愛媛県内でも搬送増加 オーバードーズの実態に迫る
- 2024年5月24日
「どん底に落ちていくような日々が続いた」
かつて処方薬の依存症に苦しんでいた男性は、当時をこう表現しました。市販薬や処方薬の決められた量や回数を超えて一度に大量に摂取する「オーバードーズ」。全国で若者が救急搬送されるケースが相次ぎ深刻な問題となっています。なぜオーバードーズをしてしまうのか。当事者を取材するとその理由や葛藤が見えてきました。
(NHK松山放送局 廉谷直大)
6年間で搬送者1000人超
消防庁と厚生労働省の調査で、全国でオーバードーズが疑われる緊急搬送が令和5年6月までの半年で5600件あまりに上っています。愛媛県の実態はどうなのか。NHK松山放送局の記者である私は、県内14か所の消防本部に令和5年1年間のオーバードーズが疑われる搬送についてアンケート調査を実施しました。その結果、誤飲による過剰摂取も含めてのべ174人が搬送され、このうち女性が131人、男性が43人と全体のおよそ75%を女性が占めていたことが分かりました。世代別では、最も多かったのが20代で47人、次いで40代が32人、30代が26人、50代が24人、10代が23人でした。また、10代の女性の搬送者は20人で前年の14人から1.4倍に増え、過去6年間で最も多くなりました。搬送者数は年によって増減を繰り返していて、令和5年までの6年間では令和4年が197人と最多、次いで令和2年が195人、令和5年は3番目に多くなり、6年間の搬送者数はのべ1037人に上りました。消防によりますと、搬送者の中には意識障害の症状を訴える人もいて、市販薬であっても大量に飲めば死につながる危険性が指摘されています。
オーバードーズで「仲間になれた」
命の危険があるにも関わらず、なぜ医薬品を過剰摂取してしまうのか。全国からオーバードーズなどで依存症になった人たちが社会復帰を目指して集まる千葉県の施設を取材しました。
施設で入所者の支援にあたっている職員の田畑聡史さんは、みずからも20代のころにオーバードーズを繰り返していたといいます。大学2年のときに友人に誘われたことがきっかけでした。大学時代「漠然とした不安を抱えていた」という田畑さん。オーバードーズをするときの集まりが、徐々に自分の「居場所」と感じるようになっていったといいます。
「学校にも行ってないし友達とも何か連絡取れないし。そういう中で自分の居場所として、薬の気持ちよさというよりどっちかって言うと『仲間になれた』みたいな、そういうのが大きかった」
田畑さんが過剰摂取をする回数はどんどん増え、1度に20包の粉薬を摂取する生活を続けるために、生活費の大部分を薬の購入にあてていたといいます。
「学校の教材を買わなきゃいけなくなったとか、そういうところからスタートして、毎週のように親にお金を振り込んでもらって。ガスと電気が止まって、アルバイトをしたお金も全部薬に使っちゃうし、仕送りでもらったお金もそっちに使っちゃう。唯一水道だけが止まらなかったくらい。やっぱり薬を使っていると正常な判断ができなかった」
田畑さんの言動を不審に思った両親が、1人暮らしをする部屋を訪ねて来たときに大量の薬の空き箱を発見し、田畑さんを実家に連れ戻しました。両親の勧めで施設に入所し、立ち直りに向けて一歩を踏み出していったといいます。
「ダルクは温かかったというか。はじめは、なんか怒られるんじゃないかなっていうのがあったんですよ。『今こんな年齢でこんなことやってたら、今後どうすんだ』とか、『お父さんとお母さんを悲しませてどうするんだ』とかっていう。でもそういうことではなくて『なかなか止められないよね』って。そこで少し共感できた」
その後、田畑さんは再び過剰摂取をしたいという衝動に苦しみながら、数年かけて少しずつ依存症から回復していったということです。
不安を共有できる環境が重要
