(社説)野球と公取委 取材パス没収は筋違い

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 強権的で筋が通らない対応だろう。昨年のプロ野球日本シリーズで、日本野球機構(NPB)がフジテレビの取材パスを没収したことだ。

 没収の理由は、他局が日本シリーズを生中継している時間帯に、フジが大谷翔平選手らが出場した米大リーグワールドシリーズをダイジェストで放送したというものだ。続く日本代表の強化試合も取材パスを出さなかった。

 何を放送するのか決める編成権は本来テレビ局にある。それが気にいらないからといって取材パスを取り上げるのは、理解できない。

 公正取引委員会は、独占禁止法違反の疑いで調査している。取材機会を奪う行為は、競争相手となる大リーグと取引したことへの制裁であり、独禁法が禁じる「取引妨害」などにあたる可能性があると見ているという。

 日本シリーズはNPBの主要な収入源で、明文化されてはいないが、慣例として他局の中継時には野球にかかわる番組は流さなかったという。ならば、事情を聴き、検討を求めるのが一般的な解決方法だろう。NPBは当初、フジが担当した第3戦の中継も他局に移す方針だったという。

 説明責任の果たし方も疑問だ。問題の公表は一部の報道で表面化した後で、没収から2週間以上過ぎていた。

 内容も「信頼関係を損なった」とフジを批判しながら、「制裁とか抗議ではない。協力の認識を改めて深めたい」との説明にとどまった。何を根拠に、どのように決めたのか、わからないままだ。

 公取委による調査は初めてではない。NPB内部の日本プロフェッショナル野球組織については5年前、国内のドラフト指名を拒み、海外球団と契約した選手との契約を制限する申し合わせが対象となった。昨年は契約交渉を担う代理人に複数の選手を担当することを認めないルールが「警告」を受け、ともに撤廃へ追い込まれた。そんな閉鎖性を今回の根にも感じる。

 日本シリーズ中継の視聴率は40%を超える時さえあったが、スポーツの多様化もあり、近年は1けたも珍しくない。一方、パ・リーグを中心に球団の努力で、ファンが一部のチームに偏っていた状態は改善され、12球団の総観客動員は昨年過去最多だった。

 こうしたファンの広がりを日本シリーズにもどうつなげるかを設計することが、課せられた本来の役割のはずだ。

 NPBは定款で野球を「社会の文化的公共財」とうたう。原点に立ち返り、公共財を未来にどう生かすか、大きな視点での運営を望みたい。

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