アマゾン、AIロボット技術強化で倉庫革命の新章へ

アマゾンは、物を掴めるロボットアームなどを開発しているスタートアップ「Covariant」の創業者らを採用した。これにより、アマゾンの倉庫業務の自動化がますます進む可能性がある。
A photo illustration of two factory workers preparing boxes while each of them have their faces and arms covered with a...
Photo-Illustration: WIRED Staff; Getty Images

アマゾンは2012年、Kiva Systemsというロボティクススタートアップをひっそりと買収した。これによりアマゾンのEコマース業務の効率は劇的に向上し、倉庫業務の自動化における広範なイノベーションが加速したのである。

Eコマース大手のアマゾンは先週、このときと同じくらい倉庫業務の自動化に大きな影響をもたらす可能性のある契約を発表した。AIを利用してさまざまな商品のピッキングと操作を自動化する技術を開発してきたスタートアップ、Covariantの創業者らを採用することを公表したのだ。

CovariantはAIを組み込んだ産業ロボットのコストの高さと激しい競争に直面し、商業化に課題を抱えていた可能性がある。今回の合意には、アマゾンがCovariantのモデルとデータのライセンスを取得することも含まれており、これはEコマースの業務に新たな革命をもたらすかもしれない。アマゾンの業務規模の大きさと取得できるデータの多さを考えると、競合他社が追随することは容易ではないだろう。

今回の合意は、大手テック企業がAIスタートアップ自体を買収することなく、重要な人材と専門知識だけを獲得した事例のひとつだ。アマゾンは6月にスタートアップのAdeptとも同様の契約を取り付けている。ほかにも3月にはマイクロソフトがInflectionの創業者を、8月にはグーグルがCharacter AIの創業者を同じように採用している

移動式ロボットで倉庫業務を自動化

Kiva Systemsは2000年代に、商品の並ぶ棚を持ち上げて人間のピッカー(商品を取り出す作業員)の元に運ぶ背の低いロボットを開発した。この技術により、人間の作業員が毎日何キロも歩いて商品を探す必要がなくなったのである。Kiva Systemsの移動式ロボットは製造業で使われているものに似ており、同じ空間で数千台ものロボットが動けるよう高度なアルゴリズムで調整されている。

アマゾンが使用する移動式ロボットの台数は2013年は約1万台だったが、2023年には75万台にまで増加している。これにより業務規模を拡大したアマゾンは、他社よりも迅速かつ低コストで数百万のアイテムを配達することができる。

『WIRED』が昨年伝えたように、アマゾンはこの数年、商品の箱を認識して掴み、仕分けることができる機械学習を活用したロボットシステムを開発してきた。ここでもアマゾンは業務規模の大きさという強みを活かしている。アマゾンの施設を通過する商品の情報が訓練データとして収集され、さまざまなアルゴリズムの性能の向上に役立てられているのだ。この取り組みにより、いくつかの物流施設では、これまで人間の作業員が担当していた業務をさらに自動化することに成功している。

物を掴む作業の自動化

ただ、自動化がいまだに難しい部分がひとつ残っている。それは商品を掴む動作だ。物を掴むには、摩擦やすべりを考慮して動きを調整しなければならない。また、アマゾンの倉庫には膨大な種類の商品があるので、ロボットは掴みづらいものや、初めて見るものにも対応しなければならないのだ。

Covariantはこの数年間、さまざまな商品をより確実に掴むための汎用的なAIアルゴリズムの開発に取り組んできた。同社は2020年に機械学習をロボティクスに応用する先進的な研究をしているカリフォルニア大学バークレー校の教授、ピーター・アビールが学生と共に創業した会社である。アビールに師事していたピーター・チェンが同社の最高経営責任者(CEO)に、ロッキー・デュアンが最高技術責任者(CTO)に就任している。今回の合意で、この3人と同社の研究科学者数名がアマゾンに入社することとなった。

「アマゾンの物流ネットワークにおけるロボット操作の一部のシステムを強化するために、Covariantのモデルを活用する予定です」とアマゾンの広報を務めるアレクサンドラ・ミラーは『WIRED』に語る。アマゾンは合意における金銭面の詳細については明らかにしていない。

アマゾンの膨大なデータを活用

アビールはもともとOpenAIの初期社員であり、ChatGPTの成功を受けてCovariantを創業した。Covariantは今年3月、同社のロボットの操作に使える対話型インターフェースを公開し、ロボットが物を掴むための基盤モデルを開発したと発表している。基盤モデルとは、より多くのデータを供給するほど能力が向上するアルゴリズムのことだ。

当時、CEOのチェンは、同社の主な課題はより高度な能力の獲得に向けて十分なデータ量を入手することだと話していた。アマゾンの業務規模と倉庫にある膨大な商品数を考えると、アマゾン以上に十分なデータ量を提供できる会社は思い浮かばない。

CovariantのようなスタートアップがAI開発やプロジェクトごとのカスタマイズ、Eコマースのフルフィルメントにおける長い販売サイクルに対処しつつ、コスト効率のいいソリューションを提供することは非常に難しいと、RightHand Roboticsの共同創業者兼CEOであるヤロ・テンザーは話す。ボストンに拠点を置くRightHand Roboticsは、ロボットによるピッキングシステムを提供している会社だ。

「持続可能なハードウェアおよびソフトウェアビジネスを構築し、ベンチャーキャピタルの投資に見合うだけの成長を遂げることは非常に難しいでしょう」とテンザーは語る。一方で、アマゾンは今回の合意を、AIを使ったピッキング業務に特化したチームを立ち上げる機会と捉えているかもしれないとテンザーは推測する。ただし、チームが実際に成果を上げるまでには数年かかるだろうと話す。

Covariantとの合意がKiva Systemsの買収と同じくらいアマゾンにとって重要なものになるかどうかはまだわからない。しかし、昨年『WIRED』がアマゾンの自動化が進む施設のひとつを訪れた際、ピッキングやパッキングをするロボット、さらには迷子になったり、立ち往生したりしたロボットを助ける人間の作業員がいた。アマゾンとCovariantの合意により、商品を取り扱うのに必要な作業員の人数は今後10年で減ることになるかもしれない。

(Originally published on wired.com, translated by Nozomi Okuma, edited by Mamiko Nakano)

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