動車業界に転職して8年、Hondaでの業務歴は2年の若手?です。

 我々の部署ではAWSを活用して、Hondaの車やアプリに向けたWebサービスやサーバーの開発をしています。仕事を進めるうちに得られたAWSに関連する知見や事例、SaaSの活用情報などを発信していきます。

 今回はそのような技術的なお話の前に、ソフトウェアエンジニアが自動車会社に転職してきて感じた違いや、困ったこと、良かったことなどを「4選」、お伝えします。

1. ソフトウェアの仕事の経験がある人が少ない

 我々は自動車会社なので当たり前のことではあるのですが・・・SIerやソフトウェアベンダーなど、ソフトウェアの会社というのは人事、総務、経理、法務、営業、広報、もちろん開発や品質保証もですが、すべての組織がソフトウェアと関わる仕事をしている、と言ってよいと思います。自動車会社はソフトウェアではなく、自動車と関わる仕事をしているわけです。

 なので自動車会社でソフトウェアの仕事をする時には、非常に手間がかかります。

 自動車のマーケティングはできるけど、自動車と接続するiPhoneアプリのエンゲージメントを向上させるためのマーケティングはしたことがない。

 アメリカで組立てた自動車をインドに輸出することはできるけど、インドの開発拠点でAWSのオレゴンリージョンのEC2で運用してるGitLabからビルドイメージをダウンロードする時の輸出手続きはわからない。

 これらは自動車会社にとっては普通なわけです。でも、自動車会社でソフトウェアを開発しようとすると、ものすごい足かせとなります。

 長年のソフトウェア領域における自動車会社の努力によって、少しずつ組織の力は向上してきています。とはいえ、Hondaは自動車を売る会社でソフトウェアを売る会社ではないし、とても大きな組織です。なかなか難しいことはご想像できると思います。

 逆に言うと、自動車会社のソフトウェアエンジニアは大量で広範囲に及ぶ仕事があります(笑)

2. ソフトウェア開発のインフラが整っていない

 ソフトウェアエンジニアと言っても、いろんな種類があると思います。わたしはセキュリティ対策ソフトウェアのパッケージベンダーのエンジニアでした。自動車業界に比べると事業規模は小さく、仕事の内容は上流から下流まで全部やるのが普通でした。

 プログラミングやビルドもしなければならないため、最高レベルのスペックのデスクトップPCと、VMware、もしくはAWSやAzureなどのクラウド、豊富なコンピューターリソースを自由に使えることが多かったです。

 自動車業界に転職して、仕事で使うのはノートパソコンだけになりました。
最新のソフトウェアやプログラミング技術は好きなのですが、仕事で使う必要がないので、いらないでしょ?ということのようです。

 最初に飛び込んだ自動車会社ではAndroidを使った次世代のカーナビを内製開発するミッションを担当することになったので、かなりの問題がありました。

 ノートパソコンでAndroidをビルドすることはかなりのストレスです。自動車会社でデスクトップパソコンはどうやって調達すればよいのでしょうか。Raspberry Piとか、カーナビの試作基盤も欲しいですよね。サーバーや仮想環境はどこにあるのでしょうか。

 ネットワークにも問題があります。AOSPをcloneするにはプロキシを越えなければなりません。プロキシを超えたら超えたで、こんどは通信帯域を圧迫する問題があります。

 ソフトウェア企業ではふつうに存在していたインフラは自動車会社には存在せず、その構築にはお金がかかり、お金を使うためにはソフトウェアについてあまり詳しくない他部署の社員の説得や承認が必要でした。

3. 能力が高い人が多い

 同僚、後輩、先輩、上司、ともに仕事を進める以上、無意識でその人の能力を評価してしまってることはありませんか?あまりよくない癖だとは思うのですが、わたしはそうしてしまうことが結構あります。

 記憶力が良い、とか、論理を組み立てるのが速い、とか、なにかを整理して説明することが上手いとか、「能力が高い」と判断する要素というのは無数にあります。ただ、その能力と言うのはテストの点数のように表示されるものではないので、あくまで自分の主観に頼った評価になります。

  1. 主観に頼っているので、どうしても自分びいきになる。
  2. それなのに、能力が高いと感じられる人が多くいる。
  3. ということは、能力が高い人が多いんだ!

・・・わたしの能力が低い、という可能性ももちろんあります。

 ともあれ、一緒に仕事をしていて、さまざまな場面でそのように感じることがあるのは事実です。そして、それはソフトウェアベンダーで働いていた時よりも多いのです。
自分のキャリアが進んで視点が変わったのはあると思います。また、年齢を重ねて自分の中にもっていた自信やプライドのようなものが丸くなってきたこともあるでしょう。

 それと同じように、日本における自動車会社は、新卒・中途採用のマーケットで、優秀な従業員を採用し続けているというのも事実でしょう。

 自動車会社でソフトウェアの仕事を進めるときには困ることはたくさんあります。しかし、進め方の説明をしたり、不足する知識や技術を補うと、とたんに仕事がスムーズに進み始める。そこには自動車会社の従業員の底力、を感じます。

4. 労働組合の正体が分かる

 日本には労働組合がない企業の方が多いのではないかと思います。春になると「春闘」といって、ベアが何%とか、ボーナスは5か月分だとかいうニュースが流れますが、自動車会社に入るまでは他人事でした。

 自動車会社では、管理職でなければ入社と同時に労働組合に加入します。月にいくらか組合費を支払います。

 通常の業務をするうえで組合の活動と言うものを意識することはないのですが、組合で何か決めたいことがある場合などは会議に呼ばれて、意見などを求められることがあります。月に1回あるかないかでしょうか。

 そういう活動を取りまとめる係が各部署単位で設定されたりするので、係になった人はもう一段階仕事が増えたりします。

 自分の代わりに労働組合が、給与やボーナスの基礎値のようなものを上げてくれたり、その交渉をしてくれたりする。組合費以上のメリットはあると思います。選挙の際には労働組合関連の市議、県議、国会議員の応援などを求められますが、それもまた経費ですね。

まとめ

 というわけで、ソフトウェアエンジニアがHondaに転職して感じたこと4選でした。

  1. ソフトウェアに関わる仕事の経験がある人が少ない
  2. ソフトウェア開発のインフラが整っていない
  3. 能力が高い人が多い
  4. 労働組合の正体が分かる

 最近の自動車はさまざまなソフトウェアを部品として活用していて、Software Defined Vehicleという言葉も一般的になってきました。自動車会社のソフトウェアエンジニアとして、少しずつソフトウェアのことが分かる人を増やしていこうとしています。

 感じたことはまだまだあるので、また別の機会があればお伝えします。

 最後までお付き合いいただきありがとうございました。

Tera-C 本田技研工業株式会社、デジタルプラットフォーム開発部。Honda歴は2年。セキュリティ対策ソフトウェアのエンジニアが自動車業界へ飛び込んで、カーナビとかクラウドPFとか、いろんなものを開発してきました。Hondaとソフトウェアに関する記事を投稿していきます。