取材で訪れた日、施設では田畑さんが支援者として参加して、入所者どうしのミーティングが行われていました。依存症からの回復には、ほかの人たちの前でみずからの行動を振り返ったり不安を打ち明けたりすることが重要だとされています。
「自分の人生を全くコントロールできてなかったっていうのが、すごく恐ろしいですね。それによって家族を失なった。そんなことまで起きているにも関わらず、薬の過剰摂取を続けている。なぜかと言うと、そうした事態を招いているのは薬のせいじゃないと自分に思い込ませているんですよ。薬でやることが、めちゃくちゃになって、みんな遠ざかっていったんです」
「朝起きてちょっとしたら睡眠剤を飲むっていう、どん底に落ちていくような日々が続きました。何十錠も飲んでまともに自転車もこげなかった。今は回復したつもりではいるんですけど、また元に戻るのは本当に紙一重というか。酒と処方薬はそれ自体が違法なものではないですから、手に入れようと思えばいつでも手に入れられる。その紙一重な状態ですけど、ちょっとずつちょっとずつ会社に通って友達もいて、彼女もいてっていうような生活に戻れたらいいなと」
田畑さんは、社会復帰には施設に「つながる」ことに加え、家族の理解が欠かせないといいます。
田畑さん
「依存症の問題っていうのは家族が隠すので、(支援に)つながりにくくなっているというのが大きな問題です。若年層の話となってくると、何かしら家庭の中での問題があったりして、僕らのアプローチができなかったりする。福祉サービスを受けてくれなかったりもする。各都道府県に拠点となる病院があるので、そこを含めた福祉サービスができるような、継続的な支援っていうのが必要なのかなと思います」
国は販売規制も 医師「生きにくさに寄り添って」
1度オーバードーズで薬物依存になると、そこからの回復は容易ではありません。現時点では、若年者が乱用のおそれがある市販薬を購入する場合には、薬剤師が名前や年齢などを確認することが求められていますが、実際は徹底されていません。早急な対策が求められるなか、厚生労働省は検討会を立ち上げました。令和6年1月には、医薬品のうち特定の成分を含むものを「乱用のおそれがある医薬品」に指定し、乱用防止のための新たな販売制度をまとめて令和7年以降の法改正を目指しています。
この制度のポイントは主に2つです。1つは販売個数の制限です。原則、小容量の1個のみの販売とし、複数購入する場合は薬剤師などが理由を確認します。購入者が20歳未満の場合は、複数および大容量の販売はしないことになっています。2つ目は、購入者の氏名や年齢を写真付きの公的な証明書で確認し、販売した情報を記録します。記録をもとに購入者が頻繁に薬を買っていないか確認できるようになります。一方で、依存者の治療にあたる医師は「薬を買わせない」という対策では過剰摂取を防ぎきれないと指摘します。
「乱用されている薬のなかには、国が乱用のおそれがある医薬品に指定していないものが多数ある。仮に指定した場合でも、ほかの抜け道や方法を選ぶおそれもある。規制するだけでなく、過剰摂取をする原因となっている生きていくことの『しんどさ』に寄り添って解消していくことも必要だ」
取材後記
オーバードーズが流行しているという話を聞いたとき、多くの人は「なぜそんなことをするのだろう」と疑問に思ったのではないでしょうか。私もその1人でした。しかし、取材を通して日々の暮らしに潜む一抹の不安感を埋めるようにして、薬が生活に入り込んでくるのだと知ったとき、これは誰にとっても遠い話ではないと思いました。当然、オーバードーズは決してやってはいけないことです。しかし、多くの人が孤独や悩みを抱える現代には、根本にある「生きづらさ」にきちんと向き合える環境を整備していくことが重要だと実感しました。
薬物などの依存症で悩んでいる人は、県内各地の保健所のほか「愛媛県心と体の健康センター」に相談できます。電話番号は089-911-3880、平日午前8時30分~午後5時15分まで受け付けています。
特集の内容はNHKプラス配信終了後、下記の動画でご覧いただけます。